もうたくさんだ。


足音を荒げて玄関まで重いトランクを引っ張っていく。

胃の中がぐるぐるとかき混ぜられているような気がした。

急いで二階にあがって、必要なものを引っ張り出してトランクに詰め込み始める。



「ここに戻るんだ!マージーを元通りにしろ!!」



そんなおじさんの声が近いような遠いような不思議なところで響いた。

怒りで思考が良く回らない。

わかるのはただうるさいという事。

足でトランクを開けて杖をとりだし相手の顔に向ける。

一瞬にしておじさんの顔が引きつったのがわかった。



「当然の報いだ。身から出た錆だ。僕に近寄るな。」



杖を構えたまま目をしっかりと見据えて、声を荒げる。

当然だけど、おじさんは少しも動けない。いい気味だ。



「僕は出て行く。もうたくさんだ。」



後ろ手にドアを力いっぱい閉めて静かなとおりに出た。

夜の冷たい空気に当たっても怒りはさめない。

さっきからいくつとおりを過ぎただろうか。


しかし、突然パニックが襲った。

これからどうすればいい?

魔法を使ってしまったし行くあてもない。

途方にくれて意思と関係なしに足が動く。



「あー。やっときたー。」


「!?」



突然の声にふりむくと、道端の街灯の下に黒い影があった。

いや、黒い影ではない。

光を放つような白い髪と透き通る白い肌。それと強い金色の瞳が闇に浮いている。



「ばんわ。Mr.ポッター。」


「・・・。」



自然と安堵の声が出た。

暗闇の中に浮かぶ余裕を持った笑みをうかべているその姿は落ち着きを与える。

しかし、ぽつりと疑問が湧いてきた。



「・・・どうしてここに?」


「そろそろ、ハリーが来る頃だと思って。」


「・・・・どういうこと?」



眉根をしかめて見せて、に詰め寄る。

くすくすとは相変わらず笑ったままだ。



「そんなことわかるはずがない!!
 僕はさっき家出してきたんだよ!?」


「だろーな。ほぉら。とりあえず、落ち着け。」



どう、どう。と肩を遠慮なしに叩いては横に僕を座らせ、読んでいた本を閉じた。

本の題名は”あなたのわんこを服従させるには”



「・・・・・・・。」


「お?落ち着いたじゃん。」



落ち着いたというか、あっけにとられたと言うか。

得意げに目を細めて見せる目の前の友人が犬を飼っているという事はきいた事はない。



、犬飼ってたっけ?」


「いんや。」


「じゃぁ、なんで?」



本を指差して言うと、は楽しそうに口元に笑みを浮かばせた。



「昔飼ってたの。
 んで、また見つかりそうな気がするから。」


「見つける?買うじゃないの?」


「見つける、だ。
 前はちゃんとしつけできなかったから今回はちゃんとしねーとなぁって。」



ふふっと。怪しげな笑みを口元に上らせる。

この表情はたしか悪戯を考えている時の表情だったような・・・。

しかし、今はただのしつけの話であってとくに悪戯とかは関係ないはず・・・だとおもいたい。



「さぁーて。ハリー行く当てないんだろ?」


「え・・・うん。・・・・・もしかして・・・。」



泊めてくれるの?

上目遣いに金色の瞳を覗き込むとはきょとんと首を傾げて見せた。



「や、そりゃ無理。
 家狭いから、寝るスペースねェし。寝るなら俺と一緒のベットだぜ?」


「別に僕はそれでも・・・。」


「駄目だ。俺はハリーを襲わない自信がねぇ。」


「!?」


「あー・・・。逃げるなって半分冗談だから。」



席を立とうとした僕の首元を後ろから掴み、くすっとは微笑む。

半分ってことはもう半分は本気という事なのだけれども、

そこのところをはちゃんとわかっているのだろうか?



「じゃぁ、どうすればいいの?」



おとなしくその場にもう一度座るとは笑みを深めた。



「ちょい待て。」



は立ち上がると、どこまでもつづきそうな闇の道を右から左へと見た。

その様子を見ていたが、首筋にちくちくとした視線を感じた。



「・・・・・?」


「えーっと・・・。杖腕だったか・・・。」



その方向によくよく目を凝らしてみても、姿は見えない。

なにかの気配はするのだ、とても大きなもの。

知らせなければと、の方を見る。

しかし、はその場にいなかった。



・・・?」



名前を呼んでみるが返事はない。

そうしている間にも視線はいたいほどに突き刺さってくる。



「ルーモス、光よ!」



マージー叔母さんをふくらましたのだから、いまさら魔法を使っても同じこと。

ただの野良猫ならいい。

けれども、視界に入ったものは灰色がかった瞳となにか大きなものの輪郭だった。


じりじりとその場で後ずさりをする。トランクが足に当たって、杖が道路に飛び道路に後ろ向きに倒れこんだ。

その刹那に鼓膜が破れるかと思うほどの大きな音がした。

そして、突然の目がくらむほどの光。

急いで道路から歩道に上がり、音の発信源を見る。

大きな三階建てのはでな紫色のバス。どこから現れたのかはしらないが、

フロントガラスには”夜の騎士バス”と書かれている。



「おーい。これに乗れ。」



呼ばれたほうを見てみると、がバスの中から手招きをしていた。

いったい先ほどまで何処に行ってたのだろう。

だけど、いまはそんな事はどうでもいい。



「・・・・・!!」


「どした?」



突然抱きつかれたにもかかわらず、は飄々とした表情で僕の頭を撫ぜた。



「なにか・・黒い大きな・・・生き物がいた。小山みたいに大きな・・・。」


「は?・・・・疲れてんじゃねーの?
 ほら、乗る乗る。」


「嘘じゃない!ほら、あそこ!!」



先ほどまでその生物がいたところを指差すとそこにはもう何もいなかった。

さっきまでの緊張感が嘘のようだ。



「何もいねーじゃねぇの。
 スタンー。こいつの面倒見てやって。」



バスの中から搭乗員と思われる人物をは呼び出した。

18、9歳ぐらいの大きな耳の突き出したにきびだらけの男。



「そうはいっても、旦那。どこまでおくれっていうんですか。」


「それは、こいつに聞いて。」



は笑顔で返すとバスから降りて、ヘドウィックのかごをバスに乗せた。

慌ててソレにならい、トランクをバスにのせる。

目線が逢うとスタンがなにかおもいだしたようにお辞儀をした。



「夜の騎士バスがお迎えに上がりました。迷子の魔法使い、魔女・・・。」


「もう、いいから。スタン。じゃぁ、また、ホグワーツでな。」



は僕をバスに押し込むと、ぱちんとウィンクをした。

横にいたスタンの顔が赤くなったのは気のせいではないだろう。



「またって・・は乗らないの?」


「俺はお家に帰るのー。
 親父がうるさいから。つーことで、頑張れ。いろいろ。」


「?」


「今年もお前いそがしーぞ。」



他人事だとでも言うように、楽しそうには笑う。

またトラブルが起こるとでも言いたいのだろうか。



「何が起こるって言うの?」


「さぁーな。じゃぁまた9月に。」


「・・・・。」


「旦那ー。だしますよ?」


「うん。行け。」


「ちょ!?!?」



スタンに腕をつかまれ中に押し込まれる。そしてまたバーンという音がした。

窓の外を見てみるとはすでに随分と小さくなっている。

いろいろと聞きたいことがあったのに・・・。

恨めしそうにその方向を見ていると、スタンが面白そうな声で声をかける。



「・・・おめえさん、名前は?」


「・・・ネビル・ロングボトム。」



とりあえず、一番最初に浮かんだ名前を呟いた。




20041002