相変わらず笑いは収まらない。

なんとか、笑いを収めて前に出る。気だるそうに白の長い髪を揺らして目をエサにたかるねずみ達に向けた。



出てくるのは。


ボガートが変身するのは。


多分アイツだ。





パチン!



また、鞭のような音がして、銀色の五メートルはあるかと思われる東洋の龍が出てくる。



――やっぱりお前か。



にぃ。と口元でわらってやり、杖を突き出す。



「リディクラス、ばかばかしい。」



ちゃんと最初に先生がいった通りにあざけるような調子で言うと、龍からいくつモノ昆虫の足らしきものが出てきた。

そして、サイズが収縮して行き、最終的に手のひらサイズになった。



「百足風味の龍の出来上がりーv」



OK?とルーピン先生を見てから、くすくすと笑い後ろに下がる。



「いいぞ、ロン、次だ!」



あれでいいらしい。

でも、アレはアレでキモイかも。

百足嫌いなやつって結構いるし。とくに女子に。

そんな事を考えていると、ボガートが2メートルサイズの大蜘蛛に変身した。

てか、なんで蜘蛛にはさみがついてるんだ。

ガチャガチャならしてじりじりとロンに近寄る姿はかなり不気味。

一瞬ロンが凍りついた様に見えた。

しかし、ロンは大丈夫な事を俺は知っている。



「リディクラス!」



蜘蛛の足が消えて、ごろごろと転がり出した。

ロンはみかけほど弱いやつじゃない。

満足げに口の端を上げて見せた。

目線があい、ロンもにっこりと微笑む。



「あ、やべ。油断してた。」


「は?」



ハリーが眉間にしわを寄せて、俺の顔を除きこむ。



「来たぜ?やってみろよ。」



ゴロゴロと転がってくるそれを目線で示すと、ハリーはわずかに恐怖の表情を浮かべてから、杖を取り出した。



――が。



「こっちだ!」



ルーピン”先生”が突然前に出てきて、視界を遮った。

せっかくのハリーがやる気だったのに。

ばれない様に目を細めて背中を睨みつけてやる。

鞭の音がして、ボガートが銀白色の玉になる。つまり月。



「リディクラス!」



俺と同じかそれ以上に面倒くさそうに呪文を唱えると、それはゴキブリに変化した。

・・・・キモイ。

っていうか、女子がきゃきゃーいってるし。



「ネビル、前へ!やっつけるんだ!」



床に落ちた瞬間にルーピン先生はそう叫び、ボガートがセブルスに変化した。

今度はネビルはガタガタ震えてはいない。

へぇ。成長したじゃねぇの。



「リディクラス!」



ほんの一瞬、ふたたび爆笑すべき、セブルスの仮装が見えたが、

ネビルが大声で笑うとそれは破裂し、いくつモノ細い筋となってかき消えた。



「よくやった!」



拍手の渦の中、ルーピン先生は大声を出した。

表情は満足そうで、喜んでいるのがよくわかる。



「ネビル、よくできた。みんな、よくやった。そうだな・・・・ボガートと対決したグリフィンドール生一人につき五点やろう。
 ――ネビルは十点だ。2回やったからね――ハーマイオニーとハリーも五点ずつだ。」


「でも、僕何もしませんでした。」


「いや・・・おい。」



もらえるもんはもらっとけよ。

横からハリーに突っ込みを入れるが、ハリーはルーピン先生をまっすぐと見据えている。

ききそうに無い。ルーピン先生がどう反応を示すかと、顔色を伺ってみると微笑すら浮かべている。



「ハリー。君とハーマイオニーはクラスの最初に私の質問に正しく答えてくれた。
 よーし、みんな。いい授業だった。
 宿題だ。ボガートに関する章を読んで、まとめを提出してくれ・・・・月曜までだ。今日はこれでおしまい。」



さりげない・・・。

拍手を送りたい気分になったがそこは堪えよう。

あきらかにいろんなやつに変な目で見られる。



「あ、そうだ。。ちょっと、残ってくれるかい?手伝いを頼みたいんだけども・・・。」



困ったように瞳に睫毛の陰を落として、俺を見る。

ルーピン”先生”の本性を知らないヤツはたいていこれで落とされる。

おそらく多くの女子がときめいたであろう。

本日最後の授業なので、この後どうのこうのは無い。

それに、ここで断るといろいろといわれそうだ。



「別に良いですよ。」



優等生モードで軽く答えると、ルーピン先生は綺麗に笑った。



「ありがとう。」


「・・・ということだ、ハリー。わりぃけど、先帰っといてくれるか?」


「わかったよ。」



ハリーはロンとハーマイオニーに目配せをすると、静かに教室を出て行った。



「で、何を手伝えばいいんっすか?」


「そうだね。とりあえず、私の事務所にきてくれるかい?”ウィクリフ”?」


「はい。ルーピン先生。」



ウィクリフをやたら強調されて言われたが、ここで挑発に乗ってはいけない。

本能が俺にそう呼びかける。



「ウィクリフ。君は随分とボガートに慣れてるみたいだね。」


「そんなことありませんよ。買い被りすぎです、先生。」



頬を赤めて、下を向き恥ずかしがるフリをする。

狸と狐の化かしあい。

おそらく狐が俺で、狸がルーピン”先生”。

あ、ルーピン”先生”の場合は狼か。



「またまた謙遜を。優秀な生徒をもてて私は嬉しいよ。」


「おだてても何も出ませんよ?」



くすくすと微笑み、相手を見る。

ルーピン先生も穏やかな笑みを浮かべていた。表面上は。

表面上だけというのは部屋に入ってすぐに証明された。



「・・・・先生。この体制はなんですか?」



いちおう、冷や汗をかいてるフリをして。

相手の目をまっすぐに見つめる。



「先生・・・まさか欲求不満の解消ですか?」



冗談でしょう?とでもいうようにぎこちなく微笑んだ。

ルーピン先生は一瞬真顔になった。



「そう思うかい?」



きっと、俺だと違う反応を示すと予測していたのだろうが。

ぎりぎりの状況に追い詰めて、どんな反応をするかで確証を得たかったのだろう。

一応、今の状況を説明しておきましょう。

壁に押しつけられ、両手を頭の上で交差させ動きが取れないようにされている。

ちなみに部屋の鍵は施錠済み。

その場面をばっちりみた。



「まさか。先生がそんなことなさるなんて思いません。」



びくびくと震える口調でそういう。

しかし、ここからがルーピン先生の本領発揮だ。

俺も次にくる行動を予測して、内心溜息をついた。

逃げ切れるものではない。今回はすこし不利だ。

ルーピン先生はにっこりと微笑む。



「それが、本気なんだよね。」


「!?」



一応驚愕の表情でも浮かべておくか。

俺のいまの演技は多分アカデミー賞並みのはずだ。

首筋に顔をうずめられて肌をきつく吸われた。



「――っ。」



絶対、型ついた。最悪ー。 

そして、ルーピン先生は顔を上げる。

金色の目におびえの表情を浮かべてみせる。



「目閉じて。」


「・・・・・・。」



目を閉じる=キスするつもり。

なるべくそれは避けたい。

今度は心の中ではなく、ちゃんと相手にわかるように盛大に溜息をついた。



「・・・野郎とキスなんざ、ごめんだ。」



なすがままにされていた優等生の仮面をはいで、ルーピン先生をにらみつける。

満足そうにルーピン先生は微笑んだ。



「やっと、本性見せたね。」


「猫かぶってたら、本気で襲われかねないんで。」



にぃ。と口の端をあげてみせる。

挑発とでも見えるだろうか。



「にしても、本気で久しぶりだね。=””」


「はぁ?誰っすか?それ?俺は=ウィクリフっすよ?
 てか、離してくれませんかぁ?ルーピンせんせー?」



壁に俺を押し付けたままの体制でルーピン先生は目を丸くする。

どこまでもとぼける俺の態度に勘違いかもしれないと思い始めたのかもしれない。

とても似ている赤の他人だと。

しかし、リーマス・J・ルーピンはそんなに甘くない。

だから、やっかいなのだ。



「そう・・・僕の勘違いだったかな。」



悲しげに表情を伏せる、ルーピン”先生”。

そして、何を思ったか俺のネクタイをするすると外した。



「・・・・?」



手の動きを追っていくと、俺は本気で冷や汗をかいた。

両手首を自分のネクタイで縛られる。

・・・・・ルーピン”先生”ってこんな趣味だっけ?



「ここまでしたし、最後までしてもおんなじ様なもんだから、僕は続きでもやらしてもらおうかな?」



自白するまで、この遊びは続くらしい。

そろそろ、観念しなければ。

リーマスはやるといったらやる男だ。



「・・・・いいかげんにしろ、リーマス。」



低音を響かせてやると、リーマスはにっこりと微笑んだ。



「やっぱり、だね。」


「あー。そーですともぉ。お久しぶりでーすvルーピンせんせvv」



語尾に無駄にハートマークをつけて言ってやった。

なんだか、顔の距離が異常に近い。

正体ばらしたんだから、早くのけっつーの。



「うん、久しぶり。
 だけど、僕をだますなんて、どういうつもりかなぁ?」


「だって、リーマス怒るし。」


「あたりまえ。」



にっこりと微笑むリーマス。

怖ぇ・・・。

笑顔が怖い。



「っていうか、死んだはずだよね、?」


「おーとも。死んだぜ?」


「・・・君だから、別に不思議に思わないんだけどね。」


「なんだ、ソレ。」



リーマスの言葉におもいっきりきょとんとした表情になった。

いや、不思議に思えよ。



「僕の中で、は宇宙人だから。」


「あー。それそっくりそのまま返す。」



宇宙人に宇宙人っていわれてたまるかっての。

嫌そうに、リーマスの顔をにらむ。

相変わらず近い。



「つーか、離せ、リーマス。」


「やだ。」


「・・・なんでだよ。」


「僕より、小さいなんて初めてだから、楽しくて。」


「・・・・離さなきゃ魔法ぶっぱなす。」



ドスの聞いた声でいうと、さすがにリーマスも恐れをなしたのか、

わずかに笑顔を引きつらせて俺から離れた。

本日何度目かの溜息をつくと、壁から背を離すが、重大な事に気がついた。



「はずれねぇ・・・。」



手首を縛ってるものが外れない。

なんども動かしてみるが、どうもそれはさらに硬くしていくだけのような気がする。



「・・・・リーマス。」



恨めしそうにリーマスを呼ぶと、リーマスは腹を抱えて笑っていた。

あー・・・なんかすっげぇむかつく。



「こんな姿・・・というか負けてるの姿は珍しいね。」


「人が抵抗できねぇからって・・・いい気に乗りやがって・・・。」


「外してあげないよ?」


「・・・・ごめんなさい。」



ここは素直に謝っておく。

まぁ・・・外せるには外せるんだけど・・・。

んー・・・・。見えない部分っていうのは難しい。



「ちょいまて、リーマス。」


「なに?」


「元はといえば、お前が原因だろーが。」


「今更気がついたの?」



なに、鈍ってる?とリーマスは楽しそうに笑った。

その言葉に俺は目線を宙に泳がせた。

たしかに鈍ってるかもしれない。

まわりの奴らが安全だから。一部を除いて。



「鍛えなきゃなー・・・。」


「まったく同感だよ。」



長い指で、器用にネクタイを解いていく。

するすると腕を縛っていた圧迫感が抜けた。



「取れたよ。」


「ありがとうございまーす。
 ・・・げ。痕ついてるし。」



いつもの笑みを浮かべると、リーマスはソファに身を沈めた。

そして、目線で自分の前の席を示す。

座れということらしい。



「リーマスに襲われましたー。っていっていいか?ダンブルドアに。」



からからと笑いながらソファに身をうずめる。

首の痣もあるし、信じてもらえない事もないはずだ。

もちろん冗談だけれども。



「あぁ。ダンブルドアといえば。」



紅茶をいれながら、リーマスはすばらしく素敵な笑みを浮かべた。

部屋の温度が一、二度下がった気がする。



「どうして、ダンブルドアは僕にがいるっておしえてくれなかったのかなぁ?」


「あっはー。そりゃ、俺が口止めしたからにきまってんだろv」


「そっかぁ。なら、ダンブルドアを怨んでもしょうがないね。」



君を怨む事にするよ。

笑顔でそう囁かれ、顔が引きつった。

・・・・怖ぇ。本気で怖い。



「・・・・ドウシタラ、ウラマナイデクレマスカ。」


「そうだね。僕が呼び出したときにお茶の相手をしなさい。
 まずは今晩夕食が終わった後。」


「・・・・今日はセブルスと約束あるんですけどもー?」


「絶対に僕優先を義務付ける。」


「・・・・・・・・。」



セブルスごめん。俺。今日は無理っぽい・・・。

何気にあの静かな雰囲気好きなのに。



「わかったよ・・・。」


「約束だからね。」



リーマスは満足そうに笑う。

一瞬時間が戻ったように感じた。

頭に浮かぶのは、ただ楽しかった日々。



「・・・・リーマス。お前、シリウスを怨んでるか?」



瞬時にリーマスの笑みが消える。

複雑な表情。

心の中でいろんな感情が渦巻いてるようだ。

酷な質問だっただろうか。

真剣な表情をリーマスに向けると困ったように微笑まれた。



「わかっているんだろう?」


「・・・・まぁな。
 でも、今年の最後にはすっきりする。」


「そうなの?」


「そーなの。」



にぃ。と微笑んでみせる。

リーマスは斜め下に視線を移した。



「どうして。って聞いちゃ駄目・・・・・なんだよね。」


「そ。俺は縛られてますから。」


「・・・・・。」



リーマスははじかれたように顔を上げ悲痛の表情を浮かべた。

昔からこうだ。これは今も変わらないらしい。



「お前が心配すんな。って何回もいっただろうが。」



べしっと、額を指ではじく。



「かわってねーのなぁ・・・。」



その性格。



「・・・そんなことない。いろいろ変わったよ。」


「まぁ、ふけたな。」


「そういう意味じゃなくて。」


「わかってる。」



俺は子供だけど、リーマスは大人。

ふけたようにも見えてしまうその容姿から社会の冷たさをしっかりと学んだと思える。



「ちっさくなったけど、俺は俺ですので。いつもどおり接しろ。
 あー・・・一般の前ではルーピン先生ってよぶから。不便だし。」


「・・・・変わらないね。君は。」


「俺もかわった。つーの。」



リーマスは苦笑を浮かべた。

嘘じゃない。本当にいろいろと変わった。



「じゃぁ、今夜また。」



どうやら、お茶の話は本気らしい。



「・・・・・セブルスは・・・?」


「僕から断っとくから。」


「・・・・・。」



逃げ道はないらしい。



「わーったよ。」



溜息をついて、事務所の扉に立つ。

そろそろ帰らないと、ハリー達が心配する。

手伝いの内容は何にしようか。本の整理とかが無難か。



「あ、。待って。」


「?」



くるりと、後ろを振り向くと緩々な細い三つ編みを縛っていたリボンがとかれる。

リーマスの顔を口元だけ笑ってにらみつけた。



「・・・・色気がでるだろーが。」


「さっきのほうが色気ありすぎだよ。」


「あー・・・・。」



首元に手を当てられ、妙に納得する。



「別に俺が襲われてもリーマスに被害はないっしょ?」



むしろ女なら大歓迎?

くすっと微笑んでリーマスを見るとあきれたという表情を浮かべていた。



「・・・・君なら男も落ちる。
 いちいち殴り飛ばすの面倒だろ?」



実体験あるくせに。と嫌そうに言われた言葉に目線をリーマスから外した。



「・・・あの時はどうも。」


「どういたしまして。」


「・・・・・とりあえず戻る。」


「うん。気をつけて」



たぶんいろいろな意味でだろう。

苦笑を浮かべ事務所を出た。


変な輩に見つかりませんようにー。

一応今は三年生だから、体格的には上の奴も多いしー。


変な溜息が出た。





20041003