「ねぇ、大尉。」


「ん?」



俺の斜め後ろを歩いていた綺麗な青年が俺に声をかけた。

くるりと首を後ろに向けて、立ち止まると彼は少し顔をふせ立ち止まる。



「どうして・・・俺じゃキラの代わりになれないの?」


「・・・。」



俺は悲痛の面持ちで俺を見る彼の視線を受け止めきれなくなって思わず目をそらした。



「これから説明する。」



再び足を進めると彼はコクリと頷き。俺についてきた。



「まずは坊主が書き換えたOS見てくれるか?」



格納庫にたどりつき、ストライクの前まで来て足を止める。

の顔をみて、みるとはコクリと頷いた。

格納庫は低重力になっているために、床を蹴って、コックピットまで、たどりつき彼に中に入ってもらう。

彼が起動ボタンを押すとOSの起動音がし、コックピットの中に光がともった。



「・・・何これ。」


「だろ?」



予想通りの言葉に俺は苦笑を浮かべた。



「スッペク自体はかなり高いのに、プログラムの組み立てが滅茶苦茶じゃないか。」



はかなりの速さで、OSに目を走らせている。

かといって、OSを書き換えているわけでもないらしく、キーボードの上にある手はPage Downのキーを押しているだけだ。



「あ、そういえば。キラはプログラム組み立てるのは得意だけど、
 滅茶苦茶な組み立てからするって聞いたことあるかも・・・。
 でも・・・とりあえず言えるのは・・・。」



そう言いながらはOSを終了させ、コックピットから出てきた。

俺はコックピットから離れるとの後に続く。



「ナチュラルに扱うのは無理だ。」


「あぁ。」


「でも、どうして俺が乗っちゃいけないの?俺なら乗れるよ?」


「それもこれから説明する。」



低重力の中を浮遊したまま進み。格納庫の一番奥にやってくるとはぽかんと口を開けてそれを見上げた。



「こ・・・れ?」


「GAT-X 576 ”コクーン”」



Xナンバーでストライクと共に唯一こちらの手にあるMS。

ザフトがヘリオポリスに侵入するよりも前にすでにAAに搬入されていた唯一の機体。

フェイズシフトが抑えられている今のコクーンは灰色だが

ひとたびフェイズシフトを起動させると、この機体は純白の機体へと変化する。

誰も乗れる者がいないので今まで放置されていたものだ。



「コクーン・・・繭?」


「あぁ。転じて”保護”の意味も持つ。その名の通り攻撃より防御に重点を置いている機体らしい。」


「俺が・・・これを?」



信じられないとこちらに向けられる視線を受け止めて頷く。



「でも・・・俺・・・キラに戦わせたくないから・・・MS乗るの決めたのに・・・。」



しぼんでいく声に俺はなんともいえない心境になるが、一つ残酷なことを言わなければならない。

さっきの坊主といい、といい追い詰めて。MSに乗らせて。

だけどそうしなければ生き残れないほど、今、この艦は危ない状況なんだ。



、お前がこれかストライクに乗って、坊主がMS乗らずにこの艦に残ったとする。
 こっちは俺とお前だけ。向こうはザフトのトップガン4機・・・とラウ=ル=クルーゼ。
 もし、2機で対処しきれないでこの艦が落ちたらどうする?」



そこまで言ってから、の顔色を伺うと彼は泣きそうな表情になっていた。

追い詰めているのは分かっている。自分が酷い事をしているのも分かっている。



「MS2機とMA1機の戦力の方が、MS1機とMA1機の戦力より確実に高いのは当たり前だし
 この艦を沈めさせない確立も上がる。」



あぁ、俺、完璧に悪役だよなぁ。と頭の隅で思う。

人の弱みに、の優しさに付け込んで最悪だ。



「だから・・・。」


「無理しないで大尉。」


「は?」



続きを言おうとした俺の言葉をとめ、はどこか儚く微笑んで見せた。



「フラガ大尉は本当は俺にもキラにもMSに乗せたくないんでしょう?」


「いや、俺はっ・・・!!」


「自分だけじゃ、この艦守れなくて、それが悔しくて。でもこの艦を守るには俺達の力が必要で・・・。
 守りたいんだよね?この船を。どうしても。」



俺の気持ちをピッタリと言い当てたその言葉に俺は目を丸くする。

なぜ、この青年にはそれが分かった?そんなに顔に出ていただろうか?



・・・。」


「俺、乗るよ。これに。」


!?」



は決意のまなざしでコクーンを見上げる。

何かを振り切ったような強い笑顔。



「MSが2機合って、1機も遊ばせておく事が出来ない状況なんでしょ?
 それに・・・キラは俺だけが戦場に出て自分は何もせずここにいる。
 っていうのができない優しい子だから・・・。それは俺も同じ。
 他人だけにやらせて、自分は汚れないなんて、酷い事出来ないよ。」



伏し目がちに呟かれた言葉に息を飲む。

MSが1機なら、はキラを戦わせずに、キラはを戦わせずにすんだのだ。

このもう一つの機体が彼らをこんなにも苦しめている。俺に力がないために彼らをこんなにも苦しめている。

俺は体の横にぶら下がっている両手の拳を強く握り締めた。



「悪い・・・。」



なんとか絞り出した声に、は眉を下げ悲しそうに笑い、首を横に振る。



「大尉のせいじゃない。大尉も辛いんでしょ?」



はコックピットの中に入り込み、OSを起動させキーボードを引っ張り出してOSの書き換えを始めた。



「それに俺はここで死ぬわけにはいかないから。」



坊主と同じか、それ以上の速度でキーボードの上の手を走らせながらは強い言葉を発する。

様々な思考が彼の頭の中で絡み合っているのだろう。表情はどこか重さを感じさせる。



「ねぇ大尉。」


「なんだ?」


「これ、動かすってことは、俺、地球軍ってことになるのかな?」


「・・・そうだな。」


「・・・そっか。」



カタカタとキーを打つ音と整備員達の声だけが周りを支配した。

自分に力がないために、この青年を。あの少年を。戦場へ、軍へと送り込まなければならない。

それが、ひどく心に痛みを訴えた。








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2006/01/10