グリフィンド−ルの談話室の一角で僕とロンは椅子にも座らず、たったまま顔を突き合わせていた。
原因は昨夜の一件。
「・・・・どんな顔をして大広間にいこうか。」
「・・・そこは確かに問題だよね。」
「・・・ジョージとフレッドならきっとなんでもない顔をしているんだろうけど・・・。」
ロンの言葉におなじ顔の二人を頭に浮かべる。
きっとあれぐらいいつものことだ、とあの二人なら笑って済ますような気がしてならない。
だけど僕らは違う。まだあそこまで度胸は据わっていない。
「どうしよう・・・・。」
「本当に・・・・あ。」
「?」
ロンが声を上げて視線を向けたほうをみると、がしがしと頭をかいて階段を降りてくる一人の人物。
白くて長い糸のような髪が憎たらしいぐらいさらさらと零れ落ちて、彼は大きくあくびをした。
それでも尚崩れない美貌に、グリフィンドールの談話室にいた全員の注目を一瞬にして集めた。
一部歓喜の声を上げるものあり。一部声を出せずに固まるものあり。
昨日は全校生徒合同で夕食だったので彼の姿を見ていなかった一年生はそういった表情を見せた。
しかし、上の学年のものも同じような面持ちで、
久しぶりにみたこの美貌の持ち主に感嘆の声をあげている。
「おはよう。。」
「・・・・ん?あぁ・・・・はよーございます、Mr.ポッター。Mr.ウィーズリー。」
「眠たそうだね?」
「まぁ・・・・な。」
ロンが言った言葉に返事をする間にもあくびをもう一つ。
そして、目をこすって僕とロンのほうを見た。
「・・・お前ら意外と元気か?」
「・・・・そうでもないよ。」
僕は苦笑を浮かべながらと一緒に大広間に下りていく。
ひとつひとつゆっくりとは階段を下りて手櫛で髪をといた。
「・・・俺は好きだぜ?あーいうの。」
「君ならそういうと思ったよ。」
「よくお分かりで。」
ようやくがにっこりと笑った。
その彼の動作ですこし安堵の息をもらした。
低血圧だ。と高らかに宣言されてから朝は彼の機嫌をくずさないように努めている。
の機嫌が悪くなったら怖い事+周りに非難の視線を浴びせられる事。
この二つはかなりつらい。特に前者。
「んでさー。ハリー。」
「うん・・・・なに?」
「ハーマイオニーの機嫌直ってると思うか?」
「・・・・まずないね。」
そこまでいった後、大広間にたどり着く。
に対する反応は先ほどの談話室と似たり寄ったり。
少し大きいバージョンといったところか。
しかし、本人はまったく気にした様子は見せずハーマイオニーの右隣に座った。
僕とロンはその隣に座る。
「おはよ。ハーマイオニー。」
「おはよう、。珍しく朝にしては機嫌がいいじゃないの。」
ハーマイオニーがにっこりとに微笑む。
彼女の機嫌はそんなに悪くないと判断した僕達はハーマイオニーに挨拶をした。
「・・・おはよう。ハーマイオニー。」
「お・・おはよう。」
「おはよう。」
にむけた言葉とは大違いでやはりつっけんどんな感じの言葉が返ってきた。
昨日のことがやはりまだ許せないらしい。
機嫌が直ったことをすこし期待していただけにハーマイオニーの態度は残念だった。
「み、皆、おはよう!」
ネビルがこちらに嬉しそうに微笑んであいさつをした。
「はよ。Mr.ロングボトム。
なにかいいことでもあったのか?」
が穏やかな笑みを浮かべてソレに答えると、ネビルはさらに嬉しそうに目元を緩めた。
「うん。。もうふくろう便の届く時間だ――
ばあちゃんが、僕の忘れたものをいくつか送ってくれると思うよ。」
「よかったな。
つーか、また忘れたのかよ、お前。」
ケタケタとが楽しそうに笑いながら、卵とベーコンを皿に取り分けた。
その笑顔を盗み見て、新入生の女の子が顔を赤く染めた。
その様子を上級学年の女生徒のにらみつけているところを僕は一瞬見てしまった。
の前にはだれも座ってはいけない。
そんな暗黙の了解が女子の前には出来上がったのはいつからのことだったか。
「おー。きたぜ?」
が上を見上げると慌ただしい音をさせて、百羽を超えるふくろうが大広間を旋回する。
あちらこちらで手紙やら小包やらがテーブルの上に落ちた。
の元には相変わらずたくさんの手紙が。
大きなでこぼこした小包がネビルの頭に落ちて跳ね返った次の瞬間、
なにやら大きな灰色の塊が、ハーマイオニーとの傍の水差しのなかにおち、
周りのみんなにミルクと羽の飛沫をまき散らした。
はあきれたように目を細めて水差しの中の物体を見た。
「エロール!?」
ロンは水差しの中にに突っ込んだ物体。つまり灰色のふくろうの足をひっぱって中から救出した。
ぼと。っと鈍い音をさせてふくろうはテーブルの上に落ちる。
くちばしには赤い封筒をくわえている。
「・・・・うわぁ・・・死んだのか?コレ。」
「大変だ・・・。」
「大丈夫よ。まだ生きているわ。」
ハーマイオニーとがエロールをやたら指でつつく。
ハーマイオニーは心配してだと思うが、は遊んでるようにしか見えない。
しかし、ロンの目線はどう考えてもエロールではなくて赤い封筒に向いている。
「そうじゃなくて―――あっち。」
「これなに?」
とくに普通の封筒と変わりない。
赤いということだけしか僕にはわからなかった。
だけど、ロンとネビルは危険物だといわんばかりにその封筒を見てみる。
「なぁ。ハリー。」
「なに?」
「耳栓もってねぇ?」
「は?」
なんだか変なことを言い出したので、目を見開いてみると
はきょとんと目を丸くした。
「あれ?お前しらねェの?」
何を。といおうとするとその答えをロンはか細い声で呟いた。
「ママが・・・ママったら『吼えメール』を僕によこした。」
「ロン、開けたほうがいいよ。
僕のおばあちゃんも一度僕によこしたことがあるんだけど、ほっておいたら・・・・。」
ネビルがこわごわと囁く。
そんなに恐ろしいものなのだろうか?
見た目は本当に普通の封筒とかわりない。
「『吼えメール』ってなに?」
しかし、ロンは封筒に全神経を集中させていた。
四隅からは白い煙が立ち昇り始めた。
に視線を向けると、はテーブルに足を上げゆったりと微笑んだ。
「みてればわかる。」
「・・・・。」
ネビルにせかされて、ロンは震える手でエロールのくちばしから封筒をぬきとり、開封した。
次の瞬間、ネビルとが耳に指を突っ込んだ理由が判明した。
「・・・車を盗み出すなんて、退校処分になっても当たり前です。首を洗って・・・」
大広間がゆれるほどの大きな声がこだまして、天井からほこりがぱらぱらと舞い落ちる。
本物の声を100倍ほどに拡大したと思われるその声は、テーブルの上の食器やスプーンをガチャガチャといわせた。
当然この怒鳴り声は大広間全体に聞こえているわけで誰が『吼えメール』を受け取ったのだろうと生徒達は首をめぐらしていた。
張本人のロンは椅子に縮こまり、赤い額だけテーブルに出している。
はその様子を足をテーブルにあげて、耳に指をつっこんだまま楽しそうに笑ってみていた。
「お前もハリーも、まかり間違えれば死ぬところだった・・・。」
いつ自分の名前がでてくるかと覚悟して待っていたが、やはり自分の名前があらわれると心臓に悪い。
鼓膜がずきずきするほどしっかりと聞いたが、聞こえていないフリをしてさらに続きを聞いてみると、
こんど規則を破るとウィーズリー夫人がロンを家に連れ戻す。という区切りで終わった。
まだ耳がジーンとなっているが、とりあえず怒鳴り声はおわったようだ。
ロンの手からおちた赤い封筒は炎となって赤くちりちりと燃え上がって灰になる。
僕とロンは津波の直撃を受けたあとみたいに呆然と椅子にへばりついた。
何人かが笑い声を上げ、だんだんとおしゃべりが戻ってくる。
絶対あの笑い声にはマルフォイもはいっている。
ハーマイオニーがパタンと読んでいた本をとじて、ロンを品定めでもするかのような眼で見た。
は苦笑を浮かべ、ロンとハーマイオニーを見比べた。
「ま、あなたが何を予想していたか知りませんけど、ロン、あなたは・・・・。」
「当然の報いを受けたって言いたいんだろ。」
ハーマイオニーの言葉にロンが噛み付くように言った。
ネビルが心配そうに見ている間に、がくすくすと笑う。
僕は食べかけのオートミールをむこうへ押しやった。
申し訳なさで胃が焼ける思いがし、食べ物など、どうかんがえても通りそうにない。
ウィーズリーおじさんが役所で尋問を受けた。
その事実が僕の上に重くのしかかる。
夏の間あんなにお世話になったのに。
「ハリー。」
「?」
「あんま気にすんな。これぐらいの規則破りなんか俺に言わせりゃ序の口だ。
それよか・・・・・・『吼えメール』って強烈だろ?」
がにやりと微笑む。つられてほほの筋肉が緩むのを感じた。
どうしてかは、わからないけどは周りまで自分のペースに巻き込んでしまう。
「・・・うん。そうだね。」
聞こえるか聞こえないかぐらいの音量でそっと呟く。
すこしだけ気持ちが軽くなったような気がした。
20041120