「ごめん・・・ね。すぐに助けに行けなくて。」


「え?」



ロッカールームでパイロットスーツから軍服に着替えているときにさんは僕に声をかけた。

フラガ大尉はすでに着替え終わってここを出て行ったため、僕たち二人しかその部屋には居ない。



「怖かった・・・よね?本当にゴメン。」



僕に近づき、さんは僕の頭に手を置いた。

表情はどこか壊れそうではかない笑み。



「そんなっ・・・!さんのせいじゃ・・・ないですよ。
 僕が・・・僕がもっとエネルギーの残量に注意しとけばっ・・・!」



さんから視線をはずす。

守ってもらうとか。どうしてそんな立場にいられるだろう。

さんは僕と同じ民間人で、同じの立場の・・・。

そこまで考えて、頭の中に小さな疑問が浮き上がった。

一杯一杯でよくは覚えていないが、僕がアスランに捕まった時のコクーン・・・さんの動きは・・・?

明らかに正規の訓練を受けたものの動きではなかったか?



「あの・・・さん?聞いていいですか?」


「ん?」


さんもコーディネーターなんですよね?」


「・・・うん。」



少し間が開いた後、さんは静かに頷いた。



「どこでMSの操縦を?」



僕のその問いにさんは苦笑いを浮かべた。



「昔、ちょっとね。」


「・・・。」



昔、何があったとか言われなくてもさんがコーディネーターであることを考えると必然的に答えは決まってくる。



「うそだ・・・さんがZAFTだったなんて・・・!」



違うといってくれれば良い。だが、さんは笑みを返すだけで何も言わない。

それは肯定の言葉と同じ意味だった。



「キラは・・・。」



言葉をなくしてしまった僕にさんはそっと声をかけた。



「俺がZAFTだったら嫌いになる・・・?」


「そんなっ!僕はそんなこと・・・!」



急いで言葉を返す。

戦っている人たちも守りたいものがあるからこそ戦っていて、決して快楽のために人を撃っているわけではない。

そうでないのは極少数で、目の前の優しい人がその極少数に入るなんて考えられない。



さんは・・・・さんです。嫌いになんてなれません!!」



知り合ってからまるで兄のようにやさしく接してくれたこの人は

とても穏やかで。とても優しくて。大好きだ。

この人はこの人であればいい。経歴なんてどうでも良い。

ただ真実を聞かされて驚いただけだ。こんな優しい人でも元軍人なのだと。



「よかった。キラに嫌われたらどうしよう。って・・・すごく不安だったから。」



さんがロッカーを閉めて入り口のほうへ向かったので

僕も慌てて軍服の最後のボタンを留めてさんの後に続く。

扉を開けるとフラガ大尉が壁に背をつけて僕らをまっていた。



「どうしたの大尉?」


「うわぁ・・・。似合わないな。」


「ほっといて。一般兵なんだから。で?」


「いや、ちょっと言い忘れたことがあって・・・。」



そう言い、大尉は僕とさんの肩に腕を回し、僕らにギリギリ聞こえるかのような声でつぶやいた。



「ストライクとコクーンの起動プログラムをロックしておくんだ。
 君たち以外の人間には誰も動かすことができないようにな。」



僕は意味がわからなくて、軽く首をかしげる。

さんのほうをむいてみるとさんは眉を寄せ不服そうな面持ちだった。



「やっぱりユーラシアはまずい?」


「さぁな。・・・だが用心にこしたことは無い。」


「うん。わかった。キラ、行こう。」



よくわからない大尉とのやり取りの後、さんは僕の腕を引いて格納庫の方向へ向かった。



・・・さん?」


「なに?」



さんは僕の腕をつかんでいた手をはなし、歩みを止めた。



「ユーラシアはまずいって・・・?」


「うん・・・。連合の中にはユーラシアと大西洋連邦に大きく分かれているのは知ってるよね?」


「はい。」


「で、この艦とXナンバー・・・ストライクとコクーンは
 大西洋連邦が極秘で開発しているものだから、識別コードをもっていないんだ。」


「・・・・?」



いまいち意味がわからなくて、首をかしげるとさんは歩きながら話し出した。



「で、アルテミスはユーラシアの軍事要塞。この艦とMSのことは知らない。」


「・・・まずいんですか?識別コードもってないっていうのは。」


「いろいろあるんだよ。」



さんは苦笑をもらし、そこで言葉をとめた。

少し早足で格納庫にたどり着き、それぞれのコックピットに乗り込む。

キーボードをとりだし、ロックを何重にかしてかける。

ナチュラルには解けない程度の難しさでパスワードを入力していると、ふとモニターに影ができた。



「・・・?」


「厳重にやるんだね。」



頭をあげるとさんがコックピットの中に入り込んできていた。



「俺は・・・二重にしておいたんだけど・・・やっぱりもっとかけたほうが良いかな。」



あごに手を置き、さんは首をひねる。

僕はロックをかけ終わるとキーボードを横に収納した。

それをみるとさんはストライクのコックッピットからでて、僕もそれに続いた。



「ロック、かけなおさなくていいんですか?」


「あぁ。・・・まぁ、ナチュラルじゃ解けないだろうから大丈夫だよ。」



低重力の中を浮遊して格納庫を出て、歩き始めた。



「そういえば。アルテミスってそんなに安全なんですか?」


「んー・・・アステミスはー・・・俺もよく知らないけど難攻不落っていわれてて
 傘が開いているかぎりは・・・安全なんじゃないかな?レーザーとかも通さないし。」



アルテミスへと入っていってるらしいAAの窓から外を眺めると

宇宙の中にぽっかりと浮いている要塞にきらきらと光るシールドが施されていて

それにあたる隕石のかけらは次々と弾けて消えていく。

それを横目でみつつ、歩みをすすめ、食堂までやってくると、なんだか食堂内がざわざわと騒がしい。

何事かとさんと顔を見合わせ、モニターの近くにいるサイとフレイに近づき、

同じようにしてモニターの中を覗き込むとAAの周りを武器を持った兵士が取り囲んでいた。



「何これ・・・。」



不安に思い、さんの顔を見上げるとさんは苦々しげにモニターをにらみつけ、そして入り口の方をみた。

つられて入り口のほうを見ていると、銃を持った兵士が中に入り込んで、こちらに銃口を向けた。



「動くなっ!!」



ため息がさんの口から漏れた。



「保安措置・・・かな。」



僕たちヘリオポリスの学生たちに向けてさんは眉を下げて笑みを向けた。

次々に艦のクルーたちが食堂に集まってきているうちにそとの様子を映し出すモニターが消えた。

食堂内は明らかに収容人数を超え、さらに銃を持った兵士が見張る始末。

どう考えてもいい気はしない。



「ユーラシアは味方のはずでしょう?大西洋連邦と仲が悪いんですか?」


「そういう問題じゃねぇよ。」



サイの言葉にトノムラ伍長が苦々しげに返し、パル伍長が大きくため息をついた。

それを見て、さんはその場を離れる。



「識別コードが無いのが悪い。」


「それってそんなに問題なんですか?」


「どうやらね。」



離れていったさんを気にしながらも、会話を聞いていると先ほどのさんと同じようなことを言っている。

やはり、識別コードがないのは大きな問題らしい。



「本当の問題は別のところにありそうだがな。」


「ですね。」



僕はその言葉にため息をついた。多分、色んなことからややこしいことになるのは容易に推測できる。

そう思ったころにさんは水の入ったコップを片手に僕らのほうへ戻ってきた。



「ややこしいことにならなければいいけど・・・。」


「えぇ。」



僕が頷くとさんは兵士のほうを見ながら、水を口に含んだ。




◆◆◆




しばらくして、食事の時間になりさんは調理室のほうへ入っていって、

あらかたの人がトレーを運び終わり席について食べ始めると、さんもトレーをもって調理室から出てきた。



「大尉たち遅いね。」


「はい・・・。」



僕の隣にトレーをおき、さんがそこに腰を落ち着けた途端、食堂の入り口付近がまた騒がしくなった。



「・・・・。」



さんは無言で入り口付近をにらみつける。

そして、一拍おいてから将校と思われる男性が食堂に入ってきた。



「この艦につんである、MSのパイロットと技術者はどこかね。」


「パイロットと技術者だ。この中にいるだろう!」


「あ・・・。」



自分のことだと思い、素直に立ち上がろうとした僕を、マードックさんが肩に手を置いて止めた。

不思議に思ってマードックさんの顔をみるが、マードックさんは渋い顔をでその将校たちを見るだけだ。

さんも名乗りを上げる気配は無い。



「なぜ、我々に聞くんです?」



ノイマン曹長が前に進み出て、不服そうにそう聞くと将校のような人のうち一人がノイマン曹長の襟をつかんだ。



「っ・・・!艦長たちが言わなかったからですか!?」



その言葉に、僕はフラガ大尉の言葉の意味がようやくわかった。

この人達はストライクを・・・あの力を狙っている。

さんはただ無言で、将校たちを見ている。

ふいに地位が高そうなもう一人の将校がノイマン曹長の襟をつかんでいた男に制止するよう、手を小さくあげた。



「なるほど。そうか、君たちは大西洋連邦でも極秘の軍事計画に選ばれた優秀な兵士諸君だったな。」


「っ!ストライクをどうしようって言うんです!?」



つかまれた襟元を正しながら、ノイマン曹長は丁寧な言葉でありながら噛み付く様に言った。



「なに。どうもしやしないさ。ただ公式発表により先に見せていただく機会に恵まれたのでね。」


「フラガ大尉ですよ。」



マードックさんが言葉を発した。



「お聞きになりたいことがあるんなら、大尉にどうぞ。」



その言葉に男はわずかに笑った。



「先ほどの戦闘はこちらでもモニターしていたよ。
 ガンバレル付きの”ゼロ”を扱えるのはあの男だけだということぐらい、私でも知っている。」



なんだか嫌な笑みを浮かべ、その男は辺りを見回し、ミリアリアに目を止めた。

何をするつもりかと行動を見ていると、その男は突然ミリアリアの腕をひねり上げた。



「なっ!?」


「っあ!」


「ミリアリア!?」



さんが身を乗りだし、トールも立ち上がる。

僕も立ち上がりパイロットだと名乗りでようとしたが、再びマードックさんに止められた。



「女性がパイロットということも無いと思うが・・・。この艦の艦長も女性ということだしなぁ?」



もう限界だった。なんだ、この卑怯なやり方は!



「やめてください!卑怯な!!」


「坊主・・・!」


「キラッ・・!!」



マードックさんとさんが止めるが、僕はもう我慢ができない。

思わずたちあがり、その男のほうをにらみつける。



「アレに乗っているのは僕ですよ!!」



つかつかとその男はこちらに歩み寄ってきて、イラついたような表情をみせた。



「坊主。彼女をかばおうとする心意気は買うがね。あれは君のようなヒヨッコが扱えるようなものじゃないだろう・・・。 
 ふざけたことをするなっ!」



突然、こぶしを振り上げる動作をするが、そのスピードはコーディネーターである僕には

たいした脅威になりえなくて、それをかわし腕をつかんでねじりあげ、床にその巨体を転がした。



「ぼくはあなたに殴られる筋合いは無いですよ!?」


「司令っ・・!」



兵士たちがこちらに駆け寄ってくる。

どうやら先ほど投げて転ばした、この人がアルテミスの最高権力者だったらしい。



「なんなんですか!あなたたちはっ!!」


「やめろ、抵抗するなっ!!」



マードックさんが僕の肩に手を置いて、止めようとするが僕は怒りで頭が一杯になる。

なんなんだろう、この人達はっ!自分の欲と権力に汚れて・・・っ!

ぐっと僕の襟をつかんで、もう一人の将校が僕を殴りかかろうとしたそのときだった。



「やめてください。」



静かな穏やかな声で制止の声がかかり、兵士は動きを止めた。

声のしたほうをむいてみると、さんが立ち上がってまっすぐと僕の襟をつかんでいる男を見ていた。



「お前っ・・!」



マードックさんが制止の声をかけるが、さんはそれを聞こえないとでもいうように司令官のほうを向いた。



「私がパイロットですよ。」



さんが顔を向けた先の司令官は異常なほどの驚きを見せていた。




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2005/01/15


あとがき

約束どおりガンダム種夢を二つUPしました。
あぁ・・・みなさん無茶な約束はしないようにしましょうねー(笑)
ものすごい疲れた。ルーズリーフ12枚分。だから一話辺り6枚かな・・・?
結構長かったのねー。書いてるときはそう感じなかったんだけど。
普通、敵の通信まではがんばらなければ(?)拾えないはずなんですけど、
一身上の都合のため拾えることにしてあげてください(ぇ)
だって、一人でぶつぶついってるのもねぇ?十分言ってるけど(遠い目)