「なぁ、クン」
「ん?」
俺の膝の上に頭をおいて寝転がっているギンは手を伸ばして俺の髪をすきながら俺の名をよんだ。
小さく首を傾げてそれに答えるとギンは細い目をさらに細めて微笑んでみせる。
なんか怖いと思ったのは多分気のせいであってほしい。
「ボク、今あんみつ食べたいねん」
「…あ、うん。それはわかったけど、この家にある材料じゃ無理だぞ?」
「買ってきてぇ」
財布を差し出しながら甘えた声を出すギンにおれはヒクヒクと一瞬口の端を釣らせた。
しかしこの家の主人はギンで俺は居候。
食事作る以外にできることがないのでそれを断ることもできるはずがない。
だから必然的にふらふらとギンが手で揺れ動かしている財布を受けとることしか選択肢がなくなるわけだ。
「俺も好きなもんかってきていいんだな?」
「うん。ええよ。クンのためやったらボクいくらでも金使うわ。」
勝手な解釈を述べるとギンはさも当然かのように答える。
なんだか凄いセリフを聞いたような気がするが無視しておこう。
たぶん突っ込むと正直面倒なことになりかねない。
ギンは頭を起こして、俺の膝の上から退いた。
あんみつを買いに立ち上がろとした瞬間ギンに強く腕を引かれる。自然と体制が
前屈みになり、その後に頬に冷たい感触が落ちた。
「ちょっ!お前なにすんだ!」
その場の勢いで思わずギンをグーで殴りとばす。
昼ドラのようにお姉様座りになり、片手で頬を押さえギンは俺を見上げた。
「・・・クンひどいわぁ。」
「どっちが!?」
唇をつけられた部分を全力で手の甲でぬぐいながら叫ぶとギンはそれは楽しそうに微笑んだ。
あれか。これも計算のうちとか言うのかお前。
「お前、Mか。」
「ちゃうなぁ。どっちかいうとSやわ。」
「・・・。」
あ、うん。そだね。
お前どっちかっていうとSだよね。
自分のために俺殺したもんな?
あー・・・なんか今更ながらにむかついてきた。
「いってくる・・・。」
「機嫌直してきてなー。」
へらりとしたその言葉がさらに俺の神経を逆立たせる。
あぁ、きっと。これも計算のうち。
ひらひらと手を振りながら俺を見送るギンはやはりひたすら楽しそうだ。
じとーっと、半眼になりながらギンを見て俺は身を翻し、草履を突っかけ家の外に出た。
着物の生活もだいぶなれた。
面倒だと思っていた着付けも案外慣れたら楽なもので
最初はギンにセクハラされつつ着付けてもらっていたのも
簡単に自分で着れるようになった。たいした進歩だと思う。
外に出るとお昼を食べて少ししたところらしく、日はずいぶんと高く上っていた。
あんみつはちょうどおやつの時間に持って帰ってこられるだろう。
「・・・俺なんでおとなしくパシられてるんだろ。」
なぜだかギンに逆らえない。っていうのもあるけど
うまいこと飼いならされてるような気がする。
けれど考えていても仕方がない。
俺はギンの財布を懐につっこんで、繁華街のほうへ足を進めた。
草履と足元の乾いた砂がこすれるシャリシャリとした音が響いた。
どっちかっていうと閑静な住宅街が徐々に喧騒を帯びていく。
ちらほらと小間物屋が右と左にぽつりぽつりと現れ始めた。
風車を持った子供が俺の隣を走っていく。
右前には野菜を売っている店。
左前にはなんだろ、あれ。たい焼きだろうか。
「らっしゃい!」
甘くおいしそうな匂いに鼻をひくつかせ、左のお店の前にたつと
ねじり鉢巻のお兄ちゃんが俺に威勢よく声をかけた。
ぺこりと軽くお辞儀をしてから、売られているものを見る。
竹で編まれた網の上にあるのはホカホカと湯気を立てた回転焼きとたい焼き。
まるでおいしいよ。と自己主張でもしているかのような気がして、俺は出てきたつばを飲み込んだ。
「兄ちゃんコレ、2つずつちょーだい。」
「あいよっ!まいどありっ!!」
たい焼き2つと回転焼き二つずつ。
俺のおやつはコレで決定。帰りながら1つ食べよう。
茶色の紙袋に入れられたそれを受け取って、さらに繁華街の中に足を進めようとすると
後ろから着物のすそを引っ張られるような感じがした。
「?」
後ろを振り向いても誰もいない。
ずーっと視線を下に下ろしていくと、黒目がちの大きな瞳が俺を見上げていた。
浅黄色の着物を着て、髪を一房ほど右上でくくっている5歳ほどの男の子だ。
すこし大きめ紙袋を持っているところからしておつかいの最中なんだろう。
「どうした?」
にっこりと微笑んで問いかけると、
その子は大きな瞳をきょとんとさせてから違う方向に視線を向ける。
あぁ。と視線を追っていくと俺が手に持っている紙袋にたどり着いた。
「コレ?」
たい焼きをひとつ取り出してその子に渡すとその子は顔をきらきらと輝かせて、たい焼きを受け取った。
「お兄ちゃんありがとう!」
満面の笑みで俺にお礼をいうその子。
やばいな。まじ可愛い。
俺は高校時代やんちゃな子だったけど、子供は大好きなんです。
しかも結構好かれる性質。
「ねぇ、お兄ちゃんこっちきて!!」
ぐいぐいと着物の袖を引っ張られて俺は苦笑いを浮かべ転びそうになりながら
その子の後についていく。
ギンのあんみつ買いにいかなきゃなぁ。
なんて頭の隅っこで考えながら。まぁ、いっか。って思ってる自分がいる。
だってギンのはわがままなことだし、後回しでもいいだろう。
別に時間制限をされているわけでもない。
「あのね、あのね、ぼく、お兄ちゃんにね、ありがとうがしたいんだ!」
たぶんお礼をしたいって意味なんだろう。
腕を引かれ、繁華街から少し離れたところまできた。
振り向くその子の顔はまるで太陽みたいにきらきらしてて綺麗だ。
子どもって本当に純粋で穢れがない。どっかの誰かさんと違って。
えぇ、名前まではいいません。どっかの誰かさんです。
「じゃーんっ!」
誰かの登場みたいにその子は両手を広げて、俺のほうをむいた。
その子の腕が指すほうに視線を向けるとそこには驚くほど綺麗な景色が広がっていた。
2007/10/18
あとがき
名無しのごんべー君登場。
少年っていいですよね。かわいくていいですよねw
主人公さんぱしられるの回でした^^