お前が来るまでこの世界は
なにも変わらない色の無い世界だった。
「あと30秒ー。」
俺は電子レンジの中を見ながら呟いた。中でクルクルと回るグラタン。
小腹が空いたので先ほど出来合いのものを近くのコンビニで買ってきた。
チーズがグツグツと音を立てる。それを見て俺はゴクリとツバを飲み込んだ。かなり旨そう。
ピーと機械音がしてレンジの中の光が消える。
流行る気持ちを押さえながらミトンをつけ、レンジの蓋をあけた瞬間。
外から不自然なほど大きな音がした。それこそ鼓膜が破れるかと思うほど大きな音。
なぜかはわからないけど何かを期待している自分がいて、
あれだけ楽しみにしていたグラタンを放り出して俺は庭に飛び出した。
庭に飛び出してみると、つい最近というか一昨日直したばかりの庭の塀がみるも無惨に壊れ落ちていて、
それを目にした途端なにかがフラッシュバックするように頭の端が痛くなった。
塀の辺りにとんでいた砂塵がきえ、次に目に入ったのは
初めてのはずなのにどこかで見たことがあるような気がする胸に大きな穴のあいた怪物だった。
(なんだよ、これ。)
180後半はある俺の身長を遥かに越すそいつは上から俺を見下ろし口を大きく開いた。
喰われる。それを頭の中で理解するが体が一向にうごかずに固く目を閉じる。
しかし何時まで経っても予想していた衝撃はこず、
恐る恐る片目だけあけると塵のように消えていく化け物と俺の間に人の姿があった。
黒い着物に大きく背中に三と書かれた白い羽織。そして白みの強い銀髪。
まただ。頭が痛くなる。なぜか俺はこの光景を知ってる。
「あれー。人おるやん。」
ヘラリとした声で目の前の人物が振り向く。
何を考えているのかわからない笑み。糸のように細くなった目。
それでいて整った顔だち。手には脇刺しのような小さめの刀。
「お前、なんなんだ?」
俺がそういうとそいつは唯でさえ細い目をさらに細めて、へぇ。と声をもらした。
「自分、ボクが見えるん?」
また聞いたことがあるような質問。それに引っ掛かりを覚えながらも俺はコクリと頷く。
愉しそうにそいつの口の端があがる。
「成程。だから虚がこの付近に良く現れるんやな…。えぇわ。自分めっちゃえぇ。」
「・・・何いってんだ、意味わかんねぇよ。っていうか本気でお前なにもんなんだ?」
相変わらず質問に答える気がなさそうな目の前の男にいらついて、俺は眉を寄せてそいつを睨みつけた。
「そんな睨まんとってーや。怖いやん。」
大してそうとも思っていなさそうな声でそいつはひらひらと手を振る。
しかしこの男。どこまでが本気なのかいまいち掴みづらい。
「ボクは市丸。市丸ギン云うねん。」
それはやはり聞いたことがない名前で、俺が感じているもやもやを晴らすものとはなりえなかった。
「市丸か…。なぁ、市丸。お前俺と会ったことあるか?」
市丸は小さく口を開けすこし驚いたような表情をしてみせた。
聞いてみてから、聞かなければよかった後悔する。
俺、何へんなこと聞いているんだろう。
そっと市丸を見てみると驚いていた表情はすぐに何を考えているのかわからない笑みにかわる。
「さぁ。ボクは知らんなぁ。名無しクン?」
そう云われて俺は初めて自分の名を名乗っていなかったことに気が付いた。
あれだけ睨みつけといた手前、なんだかバツが悪くて俺は市丸から目線をはずし頭を掻いた。
「悪ィ。だ。」
「ふぅん。クンな。」
市丸は口の中でもう一度俺の名前を呟いてから俺に視線をなげた。
「なぁ、クン。」
「あ?」
「突然ねんけど死んでくれへん?」
「はぁ!?」
本当に突然出てきた頼みに俺は眉間に皺を寄せて聞き返す。
俺の聞き間違えか?いや、そうじゃないと困る。
「ボクなぁ、死神ねん。だから心配せんとって。向こう行っても全然怖ない。
ボクが探しだして連れだしたる。だから…死んで、クン?」
聞き間違えではないらしい。むしろ、さらに言葉を肯定される。
死んでくれといわれるなんて今まで想像だにしたことがなかった。
でもそれに対する答えは初めから決まっている。
「嫌に決まってるだろ!」
「そう言う思たわ。けどな、ボクは手にいれたい思たもんは手に入れな気がすまへんねん」
市丸が瞳を開く。ただそれだけで殺気が辺りに充満して、背筋に悪感が走った。
こんなもの肌に感じたことなんてなかったから冷や汗が流れる。
「…っのヤロっ!」
眼光を鋭くして市丸をにらみつける。市丸の口の端が愉しそうに上がった。
「その目、めちゃエエ。ほんま君が欲しいわ、クン。だから…」
目の前から市丸が消える。
何処に行ったのかと辺りに視線を巡らそうとした瞬間、下腹部に強い焼けるような痛みを感じた。
「死んで?クン。」
「…っぁ…!」
背後から勢いよくツキササっていた刀を引き抜かれる。グラリと景色が反転した。
「また後でな。クン。」
市丸の愉しそうな笑顔がモヤがかかるようにボヤけていく。
「後で…覚えてろ…。」
市丸がコクリと頷いたのが記憶の最後。俺は死を迎えたらしい。
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2006/05/08
アトガキ
僅かな記憶を頼りに恋人探しの旅・・・?
ギンちゃん出てきました。
大好きです。あの性格の悪さが。
狐っぽいですよね、彼。
そしてこの人主人公さんとかなり絡むだろうと予想されます。