「おい。」



不機嫌に声をかけると、そいつはただ流している白い髪を翻し、

嫌味なほど綺麗で楽しそうな笑みでこちらに振り向いた。

まるで最初から俺が声をかけるのがわかっていたようで少しイラつく。

しかし、ここで相手のペースに乗ると負け。それぐらい重々承知のつもりだ。

呼び止めたくせにしばらく放ったままにしておいたのが悪かったのか、

相手は金色の瞳に楽しそうな光を浮かべ更に笑みを深めた。



「なにがおかしいんだ!?」


「いやー・・・一生懸命だなぁ。と思って。」


「っ―――!」



余裕綽々な相手に対し、確かに自分は余裕といったものはない。

ローブのポッケトに手を突っ込んだまま微笑をうかべ、

次の言葉を待っているそいつは不意に首を傾げてみせた。



「もしかして、また悪戯か?そろそろあきらめたらー?もう20回目ぐらいだろ?失敗したの。」


「そうじゃない!!」



俺の突然の大声に、今までへらへらとしていたソイツは驚きに目を見開いた。

幸い、禁じられた森へと続く裏道だったので、

人の往来はほとんどといっていいほどなく、注目を集めはしなかった。

自分の子供っぽさに思わず熱が頬に上る。

それをみてそいつはさらに不思議そうに首をかしげた。



「回数間違えた?」


「だからそういうことじゃない!!」



こぶしを握って下を向く。

きっと今の自分の顔は赤くなっているのだろう。

それを楽しむようにソイツは俺の顔を覗き込んだ。



「あれー?真っ赤じゃん。」


「うるさい!」


「ほー。ボンボンの癇癪はこわいねぇ。」



クスリと綺麗に微笑む目を睨み付けると、ソイツは満足気に口の端をあげた。



「で?」


「?」


「”?”じゃねーよ。ボンボン。
 俺に用事あるんだろ?」



一瞬何のことだかわからなくなって、目をしばたかせる。

相手は待ってくれているらしく、あいかわらずポケットに手を突っ込んだまま、微笑を浮かべている。

あぁ。そういえば。それが目的だったといまさらながらに頭の端の冷静な俺が突っ込む。

猪突猛進型なのは俺の悪いところだ。

舌打ちをすると、ソイツは笑みを深めた。

早く言えという無言の催促だ。



「ヴァレンティーヌス家・・・・・。」



ポツリともらすと、ソイツは目を見開いた。



「覚えているだろ?。」


「どうして・・・・知ってる?」



名家の名前に過剰なほど反応を見せた。

これはどうやら間違いないらしい。



「俺はお前をそこで見たことがある。」


「!?」



思い出すのはバロック式の優雅で大きな屋敷。

たくさんの大人の中で見つけた同い年ぐらいの子供。

綺麗だと思った。その屋敷の主人の傍に控えた姿はまるで表情のない人形のようだった。



「・・・・あのときのボンボンか。」



は目を閉じ、口元だけ笑みの形を作る。



「悪ぃな。その記憶は封印してた。」



次に瞳をあけたときには強い光がともっていた。

あのときはどこかうつろな瞳だった。

それともうひとつ。これだけ強烈な印象を与えるやつなのになかなか同一人物だと結びつかなかった理由。



「女・・・じゃなかったのか?」


「あー。あれはご主人様の趣味。」



は苦笑気味に微笑んだ。

始めてあったときのの格好はレースをふんだんに使った黒のドレス。

メイドが着るようなデザインだったが、素材は肌触りのよさそうなシルク。

どう考えても使用人に着せるような価格のものではなさそうだった。

ひきつけられた。頭で考えるより先に体が動いていた。

近づくと甘い香りが漂う。うつろな金色の瞳と目が合った。



   『まぁ、可愛らしい。』


   『あら、本当。まるでお人形ね。』




周りの貴婦人たちが俺とに気がつき、賛辞の言葉を次々と述べる。



   『・・・・まるでひとつの絵を見ているようだな。』



上から貴婦人たちとは違う低い声が降ってきた。

見上げてみるとこの館の主人のアイスブルーの瞳が微笑んでいた。

その視線がのほうに移る。



   『お前は戻りなさい。』



その言葉にコクリと頷き、はその場から消え去った。



「あんな短い間だったのによく覚えてたなー?」



だってそれは同じだ。

記憶を封印してた。とか比喩じみたことを言っていても覚えているには覚えていたのだ。



「そっかー・・・なんか嬉しいわ。」



照れたようにははにかんだ。

そんな笑顔を見ると何か暖かいモノが心にともる。

あぁ。俺も嬉しいのかもしれない。



「シリウス=ブラック。」



名前を呼ばれ、顔を見ると端正な顔が微笑んだ。



「腐れ縁だ。仲良くしよーぜ?」


「・・・あぁ。」



いつまでも意地を張っていても仕方がない。

もともと敵対して悪戯を仕掛けたわけじゃなく、近づきたいから悪戯を仕掛けたのだから。



「おっし。」



は満面の笑みを浮かべた。

ただひとつ。昔の思い出の中でひとつには言っていないことがある。



「・・・・初恋だったんだよなぁ・・・。」


「なんかいったか?」


「いや、何も。」



今、思えばあれは初恋だ。

ただし、には一生言うつもりはない。










20050520