庭に咲き誇る花々は春の訪れを告げて。

陽気な気候は俺を外へと導いた。

ちかごろ気候がおかしくて3月末だというのに雪も降る始末。

そんな中、久々の春らしい気候。

俺は花に水をやるためのホースを片手に空を見上げて穏やかに微笑んだ。

体が温かくなって気持ちよくて目を閉じる。それと同時に鶯の鳴き声。



「冷てぇ!!」



鶯の・・・・?



「は!?え、ちょ!?えぇ!?」



鶯じゃなくて少年のような声が聞こえたのは塀の向こう側。

そして自分の手元を見るとホースの先は塀の向こう。

相手に水がかかっていることは疑いようも無い。



「・・・・うっそぉ・・・・。」



そんなお約束的展開なんて俺は夢にも見ていなかった。

いや、そんなこと考えてる場合じゃない。

俺はその場にホースを放り出し塀の向こう側に駆け出した。



「だ、大丈夫か!?・・・?」



急いで駆けていったのは良いものの

俺は水を掛けた相手の姿を認めた瞬間その場で唖然と口をあけた。

えーっと・・・?

日本男子にあるまじき見事な白に近い銀髪。

茶色とかならよく見るけど、コレぐらいの少年でこの色に染めるヤツいるんだ!

あ゛ー!違う!違うんだ!そうじゃない!

中途半端なその髪を上に跳ね上げさせていることもどうでもいいんだ!

ソレは個人の趣味なんだし。

俺のせいでぐっしょりとぬれてるくせにまだ立っていることもこの際どうでもいい。

問題はその少年の格好。



「・・・コスプレ?」


「はぁ!?」



震える指でその少年を指差しながら言った俺のその言葉通り

少年の格好は黒い着物に白い羽織。ご丁寧にも背中には刀を背負っている。

なんのコスプレ・・・?今日、近くでなんかのイベントあったか?

少年は眉間に深々と皺を寄せて俺をにらみつけた。

しかしその表情は徐々に崩れ、気がつくと驚きに目を見開くといったような表情。

そして俺もあることに気がついた。



「お前・・・もしかして・・・。」


「あぁ!お前、迷子だろ!?」


「は!?なにをっ――」


「駅はな、ここの道まっすぐ行って4つ目の角、右に曲がって道なりに進んで2つ目左に曲がって・・・
 ってややこいんだよなー・・・。と、その前に着替えだよ!」



なぜか困惑する少年を他所に俺はその少年の手を引っ張って家の中に連れ込む。

あぁ・・・傍からみれば俺、誘拐犯かも。なんて思うけどいまはそれどころじゃない。

いくら春とはいえ濡れたままでは風邪を引く。しかも濡れ具合が半端じゃない。

俺が状況を理解するのが遅かったのと同じく少年も状況を理解するのに時間を要したのだと思う。

だって、あまりにお約束的展開過ぎて頭の中での処理が追いつかない。

それに迷子とすれば早く行き先に連れて行ってあげないと。



「ほら、脱げ!」


「・・・なぁ。」


「質問は後!とにかく脱げ!!俺のせいで風邪引かれたら適わない!」



とりあえず縁側から畳の間に上がらせて

俺は膝を床につけるようにして少年と視線を合わせるようにし肩をつかんで目を覗き込む。

少年は眉間に皺をさらに寄せて、おとなしく刀を置いて羽織を脱ぎだした。

俺はその間にタンスからTシャツとタオルを取り出し、少年の頭に後ろからタオルをかぶせた。



「・・・悪ぃな。」


「いやっ!俺のほうこそ、ぼーっとしてて・・・・。ってふんどし!?そんなに本格的にコスプレすんの!?」


「は?」



少年が着物を脱いでTシャツを頭からすっぽりと着てから不機嫌そうな声を出した。



「さっきから”こすぷれ”と何度も言っているが、それはなんだ?」


「・・・違うのか?」



きょとんと目を丸くする俺に少年は再び眉間に深く皺を寄せた。

なんだか、この少年。絶えず眉間に皺を寄せていないか?

この年ですでにいろいろと苦労しているのだろうか・・・?

それよりも少年の格好はコスプレではないという。じゃぁ、なぜ?



「コスチュームプレイ。知らねぇの?」


「知らん。」


「ふーん・・・。あ、座れよ。
 じゃぁ、なんかの宗教?」



畳の上に座らせて俺は真向かいから少年の頭をタオルでごしごしと拭く。

少年は目にかかるタオルを避けるように少し目を細めてから、俺を見た。



「違う。」



その少年にの言葉に俺は首をかしげる。綺麗にたたまれた着物を手に取り

そのまま入れて良いのかわからなかったけど、

俺はぞうりを突っかけてそれを部屋の外にある洗濯機に入れて乾燥のボタンを押した。



「じゃぁ、なに?」



俺の身長が180後半あるために少年にはぶかぶかなTシャツ。

それを羽織って不機嫌そうな顔をしている少年。

戻ってきて、頭にかぶせたタオルの下から覗き込むようにして聞いてやると、

少年は先ほどまで背負っていた刀に視線をやった。



「・・・死神だ。」


「キャラまでつくんの?」


「違う!!第一、普通の人間に俺は見えないはずだ!
 とにかくお前は俺が見えてるんだな!?」


「見えてるって――」



どうしてあたりまえのことを。そう続けるつもりだった。

それを遮ったのは鼓膜が破れるかと思うほどの大きな音。

俺は一瞬言葉を失ってそっちの方向を見てみると

半壊した俺の家の塀辺りに胸の辺りぽっかりと穴が開いた・・・怪物?



「なんだよ、これ・・・化けモン!?」


「やはりこの虚はお前狙いか・・!」


「・・・何・・・言ってんだ?」


「少し黙っておけ!!」



少年は真っ黒な着物をくくっていた帯をTシャツの上から腹辺りにくくりつけ、刀を手に取った。

一蹴りで庭に出ると少年の目がすっと細められ、体制が抜刀の構えになる。

その途端あふれる空気に俺の背筋に寒気が伝った。

少年が刀を抜くと冷たい空気が肌を伝う。

俺は膝をついたままの状態でただ唖然としていた。

なんだろう?何が起こっている?

目にも留まらぬ速さで少年が動くと次の瞬間には怪物の仮面が半分に割られていて

砂のようにさらさらと風に溶け消えていくところだった。



「死神が・・・。」



少年が刀を鞘に戻して、俺のほうを向く。



「死神が見えるということは霊力が高いということだ。」


「霊力・・・?」



幽霊とかみえる能力の事・・?それなら普通の人よりかは強い。

小さい頃からそれは当たり前のように周りにいて、普通は見えないと知らされたときは驚いた。



「そしてさきほどのお前が化け物といったもの・・・虚(ホロウ)は霊力が高い人間を好んで食らう。」


「食らう・・・?俺、食べられてたかもしんないってこと?」


「そういうことだ。」



少年はコクリと頷き部屋の中に戻ってくる。

ひたひたと水の音がした。水の音が・・・?



「え?」


「?」



少年が不審げに眉をひそめる。しかし、それにかまっている暇は無い。

俺の予想が正しければ今、庭はえらいことになっているはずだ。

慌てて立ち上がって庭のほうに行こうとすると少年に服の裾をつかまれる。



「なにすんだよ!?」


「お前こそ何を急いでいる?」


「庭っ!」


「は?」



少年の手を振りほどいて庭に到達するとそこは予想以上に悲惨な光景が広がっていた。



「・・・ス、スケートリンク・・・。」



俺はその場にヘタリと座り込む。

庭・・・といっても縁側一帯だけだけどホースから漏れ出す水により地面に薄く氷が張っていた。



「なんで・・・?」



俺はふらふらとする足でとりあえずホースから依然あふれ出ている水を止めて少年のほうを見た。



「とりあえず、コスプレじゃないってことは認める。」



だって、今日温かいからこんな短時間で氷が張るなんて思えない。

つまり先ほどの戦闘・・・かな?ソレの所為でこの氷がはったとしか思えない。

そしてソレは人間業ではない。だとすれば、さきほどから少年が主張している死神ということになる。



「コレ、お前の所為だろ?人間じゃこうはいかねぇ・・・死神って本当なんだな。」



親指で庭のほうを指してみると少年はこちらに近づいて庭をみた。

そして俺を見上げて少し眉を下げる。



「・・・悪ぃ。」



それがまるで叱られた子どものようで、俺は思わず口元に苦笑を浮かべた。



「いいよ。花って意外と強いし。生きてるかもしれない。
 ま・・・俺の責任でもあるし。」



水を出しっぱなしにしていたのは己の責任で、止めを刺したのが少年であっただけ。

少しずつ溶け出している氷を目の端で捕らえながら二人して縁側に座っていると

丁度洗濯機から乾燥終了のメロディーが流れ、俺はぞうりを突っかけて

真っ黒な着物と白い羽織をその中から取り出し、軽く皺を伸ばしてから少年に手渡す。



「・・・なぁ、俺、っていうんだ。お前、名前は?」



ものすごく今更なことを聞く。今更だと一笑されるかと思ったが

少年はなぜか悲しそうに視線をそらしてから俺を見上げた。

俺は軽く首をかしげる。一体どうしたというのか。



「俺の名前を聞いても意味が無い。」


「なんだよ、それ。」



返ってきたあまりに意外な言葉に俺はなぜかおかしくなって笑みを浮かべた。



「名前っていうのは大切なもんなんだぜ?それがそれである証拠だ。
 それともなにか?お前は”お前”って呼ばれてぇのか?」



俺がにぃっと口の端をあげると、少年はぽかんと口を開けてから薄く笑い、俺の手から着物と羽織を取った。



「・・・日番谷冬獅郎だ。」


「冬獅郎・・・か。いい名前じゃねぇか。
 また遊びに来いよ、冬獅郎。死神だって休みあるんだろ?」



冬獅郎の真っ白に見える硬めの髪をぐしゃぐしゃとなぜながら言うと

再び冬獅郎は悲しそうな色を瞳に浮かべた。



「冬獅郎・・・?」


「いや・・・。は・・・・俺の事覚えていられない。」


「?」



言葉の意味が分からなくて俺は首をかしげた。

冬獅郎は悲しそうに眉間の皺を消して笑みを浮かべた。



「じゃぁ・・・な。」



冬獅郎が何かを取り出し、俺の前でそれのスイッチらしきものを押した

次の瞬間俺は全身の力がなくなったようにその場に崩れ落ち、意識が遠のいていく。



「・・・と・・・う・・・しろ・・・?」



”悪い”とその言葉が頭の中に響いたような気がした。




◆◆◆




「・・・・?」



肌寒さを感じ、瞳をあけてみるとそこは庭に面している縁側だった。

いつの間にか寝ていたらしい。西の空が茜色に染まって、木々の黒い陰が伸びている。

体を起こしてみると手に触れる、布の感触。視線を落としてみると、俺のTシャツが綺麗にたたまれておかれていた。

俺はなんどか瞬きをしてソレを見やる。



「なんで?」



着替えようとでもしていたのだろうか?

確かスケート場のオーナーが来て、俺の庭で氷を張る実験をしていて俺はソレをここから見ていただけのはずだ。

どちらかといえば寒かったのだからもっと暖かいものに着替えるはず。



「なんでだ?」



業者がミスったため半壊した俺の庭の塀が目の端に移り

それをじっとみてみると銀髪の少年の後姿が一瞬頭をよぎった。



「・・・?」



記憶に無いはずのその少年。だけどソレが妙に気にかかって仕方が無かった。



「お前は・・・誰だ?」








2006/03/30


アトガキ

MEMOにて連載中のお話。講義の合間とかに携帯でぽつぽつ打ってました。
しかしなんでNEXTまで和風にしたのに題名だけドイツ語なんだろう(笑)
そんなグダグダな感じで行きたいと思います!

主人公さんの裏設定。
趣味:ガーデニング
口、外見に似合わず、可愛い趣味(?)

ひっつん夢の予定!
ちゃんと相手決めてから連載夢書いたの始めてかも!(待)