ついに来た。
時の流れというのは自由に操作できないものだから当然なのだけれども、
来てほしいとと思いつつも、来てほしくなかった時間。
どんな物なのだろうかというのは、興味がないといったら嘘になる。
しかし、笑顔の裏の黒さを知っているこっちとしては、何を言われるかわかったものじゃない。
ただ、バレない事を祈っておこうと思う。
「・・・?」
訝しげに名前を呼ばれて、目をしばたかせて声の主を見た。
赤い髪の毛の少年が、心配げにこちらを見ている。
「どうかした?」
ひょろりと俺よりも少し背が高いロンは少し覗き込むようにしなければいけない。
その様子が歩きにくそうで、苦笑を浮かべて額を狙ってから、指ではじいた。
「なんでもねぇよ。」
「いっっったぁ!!」
「「!!」」
咎める様に両サイドから声がした。
二人の顔を見て大げさに肩をすくめて見せる。
ロンは涙目で座り込んで、こちらを見上げていた。
「あー・・・なんだかあなたらしくないと思って、心配した私が馬鹿みたいだわ・・・。」
ハーマイオニーが、頬に手を添えて溜息をつく。
ハリーも同意だとでも言う風に頷いている。
「だから、なんでもねーの。
おーい。ロン。いつまでかがんでんだー?」
「「「ひどっ。」」」
今度は3人同時にまったく同じ声の調子で。
やっべー・・・・。
こいつら楽しい。
ロンに手を差し出して立ち上がらせると、周りから黄色い声が上がった。
どこに反応したのかは知らないが、そちらを見てみると新入生のようだ。
その様子を見て悪戯を一つ思いつく。かわいい後輩に一つサービスでもしてやろう。
「大丈夫ですか、姫?」
「ひ・・・・姫ェ!?」
そういって、手の甲に口付けを落としてやると、ロンがいつもより大分高い声で叫んだ。
周りの黄色い声はソレより高い。
俺の王子的振る舞いが彼女らの的を得たのだと、確信。
つーか、やばい。この学校、本気で楽しい。
「あ。」
ハーマイオニーが突然声を上げた。
腕時計を見ているから、十中八九、時間的なものだろう。
「何?時間ねーの?」
「えぇ。」
「うわ・・・のせいだよ。」
ハリーが苦笑を浮かべながら、こちらを見た。
「そんなん言ってる暇あったら、走んぞ。」
にぃ。と口の端で笑うと、よーいどん。と口の中で呟いてその場から走り出す。
「ちょっ・・・・!!置いて行かないでくれ!!」
「そうよ!!ロンの言うとおりだわ!待ちなさい!!」
わぁわぁとわめきながら、3人が迫ってくる。
目の前に教室の扉が迫ってきて、スピードを緩めてその前に止まった。
「いっちばーん。」
荒く息をつきながら三人が俺を見上げた。
息を整えている三人を一瞥すると、中へ足を踏み入れた。
予想通りといっては、あれだがルーピン”先生”はまだ来ていなかった。
後から入ってきたハリーを見ると、きょとんとして首を傾げられた。
サラリと黒い前髪が落ちて、例の傷が見えた。
これをみたらあいつはどう思うだろうか。かつての友人を恨むのだろうか。
「先生まだ来てねーみたいだけど・・・。」
視線を机に走らせ、4人分あいているところを探し出す。
運良くというか、一番後ろの席が空いている。
「とりあえず、座る?」
疲れてるだろうし。と目を戻してそういうと三人は頷いた。
しばらくすると、くたびれた様子のルーピン先生が入ってきた。
どうも”病気がち”といったイメージを与える。年の割には随分とふけて見えた。
昔は微笑むだけで、そこらの女子を落としていたのが懐かしい。
こいつらはさえない。とでもおもっているだろうが、その考えはきっとすぐに変わる事だろう。
いろんな点から、いろんな意味で。
「やあ、みんな。」
部屋の中にルーピン先生の声が響き渡る。
「教科書は戻してもらおうかな。今日は実地練習をすることにしよう。
杖だけあればいいよ。」
がやがやと生徒達が教科書をしまいこみ始めた。
俺は教科書を片付ける振りをして、ルーピン先生を盗み見た。
うわぁ。こっちみてるよ。
ものすごく驚いたような表情をしていたので、へらりと笑ってやると、
ルーピン先生は先ほどの驚きの表情など微塵も感じさせないようなにっこりとした笑みを浮かべた。
きゃぁ。と黄色い声が上がった。
さすが、リー・・・ルーピン”先生”。笑顔で女を虜にする。
「よし、それじゃぁ、わたしについておいで。」
期待と不安の入り混じったような雰囲気で生徒達が立ち上がった。
俺もハリーと一緒に席を立ってルーピン先生の後に続く。
一人称が僕から私に。
時が流れているのだ。と嫌でも感じられた。
ハリーが顔を覗き込んでくる。ロンとハーマイオニーは少し後ろを歩いていた。
眉根を寄せている。どうやら心配してくれているらしい。
「本当になんでもない?」
「ん?・・・・あぁ。」
苦笑を浮かべてハリーの頭をぐしゃぐしゃにする。
「ちょっと向こうの世界に行きかけただけだ。」
「向こうの世界って、夢の中の事?
・・・・寝不足?」
「まぁ、そんなとこ。」
「ルーニ、ルーピ、ルーピン。バーカ、マヌケ、ルーピン。ルーニ、ルーピ、ルーピン――。」
耳につくピーブズの歌い声がした。まぁ、なんと大胆な事を。
ハリーなんてあっけにとられてルーピン”先生”のほうを向いている。
そりゃそうだろう。
一応ピーブスは先生方には一目置いてるから、こうやって罵倒する事などめったにないことなのだから。
っていうか、ピーブズも学習しろよ。
ルーピン”先生”が学生の頃どうなったか、もう忘れたのだろうか。それともソレの仕返しだろうか。
どっちにしろ大胆には変わりない。
あのリーマス・J・ルーピンに喧嘩を売ったのだから。
俺は心からピーブスに拍手を送る事に決めた。ただし、心の中で。
君の勇気に乾杯だ。
ルーピン先生は笑顔を浮かべてピーブズを見た。
あぁ・・・笑顔が怖い。
しかし、それがわかるのは俺ぐらいで、他の生徒は驚きの表情でルーピン先生の顔を見ている。
罵倒されたのになぜ平気なのかと。
「ピーブズ、わたしなら鍵穴からガムを離しておくけどね。」
だろうな。優等生のルーピン先生なら。
「フィルチさんが箒を取れなくなるじゃないか。」
・・・・・・・。
やべぇ。ここにも面白いやついた。
そのフィルチさんを困らせて楽しんでいただのは何処のどいつだ。
なんとか笑いを抑える。肩が震えているからもしかするとハリーはまた心配するかもしれない。
ピーブズもここらへんで観念しとけばいいものの、舌を突き出した。
さぁ、俺はもう知らない。
ルーピン”先生”は杖を取り出し、戦闘準備万端だ。
なんだか、小さな溜息がわざとらしいのは気のせいだろうか。
「この簡単な呪文は役に立つよ。よく見ておきなさい。」
一度、肩越しに生徒達を振り返ってから、杖を肩の高さまで構えた。
「ワディワジ、逆詰め!」
杖をピーブズに向けてそう叫ぶと、さすが、ルーピン”先生”といったところだろうか。
おもしろいほどにガムは綺麗に飛び出て、ピーブズの左の鼻の穴に入り込んだ。
うわぁ。でっけぇ鼻くそみてぇ。
悪態をいくつも吐きながら、ピーブズはズーム・アウトして、消えうせた。
だから、そんなことしたら怖いって。後が。
「先生かっこいい!」
「ディーン、ありがとう」
生徒からの賛美にかるく微笑を添えてルーピン”先生”は杖を下に戻した。
尊敬のまなざしがルーピン先生注ぎ込まれる。
やはり、俺の予想は大的中ー。絶好調。
「さぁ、お入り。」
ぞろぞろと、生徒達を引き連れて二つ目の廊下を渡り、職員室の前で立ち止まった。
「・・・・・もしかしてセブルスいるじゃん。」
ぼそ。と呟いた言葉は誰も聞き取れなかったらしい。
20041002