「小僧っ・・・!!」
襲いかかってくるそいつの腕を飛びのいて何とかよけ、振り下ろされるもうひとつの手を両腕でガードする。
その攻撃の一つ一つがまるで鉛みたいに重い。
生身の人間の攻撃とはまったく違って、体の芯まで響くほど重たいものだ。
おそらく恐怖から来る体の筋肉の緊張は峠を越してしまったのか、今ではまったく緊張していない。
けれど。やはり相手の体は巨体。
しかも外殻は肌の感触ではなくどこか固く金属のようだ。
殴るたびに拳の骨に響き、どちらがダメージを受けているのかわからない。
最初より動きが鈍くなってるから多少はきいているのだろうけど、俺にはコレといった決定打がない。
体力勝負となれば俺の方が不利なのは目に見えて明らかだ。
横から大きな手が俺にふりかかってくる。
一瞬ガードが遅れて、俺はそのまま殴り飛ばされ、木にしたたかに体を打ちつけた。
衝撃で一瞬意識が飛びそうになり地面に膝をつくと、そのすぐ後に強い圧迫感が体を襲った。
大きな手に体を握りつぶされそうな勢いで掴まれている。
「くぁっ・・・!」
ぎりぎりと力を加えられ、そして緩められ。
おもちゃで遊ぶかのようなその行為。
ギリっと口の端を噛んで相手をにらみつけると怪物はにやにやと笑みを浮かべる。
「そのような姿でにらみつけてもまったく意味がないぐらいわかっておろう?」
「っ!!」
力を加えられ痛みで声が出ない。
多分骨はギリギリ折れてない。けれどコレでは折れるのも時間の問題だ。
「小僧を一匹逃したのは惜しかったが・・・・まぁ、いい。
お前、エであろう?ならばお前だけで十分だ。」
「エ・・・?」
「知らんのか。まぁ、いい。これから食われるお前には関係などないこと。」
くつくつと地鳴りのように低い笑い声を再び上げる怪物。
体を締め付ける腕を押しのけようと力を込めてみるが一向に動く気配はない。
自分より体の大きな相手との戦闘に思った以上に力を使っていたらしい。
(駄目だ・・・。)
もっと相手の顔に近ければ脚で鼻っ面を蹴り上げてやることも可能だったろうが、
ソレをちゃんと計算でもしているのか、脚の届きそうな範囲には相手の体はない。
ぎりぎりぎりと体に力を込められる。内臓が押しつぶされそうだ。
そしてそれにより苦痛にゆがめる俺の顔を目の前の怪物は愉しんでいる。
「そろそろ喰らうか。
生きながら食われる恐ろしさ。とくと体験するが良い。」
どこか恍惚にうっすらとソイツは微笑む。
たぶんあの子はもうコイツの手が届かないところに逃げただろう。
ならばもう仕方がない。
相手は捕食者で、俺は獲物だ。
怪物の口が大きく開く。あっけない人生だった。
終わる前に随分といろいろなことがあったけど。
覚悟を決めて目をきつく瞑る。
「霜天に坐せ氷輪丸!」
誰かの声が響いたと思ったその直後。
ひんやりと身を切るような寒さが一瞬体を襲った。
その直後体を突然地面に投げ出される。
受身なんてとる暇があるはずなく、衝撃をじかに喰らって俺は痛みに眉をしかめながら瞳を開いた。
「ぉぉぉっ!!なぜこんなところに死神がいる!!」
痛みに声をあげる半分体が凍りついた怪物。
そしてソイツと俺の間に立ちふさがる一つの背中。
黒い着物に大きく背中に十と書かれた白い羽織。
なんだかそれが見たことあるような背中な気がして
理由のわからない頭痛が俺を襲う。
「それはこっちのセリフだ。虚がなぜこんなところにいる。
。大丈夫か?」
「日番谷・・・さん」
痛みのせいで麻痺しそうな意識の中白に近い銀髪のその少年を見上げる。
日番谷さんを見るとやっぱりずきずきと頭痛が襲う。
なんでだ、なんでなんだ。
「ちょっと待っとけ。片付ける。」
ちゃきりと刀を構え、真っ直ぐに目の前の怪物をにらみつける。
あれほど俺で遊んでいたその怪物も日番谷さんを相手にすると
突然人が変わったように焦ったような表情を見せた。
焦って、腕を日番谷さんに振り下げて攻撃しようとするが
日番谷さんはそれを刀で難なく止めた。
頑張らなきゃあの攻撃止めれなかった俺とは大違いだ。
「運が悪かったな、虚。俺は今、機嫌が悪い。」
眼光を鋭くしながら日番谷さんは水のように静かに虚とかいう怪物に告げる。
虚は息を小さく飲み込み止められている腕とは逆の腕で日番谷さんに攻撃を仕掛けようとした。
日番谷さんはそこから飛びのき難なく攻撃から逃れ、刀の切っ先を虚に向ける。
「眠れ。」
刀を一振りするとあたりの空気がひんやりとした後、
虚の周りの空間が凍りついていてその後すぐにその氷ともどもその空間は粉々に砕け散った。
砕け散った氷の破片が冷たい霧のように俺の体を撫ぜる。
その冷たさに体が覚醒して、目の前の少年に視線を移した。
刀を鞘に納めた少年は俺の方に走りよってくる。
「!大丈夫か!!」
俺の背に腕を回して上半身を起こし、俺に呼びかけるその少年。
『どっかであったことある?』
なんて馬鹿なこと聞いたんだ。
俺は動かすたびに痛みを訴える体にムチをうって少年の頬に片手を添える。
「冬獅郎・・・。」
柔らかく微笑み彼の名を呼ぶと彼は驚いたように瞳をまん丸にして、俺の瞳を凝視した。
氷の冷たさを肌に感じた瞬間何かがはじけたように忘れていた記憶が甦った。
どうして忘れていたんだろう。冬獅郎の顔がどこか泣きそうにゆがむ。
「・・・お前・・・。」
「・・・忘れててごめんな。」
微笑みながらそれだけ伝えると俺はそこで意識を手放した。
2007/10/18
あとがき
ようやく思い出してくれたよ・・・!長かった!!
主人公さんのセリフがなさ過ぎて題名というかおまけというかそれに迷ったのは内緒です! 待
前半痛めつけられてるばっかりなんですもの ´ー`
闘う能力はないから男主人なのにポジションは無駄にヒロインです^^d