しばらくの沈黙の後、この最新設備の整っている軍部には不釣合いな

旧式の電話のベルの音が室内に響き渡った。

ヒプノウシス隊長は目線で俺たちにとるということを知らせてから、静かに受話器をあげ耳に当てた。



「ヒプノウシス。はい。・・・あぁ来てるし、いるよ。
 ん・・・了解。伝えとく。」



手短にそういうと、ヒプノウシス隊長は受話器を置いて、

常緑の葉のような深い緑の瞳をクルーゼ隊長のほうに向けた。



「ラウ。18階の応接室Bでお偉いさんがお待ちみたい。小一時間で済むらしいから行っておいで。アスランは預かっておく。
 フィーラ。10階会議室Eで明日の予定について打ち合わせ。僕は明日はOFFだからそれも考えてシフト組んできて。」


「・・・OFFにしていいのかい?」



すらすらと要件を述べたヒプノウシス隊長にフィーラさんは眉を寄せて言葉を返した。

その言葉にヒプノウシス隊長はにっこりと笑みを返した。



「僕、今日5件も処理したから。休みくれたっていいだろう?
 それに僕が疲れててミスしたら困るのは上だろ?」


「・・・まぁね。」


「さ。復唱の後、命令受領の返信を。」



一応規則なのでヒプノウシス隊長はそういうが、

あまり聞く気はなさそうに再び執務机の上に腰かけ、足を組んでから微笑を作った。

クルーゼ隊長とフィーラさんはやれやれとでもいうように、

互いに目を合わせて肩をすくめてからヒプノウシス隊長に敬礼の形をとる。

暗部の長は基本的には部隊長より上。

だからフィーラさんはもちろんクルーゼ隊長よりもヒプノウシス隊長の階級は上に位置する。



「18階、応接室Bにて会合。アスラン=ザラはヒプノウシス隊長の執務室にて待機。ラウ=ル=クルーゼ。了解しました。」


「10階、会議室Eにて明日のミーティング。フィーラ=クリムズン。了解しました。」


「では、いきたまえ。」


「「はっ」」



ヒプノウシス隊長の言葉をみごとに理解し復唱した二人に命令とも取れる言葉を返し、

微笑をつけてヒプノウシス隊長は手を振る。



「カイ・・・。私はいささか君にアスランを預けていくのは不安なのだがね。」


「あははー。大丈夫。子どもに手だすほど僕は飢えてないよ。安心して行っておいで。」



ひらひらー。と手を振るヒプノウシス隊長に苦笑をむけながら、

クルーゼ隊長はフィーラさんと連れ立って執務室を出て行った。

あぁ、そういえば俺の意思はなにも聞かれなかった。少しここの大人たちは身勝手ではないだろうか。



「あれー?アスラン、僕といるのそんなに不服ー?」


「え、いえ、そんなことは・・・っ。」



慌てる俺にヒプノウシス隊長はくすくすと笑みを深めて机を降りた。



「立ち話もなんだし、僕の部屋いこっか?横の部屋なんだけど。
 あぁ、さっきもいったけど別に襲わないから安心して。」


「なっ・・!?普通逆なんじゃないですか!?」



周りに花が飛びそうなぐらい綺麗な笑みを浮かべてヒプノウシス隊長は首をかしげる。

あぁ、この人多分俺の反応見て楽しんでるんだ。

その証拠に少し笑いをこらえてる様子が見受けられる。



「あははっ。そうだねぇ。
 でもねぇ・・・僕、あれでしょ。恋愛感情湧かないでしょ、アスラン。」


「・・・じ、自分はそういうことはよく分からないのですが、
 ヒプノウシス隊長はとても綺麗な方だと思います。」


そういうと彼女はやわらかく綺麗な笑みを浮かべる。


「ありがとう、アスラン。僕のことはカイでいいから。呼びにくかったら隊長か、さんつけて。」


「あ、はい。」



ヒプノ・・・じゃなくて、カイ・・・さん?は執務室から続く扉を開けて、俺を中へ促した。

室内は必要最低限のものしかなくてどこかさびしい雰囲気さえ漂わせている。

基本的に白。もしくは灰色。飾り物とかは一切見当たらない。



「適当に座って。確か、フィーちゃんがコーヒーメーカーにコーヒー入れてくれてたはずだから。
 あー。そうそう。でね、アスランはうれしい事いってくれたんだけど
 ・・・・・・でもそれってどっちかっていうと美術品でしょ?」



人間より。

そういいながら、カイさんはコップにコーヒーを注いでいく。

その言葉に俺は後ろからなんだか殴られたような衝撃を受けていた。

言われてみればそのような気がする。

コトン。と目の前にコーヒーカップが置かれて、俺は瞳を揺らしながらその人の顔を仰ぎ見た。



「自分は・・・もしかして失礼なことを言いましたか?」


「うぅん。綺麗って言われるのは嬉しいよ。
 でも、僕が欲しいって思うのは恋愛感情からじゃなくて美術品コレクター的な要素からって話。
 僕を恋愛感情で見るには、フィーちゃんいわくなんかの一線越さなきゃいけないんだって。
 ヒプノウシスラインみたいなモノ。」



くすくすと相変わらず笑みを浮かべながらカイさんは俺の前の席に腰を下ろし、コーヒーを一口含んだ。



「あれ、少しずれたかな。あー、それでね。
 アスランもちゃんと人間的に綺麗。」


「なにっ・・をっ!?」


「あー。可愛いね。やっぱり。」



やたら人間的にを強調されて言われた言葉に顔に熱が上がる。

俺の顔が好きとかいう理由で告白とかそういう類はよく受けるけど。

こんなに正面きって言われたのは初めて。

そして、この人はやっぱり俺の反応を楽しんでるような気がする。



「でねー。僕が人間的美形で一押しなのは君なのv」


「・・・はい?」


「なんていうか、うちからにじみ出るやさしさからくる癒しの表情?
 それとブレンドされてあの王子様のようなあの麗しいお顔!
 笑うときに少し照れたような表情!月の光みたいなサラサラの銀髪!!
 そして、極めつけはめちゃくちゃ綺麗なオッドアイ!!
 もう最高じゃない!!?僕は恋愛対象外だけど、アスランは好みでしょ?」


「なっ・・なにをいってるんですか!?俺は男ですよ!?」



あははっ。と本気で楽しそうにカイさんは笑う。

俺はなぜか照れてしまい、コーヒーを一口含んでカイさんから目線をそらした。

少し癖のある月の光のような銀髪。

少しだけ濃いエメラルドグリーンとどこか温かみを感じさせるアイスブルーの瞳。

そして柔らかな笑顔。

あの人は綺麗な人だ。本当に。



「でも、惹かれるだろ?アスラン?」



ふふっと一種妖艶な笑みを浮かべてカイさんは俺の頬を両手で包み込む。

惹かれる・・・?確かに惹かれてはいるんだと思う。

しかしどういえば分からない。この気持ちって言っても通じるモノだろうか。

俺のこの気持ちは恋愛感情から来るもの・・・?



「あー・・・まだわかんないか。アスラン意外と鈍い?」



何も言えずにいた俺にカイさんは残念そうに笑いながら溜息をつくと

俺の頬から手を離した。金の髪が一筋肩から落ちる。

それを目で追うとカイさんは、あぁ、そうだと小さく呟いた。



の事話そうと思ってたんだよ。」


・・・さんですか?」


「そう。さん。」



先程から気になっていたさんの話題を振られて俺はすこし目を見開いた。



が8ヶ月前にMIAになってるのはもちろん知ってるよね?」


「えぇ・・・まぁ。」



ザフトの”銀の翼”が戦闘で機体ごと大気圏に落ちMIAとなった。

まだ単体で大気圏に突入するのは不可能な時だったからほぼ死は確定。

さんの異名である銀の翼は有名だったからアカデミーでも結構、噂になった。



「自分はアカデミーでさんに講師をして頂いたので・・・ショックでした。」



MIAは未確認の死を顕す語として基本的に用いられる。

あまりの事に驚きすぎてその時は事情が読み込めなかった。

しばらくしてあの優しい人はもういないのだと認識し、心に空洞が空いたような気持ちを味わった。



「講師・・・あぁ、あれか。そっかー。アスラン達の代の時の話なんだ、あれ。
 まぁ、それはいいや。理由はちょっと事情が込み入ってるから省くけど、
 をMIAに見せかけてオーブのコロニーに送ったのは、さっき執務室にいた僕を含めた大人たちです。」


「・・・は?」


「あー・・・なんていうの?偽装MIA?」



カイさんは顎に手を当てて首をひねる。

大体ニュアンスは分かるが、偽装MIA・・・?



「・・・なぜです?」


「理由は込み入ってるから省くっていっただろ?
 まぁ簡単に言えばは軍に向いてない。だから軍を抜けさした。
 は戦闘能力に優れていたから、退役とかお偉いさんが許さないだろうしねー。 
 あれしか方法がなかったんだ。わかる?」


「・・・。」



事情は分からない。

だが、一つだけ分かった事がある。



さんは・・・生きているということですか?」


「そういうこと。で、今は君の見た・・・なんだっけ、コクーン?あれに乗ってる。」


「先程も聞こうと思っていたのですが、どうしてそう確信するんです?
 それはカイさんのただの勘じゃないですか。」



俺の言葉にカイさんは一瞥をくれ、再びコーヒーを口に含んだ。

コトリとコップを置く音が室内に響く。



「僕の勘はねー・・・。生まれてからこれまで外れた事ない。」


「百発百中・・・?」


「そういうこと。」



自信に満ち溢れた顔でカイさんは微笑む。

そういう顔をされると・・・信じてしまいそうになる。

コクーンに乗っているのはあの優しい人。さんだと。



「・・・信じて良いですか?」


「どうぞ?」



この自信に満ち溢れた人が補償してくれるなら。

またさんに出会えることを信じて。

俺は瞳を伏せて、口元に変な笑みを浮かべた。



「迷信とか・・・俺、実は信じない性質なんです。
 でも、信じたい。」


「信じていれば叶うこともある。そう考えた方が良いよ、アスラン。
 あぁ、そ――。」



カイさんの言葉にインターフォンの音が被る。

俺とカイさんは同じような動きで執務室へ続く扉の方へ顔を向けた。



「あー。ラウだね。時間切れか。」


立ち上がってカイさんは俺と自分のコップを下げた。


「ご馳走様でした。」


「いいえ。ラウー。入って良いよー。」



シュンッと空気が抜け出る音がして扉が開き、クルーゼ隊長が室内に入ってきた。



「アスラン。襲われなかったかね。」


「はっ!?え、いや、だ、大丈夫であります。」


「ラ・・・ラウ、ラウ。・・・ア、アスランが困ってる、困ってる。」



明らかに笑いをこらえているような表情でカイさんはクルーゼ隊長の肩を叩く。

クルーゼ隊長は口元を笑みの形にした。



「普通に話してただけだから。
 だから子どもに手出すほど、僕、飢えてないって。」


「あぁ、そうだったな。」
 


クルーゼ隊長はカイさんの肩を軽く叩き返した。



「さぁ、アスラン。そろそろ帰ろう。カイにもそろそろ仕事に戻ってもらわねば。」


「はっ!」


「あはは。やっぱ机の上、書類たまってた?」


「あぁ、速く処理したまえ。では。」


「ん、了解。またね。
 あー。そう。アスラン。」


「?」



クルーゼ隊長と部屋を出ようとしていたところをカイさんに声をかけられ引きとめられる。



「キミ、多分これから大変なことになるから。」


「・・・勘ですか?」


「そ。」



黒翼の勘は百発百中。



「心得ておきます。」



軽く一礼をするとカイさんは楽しそうに微笑んで手を振った。





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2006/02/03


あとがき

おまえ、このキャラ好きすぎだろ。という文句は甘んじて受けます。
好きなんです!LOVEなんです!!もーこの人!(ぇ)
美しさとか強調しまくったのは恋愛対象にはならないですよー。というのを強調するためです。
この人誰とも結ばれませんので、ご心配なく。アスランは反応を遊ばれるだけです(笑)
アスランは無自覚ですが主人公LOVEな人なので^^