ふと目に止まった濃紺。

誘われるままに私はそこへと近付いた。



「兄はなにをしている?」



そう問掛けるとその人物はゆっくりと瞼をあげた。

そこに現れた色は髪と同じ海の底のような紺。そしてその視線が私の方をむく。



「けい…?俺の事?」



兄だといったのだから当然のことで私は無言のままこくりと頷いた。



「ふぅん。お前とかじゃないんだな。
 人のしゃべり方どうこういうつもりはねぇけど、ソレ言いにくくねぇ?」



そう言われ私は何度か瞬きをした。

育ってきた環境がこの様な環境だったのだから話言葉は自然と身についていて、

言いにくいと感じた事はない。

朽木家は仮にも四大貴族なのだからそんなこと聞かずとも解るはずだろう。

しかし、それを解らないということは…



「兄は私のことを知らぬのか?」



私がそういうと彼はキョトンと目を丸くして私の顔を覗きこみ、眉間に皺をよせた。



「初めてあったんだからそんなの当たり前だろ?」


「…。」



当たり前。本来その通りなのだと思う。

しかし、私にとってこの状況は当たり前というにはほど遠い出来事だった。



「あー…何してるかだっけ?」



黙りこんだ私に彼は頭をかいて視線をあげた。



「人待ってる。で、待ちくたびれて寝てた。」



待ち合わせ。その言葉を聞いて私は軽くまゆを潜めた。

いまこの時間帯に残業をしているのは隊長、副隊長格ぐらいだろう。

このようなモノを友にもつモノはいただろうか?

人付き合いが悪いと自負しているが

一度もこの人物を見たことがないということを不思議に思う。

なぜだかこの人物は一度見れば私は忘れない。

そんな風になぜか思う。



「誰と」



気が付けば疑問は口から勝手に飛び出ていて

それに気付いた私は思わず口を自らの手で覆った。

相手は不思議そうな目で私をみてからヘラリと軽い笑みを浮かべた。



「ギンとだけど?」


「市丸…?兄は市丸の友であるのか?」


「あー…友かぁ…。まぁ一応友達になるんだろうな」



紺色の髪の彼はガシガシと髪を掻きながらどこか不服そうに言う。



「市丸なら吉良に捕まっていたから当分来ぬぞ?」


「あ、そなの?」



ポケッと口を開けて彼は斜め下から私を見上げた。



「まぁ、いいわ。待っとく。」


「…まだ夜は寒い。風邪をひくかも知れぬ」


「あ、心配してくれんのか?」



やはりヘラリという笑み。

なぜだか侮辱されているような感じがして私は思わず眉間に皺を寄せた。

その表情をみた彼は眉を下げて困ったように微笑んだ。



「そんな怖い顔すんなよ。
 俺、こういう性格なんだ。
 悪気はねー。ってことで勘弁してくれねぇ?」


「別に怒ってなどおらぬ。」



ただ少し不快に感じただけだ。

・・・ということは私は懐が狭いのだろうか。

いや、普段私に向かってこのような言葉遣いをするものがいないため

ソレに対して無防備であっただけで、懐が狭いわけでは・・・。

いや、狭いことになるのだろうか。



「・・・どした?」



顎に手を当てて一人思案に明け暮れていると、彼は首をかしげて私を覗き込んだ。

私は不覚ながらも少し驚いて目を丸くしなんどか瞬きをした。



「いや、なんでもない。」


「ふーん。そ?
 そだ。お前、そろそろ帰れよ。俺に付き合ってこんなとこいる理由ねェだろ?」


「・・・。」



そういわれてすぐ頷けなかったのは何故だろう。

知り合ったばかりで名も知らなければ、彼に付き合う義理もない。

また寝るかもしれない、そうすれば体調を崩すかもしれない。

そんな心配が頭の中をめぐり

出会ったばかりの他人のことを心配している私が不思議でならなかった。



「なぁに、迷ってんだ?
 思ってることは声にしねぇとわかんねぇよ?」



ごく当たり前のことを言われ、私は妙に納得した。



「・・・どうも私は兄のことを心配しているらしい。」



市丸のことだから吉良に見張られかなり遅くまでだらだらと仕事をしていそうだ。

その間じっとここで待っている彼のことが心配。

多分そうなのだとおもう。



「・・・ここでさっきの答えもらえると思わなかった。」



彼は楽しそうにケタケタと笑って、目じりにたまった涙を拭いた。

こちらは真剣にいっているというのに、泣くほど笑うとはどういうことだ。



「ははっ大丈夫。俺、女じゃないし。自分の身ぐらい自分で守れる。
 だから帰れ。待ってる人いるんじゃねぇの?」


「・・・。」



家のものは待っている人に入れても良いのだろうか。

私の帰りを待っていることには違いないが

彼のいう待っている人とはまた種類が違うような気がする。



「おぉい。だから思ってることはいわなきゃわか――」


クン!」



あぁ。そうだった。と彼の言葉に納得する前に私は大きく眼を見開いた。

市丸の声がしたと思ったら、目の前の紺色の髪の彼・・・否、

という者に後ろから抱き付いている。



「あー。朽木隊長さんや。こんなところでなにしとんの?」



糸の様に細い眼を更に細めて、市丸はに抱きついたまま私に問いかけた。



「おそーい、おそーい誰かさんのせいで暇だった俺の話し相手してくれてたんだよっ!
 にしても・・・暑い!のけ!ギン!!」


「そんなんクンひどいわぁ。ボク、君のために一生懸命仕事片付けてきてんで?」


「そんな言葉は恋人にでも吐け!」


「・・・。」



話についていけず、私が無言でたっていると

はふと私に気付き申し訳無さそうに眉を下げて微笑んだ。



「悪かったな、えっと・・・朽木?」


「そうだ。」


「じゃぁ、朽木。このとおり、ギン来たからもう心配しなくていいぞ?」


「うむ。」


「じゃぁ、ありがとな。」



私が頷くと彼は快活に笑った。

踵を返して家に足を向けると、後ろからどこか楽しそうな二人の声が聞こえてきた。



「この時間、店あいてんのか?」


「どうやろ?行ってみなわからんわ。」


「開いてなかったら、今日白米だけだからな。」


「うそぉ!?」


「本当。」






どうやら私にとって興味の尽きない相手らしい。




2006/07/24
 

あとがき

兄やん登場。竹輪、竹輪(違)
主人公さんに興味引かれていってます
特技:どこでも寝れる。って足そうか(笑)
尸魂街の季節ってどうなってるのかは知らないんだけど
現世とリンクしてていいのかな?
春先でも夜は寒いはず。多分。

さぁ、ギンちゃんの夕食はいかに!?