はじめてその人を見たのはおしみなく差し込む光の中。
とても綺麗な人形みたいな顔に光にすけるただ流されたままの風に揺れる白い髪。
扇形の長い睫毛が目蓋を覆っている。
この閉じられた瞳は何色なのだろうか。好奇心がうずいた。
しかし、まず最初に思った事。
・・・・こんな人いたっけ。
今日はホグワーツに入学して三日目の放課後の中庭。
木の幹を背もたれとして昼寝をしているこの人は、
ネクタイの色からして同じグリフィンドール生だというのはわかるのだが、見覚えがない。
同い年のようにもみえるし、上級生のようにも見える。
上級生だとしたら、知らなかったのも当然かもしれないが、
こんなに綺麗で目立ちそうな人を、三日たった今でも知らないというのは不思議だ。
これだけ容姿なら噂になってもいいはず。
そして、あろう事か制服に汚れは見当たらずそれは真新しい事を表している。
つまり、同学年。僕はますます首を傾げた。
「・・・ん・・・・。」
薄い唇から艶っぽい声が漏れた。
頬が僅かに赤くなったことは責めないでほしい。
一応お年頃なのだから仕方がない。
ゆるゆるとすこし切れ長な瞳が開く。
双眸は強い金色。
光にすける白色と。それ自体が光を放つ金色と。
存在自体が光のような人だとも思った。
差し込む光にまぶしそうに目を細めるその姿は人間かと疑うほど。
なんだか神々しくて手を触れてはいけない気がする。
薄い桜色の唇が開き、寝ぼけ眼のままその少年は呟いた。
「・・・・ジェームズ・・・?」
「え?」
父さんの名前だ。
目を大きく見開き、その人の顔を凝視する。
なぜ、父さんの名前を知ってるんだろう。
「・・・・あ。」
その人の目がぱっちりと開かれた。
瞳には後悔の色が浮かんでいる。
「うっわぁ・・・わりぃ、Mr.ポッター。なんか、俺変なこといってた?」
その人は苦笑を浮かべて、僕に問いかけた。
「・・・とう・・・・うぅん。何もいってなかったよ。」
どうしてかはわからないけど聞いてはいけないことの様な気がして言葉を飲み込んだ。
僕は慌てて違う話題を探した。
「なんで僕の名前しってるの?」
「この傷。」
長い指を額に伸ばされびくりと一瞬、身を震わせた。
くすくすとその人は楽しそうに笑う。
そして、額の稲妻の傷をなぞるようにその人の指は動く。
「しらねぇ方がおかしいぜ?てか、あんたは有名人だろ。
生き残った男の子ハリー・ポッター。」
額を這っていた指を離して、その人は綺麗に笑う。
離れがたいと思ったのはいけない事だろうか。
自然と溜息が出た。
「・・・・どうして僕は君を知らないんだろう。」
こんなに強烈な印象を与える人なのに。
「あぁー・・・・・。んとなぁ・・・知ってるはずだぜ?」
「何、嘘いってるんだ?君みたいな人見たことないもの。」
一度でも見たことがあるなら確実に記憶に残っていそうなものなのに。
「いや。知ってる。話したこともある。」
「どういうこと?」
「=ウィクリフ。」
少年の言った名前に黒く長い縮れた髪の少年が思い浮かんだ。
長い前髪で顔の表情は伺えず、細長の黒いフレームのめがねをした紺色の目の暗そうな印象を与える少年。
組み分けの儀式で名前の順番通りではなく最後に名を呼ばれた。
そんなこともあったので印象的だったような気もするが、興味を惹かれるような人物ではなかったので顔はおぼろげだ。
何度か話したことはある。ただし、挨拶程度にほんの一言二言。
確か、ハーマイオニーとよく一緒にいる子だ。
一通り回想し終わったあと、目の前の少年の顔を見た。はこの人とは似ても似つかない。
「がどうかしたの?」
「うわ、ひっでぇっ。」
少年はさして傷ついたようなそぶりも見せずにからからと笑う。
「声は変えてなかったのにねぇ・・・
つーか。しゃべり方も変えた気ねーんだけど。」
「・・・・・?」
「=ウィクリフは俺の名前でーすv
どう?驚いた?」
「・・・・・。」
「・・・・・あれ?もしもーし。」
リアクションを全くしなかったからであろう。
その人はきょとんとして、手を目の前で振っている。
いや、正しく言えばリアクションができないのだ。
言われた言葉を頭の中で理解できていない。
思考が追いつかないのだ。
「嘘だ・・・僕をからかってるの!?
の髪の毛は黒だもの。それにそんなさらさらじゃない。目だって紺色だ。」
くくっと楽しそうに少年は笑うと杖を取り出し、目を閉じた。
そして、一振りすると髪の毛は黒くて長い縮れ毛になる。
「え・・・!?えぇ!?」
あまりに驚きすぎて眼鏡がずれそうになった。
目を閉じたまま少年は笑みを深めて口を開く。
「変身術の一種だぜ、これは。」
ゆっくりと開かれた瞳は紺色だ。
「そんな・・・君、一年生だろ?」
「Of couse.」
「なんで・・・。」
こんなハイレベルな呪文・・・・?
それをわかっているかのように少年は笑みを深くした。
しかし、質問に答えるつもりはさらさらないらしい。
ただ、ローブの中を探り始める。
「あと、眼鏡かけたら完璧ー。」
ローブの中から黒いフレームの眼鏡を取り出し、装着すると確かに僕が知っているが出来上がった。
「まぁ、こんな感じだ。」
眼鏡を外して、は髪の色と目の色を杖を一振り元に戻した。
そして、誰もが魅了されるような極上な笑みを浮かべた。
「納得してもらえたか?Mr.ポッター。」
この変わりようは何だろう。
頭がついてこない。
僕は納得・・・してるのだろうか。
「。その姿を見るのは久々ね。」
背後から少女の声が聞こえた。
振り返ると栗色のフサフサとした髪の知的そうな少女が笑みをうかべて立っていた。
「・・・ハーマイオニー。」
くすくすとハーマイオニーは近づいてきてと自分の傍らにしゃがみこむ。
何も知らないはずのハーマイオニーがこの少年をと呼んだのだから、本当にその人なのだろう。
「ばれちゃったのね。もう、明日からそれでいったらどうかしら?」
「まじで?!困ったなー・・だけど、いつかはばれるけどなぁー・・めんどくせぇ。」
ハーマイオニーの目を見ては「めんどくさい。」と言い切った。
幻想的だと思ったあの光景はなんだったんだろう。
どうやら、は外見に反して口が悪いようだ。
「あ、ハリーだけだし。ハリー頼むからだまっててくんねぇ?」
頼む。と両手を合わせて頭を下げる彼。
少し考えてみたが、特に断る理由はないだろう。
の役に立てるなら嬉しい。
「うん。」
「サンキュ。恩に着る。」
つられるようには微笑んだ。
「あ、でも。」
「?」
きょとんと、は首を傾げる。
僕には今、疑問点が残っているのだ。
「なにか?」
「どうして、変装なんてしてたのか教えてほしいんだけど。」
「あぁ、代償か・・・。
そーだな・・・ある方にばれないように。」
「ある方?」
「そ。ある方。」
「無駄よ、ハリー。
はその質問絶対答えてくれないもの。
毎日5回は訊いてる私が言うんだから間違いないわ。」
「・・・・。」
一日5回。
なにしてるんだろ、ハーマイオニー。
本気で不思議に思った。
「あと、。」
「ん?」
「ハリーを口止めしても意味ないわ。」
「なんだと・・・?お前言いふらすつもりか?」
の眉間にしわが寄る。
綺麗な顔がすごんで見せると怖くなるのだと、僕ははじめて知った。
ハーマイオニーの顔が固まったのはきっと気のせいではないのだろう。
12歳にはあるまじきずいぶんと落ち着いた声だけど、それが逆に怖い。
しかし。それに負けじとハーマイオニーはの目を見据えた。
「お前じゃないわ。」
「んな、こたどうでもいい。言うつもりなのか。ってきいてんだ。」
目を細めては問いかける。
ハーマイオニーは唇をぎゅっとかんだ。
「おねがいだから、。そんなに怖い顔しないで。
言いふらしたのは私じゃないわ。」
「?」
言いふらした。つまり過去形。
それは完了も意味していて、すでにその動作が終わっている事を示す。
もそこに気付いたのだろう片眉を上げた。
「あなたがその姿に戻ったところをさっき見られてたのよ。」
「うそぉ・・・・。」
あんぐりとは口を開けた。
そして、手で額をつつみこむようにし、溜息をついた。
「・・・・何人ぐらい?」
「噂ずきの女の子5人ってとこね。」
「・・・・・・・最悪。」
「うわぁ・・・。」
「あと・・・・。」
まだなにかあるのか?とは嫌そうに顔をハーマイオニーに向けた。
「あなたが寝てる姿を不特定大多数に見られてたみたいだから、かなり図書館内でも噂になってたわ。
『あの美人は誰だ。』ってね。男女問わずすでに有名人よ。」
「・・・・・・・・。」
「・・・・大変だね。」
「・・・あ・・・あぁ。」
はなんだかぎこちない笑い方をして、魂が抜けたように呆けた顔を空に向けた。
「・・・結局あいつだませたの二回だけじゃねーか・・・。」
呟くように発せられた言葉にハーマイオニーと顔を見合わせて、首をかしげた。
二回だけあったあいつ。とは誰をさすのだろう。
もういちど、ハーマイオニーがのほうを向く。
「写真も撮られてたみたいだから、きっと明日には出回ってるわ。」
ハーマイオニーからとどめの一撃を食らわされて、はおかしな笑みを浮かはじめた。
「はははっ・・・こうなんのは宿命かよ・・・。」
「えっと・・・・。」
なんだ。とでもいうようにはあきらめたかのような笑みを浮かべたままこちらを向いた。
「がんばって。」
「了解でーす。」
すちゃっと敬礼のようなポーズをすると、はその場から立ち上がった。
「じゃ、ハリー。また、夕食で。」
「うん。」
にっこりと微笑みあうと、はハーマイオニーに一声かけて、いっしょに中庭から城の中へ入っていく。
その姿が見えなくなってから、先ほどまで彼が腰を下ろしていた場所を見た。
「・・・・どうして、君は父さんのことしってるんだ・・・・?」
呟いた問いは返ってこない。
しばらくこの疑問は頭の中に引っかかって抜けそうになかった。
20040924