無数の手が俺を闇に引きずり落とす。
(あぁ、またか。)
俺は叫ぶ事もなくその手に身を任した。
執拗に絡み付いてくるその腕は俺をどこかへいざなう。
ひたひたと冷たい感触が肌の上を這い回った。
・・・―。
どこかで水滴が落ちる音。
それと同時に俺の目の前の闇が晴れる。
いや・・・。晴れたといっても少し暗い。
どこかの地下室のようだ。
目の前には二つの影。
ジェームズに良く似た俺の親友でもある子供と
・・・リドル。
今は名前を呼んではいけない。
そういった意味合いを込めて
魔法使い達は目の前の黒髪赤目の人物の事をこういう。
You-know‐Who
―― 例のあの人。
随分と余裕の笑みを浮かべてその場に立っているリドル。
何をするつもりだろうか。状況が把握できていない。
辺りの状況を知るために引きずり下ろされた場所を一通り眺めてみる。
まず目に止まったのはリドルの隣にいる俺の姿。
いや、正しくはうずくまっている。
実態ではないので重さがない身体で飛ぶように移動して俺自身の様子を見る。
今、俺はここにはいない。だから、俺自身の顔をよく覗き込んでみても
俺が気がつくことはない。
随分と息が乱れている。額には汗をじっとりとかき、瞳の焦点は失っている。
爪が分厚いセータの上から肩に食い込んでいた。
よほどの痛みらしい。時々漏れてくる喘ぎ声がそれを物語っている。
いったい俺になにがあったのか。でも、今は俺のことなんかどうでもいい。
近くには真っ赤な髪の女の子が倒れている。
きっとこの髪の色はウィーズリー一家だろう。
死んだように顔色が悪い。危ないと誰がみてもわかる状態だ。
俺はその子を一瞥してからハリーのほうへ視線を向けた。
すこしビデオの早送りをしたように周りの景色が動く。
しかし、その間の会話は全て頭の中に入ってきた。
スポンジが水を吸収するように。本当に自然に。
バジリスクが長い身体をくねらせて石像の奥から現れた。
蛇がハリーに襲い掛かるぎりぎりのところで、先ほど現れたフォークスがヘビと対峙した。
「うっわぁ・・・・。」
フォークスはバジリスクの両目を鋭いくちばしで貫いた。
バジリスクは恐ろしいうめき声を上げて痛みにのた打ち回る。
目からは痛々しいほどにどす黒い血が行く筋も流れた。
リドルの声をうけて、ヘビは我を取り戻したかのように再びハリーに襲い掛かった。
ハリーは盲目のヘビの攻撃をぎりぎりの状態でかわす。
手には組み分け帽子から取り出した剣が握られている。
そして・・・。
「・・・・ハリー!?」
剣でバジリスクに止めをさしたと同時にハリーの腕に長い牙が突き刺さった。
死を与える毒だと。リドルはそういった。ハリーから力が抜けて床に膝をつく。
「ハリー!!」
声を出しても届かない。俺はここにはいない。
ソレはわかっているのに、声を出さずにはいられない。
――・・・
「――――っ!!」
上半身を勢いよくおこして、ベットの上で目が覚めた。
寝汗をじっとりとかき、体中が気持ち悪い。
窓の外を見てみると明け始めのようで少しだけ空が赤い。
親父はまだ寝ているであろう時刻。
「・・・やってくれるじゃねぇの・・・。」
俺は自身の腹に手を乗せて、口元に笑みを上らせる。
しばらく行っていなかった事をしなくてはいけないらしい。
先ほどの夢はこいつの催促だろう。
「・・・・受けて立つぜ・・・。」
ベットからおきだしてシャワールームに向かう。
とりあえず寝汗でも流しておこうかと思った。
2004/11/20