「ちょっとは元気になったみたいだね。」
食堂にみんなで集まって座っていると、柔らかい声が上から降ってきて頭に手を置かれているのを感じた。
手をたどっていくと、青と緑のオッドアイがやさしく微笑んでいる。
「さん・・・。」
安堵の息のようなものを同時に彼の名を呟くと、彼はクスクスと微笑んで僕の隣に腰を下ろした。
「おはようございます。さん。」
「おはよう。みんなも良く眠れ・・・ってわけにはいかないよね。」
「はい・・・。」
さんの言葉にサイやトールが言葉をにごらした。
「あら、さんおはよう。」
「おはよーございます。」
「おはよう。」
少し遅れてきたフレイとミリアリアが合流し、工業カレッジの仲間がそろった。
避難民は本当に老若男女それぞれで戦艦であるらしいこの船には酷く不釣合いだ。
その中で、艦が当然進路を変えた。食堂内にいた人たちはみんな辺りをきょろきょろと見回し、
カズイが不安を抑えきれないように身を硬くした。
「どこに行くのかな。この船。」
カズイの言葉に誰も返せない。これが戦艦である以上進路が民間人である僕達に知らされるはずもない。
何も分からない。
何も知らない。
その状況がとても怖い。
「進路変えたよね。まだ・・・ザフトいるのかな?」
「この艦とMSを追ってんだろ?じゃぁ、まだ追われてんのかも。」
「えぇ!?」
カズイの言葉を返したト−ルの顔を見ながら、フレイは信じられないといった面持ちで不満そうに顔をしかめた。
なんだかズキリと心に痛みが走る。
「じゃぁ、なに?これに乗ってる方が危ないって事!?やだ・・・ちょっとぉ・・・。」
なおも続く言葉に僕は顔を思わず伏せてしまった。
助けなかった方が良かったのかもしれない常に危機に直面しているこの状況は、確かに危険だ。
推進部が壊れていても、じきにやってくるオーブの船を待っていたほうが結果的にはよかったのかもしれない。
「ごめんね。俺が推進部直せたら良かったんだけど・・・。
それともフレイは壊れた救命ポッドの方が、ここよりもまっしだった?」
「そうじゃないけど・・。」
語尾にいくにつれ小さくなる彼女の言葉を聞き、さんは呆れたように溜息をついた。
そして、僕の方を向いて、柔らかく笑みを浮かべる。
「俺は壊れたポッドよりかはこっちの方が良いよ。」
そういい僕の頭を軽く撫ぜる。
僕はすこし恥ずかしくなって顔を伏せた。
「ねぇ・・・親父達・・・大丈夫・・・だよな?」
僕達の行動を見て、親のことでも思い出したのか、カズイがポツリと呟く。
その言葉にみんな暗い影を落とした。厳しくもやさしい両親のことを思い浮かべる。
ちゃんと避難できただろうか?もし避難できていないとしたら・・・。
「大丈夫だよ。」
その空気を打ち破るかのようにサイは明るく振舞った。それを見てさんがにっこりと微笑む。
「そうだね。ほぼ100%避難は完了した。って聞いたからきっとご両親とも無事だよ。」
二人のみんなを励まそうという心遣いがとても暖かくて、僕も思わずつられて笑みを浮かべた。
多分、それはみんなで同じで、みんなの顔にも笑顔が戻ってくる。
しかし、その場の空気はすぐに変わった。
「キラ=ヤマト!」
食堂の入り口付近から、大きな声が聞こえた。
自分の名を呼ばれたので目を向けてみると、僕をコーディネーターと言い当てた金髪の将校の姿がそこにはあった。
さんが僕の横で僅かに眉を寄せたが、それは一瞬で次ぎ見たときには普通の顔に戻っていて
先程の表情は気のせいだと思うしかなかった。
「いないのかー?」
「あ、ここにいます!」
へらへらとした声で僕を探しながら、気付かず通り過ぎようとしたので
僕は急いで声を上げるとフラガ大尉は人懐っこい笑顔をうかべた。
「ここにいたのか。マードック軍曹が起こってるぞー?」
僕は思わず首を傾げた。フラガ大尉は苦笑のようなものを浮かべる。
「人手が足りないんだ。自分の機体ぐらい自分で整備しろ。ってさ。」
「僕の・・・機体?」
大尉の言葉に僕は目を見開いて顔をみた。
いつからあれが僕の機体に?
あれは地球軍の極秘機密で民間人である僕の前ではないはずだ。
「今はそうなってるってことだよ。実際あれにはキミしか・・・乗れないだろう?」
なぜかフラガ大尉はさんのほうをちらりと見てから、少し言葉を濁した。
その言葉とその行動になんだかイライラしてきた。
「それはしょうがないと思って二度目も乗りましたよ!でも僕は軍人でもなんでもないんですから!!」
イラついて思わず上げた声にもフラガ大尉は動じない。
おそらく、僕のこの行動も予想していたのだろう。それがさらにイライラを増す。
「それでまた戦闘が始まったとき、そういって乗らずに死んでいくのか?」
「!?」
誰かに背を押されて崖から落ちていくような気がした。
確かに。僕が”ガンダム”に乗らなければ、この艦を守るのは大尉のMAメビウス・ゼロのみで
MS相手ではいくらエンデュミオンの鷹といえど、この艦と自分の両方を守るのは不可能に近いだろう。
僕がガンダムに乗らなければ、間違いなくこの艦は沈み、全員死ぬ。
選択肢はあるようで一つしかない。
でも、僕はできれば戦闘なんて・・・アスランと戦う道を選びたくなんてない。
「フラガ大尉。」
僕が返事をしかねていると、さんが立ち上がり大尉に声をかけた。
「俺が乗るよ。」
「!?」
その言葉に僕だけでなく。周りにいたみんなが驚きの表情を浮かべる。
ただフラガ大尉だけでは例外で困ったような笑みを浮かべた。
「や・・・・・お前は・・・。」
ファーストネーム呼び捨てなのにも驚いたが、
さんの何かをしっているようなフラガ大尉の言葉にさらに驚きを隠せない。
「・・・別にもうかまわない。目標が・・・できたし。乗れるヤツがいるなら乗れるヤツがのったほうがいい。」
さんは僕の顔をみてから、フラガ大尉に視線を戻した。今の視線は何・・・?
「・・・が乗る気なら、また話が変わってくるんだよ。・・・後で話がある。」
「・・・?」
さんは眉間にしわをよせ、首を傾げて見せた。
それに大尉は苦笑をもらしてから、僕を見た。
「とりあえず、はこう言ってるが、今、この艦を守れるのは俺とお前だけだ。
できるだけの力を持っているだろう?ならできることをやれよ?」
その言葉は僕を何かにつないだ。なにか、重い鎖が体に巻き付いてくるような。
重い・・・言葉。例え、大尉にそのつもりがなかったとしても、僕にその言葉はとても重くのしかかった。
「そう時間はないぞー?・・・悩んでいる時間もな。」
そう言い大尉はその場を立ち去ろうとしたが、ふ、と何かに気がついたようにさんのほうを向いた。
「。話。一緒に来てくれよ。」
「あ・・・うん。」
戸惑ったような声でフラガ大尉と共に行ってしまいそうなさんの腕を掴んで引き止めたくなった。
その時サイが大尉に声をかけた。
「あ!この船はどこに向かってるんですか?」
フラガ大尉はくるりと顔だけ向け、さんはフラガ大尉の顔を見た。
「ユーラシアの軍事要塞だ。・・・すんなり入れればいいけどな。ってとこさ。」
そう答えると大尉は今度こそ、さんと一緒に食堂を出て行った。
腕をつかみ損ねた手は宙に浮いたままで、その拳を握り締め、フラガ大尉の言葉を思い出す。
”できる力があるなら・・・。”
そして時間はほとんどないという。そしてさんの言葉も頭の中に甦った。
「僕はっ・・・!!」
「・・・キラ!?」
「おい!キラ!!」
その場にいられなくなって、思わず走り出した僕にトールたちが声をかけるけど
今はそれを気にしている余裕はなかった。
戦いたくない。アスランを撃ちたくない。
それと・・・もう一つ。
「・・・さん。」
・・・あなたもコーディネーターなんですか・・・?
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2006/01/09