「・・・・・・やっぱり駄目か・・・。」



あの後、おそらくZAFTとの先頭によりヘリオポリスは破壊され、シェルターは救命ボートとなって宇宙へ射出された。

今まで住んでいた場所が。土地が。

一瞬にして砕け散っていくのを、ボートの窓から垣間見た。

まさか。彼はこの事をさして自分にヘリオポリスを出ろといったのだろうか。

手を膝の上で組み、どういう事か頭で整理しようとした瞬間、

アラームが鳴り響き推進部が壊れていると告げられた。


一応故障箇所を見てみたものの、工具は何も持っていない上に

ノートパソコンすら持ってきていないので修復は到底不可能。

となれば、とるべき道は唯一つで救難信号を出し、助けを待つしかない。



「大丈夫・・・よね?」



燃えるような赤い髪の少女が心配そうに俺の顔を覗き込んできた。

ここで心配させてはいけない。

今は何もできない俺だけど、慰めることぐらいはできる。



「・・・大丈夫だよ。じき、オーブから迎えが来るはずだから。」



いや、来てくれないと困る。これは俺の願いでもある。

こんなところで俺は死ぬわけには行かない。

ふ、と窓の外に目をやると、見たことが無い一機MSが此方に近づいてきた。

ヘリオポリスでみたあの3機とは別の赤、青、白色の着色が施されている機体。

そのMSに抱きかかえられるようにして、俺達の救命ボートは白い見たことのない宇宙艦へと運ばれていった。

これはZAFTの船だろうか?だとしたら、死ぬ事よりもまずい事になるかもしれない。

そんなことを考えているうちに俺達のボートは着艦した。

フレイは真っ先に外へ飛び出す。よほど怖かったのだろう。



「あなた・・・サイのっ・・・!」


「?」



列の最後尾に並んでいたため、外の会話はあまり良く聞こえないのだが、

先程フレイの声で確かに”サイ”と聞こえた。サイに関係ある人なら知り合いの可能性もある。

全員ボートから出終わって、中を一通り見た後、無重力の中を床をけって浮遊して、兵士の人の手を借りて外に出る。

その人たちの徽章を見て、ひとまず安心した。連合の徽章だ。

しかし、軍という事には変わりなく、どちらにしろまずい事にも変わりない。



――トリィ



「・・・!?」



ロボット鳥が旋回して此方にやってくる。

緑色の。良く店に来る少年が肩に連れているモノだ。



さんっ!?」



予想にたがわず。頭に浮かんだチョコレート色の髪の少年の顔がすぐ近くにあった。

こんなに近くに彼がいる。つまり・・・ひとつのいやな予感が頭の中に浮かんだ。


「・・・キラ。まさか、君が乗ってたとか・・・?」



ボートを抱えてきたMSを見上げて言うと、キラは目線を逸らし泣きそうな顔で小さく頷いた。



「そっか・・・。」



地球軍のMSを見上げて溜息をつく。

どうして。キラみたいなやさしい子が、こんな人殺しのための道具に乗らなくてはいけないのか。

世の中、一体どう創られているのかわかったモノではない。



「そういえば、キラは一人でここに?」


「・・・あ、いえ。トール達もこの艦に・・・。」



その言葉に大きく目を見開く。

なぜ工業カレッジの生徒達である彼らがこんな船に・・・。

理由を聞こうかと、チョコレート色の髪の少年を見た途端息を呑んだ。

良く見なければわからないが・・・・小さく震えている。



「キラ・・・。」


「!?」



自分の胸に彼の頭を預けさせ、軽くあやすように頭を撫ぜる。

震えている事を考えると十中八九、何らかの形でヘリオポリス崩壊に関わったのだろう。




「キラが責任感じる必要ないよ。・・・ヘリオポリスのことは。」


「・・・っ。・・・さんっ!!」



素直に泣けば良いのに少年は声を押し殺して俺の中で震えながら小さな嗚咽を漏らした。



「僕っ・・・!」


「・・・言わなくていいよ。」


「っう・・・!」



声にはならない。だが、心が悲鳴をあげている。

それが痛いほど伝わってきた。



「ほら、泣き止んで。トール達が心配するよ。俺もIDチェック行かなきゃならないし。」



優しく人差し指で涙をぬぐってやると、キラは小さく頷いて出口へと浮遊していった。



「・・・。」



それを見送ってから俺はIDチェックを受けている人の列に並ぶ。



「よっ。」


「?」



最後尾に着いたところで、気軽な声で地球軍の将校の制服を着た金髪の男性になぜか肩を叩かれた。



「何か・・・?」


「や、別に。さっき見てたけど、あんた、坊主の知り合いか?」


「えぇ、まぁ。俺の店に彼は良く来てくれてましたので。」


「へー。」



どんどん自分の前の列が短くなっていく。

ただこの男は離れるつもりは無いのか、とくに話しかけるわけでもなくまだ自分の隣にいる。

不快ではないものの、なんだか異様に気になった。



「次の方、どうぞ。」



病院の診察室のような感じで言われたその言葉に俺はIDカードを渡した。

機械にそれを通され、自分の個人情報がモニターに浮かび上がる。



「調理師免許をもっていらっしゃるのですか?」


「え?・・・あ、はい。一応ですが。」


「食堂の方が人手不足でして・・・。お手伝いを頼んでも構いませんでしょうか?」


「あぁ・・・。構いませんよ。拾ってくださったんです。喜んでお手伝いします。」


「おー。太っ腹だな。・・・?」


「!?」



耳元でどこか含みのある声で名前を呼ばれとっさに振り向く。

スカイブルーの瞳が意味ありげに笑っていた。この男は自分についての何かを知っている。



「もう行っても?」


「はい。」



地球軍の兵士に了解を取ると、金髪の男に視線を向けた。



「少し向こうでお話でもいかがでしょうか?」


「あぁ。美人さんとなら喜んで。」



その男と廊下の端まで来て、辺りに人目が無い事を確認すると

俺は目の前の男のスカイブルーの瞳を真正面から捉え、声を潜めた。



「何で・・・俺の事?」


「昔、軍のアーカイブでちょっと。一回見ただけどな。
 なんかいつの間にか消えてたし。」



顎に手を当てて、何かを考えるような素振りをし彼は俺をみた。



「うん。すごい印象的だったから。あんたの事は覚えてる。」


「そっか・・・。」



地球軍のアーカイブにまさか自分のファイルがあるとは思わなかった。

少し油断しすぎただろうか。しかし、どこからそのファイルが・・・。



「あ・・えっと・・・。」


「俺?俺はムウ=ラ=フラガ。階級は大尉。」


「ムウ=ラ=フラガ・・・?」



その名前を聞いて、何かが頭に引っかかった。どこかで聞いた事があるような気がする。



「どうした?」


「いや・・・。聞いたことがあるような気がして・・・。」


「あれ?”エンデュミオンの鷹”って知らない?結構有名だと思ってたんだけどなー。俺は。」



二つ名を聞いて、一度は納得したが、まだ何かが引っかかる。

しかし考えても分からないものは分からないので、俺はそのもやもやを頭の隅に追いやった。



「えっと、フラガ大尉。」


「ん?」


「その・・・俺のファイルってそんな大っぴろげに・・・?」



だとしたら大変まずい事になる。

だが、返ってきた答えはそれを否定するものだった。



「いや、大佐クラスじゃないと見れないはずだけど。」


「そうですか・・・。」



とりあえずよかったとおもう。しかしあることに気がついた。



「・・・え?さっき、階級は大尉って・・・。」



俺のその言葉にフラガはにやりと悪戯っ子のような笑みを浮かべて見せた。



「上官と仲が良けりゃ、いいこともあるんだぜ?」


「はぁ・・・。あ、もうあなたは知ってるけど・・・=です。よろしくおねがいします。」



今更だけど一応自己紹介。フラガはそれを聞いて楽しそうに笑った。



「おう。よろしく。別に敬語いいんだけど。たぶん年近いだろ?俺、堅苦しいの嫌いでさー。」



そういわれてみれば、彼は軍人だというのに、軍服の袖を折り襟元のボタンははずされたままだ。

なんだかおかしくなってクスリと微笑むとフラガも笑みを返した。



「あぁ、そうだ、大尉。俺の事黙っておいてくれる?


「・・・ま。ややこしいことになりそうだし・・・いいぜ?」


「よかった・・・。」



ぽんっと壁を蹴って、低重力の中を移動し始め、キラ達がいる食堂に向かう。

行きかう人が、民間人と大尉の組み合わせを見て不思議そうな表情を浮かべた。



「じゃ、俺はここで。」


「うん。」



ブリッジと食堂の通路の分かれ道でフラガはゆっくりと止まった。

各々が目的の場所へと床に足をつき、歩き始める。

格納庫と違いここは重力がすこし重めにしてあるようだ。



「あっ・・・さん!!」


食堂の出入り口のところへ姿を見せたとたん、人懐っこい笑顔のトールが俺の名前を呼んだ。

それに微笑んで近づくと、そこにいた少年達は知っている人物ばかりだった。

戦争は皮肉なものだと思う。何の関係ない学生達が巻き込まれるなんて・・・。



さんの話さっきまでしてたところなんですよ!」


「そうなの?でも、皆元気そうで良かったよ。」



皆がすわっているテーブルに近づいていく。わりとみんなの顔色は良い。

ただ一人。キラだけはどこか表情が沈んで見えた。



「キラ。」



なるべく優しい声で彼の名前を呼ぶと彼は不安そうな面持ちで俺を見た。



「何・・・ですか?」


「休んだ方が良いよ。・・・ほら。」



手を差し出すと、彼は俺の手と顔を交互に見た。



「でも・・・。」



キラは渋ったような顔をしてからトールたちを見た。

こんな時でも友人達の事を心配する性質らしい。



「キラ。俺達のことは良いって。」


「そうよ。気にしないで。さんの言うとおりだわ。
 なんだか顔色があまりよくないもの。」


「そうだぞ、キラ。さん、キラをよろしくお願いします。」



サイが俺をみて困ったように微笑んだ。キラは本当に良い友達に恵まれたと思う。



「うん。ほら、キラ行くよ。」



差し出されたままの俺の手を見て、まだ迷っているようにキラは目を伏せた。

俺は苦笑しキラの手を引き寄せ、席を立たせる。



「じゃぁ、借りていくから。」


さんっ!?」


「ごゆっくり〜。」



有無を言わさず手を引いていくと、初めはジタバタとしていたものの

食堂の入り口から2、3メートル行ったところでキラはおとなしくなった。

顔をふしがちにしたキラを横まで見つつ、少し記憶に残っていた客室までの道のりを記憶を頼りに辿っていく。

キラは何も言わない。俺も何も言わないから、無言の時間が過ぎた。



「キラの部屋どこ?」


「・・・その左の部屋です。」


「ここ?」


「はい。」



部屋の扉を開けるボタンを押して中に入り、キラを近くにあったベットに促した。

キラがそこに座ると、俺もその隣に座る。



「で、どうかしたの?」



先程は詳しく聞かなかったが、言ってしまえば楽になる事もある。

俺のその言葉にキラはくっと奥歯をかんで、辛そうに眉を顰めた。



「友っ・・・達なんですっ・・。」


「・・・?」


「ZAFTのっ・・・機体・・・イージスに乗ってるんです!・・・・・・アスランがっ!!」


「!!?」



キラが辛そうに絞り出した名前に俺は目を見開いた。

彼が・・・キラと友達?

いや、同じ名ならいくらでもいるだろう。しかし直感がそれは彼だと告げる。



・・・さん?」


「え?あ、なんでもないよ。そっか・・・だからつらそうだったんだね・・・。」



ここで彼を心配させてどうする。

俺は彼を心配させるためにあそこから連れ出したわけじゃない。



「つらいよね・・・知ってる人が敵だと。」



キラは泣きそうに顔をゆがめ、両手で俺の服を掴み、顔を伏せ頭を俺の胸に押し付けた。



「僕はっ・・・僕はっ!!」



小さく震えるキラの肩を抱き、もう一つの手で頭を撫ぜてから、

そっと肩を押しキラをベットに横たえ、手で彼の視界を覆い隠した。



「お休み、キラ。君には休息が必要だよ。」



手を離し、親友に教えてもらったおまじないをすると、驚いたようなアメジストの瞳と視線が合った。



「・・・さん?」


「お休み、キラ。」



先程と同じ言葉をつむぎ、電気を消し部屋を出た。

キラの部屋から少し離れたところで俺は足を止める。



「アスラン=ザラ・・・。」



夜明けの名を持つ、紺色の髪の少年が頭に浮かぶ。

宿命だろうか。自分の大切な人たちが友達で敵だというのは。

だとしたら、あまりにも残酷なさだめだ。



「キラとアスラン・・・。」



とめてやりたい。どうにかして。

まだ彼らは子供なのだ。プラントでは成人だといえども、まだまだ発展途上の子供。



「とめなきゃ・・・俺が。」



だけど俺に何が出来るだろうか。

そこでまた思考が最初に戻り、いつまでもグルグルと頭の中を駆け巡った。



「力は・・・もう欲しないって決めたのに・・・っ!」



悔しくなって拳を握り締めたが、そのモヤモヤとした気持ちが晴れる事はなかった。






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2006/01/08