不思議な気分だった。

自分がここに存在しているのに他人の瞳ではソレを捕らえることができないこと。



「そこにいるのは誰なの?」



太った婦人の素っ頓狂な声が僕の背中にかかる。

それに思わず笑い出しそうになりながら

僕は僅かにだけ明かりがともるホグワーツ城の中を急いで歩き出した。



(どこに行こう)



ただこのマントを使ってみたい。

その思いだけで動いたためこの先の予定などまったくもって決めていない。


どくんどくんと鼓動がうるさいほど高鳴っている。

まるで耳元に心臓があるみたいだ。



(あぁ、そうだ)



図書館の閲覧禁止棚に行こう。

今なら誰にも姿を見られることはない。

フィルチは僕のことが見えないのだから、気が済むまでフラメルについて調べることが出来る。


知らない誰かが僕にクリスマスプレゼントとしてくれた透明マントを体にピッタリと張り付くほど強く巻きつけると

僕は図書館に向けて足を進めた。

図書館の扉をゆっくりと開けると小さくきしむ音がした。

真っ暗で気味の悪い図書館ではその音がさらにその気味の悪さを助長するものとなり

僕の背中にゾクゾクと悪寒が走る。



僕でこうなのだから僕の姿が見えない他の人だったらもっと気味が悪いだろう。

足元を照らすため、僕はランプをマントの外に出しているから

僕が見えない人たちにしてみればそれはまるでランプが宙に浮いてるようにみえるはず。

それを遠くから見ている自分を想像して気味が悪くなり、目をぎゅっと瞑って頭を振った。



閲覧禁止の棚は図書館の奥のほうのスペースにあった。

ロープで区切られたその場所にこっそりと入り込み、ランプを高く掲げて書名を調べていく。

時々本の間からヒソヒソ声が聞こえるような気がする。

それはまるで僕がここにいるべき人間じゃない。とでもいう風に言われているようで思わず逃げ出しそうになった。

だけどここで逃げ出しては意味がない。

気を取り直して上から順に書名を目で追っていくが、

背表紙の金文字がはがれかけているものや知らない外国語

まるで血のような染みがついたものなどいまいちよくわからない書名ばかりだ。



(ハーマイオニーならわかるんだろうけど・・・・。)



今さらながらに自分ひとりで来たことを後悔する。

だけどとりあえず悔やんでいても仕方がない。どこからか手をつけなければ。

ランプをそっと床の上において一番下の段の中で面白そうな本を物色する。

なぜだか黒と銀色の大きな本が妙に目に付いた。

引き出そうと手をかけたが随分と重い。

ぐっと力を込めてなんとか本を引き出すと膝にその本をのせて表紙をめくった。



「!?」



その瞬間耳をつんざくような悲鳴が図書館の中に響き渡る。

まるで拷問でも受けているんじゃないだろうかというような悲痛の声。

血が凍るようなその鋭い悲鳴に僕は驚きすぎてビシャリと本を勢いよく閉じた。

本を閉じても悲鳴は続く。それが本当に続いているのか僕の耳にのこっているだけなのか

そのどっちかはわからないけど僕はその悲鳴に押されるように後ろによろめいて

ランプを倒してしまい火がフッと消えた。真っ黒な闇が再び訪れる。

気が動転している。まるで自分が自分じゃないみたいだ。

けれど速度の速い足音が聞こえて、僕は急いで叫び続けている本を本棚に戻して図書館の出口に向って逃げ始める。

出口付近でフィルチと対面した。

小さく息を呑むがフィルチには僕が見えていないはず。

そうはわかっていても血走った目が僕を通り抜けてその先をみている。

それに怖気づきそうになりながら僕はフィルチが広げている両手の下を潜り抜けて図書館を出た。



息が切れそうになりながら廊下を疾走しているうちもまだ本の悲鳴が耳に残っていた。

その声を振り切ろうと頭を振ると突然目の前に背の高い騎士の鎧が現れた。



「!?」



しまった。逃げるのに必死で今僕がどこにいるのかわからない。

真っ暗なのも手伝って今ここがどこかというヒントになるものも見つからない。

目の前にあるこの鎧はキッチンのそばにあったような気もするけど

ここはそこより5階は上にあることは確かだ。



「先生。誰かが夜中に歩き回っていたら、直接先生におしらせするんでしたよねぇ。
 誰かが図書館に、しかも閲覧禁止の場所の所にいました。」



さぁっと僕の体から血の気が引いた。

ここがどこだかは知らないけど、あれだけ走って逃げた僕にもう追いつくなんて

フィルチはきっと近道を知っているに違いない。

ねっとりとしたフィルチの猫なで声が近づいてくる。

その声に絡みとられそうになる。しかも悪いことにその返事の相手はスネイプだった。



「閲覧禁止の棚?それならまだ遠くに行くまい。捕まえられる。」



声と足音がどんどん近づいてくる。

今にもその角を曲がって僕の方へやってきそうだ。

革靴が石畳の廊下を歩く音。

それと同じテンポで後ろに下がっていくが

おそらくフィルチがもっているのであろうランタンの光のようなものは

どんどん近づいてきて、逃げては追ってという動作を繰り返しまったく意味を成さない。

ついに目の前の角からフィルチとスネイプの姿がゆっくりと現れた。

その瞬間僕はその場に釘付けになる。息を呑む声を両手でふさいで押し殺しどうしようかとあたりを見回す。

マントのおかげで二人には僕の姿は見えないはずだが、マントは僕自身の存在を消してくれるわけじゃない。

このままここにいれば、この狭い廊下ならたちまちぶつかって、僕がここにいることがばれてしまうだろう。



(・・・どうしよう。どうしよう!)




そう考えているうちにもフィルチとスネイプは僕に近づいてくる。

あと1メートル。そうすればぶつかってしまう。僕は静かに静かに後ずさりしていく。



「!!」



そーっと。そーっとと足元に全神経を集中させてた途中に

急に口元を押さえられ後ろに強い力で引っ張られた。

何が起こったのかわからなくて頭が混乱する。

僕を捕まえてる人が誰なのか。とにかくソレを確かめたくて僕は頭を動かそうとしたが

思った以上に強い力で掴まれているらしくまったく身動きが取れない。

だんだん怖くなってきて声をもらしそうになる。



「静かにしろ。」



耳元で僕を捕まえている人物の小さな声がした。

その声にキュンと下腹あたりがしまる感じがした。

声だけで僕をこれだけドキドキさせる。艶のあるこの声を出せる相手っていえば・・・。

僕は目線だけで耳元に声をかけている人物を盗み見る。

流れるそれ自体が光っているかのような白く長い髪がまず目に入って

その後にっこりと微笑む太陽の光のように強い光をもったにっこりと笑っている金色の瞳と視線が合った。



・・・)



相手がわかったことで安堵した僕の体から力が抜けていくのがわかったのか

は声をもらさず小さく笑って、僕を押さえつけていた手を離し

口元に人差し指をもっていって、『しーっ』というジェスチャーをして見せた。

僕はコクリと頷き、がやっているように扉の隙間から廊下を伺い見る。

廊下からフィルチがもっているランタンの光が真っ黒な部屋の中に漏れる。

どうやら僕はどこかの部屋の中に連れ込まれたらしい。

よく物音を立てずにこの部屋に連れ込めたものだとの顔を伺い見ると

は『ん?』と目線で問いかけてきた。

僕は目線でなんでもないと返しフィルチとスネイプの足音が遠ざかっていくのを扉に耳をつけてきいた。

完全に足音がしなくなると僕は大きく溜息をはき目の前の友人を見上げる。

はどこか妖艶に笑って見せて、首をかしげた。



「いいかげんに姿を現せよ。」


「え?」



ぽかん。と思わず声をもらすとが楽しそうに笑い出す。

そして一つ思い辺りが出来て僕は目を見開いた。



「なんでわかったの!?」



透明マントを着ているということは、人の目には映らない。ということだ。

だけどは確実に僕の口を押さえて、そして尚且つ部屋の中に連れ込んだ。

透明マントを脱ぎすてて、思わず叫ぶとはさらに楽しそうに笑い出す。

終いにはお腹が痛いとでも言いたいのか腹を抱えだした。



「お前気付くの遅すぎ。さすがだ、ハリー。」



よしよしとは犬でも撫でるような感じで僕の髪を撫で付けた。

答えがもらえなかったため、すこしむすっとしながらを見上げると

はきょとんとした表情を見せてから、困ったように笑ってみせ

僕の頭から手を離した。



「慣れだよ。慣れ。俺の友達にもそれもってるやついたんだ。」



くすくすと悪戯っ子の笑みで僕の持ってるマントを指差しては言う。

コレ珍しい。ってたしかロンがいってなかったけ?あれは嘘なのかもしれない。

だっての友達が持ってるって情報はいっちゃったし。

だから嬉しさが減るってわけじゃないんだけど、

やっぱり希少なもの持ってるっていうのは嬉しいから・・・なんかなぁ。



「あれ?なにふてくされてんの?」


「別になんでもないよ!」



くるりと扉から視線を一転させる。

思わず怒鳴るような感じでいってしまったが言った言葉は戻せない。

の表情伺いたい気持ちに駆られながらも

振り向いたらなんどか負けた様な気がして、

僕は部屋の中をぐるりと見渡した。



どうやらここは昔使われていた教室のようだ。

机と椅子が黒い影のように壁際に積み重ねられ、ゴミ箱は逆さにしておいてある。

こんな場所があったんだ。

この城は随分と大きい上に中が入り組んでいる。

自分が知らない場所があっても当然のことだ。



「そういえばは何でここにいるの?」



ふと疑問がわきあがり後ろを向いて問いかけてみると

なぜかは目を大きく開いて僕を見ていた。

何かおかしな質問でもしただろうか。

そんなはずはない。とグルグル考えていると

の視線が注がれているのは僕ではないことに気がついた。

が見ているのは僕の向こう側だ。

つまり僕の後ろにの関心を引くものがあるのだろう。

の視線を辿るようにそちらの方向を向くと

この教室にはどこか不釣合いにまるで通るのに邪魔だからとでもいうように端っこのほうによけられている

天井に背が届きそうなぐらい高い見事な鏡があった。

金の装飾が豊かな枠には二本のかぎ爪状の脚がついていて、

枠の上のほうには意味がわからない文字がほってある。



「すつうを みぞの のろここ のたなあ くなはで おか のたなあ はしたわ・・・?」



声に出して読んでみたがそれでも何のことだかさっぱり分からない。

の方を振り返ってみるとはその鏡のほうに歩み寄り

大切なものでも扱うように枠をすーっと指でなぞった。



「どうして・・・ここにあるんだ?」


?」



独り言のように呟くに問いかけてみると

はどこかから現実に戻ってきたみたいに何度か目を瞬かせてからにっこりと微笑む。



「・・・なんでもない。」


「なんでもない。って顔じゃなかったけど?」



一見普通の鏡のようにみえるけれど、何か特別な鏡なのだろうか。

首をかしげてそう問いかけるとは困ったように笑う。

どうもその先を聞かせてくれる気はないらしい。

に無理強いはしたくない。僕は諦めてマントを体に巻きつけた。

もう一度自分が透明になっているところを見ておきたかったからだ。



「ねぇ、見て。おもしろいでしょ?」



顔だけ出しての方をむきながらそういって鏡のほうを再び見る。

そこには僕の姿が映らず、の姿だけが映っているはずだった。

だが。予想と目の前の現実は違う。



「!?」



叫び出した本を持ったとき以上に僕の心は動揺し、思わず叫びだしそうになった声を僕は両手でふさぐ。

そこにある光景に僕は目を疑った。

何度も瞬きをして、一度後ろを振り返る。

けれどもそこには相変わらず使われなくなった冷たい寂しい教室と白い光のようながいるだけだ。



「どういう・・・こと?」



もう一度鏡を覗き込んでみる。

現実には僕としかこの鏡に映るはずはない。

だが、鏡には老若男女。大勢の人物が僕を囲むように映っている。

もしかすると皆透明マントをかぶっているのだろうか?

だが鏡でみるとその人物がいるはずの空間に手を伸ばしても指先には何も触れることはない。

僕と以外の人はこの鏡の中以外にはいないみたいだ。



「ハリー・・・。」



がどこか心配そうな声で僕の名前を呼ぶ。

けれど僕は目の前で起こっている出来事に夢中でその声に反応できなかった。

肩越しにもう一度背後を見てみるがやはり以外誰もいない。

僕は鏡越しに背後にいる女性の顔を伺い見た。

彼女は僕に微笑みかけて手を振っている。

とても綺麗な人だ。には劣るかもしれないけど、凛とした美しさを持った人。

深みがかかった赤い髪で、目は・・・僕の明るい緑の瞳と同じ色。

よく見てみればどこか形もよく似ている。

そしてその瞳からうっすらと涙が漏れ出していた。

微笑みながら泣いている。ソレを見た瞬間なぜか僕まで泣きそうになってきた。

やせて背の高い男性がその女の人のそばにいて、腕を回して女性の肩を抱いている。

男の人は眼鏡をかけていて、髪はくしゃくしゃ。後ろ髪は寝癖なのか知らないが自由にはねている。

まるで僕がそのまま成長したみたいだ。そしてある事に気がついた。

もっとよく見ようと鏡に近づいていくと、思ったよりもよっていたらしく鏡と鼻の頭がくっついた。



「ママ・・・?パパ・・・?」


「!」



僕が鏡に向ってそう問いかけるとが後ろで息を呑む音が聞こえた。

後ろを振り返ってみるとはただ瞳を見開いて立っている。



?」



問いかけてもは何も答えない。

そして鏡の中にいる僕の両親もただ微笑んでいるだけだ。

でもコレは確実に僕の両親だ。

本能的なレベルで頭がソレを訴えかける。



「ねぇ、!見て!!僕のパパとママ!」



いまだにどこか放心しているの腕を引っ張って鏡の前に連れて行く。

は眉根を寄せてなぜか泣きそうな表情になりながら脚をなんとか運ばせた。



「えっと・・・痛かった?」


「違う。ハリーのせいじゃない。」



少し心配しながら顔を覗き込んで問うた質問にふわりとは微笑んで答える。

どうやら僕のせいではないらしい。本当かはわからないけど。

とりあえず今はまず僕の両親を見てもらいたい。

腕を組むようにしてつれてきたの服の袖を何度か引っ張る。



「ね!僕のパパとママ!見えるでしょ?」



鏡を指差してそういうとは何歩か脚を進ませて鏡に近づき、手を触れた。

不思議なことに僕が見ている位置から両親の姿は見ることができなかった。

真正面から見なければ見えない鏡なのだろうか。



「本当だな・・・ジェームズとリリィだ・・・・。」



の薄い桜色の唇が少し震えながら動く。

ハリー=ポッターの両親の名前だから知っていても不思議じゃないけど

なぜか親しい友の名前でも呼ぶような声音だった。

両親が死んだのは僕がまだ一歳にも見たない時のはずだから

と僕の両親が知り合いだなんてことはないはずだけど・・・。

そんなことを考えているとはきつく瞳を閉じて鏡に寄りかかるような仕草をした。



「会いたくなかった・・・この鏡に。」



僕はの言葉の意味がわからなくて

首をかしげるとは眉を下げて微笑み首を振った。



「甘えたくなるんだよ。お前ももう会いに来るなよ。」


「どうして!?」



せっかく両親に会えたのに。

今まで姿すら写真すら見たことない両親にやっと会えたのに!



「どうしても。だ。」



どこか泣きそうになっていた表情がどこにいったのだろう。

はにやりと悪戯っ子の笑みを浮かべて僕の額に人差し指を突きたてた。

その先の質問は聞いても絶対答えてはくれないのだろう。

僕は頬を膨らませると、はとても楽しそうに微笑んでくるりと扉のほうへ身を翻した。



「さぁ、帰るぜ?いいかげんにしねぇとMr.フィルチとPr.スネイプに見つかる。」


「・・・わかった。」



その答えはの言葉に向けていったもの。

会いに行くな。という言葉はどうにもきけそうに無い。




2007/08/21


アトガキ

主人公さんがみぞの鏡に見たものは多分・・・想像してくださいませw
とりあえずジェームズとリリーがいるから彼らもいるよwってことで^^d
ハリーたんはどんどん性格悪くなっていくといい 笑