「この猫は狂っていない。」
俺は目の前にいる赤毛の少年の目を見据えていった。
近くにいた猫に手を伸ばす。
骨と皮ばかりになった手が妙に悲しかった。
「俺の出会った猫の中で、こんなに賢い猫はまたといない。
ピーターをみるなり、すぐに正体を見抜いた。俺に出会ったときも、俺が犬でないことを見破った。
私を信用するまでに時間がかかった。ようやっと、俺の狙いを伝えることができて、それ以来幾度となく助けてくれた。」
ひざの上の猫の喉元をなぜると、猫はごろごろと喉を鳴らした。
「それ・・・どういうこと?」
ハーマイオニーと呼ばれていた女の子が息を潜めて問いかける。
そちらに視線を向けるととも目が合う。
話してやれ。とでもいうふうな視線を投げかけられた。
「・・・・・・・ピーターを俺のところに連れてこようとした。しかし、できなかった。
そこで俺のためにグリフィンドール塔への合言葉を盗み出してくれた。
誰か男の子のベットのサイドテーブルから持ってきたらしい。
しかし、ピーターは事の成り行きを察知して、逃げ出した。
この猫はクルックシャンクスという名だね?」
巻き毛の女の子に視線を投げかけるとそこの子はコクリとうなづいた。
「ピーターがベットのシーツに血の跡を残していったと教えてくれた・・・
多分自分で自分を噛んだのだろう・・・そう、死んだと見せかけるのは、前にもいちどうまくやったのだし・・・。」
「それじゃ、なぜピーターは自分が死んだと見せかけたんだ?」
ハリーが激しい口調で俺に問いかける。
どうも、まだ信じてもらえていないらしい。
敵だ。とハリーの頭の中では認識されているのだ。
俺がジェームズとリリーを殺したと。
「お前が、僕の両親を殺したと同じように、自分も殺そうとしているのに気付いたからじゃないか!?」
「違う。ハリー――。」
リーマスが心配そうに口を挟む。
しかし、ハリーは止まらなかった。心が痛い。
言葉の刃が俺の心を何度も貫く。
だけど、今は鬼にならなくては。
ジェームズとリリーのためにも。
「それで、今度はとどめを刺そうとしてやってきたんだろう!?」
「そのとおりだ。」
俺はピーターをにらみつけた。
それに巻き毛の女子がおびえたような表情を見せる。
おそらく俺の顔は今、修羅のような顔つきになっているのだろう。
少なくとも女生徒に黄色い声をあげられた頃のような表情ではないはずだ。
「それなら、僕はスネイプにおまえを引き渡すべきだったんだ!」
リーマスが一歩前に出て焦りを無理矢理隠している表情でハリーを制した。
「ハリー。わからないのか?
私達はずっと、シリウスがキミのご両親を裏切ったと思っていた。
ピーターがシリウスを追い詰めたと思っていた――しかし、それは逆だった。
わからないのかい?ピーターが君のお父さん、お母さんを裏切ったんだ――シリウスがピーターを追い詰めたんだ――。」
「うそだ!!」
鼓膜がつぶれるかと思うぐらい大きな声をハリーは張り上げた。
「ブラックが秘密の守り人だった!ブラック自身があなたが来る前に言ったんだ。
こいつは自分が僕の両親を殺したと言ったんだ!」
ハリーは目を僅かに潤ませ、俺を指差した。
俺は違う。とゆっくり首を振る。すこし泣きたい気分になった。
それを察知したのか、は座り込んでいた俺の頭を軽く叩くように撫ぜた。
そしてコクリと頷いてみせ、ハリーを目線で示した。
どうも話せと言う事らしい。おそらくは全てを知っている。
「ハリー・・・俺が殺したも同然だ。」
声がかすれたのがわかった。
戸惑いの色がハリーの表情に見えた。
「最後の最後になって、ジェームズとリリーにピーターを守り人にするように勧めたのは俺だ。
ピーターに代えるように勧めた・・・・俺が悪いんだ・・・!
たしかに・・二人が死んだ夜、俺はピーターの所に行く手はずになっていた。
ピーターが無事かどうか・・・・・確かめに行く事にしていた・・・。」
言葉が止まる。唇が震えた。続きが言えない。
今でも昔のその思い出がまぶたを閉じれば、まるで昨日のことのようによみがえってくる。
が隣に腰を下ろし右手を重ねた。
息がかかりそうなぐらい近い距離では真剣な色を瞳に宿らせ俺の目を見据えた。
「やめるな。・・・話せ、シリウス。お前なら話せるはずだ。」
「・・・・・。
・・・・ところが、ピーターの隠れ家に言ってみると、もぬけの殻だ。しかも争った後がない。
どうもおかしい。俺は不吉な予感がして、すぐ君のご両親のところへ向かった。
そして、家が壊され、二人が死んでいるのを見たとき――俺は悟った。
ピーターが何をしたのかを。俺が何をしてしまったのかを・・・・。」
俺はハリーの視線から顔を背けた。その先にはの顔があった。
「・・・・なぁに、勝手にシリアスモードになってんだよ。」
目の端にたまった水滴をは指で優しくぬぐった。
20050220