外に出てみると、白い雪がはらはらと舞い落ちてきた。
それが鼻先にあたり、俺は思わず身を振るわせた。
「寒っー!」
「ボンボンが・・・・。」
「何!?君なんでいきなりそうなるの!?」
「・・・・はっ。」
君は小ばかにしたように笑って、やれやれと首を振って見せた。
「こういうとき、ボンボンは車で移動なんだろ?
歩いたこと少ないんじゃねぇの?」
「あ・・・本当だ。」
だから寒さに弱いんだ。と君は楽しそうに笑う。
「親父、鍛えてみろよ。」
「・・・考えてみるよ。」
むきむきな僕って言うのもどうだろうかと思うんだけど、
筋肉質なのは結構男の憧れかも・・・?
でもなぁ。とかうーん。って悩んでいるうちに繁華街まで出てきた。
人でにぎわうショーウィンドの店。
ほとんどの店が赤と緑の色彩でまとめられ町はクリスマス一色となっている。
ちなみにいつもの買い物は君担当。
理由は僕が金銭感覚がおかしいらしいから。
だから、僕は一人で買い物にいったことはない。
というか君が行かせてくれない。
そろそろなれた頃だと思うんだけどなぁ・・・駄目なんだろうか。
「あーコレ良い!!君コレにしよう!」
ショーウィンドに飾られていた、僕の背の高さツリー。
赤や青、黄、緑。といった小さな電球がツリーに巻きつけられ、
ジンジャークッキーやリンゴ、サンタの人形が飾りとしてついているもの。
「おー。いいじゃねぇの。」
「でしょ!じゃぁ、コレにしよう?」
「いや、待て、ボンボン。」
その店に入ろうといたら、コートを思いっきり引っ張られた。
引っ張った本人の方を向いてみると、無表情でこちらを見上げている。
あ、かわいい。
なんて一瞬思ったが、引っ張られているのは店に入るのを妨害している。
ということなので、その理由を考えてみた。
「んー・・・・。」
「?」
「んんー・・・。」
「・・・なにしてんだ?」
「君が僕を引き止めている理由を考えてる。」
しかし、どうも思いつきそうにない。
僕の愛しい息子はそれがわかったらしく苦笑いを浮かべてみせた。
「・・・ほかの店も見て回って、コレが一番よかったらこれにしようぜ?
後でこっちのほうが良かった。なんていってもおせぇだろ?」
二個もいらない。と君はコートのすそを離しながらいった。
「でもでも!僕らが違うの見てる間にコレがうれちゃってたらいやじゃないか!」
「・・・・。わかった。お前、ここいろフランツ。」
「えぇ!?」
溜息をついて何を言い出すのかと思えばお留守番しとけもどき発言。
それは、あまりに酷いのではないだろうか。
「えっと・・・君?」
「おぅ。じゃぁ、決定な。
お父さん、ガンバレv」
「うんv・・・・って、あ!?」
拳を軽く握って、にっこりと可愛らしい笑みを浮かべられたので思わず笑顔で返してしまった。
「はっ・・・・はめた!?」
「・・・・はめてねぇよ。」
「だって、君かわいらしく”お父さん”って!」
「自分の色香、自分のために使って何が悪いんだよ。」
「う・・・。」
確かにそうだけど色香って・・・。
あれは色香にはいるのか。
おろおろとしていると君はそれを見計らったかのように人ごみの中に消えた。
小さな身体だから、すでに人の波に飲まれてしまって見つけることはできない。
「・・・君・・・・。」
あぁ・・・・。
去っていった方向に右手を差し伸べてみる。
どうして行ってしまったの、雅夫さん。
いまやそんな心境だ。
雅夫さんではなくて、君だけど。
なんとなく、僕の今の心境は雅夫さんだ。
「あれ・・フランツ?」
自分の名前がよばれ、もう帰ってきたのかと笑顔で振り返る。
しかし、そんなすぐに帰ってくるわけないし、今のくんの声はもっと高い。
「どうして、そんなに笑顔?」
くすりと、おだやかな笑みを浮かべてみせる鳶色の髪の男性。
学生時代の友、リーマス・J・ルーピン、その人だった。
学生時代よりさらに疲れたような表情を見せている痩せた友人。
「・・・・リーマス。」
「偶然だね。久しぶり。」
「うん、本当に。
えっと・・・その・・・随分やつれたね。」
その言葉をきくと、リーマスは驚いたような表情を見せた。
まずい。聞いてはいけないことだっただろうか。
心配そうに眉根を寄せると、リーマスは突然大きな声で楽しそうに笑い出した。
終いには目じりにたまった涙を拭く始末。
「・・・なっ・・・なにがおかしいの?」
「あはは・・・いや、フランツ。ぜんぜん変わらないねぇ。」
「え?」
「やぁ、キミのその素直なトコ僕は好きだと思って。」
「素直な・・・?」
「そう。素直な。」
こくりとリーマスは頷く。
「もしかして、やつれたとか言うのは本来いっちゃいけない言葉?」
「うぅん。僕はいいと思うよ。」
どうやら、本来はいけないらしい。
すこし落ち込んだような表情をしていたらしい僕は
リーマスに肩を叩かれてようやく現実に戻ってきた。
「ところで、誰かと待ち合わせ?」
「あ。うん。息子と。」
「そう。フランツの子供なら素直で良い子そうだね。」
ごめん、リーマス。
想像と違ってものすごく俺様な上にぜんぜん素直ではない。
「さてと。息子さん見てみたいのはやまやまなんだけど、
僕はもう仕事にいかなきゃ・・・。じゃぁまた、フランツ。」
「うん。」
お互い笑顔で手を振ると、リーマスはその場から立ち去る。
クリスマス前なのに今から仕事とは大変だ。
あ、でも。もしかしてクリスマス前だからだろうか。
サンタの格好をしているリーマス。
結構似合うかもしれない。
「親父ー。」
白い髭を生やしたリーマスを想像していると、
白い髪の息子が人ごみから顔を出してこちらに駆け寄ってきた。
思わず駆け寄ってきた勢いで抱きしめると容赦なくアッパーをかけられた。
「あほか。」
「痛いー!君酷い!!」
ほらね、リーマス。
ぜんぜん可愛くないよ。
「ここのツリーが一番良い。
つーことで、コレに決定。」
「本当!?やったー。待ってた甲斐あったなぁ。」
「お疲れさん。帰ったら美味い飯食わせてやるよ。」
「あ、そうだ。君。さっきリーマスにあったよ。」
「まじ?」
「うん。」
君は僕に昔の知り合いに自分の存在をばらす事を口止めしている。
だから、どんな子か。とか、名前は何か。とかは言えなかった。
「元気そうだったか?」
「う・・・・ん。」
一瞬躊躇した僕の答えに君は楽しそうに笑う。
「やつれでもしてたのか?」
「なんでわかったの!?」
「リーマスならありえるだろ。」
「・・・・そうなの?」
「そうなの。さ。親父。
さっさと買って、さっさと帰ろうぜ。美味い飯が俺達をまっている。」
にぃ。と口の端をあげては僕を置いて店の中に滑り込む。
「あぁっ!君待って!」
教会の鐘が”きよしこの夜”を奏で、
白い雪が変わらず次から次へと舞い落ちた。
20041224