ゴツゴツとした石造りの壁に囲まれた空間はいやに静かだ。

自分がそういった歩き方をしているために足音も無い。

足音をさせて誰かに気づかれるのも後々面倒。

時計が指す時間は深夜。城の廊下には申し訳程度にオレンジ色の火がともっている。

火っていうのは言葉のあやでもなんでもない。

本物の火が2,3メートル間隔で廊下をぼんやりと照らしだしている。


自分ひとりだった空気がふと揺らぐ。

ふわりと目線を投げかけるとそこには茶色と黒の縞模様の猫が緑色の瞳を光らせてこちらを見ていた。



「Mrs.ノリスか。」



やわらかく落ち着いた声をかけるとノリスはそれに答えるように一声なき、俺の足元に擦り寄ってくる。

ひざを突いて、彼女ののど元をやさしくなぜてやると彼女は気持ちよさそうに目を細めごろごろとのどを鳴らした。



「Mr.フィルチには黙っておいてくれ。」



片目を閉じて、人差し指を口元に持っていきながら秘密の約束を取り付けると

ノリスはのど元を撫ぜていた手に擦り寄ってからもう一度一声鳴いてから俺から離れた。

おそらく承諾の意味だろう。これからまたMr.フィルチの目となり、見回りに行くのであろう。

闇に解けていくその後ろ姿を見送ってから俺は立ち上がった。

その場からしばらく進んで物言わぬ門番・・・石造りのカーゴイルの前で立ち止まる。



「レモンキャンディー。」



この先に進むための合言葉を言ったはずなのに門番達はまったく動こうとしない。

なにを馬鹿なことを言ってるのか。とでも言わんばかりの徹底無視ぶりだ。

一瞬頭の中でなにかイラっとした感じを覚えたがそれをなんとか抑えて、

俺はこの面倒な状況作り出した本人のことを頭の中に思い浮かべた。



「・・・・カエルチョコレート。」



思いついたお菓子の名前を門番達に告げてみると

大げさじゃないかといいたくなるようなほど重々しい音をさせてカーゴイルたちが左右に開く。

俺は満足して笑みを浮かべると、足をカーゴイル像の後ろの階段にかけた。

ゆったりゆったりと踏みしめるようにして石造りの階段を上がりきり、

相当古い木で作ってあるであろう扉の前で一息をつく。



「ダンブルドアー!」



部屋の主の名前を呼びながら壊れそうなぐらい勢いよく扉を開けるときらきらとした瞳をもつ老人と視線ががっつりあう。

俺のその姿をみるなり部屋の主は孫を迎える祖父のように表情をやわらかくした。



「おぉ、か。」


「『おぉ、か。』じゃねぇ、お茶目じじぃ。
 俺がわざわざお茶目なじじぃのお願いに乗って茶をしに出向いてやってるっていうのに
 なに勝手に合言葉変えてんだよ?普通こういうときは一言いうだろ!?」


えぇ?と柄悪く詰め寄ってやるがダンブルドアはそんなこと気にもせず髭を撫ぜながら楽しそうに笑った。



「お前さんなら、すぐにわかったじゃろうて。」


「あー。そりゃね。
 ダンブルドアが好きなお菓子の名前なら大体見当つく。」 



遠いところをみながらどこかしら黒い笑みを浮かべてやるが、ダンブルドアには効かない。そんなのは知っている。

最初からどこか食えない笑顔は変わらぬままだ。

俺はあきらめの息をはいて、今日の放課後に急いで作ったパウンドケーキを机の上においた。

ダンブルドアが指を一振りすると包丁がそのケーキを食べやすいサイズに切りわけ、皿がケーキを自らに盛り付けた。

ちなみに紅茶は俺がこの部屋に入ってきた瞬間ダンブルドアが入れ終わっていた。

憎たらしいことに予知でもしてたんだろう。

そうなってくるとひとりイラついてる俺がなんだか馬鹿みたいで、俺は息を吐いてからどっかりと校長室のソファに身を沈めた。



「ダンブルドアお茶目すぎなんだよ。」


「褒め言葉として受け取っておこうかのぅ。」


「そーしとけ。さぁ、食おうぜー。」



ほっほっほっ。とかどこかの赤と白の服でも着てそうなおじさんみたいな笑い方してるダンブルドアを放っておいて

俺は自作のケーキにフォークを突き刺し、ソレを口に含んだ。

口の中に広がる味はもちろん完璧。程よい甘さと程よい舌触り。さすが俺。

ダンブルドアも目の前のソファに腰を下ろして、俺のケーキを口に含み

こくりと飲み込んでから子供のようなとても綺麗な笑みを浮かべた。



「相変わらずのケーキは最高じゃのぅ。」


「どーも。お褒めに上がり光栄だ。
 あー。そだ・・・・ダンブルドア。今日は提案があるんだよ。」


「・・・・どんな提案じゃ?」


まさか提案を受けるとは思っていなかったのだろう。

ダンブルドアのきらきらとした丸い瞳はさらに丸みを帯びている。

きょとんと一度瞳をつぶる彼は不思議そうな表情を浮かべているが

この提案は彼が悩んでいるひとつのことを解決させるかもしれないものだ。

俺はにっこりと微笑を浮かべて人差し指を立てて見せた。



「闇の魔術に対する防衛術の新しい担当者。」


「・・・・ほぅ?」


「俺が推薦してやるよ。」



俺がにやっと悪戯っ子がよく浮かべるような笑みを浮かべてみせると

ダンブルドアの瞳がつられるように楽しそうに踊った。

期待。

俺を信用してくれているダンブルドアはそれをもってくれている。



「ほぅ・・・がか・・・
 さて・・・ソレは誰じゃ?」



にこにこと楽しそうに話の続きを促すダンブルドアの顔を見て

俺は一呼吸おき、紅茶を口に含んでから少し含みのある笑みを向けた。



「リーマス・・・・J=ルーピンだ。」


「・・・なんと。」



俺の口からその名が出たとたんダンブルドアのきらきらとした目がさらに大きく見開いた。

彼にしては珍しく驚いたみたいでなんとなくうれしい。

ちなみに俺もこの状況でこの名前を言われれば驚くのは間違いない。



「ダンブルドアは連絡先もちろん知ってるんだよな?
 あいつの闇の魔術に対する防衛術の才能は俺が保障してやる。
 後悔はさせねぇぜ。ダンブルドア。」


「確かにあやつは最適じゃのぅ・・。ハリーもいることじゃし・・・。」



考えるように首をひねりながらしばらく豊かな髭を撫ぜ、

ダンブルドアは思案するような表情を浮かべて方俺のほうを向いて笑みを浮かべた。



(この表情はどうやら・・・)



確信めいたものを感じて俺はにぃっと口の端をあげてみせる。



「よし。わしが何とかしよう。」


「サンキュ。愛してるぜ、ダンブルドア。」



とびっきりの笑顔をダンブルドアに見せて、俺はソファから立ち上がる。

ケーキをちょうど食べ終わっていたのでごちそうさま。と呟き、ダンブルドアと目を合わせる。

窓の外を見てみるともう夜も深くなってきている。長居は無用だ。



「じゃ、よろしく。」


「わかったわい。」



ずいぶんと頼りになる笑顔につられるように笑顔になる。

聞いてもらった。後は帰るだけ。

扉に足を向けるが俺は胸の中になにかきゅんとしたものを感じて、ダンブルドアを振り返った。



「・・・・・・・・・あのさ、ダンブルドア。」


「なんじゃ?」



ダンブルドアは落ち着いた笑みを浮かべてゆったりとソファに腰を下ろしている。

ぐっと唾液を飲み込み、俺は彼から一度視線をはずす。

目を硬くつぶってから意を決してダンブルドアを見つめる。



「これは俺のわがままなのはちゃんとわかってるつもりだ。
 だけど、あいつは才能があるのにそれにみあった仕事に就けてねぇ。
 だから・・・チャンスをやりてぇんだ。頼むよ。」



このことを言うか言わないか。最後まで迷ってた。

言ってしまったら提案は願いになる。

このやさしい老人の逃げ道を狭くすることになる。

そんな俺の気持ちすらお見通しなのかダンブルドアは力強く笑みを浮かべて見せた。



・・・おぬしの言葉はいつも深く受け止めてるつもりじゃがな?」


「・・・・知ってる。」



下を向いたままくすりと笑みを浮かべてしまう。

ダンブルドアが俺を信用してくれていることは痛いほどわかってる。

そしてそれに甘えてしまっている自分のこともわかってる。



「本気で頼りにしてる。
 生意気で・・・わがままな生徒でごめんな。」


「・・・手のかかる生徒ほど可愛いもんじゃよ。」



ダンブルドアの大きな手が俺の頭を優しくなぜた。

俺はそれになんだか涙が出そうになって、こらえるために瞳を閉じた。


















2008/03/30 改



あとがき

ダンブルドアは永遠にお茶目なんだと思うんです。
そんなダンブルドアが主人公さんは大好きでしょうがないなー。って思ってるんです。多分。
ダンブルドアはみんなのパパでいいと思うんだ!ホ●で無くていいと思うんだ!