ボクが人に執着すんのなんて
ほんまいつぶりなんやろ。
「おい、市丸。起きろ。」
心地よい重低音が耳に届く。
ボクはその声を聞きながらうっすらと目を開け、そして同時に布団を手繰り寄せた。
そんなボクの行動をみて、クンは埒が明かないと思ったのか
ボクの布団の傍らに膝をついて、ボクから布団をはがそうとする。
「いいかげんにしろ、市丸!!お前仕事なんだろ!?」
「・・・今日休みねん。」
「んなわけあるかっ!明日も仕事だっつったのお前だろ!」
適当な嘘を並べてみるけど
昨日のうちに自分はクンに今日は仕事があるといってしまったらしい。
(云わんかったらよかった)
そしたら、何も知らんクンと一日中居れたのに。
「いーちーまーるー。飯がさめるだろーが!」
クンは布団を引っ張る力をさらに強め、ボクもそれにあわせて体に布団を巻きつけた。
水面下というか布団下の戦いが静かに繰り広げられている。
これ何時まで続けられるんやろ。
ボクは体力に結構自信があるからクンが諦めるまでやろか?
けど、クンが諦めるということはボクに構ってくれへんということだからそれはぜひとも避けたい。
ここで一度譲歩に出るべきかもしれへん。
「ギンて呼んでくれたら起きてもええよ。」
「ええよ。って何様だよ、お前。起きなくて困るのお前だろ、市丸。」
それはもっともなんやけれども、ここで終わらせてもたら、つまらへん。
ボクはにっこりとただでさえ細い瞳をさらに細めて笑みを創った。
「じゃぁ、ボク起きひん。」
きっぱりと言いすっと目を閉じるとクンの布団を引っ張る力が一度弱まり
少ししてから再び強く力が加えられた。
「・・・っち。ギン、起きろ。」
「・・・。」
「ギーン。約束だろ?」
「・・・せやな。」
約束を取り付けたのはボクなんやから守らなあかねんやろな。
クンに嫌われるのも嫌やし。
むっくりと上半身を起こすとクンが少し安心したような表情を見せた。
その表情見れただけで起きたの正解やったかな。と思うボクがボク自身信じられへん。
「ほら、顔洗って来い。俺は・・・・こっちじゃ朝餉つーの?それの準備してくるから。」
ボクが貸した深い青色の着流しの裾を揺らしながら
クンは勢いよく立ち上がり台所があるほうへ向かった。
ボクも起きて洗面所へ向かう。蛇口をひねると冷たい水がこぼれ出て
それを手のひらで受けるようにして顔を洗う。
ぼやけていた思考がそれで一気にすっきりとしたような感覚を覚えた。
「ギンー?」
台所の方からボクの名前を呼ぶクンの声が聞こえる。
先程まで市丸、市丸。と苗字で呼んでいたにもかかわらず
今では最初からそう呼んでいたといわんばかりに
自然なニュアンスで”ギン”と呼んでいる。ほんまにクンは面白い。
食卓についてみるとそこには湯気のたったおいしそうな朝餉が並んでいた。
こんなちゃんとしたもんは何時ぶりやろ?
いつもは面倒やからボクは食べんで行く事が多いし。
「お前ン家、食材なさすぎ。」
目の前に座っているクンが目を据わらせて不満そうに言う。
ボクは思わず苦笑を浮かべて、最近張り替えたばかりのため
イ草の香りが残る畳の上に腰を下ろした。
これだけの料理をつくるならば確かにうちにある食材だけでは物足りないだろう。
ここは買い足すべきやろか。
「あー、じゃぁクン買ってきてくれる?」
「あぁ・・・・って俺、金ねぇよ。」
「それもそやね。」
無理矢理こっちにつれてきたのだから
今、彼に職があるはずもなく給料もない。
そもそも昨日の今日で金があるというのもおかしな話。
「せや。クン。
5時なったらボク仕事終わりやからあの白い建モンの前まできてーや。
一緒に買いモンいこ。」
「あ?別に俺、一人で買い物ぐらいできるけど?」
「どこで買えばええとかもわからんやろ?」
「・・・そういや、そうだな。」
顎に手をあてて考えるような仕草を見せるクンにボクはほくそえんだ。
「な、一緒にいこ?」
クンの瞳が此方をむく。
深い海の色。黒じゃない。どちらかというと紺色。
その瞳に引き込まれそうになる。
あぁ、君は。ボクを捕えて離さない。
「わかった。」
その一言でボクの心が信じられんほど浮き立ったのが分かった。
今日は仕事頑張ろかなとか思う、安易な自分がいてそれもそれで信じられなかった。
ほんま執着するなんていつ振りなんやろ。
戻 次
2006/06/09
アトガキ
最初標準語で一人称を書いてたんですけど
しっくりこなくて関西弁にしました。
でも関西弁じゃなくてきっとこれは播州弁・・・。
中途半端な感じで進んでいってます、薬味(題名の和独)。
次はきっと兄やんが出てきます。