「クルーゼ隊長。」
議会での茶番のような報告も終わり、ラクスの父であるシーゲルクライン議長と話し終わって
クルーゼ隊長について歩いていると緑の服の兵士が緊張した面持ちで敬礼をしながら声をかけた。
「なんだ?」
「はっ。ヒプノウシス隊長から”戻ってきているならお会いしたい”との伝言であります。」
「ほぅ・・・。ヒプノウシスにあったのか?」
「いえ。自分はクルーゼ隊長をお迎えにいらした方に伝言を頼まれただけであります。」
「そうか・・ご苦労下がって良い。」
「はっ。」
緑服の兵士が立ち去るとクルーゼ隊長はやれやれとため息をついてみせた。
「やはり来たか・・・。あぁ、そうだ。アスラン。君も来るかね?」
「自分も・・・ですか?」
クルーゼ隊長の提案に俺は少なからず驚いた。
隊長の友人とは自分は何も関係ない。何故自分が?
「君も・・・・一度”黒翼”には会ってみたいだろう?」
「黒翼っ・・!?」
クルーゼ隊長の仮面に覆われていない口元に笑みが上った。
「やはり君も”死を告げる黒翼”の名は聞いたことがあったか。」
「えぇ・・・まぁ。」
表ではめったに話されることの無い”死を告げる黒翼”。
元はといえば戦場を駆ける翼のような武装をした漆黒のMSのパイロットの異名。
しかし、そのパイロットは今は第一線を退き、
ZAFTの裏切り者・・・つまり軍を勝手に抜けたものの後始末や暗殺を担う
いわゆる暗部のリーダーだという。
ちなみに”黒翼”については仕事柄、極秘機密となっているので顔はおろか、
名前をはじめとしたその人物についての情報が入ってくることは無い。
「クルーゼ隊長のお知り合いなんですか・・・?」
「あぁ。・・・友人といえばいいかな。」
コツコツと靴音を鳴らしながらエレベーターに乗り込み、階下へと下がる。
チンっとスズのような音を鳴らせて、エレベーターが止まり、
入り口のほうへ向かうと一人の男性が柱に寄りかかってこちらを見て微笑んでいた。
「おや・・・。」
クルーゼ隊長がそちらへ足を向ける。見たことの無い黒の軍服だった。
黒といえば副官の軍服も黒だが、この男性が着ているものは
襟と腕のラインの色が副官の青みがかかった紫ではなく灰色だ。
「フィーラ。やはり君が来ていたのか。」
「あぁ、久しぶりだね、ラウ。活躍はかねがね。」
「いや、何。たいしたこと無いさ。」
フィーラと呼ばれたその男性は長い漆黒の髪で血のような赤い相貌を持っていた。
クルーゼ隊長と握手をしていたその人はふとこちらに視線を向けてきょとんと首をかしげた。
「ラウ。彼は?」
そう言われて、はっと気づき背筋を伸ばして敬礼をする。
「はっ。クルーゼ隊所属。アスラン=ザラであります。」
「ザラ・・・?あの国務長官の息子さんだっけ?」
「その通りであります。」
そう。とその人は微笑み俺に敬礼を返した。
「ヒプノウシス隊所属。副官のフィーラ=クリムズンです。
えぇっと・・・ラウ。アスランも同行するかい?」
「あぁ。」
「じゃぁ、こっちに。」
フィーラさんは絶えず微笑を浮かべながら、自動ドアを潜り抜け、表に止めてあったエレカに乗り込んだ。
クルーゼ隊長が助手席に乗り込み俺も後部座席に乗り込むと、エレカは静かに発進する。
「ところで、フィーラ。どこへ?」
「軍本部だよ。カイ、今仕事つめてるから。・・・そろそろ戻っているはずだけど・・・。」
軍本部のIDチェックをうけ、そのまま駐車場へ向かう。
エレカを停め、三人連れ立って軍本部への階段を上った。
「やはり、怒っていたか?」
「うん。あたりまえだろ。」
「・・・。」
はぁ。とクルーゼ隊長はため息をつき片手で額を覆った。
「あぁ・・・ちなみに僕も怒っているからね?」
にっこりと。それはもうにっこりとフィーラさんは笑って、エレベーターのボタンを殴るように押しながらこちらを振り向いた。
「「・・・。」」
なんだろう。俺はなんだか似たような人を知っているような気がする。
こういったタイプは怒らせてはいけない。フィーラさんの逆燐にはふれないようにしよう・・・。
エレベーターが到着し、それに乗り込んで13階に上がる。
廊下に出て、しばらく行った後にフィ−ラさんは一つのドアで立ち止まった。
「フィーラ=クリムズン。要望によりラウ=ル=クルーゼ隊長を連れてまいりました。」
ゴクリとつばを飲む。暗部をまとめる元パイロット。いったいどんな人だろうか。
フィーラさんが扉の前に立つと、扉が空気が抜ける音をさせながら開いた。
「・・・やぁ、よく来たね。ラウ。」
「・・・!」
「なに。”黒翼”の頼みとあらば、断るわけにもいかないだろう。」
扉の先のその光景に俺は言葉を失った。
執務机に片方の手で頬杖をついているその人は
まるで絵の中から出てきたようなそんな人間味を失った美しい人だった。
「あれー。そっちの子はどうしたの?」
どこか中性的な声で深緑の瞳がこちらへ向く。
隣にいたクルーゼ隊長にひじで軽く突かれて、あわてて敬礼をした。
「ア・・・アスラン=ザラであります。」
フィーラさんがくすくすと笑った。よく見るとクルーゼ隊長も笑っている。
「やっぱり君の第一印象は最強だね。」
「あぁ、まさかアスランまでもが固まるとは思っても見なかった。」
「なっ・・・!?」
慌てる俺にヒプノウシス隊長はムスー。とした顔になり執務机を乗り越え、
こちらに降り立ち、俺の頬を人差し指で押した。
「へ?」
突然の予想外の行動にぽけ。とする俺にヒプノウシス隊長は一瞬目を輝かせた。
「かわいいっ!ねぇ、ラウ!!この子かわいいよ!?」
次の瞬間抱きつかれていて、俺は目を白黒させるが、
クルーゼ隊長やフィーラさんはにこやかに微笑んでいるだけで助けようとも、止めようともしない。
あれだろうか。予想の範疇というやつ。
しかし、この人が本当に暗部の長・・・?
ヒプノウシス隊長が俺から離れてにっこりと笑うと俺に敬礼を返した。
「知ってると思うけど、僕がヒプノウシス隊、隊長。カイ=セル=ヒプノウシス。
まぁ、一般に言う”黒翼”です。よろしくねー。」
「は、はい。あ、あのヒプノウシス隊長。申し訳ありませんが質問させていただいてもいいでしょうか?」
「んー?何ー?」
「女性で・・・いらっしゃるのですか?」
ヒプノウシス隊長がきょとんとした顔をし、フィーラさんが小さく噴出した。
「うん。そう。よくわかったねー?」
「あ・・え?・・あ、はい。」
顔立ちが中性的で背も高いため、どちらか判断がつきかねていて
暗部の長ということだからてっきり先入観で男性だと思っていたのだが、
先ほど抱きつかれたときに感じた柔らか味は間違いなく女性のものであると思う。
「カイ。アスランにかまうのもいいけど大事な話があるでしょ?」
くすくすと笑いながらフィーラさんはヒプノウシス隊長を見た。
「あぁ、そうだ。ラウ。覚悟は・・・もちろんできてるよね?」
ひくりとクルーゼ隊長の口元が引きつって、そのすぐ後に室内に豪快な音が響き渡った。
「・・・・え?」
何が起こったのか分からなくて、辺りを見回してみるとクルーゼ隊長が右頬を押さえて、
ヒプノウシス隊長が握った片手を振り下ろしていた。
「まぁ、これぐらいで我慢しといてあげるよ。」
「・・・。」
あの、ラウ=ル=クルーゼ隊長が殴られた・・・?
「あいかわらず馬鹿力だな、君は。」
「ちゃんと手加減したよ。明日には腫れひくから。」
ヒプノウシス隊長はクルーゼ隊長を一瞥すると俺に目を向けた。
深緑の瞳を向けられ、背筋が伸びる。
じっと見つめられ、空調がきいているにも関わらず奇妙な汗が流れた。
完璧すぎる美は恐怖心を招く。
ぞくぞくと腹の奥から何かが湧き上がってきた、その頃にヒプノウシス隊長はふと笑みを浮かべた。
「ラウ。彼は口堅い?」
「あぁ・・・。その点については問題ない。彼は忠実だ。」
「へぇ。アスランよかったね。カイのお眼鏡にかなったようだよ。」
「え・・・?」
フィーラさんの言葉は何のことなのか分からないが、とりあえずヒプノウシス隊長のお許しが出たらしい。
ヒプノウシス隊長は執務机の上に座り込み、ピッとモニターの電源を入れた。
「まずは、ラウ。ヘリオポリスの事を説明してもらおうか?」
画面にヘリオポリス崩壊の映像が映し出される。
これは俺たちがやってしまったのだともう一度確信されられることになり、目を覆いたくなった。
「さっき評議会でも話してきたが、地球軍のMSは脅威だ。
それを奪取するにはあの時しかないと思い奪取したまで。」
「あそこに=がいると知った上で?」
「避難するように通知はした。」
「!?」
驚く俺にフィーラさんが苦笑を漏らし、ヒプノウシス隊長に視線を向けた。
「カイ。アスランが困ってるよ。」
「あ、ごめん。後で説明するから。
・・・で、僕の情報網によるとヘリオポリスからの避難民のリストにの名はない。
だけど、僕の勘はは生きていることを告げている。どういうことかな?」
ヒプノウシス隊長はゆっくりと足を組み、笑みを浮かべてクルーゼ隊長を見た。
「君の通知を受け先に脱出した跡もない。それも調べたからね。」
「実は、それを言うためにアスランををつれてきたのだよ。」
クルーゼ隊長に肩を叩かれ、何のことか分からずに彼の顔を見ると彼は口元を笑みの形にした。
「GAT-X576”コクーン”」
その隊長の言葉に俺は息をのむ。・・・まさか?
「これ?」
先ほど議会に提出したコクーンの映像がモニターに映し出された。
「あぁ、それに=と名乗る人物が乗っているらしい。
なぁ、アスラン。」
「あ、はい。確かにコクーンのパイロットは=。と名乗りました。」
俺の言葉にヒプノウシス隊長は眉をしかめた。
「あいつが・・・戦場に?約束を破ったのか?」
苦々しげにヒプノウシス隊長は言葉を吐き、机から降りた。
「私はそれを確かめるためにも本来すっぽかしたいところを。殴られるのを考えた上で。
カイ・・・君に会いに来た。」
隊長が言おうとしているのはヒプノウシス隊長はあのコクーンのパイロットが彼であると思うかということ。
しかしなぜそんなにも勘に頼る?
理解し切れなくて首を傾げるが、俺以外の三人はみな真剣な表情をしていた。
「カイ。君の勘は・・・何と言ってるの?
「・・・・・・。」
フィーラさんの言葉にヒプノウシス隊長は目を閉じ、静かにつぶやいた。
「それにのっているのは間違いなくだ。と。」
「そうか。」
クルーゼ隊長が思わず漏らした言葉はどこか安心したような響きが含まれていた。
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2006/02/01
あとがき
はい。オリキャラ登場。この二人好きなんです。ごめんなさい(遠い目)
ちなみにこの二人はオリジ小説のキャラです。
そして主人公さん溺愛設定。主人公愛され傾向のサイトです。
ラウとこの二人と主人公さんは同期です。
ラウがPHASE-01で主人公に敬語使ってたのはわけありです。そのうち書きます。