僕たちカレッジの学生をあつめ、フラガ大尉はラミアス艦長の席の隣あたりに立ってから
補給をする。ということを僕らに告げた。
一様に驚いたような表情を作ったが、僕の隣にいるさんだけはいぶかしげに眉を寄せた。
「補給を!?受けられるんですか!?どこで?」
サイが次の言葉を待ちきれないとでも言うように声を上げる。
僕もそれは疑問に思った。もしかすると、地球軍の母艦がやってくるとか・・・?
不思議そうにしている僕らにフラガ大尉は苦笑を浮かべた。
「受けられるというか・・・まぁ、勝手に補給するというか。」
「・・・やっぱりか。」
フラガ大尉の言葉にさんが息を吐きながらつぶやいた。
なんのことだろうと思いながら首をかしげて、顔を覗き込んでみると、あいまいな笑みで返される。
「私たちは今、デブリベルトにむかっています。」
「デブリベルト・・・ってちょっとまってくださいよ!まさか・・・!」
「その、まさかだよ。サイ。」
さんが抑揚のない声でサイに言葉をかけた。
オッドアイの瞳がつまらなさそうに細められる。
まだはっきりとは僕には分からないが、おそらくいいことではないのだろう。
「君は勘がいいねー。」
フラガ大尉は微妙な笑顔を浮かべ、人差し指を立てて指をふった。
この態度からして彼もきっと乗り気ではない事なのだろう。
「デブリベルトには宇宙空間を漂うさまざまな物体が集まっています。
そこには無論戦闘で破壊された戦艦などもあるわけで・・・。」
「もちろん弾薬なども未使用のまま残っている場合が多い。
ってことですよね、ラミアス艦長。」
「えぇ。」
さんが微笑みながら小さく肩をすくめる。
その言葉に僕もピンと来た。
「まさか・・・そこから補給しようっていうんじゃ・・・。」
トールが否定をして欲しそうに恐る恐る言葉を発する。
フラガ大尉は顔に厳しさをにじませた。
感情は大事だと思う。だけど今はそういうことも言ってられない状況。
「しかたないだろ。そうでもしなきゃ、こっちが持たないんだ。」
「・・・甘えたことは・・・いってられない状況なんだよ、トール。」
さんが眉をさげて悲しそうに笑うとフラガ大尉も頷いた。
ラミアス艦長はその様子を見てから本当につらそうに言葉を続ける。
「あなたたちにはその際、ポッドでの船外活動を手伝ってもらいたいの。
さんとキラ君はMSで。」
こくりとさんは頷くが、僕はやっぱり賛成できない。
頭では分かっているんだ。でも・・・感情がついていかない。
そういうことも考えてさんは大人なんだと、そう感じさせられた。
僕は・・・まだ子ども。感情の制御とかそういったものはまだうまくできない。
「あまりうれしくないのは同じだ。でも他に方法はないのだ。我々が生き延びるためにはな。」
ナタルさんも渋々といったようすで苦そうに言葉を吐く。
僕たちはそこまで危ない状況なのだと息をのんだ。
周りの大人たちの表情もどこか暗い。
誰もこの状況を喜んでいない。ブリッジには重い空気が漂っている。
「失われたもの達を漁りまわろうというわけじゃないわ。
ただ・・・ほんの少し、今私達に必要なものを分けてもらおうというだけ。
・・・・生きるために。」
苦痛をにじませてラミアス艦長が言葉を告げる。
だけど・・・だけど。
ダメなんだ。僕の心はそれを良しとしない。
眉を寄せて、視線を斜め下に落とす。
「キラ。」
さんが僕の頭を軽くなぜ、小さな声で僕に呼びかけた。
顔を上げるとさんは悲しそうに笑みを浮かべた。
「納得できないなら、納得できないでいい。それが君の優しさなんだから。
みんな、納得していないし、無理に割り切れとはいえない。
でもね、このままじゃ皆が死んでしまう。それだけは分かって欲しいんだ。」
瞳が揺れる。目を合わせるとアイスブルーとエメラルドの瞳に少しだけ陰りが浮かんだ。
生き延びるためにはしょうがない。・・・それはちゃんと理解しているつもりだ。
「・・・はい。」
搾り出した僕の声にさんはただ穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
◆◆◆
船外活動のために僕らはパイロットスーツや宇宙服を着て格納庫に集まった。
軽いミーティングのためフラガ大尉の周りに円を描くようにして集まる。
説明はさっきブリッジで受けたから、本当に最終チェックの段階で要点だけを大尉は述べた。
そして、ふ、と思いついたように僕とさんに目を向ける。
「ストライクとコクーンは一応武装していってくれ。何があるか分からないからな。」
「・・・武装は俺だけでよくない?」
さんはフラガ大尉に首をかしげて問いかける。
大尉は眉を下げて少し困ったような表情を作った。
「・・・気持ちは分かるけど、もしお前が間に合わなかったらどうするんだ。」
「・・・。」
「あの、さん、僕大丈夫ですから。」
不服そうな顔をするさんに言葉をかけるとさんは眉を寄せて息を吐いた。
「ごめんね。」
「そんなっ。さんが謝ることじゃないですよ!」
僕にできることがあるならしなくては。やはりまだ乗り気ではないけれども。
「じゃぁ、さっき説明したとおりに行動。
コクーン、ストライクは補給活動をしながら回りに敵がいないか目を向けてくれ。以上。」
「了解。」
さんは腕を組んだ状態でコクリと頷き、床をけった。
それに続き各々が各自の持ち場に着く。
僕もストライクのコックピットに乗り込んでOSを起動させた。
ポッドがカタパルトに接続されて宇宙へ射出されていき、僕の番となる。
しばらくまっているとCICより発進の許可が出た。装備はエールストライカー。
「キラ=ヤマト。ストライク。行きます!」
Gが体にかかり、椅子に押し付けられるような感覚に襲われる。
この感覚も随分と慣れてきてしまった。
宇宙にでると、別の方向のカタパルトからコクーンが射出されPSを起動させ、その機体は色を白へと変化させた。
『キラ。PS起動忘れてるよ?』
「は、はい!」
コクーンからさんの苦笑交じりの通信が入り、僕は慌ててPSを起動させた。
そういえばまだこの機体は灰色のままだった。
『では、全ポッド、およびMSの二人はついて来い』
ナタルさんが通信でそういい、僕達はその後に続いた。
デブリベルト。別名宇宙の墓場。
その中を進んでいくと、壊れて無残な姿となった戦艦やMS、MAが嫌でも目に付く。
痛々しい。どうして、人は争うのだろうか。
僕は思わず目を背けた。見れない。見たくない。こんなもの。
しばらく進んでいくと随分と大きな・・・大陸にたどり着いた。
どこか見たことあるような形でそこで一つの可能性が思い辺り僕は息をのんだ。
近づいていくとそれはさらに核心となって目を疑う。
辺りを見回す。無残にもひび割れた大地。辺りにうかぶ植物達。
大地のかけら。悲しみが・・・そのまま辺りに漂っていた。
「ユニウス・・・セブン・・・?」
『降りるぞ。』
ナタルさんの言葉に僕らはその大陸に降り立つ。
ストライクからおりて、コクーンのほうをみてみるとさんがハッチから降りてきているところで
姿を目でおっていると地面に降り立ったとたん少しよろけた。
「・・・さん!?」
慌ててそちらに寄るとさんは瞳を揺らして僕を見上げた。
顔が青白い。気分が悪いのだと僕でもすぐに分かった。
「・・・大丈夫。心配しないで、キラ。」
「大丈夫ですか、中尉。」
ナタルさんが心配そうにさんの顔色を伺った。
たぶんつらいんだと思う。知っている誰かが・・・ここで亡くなったんだろう。
なのに。なのにさんは穏やかな笑みを浮かべた。
「大丈夫・・・です。・・・いきましょう。」
いくつかの班に分かれて、ユニウスセブンの中を探索する。
おそらくマンションだったと思われる建物の中に入り、一つの扉にたどりつた。
そこをあけると、ミリアリアが悲鳴を上げ、瞳をそむける。
トールがそれを気遣って肩を抱いた。
宇宙空間のため死体を分解する生物は存在しない。そこには悲劇がそのまま保存されていた。
ぼろぼろになった人形。部屋の中を漂う日常の生活物品。
・・・赤ん坊を抱いた女性の遺体。
地球軍が核を落としたのは軍事施設なんかではない。
まったく軍には関係ない農業プラント、ユニウスセブン。
平和な土地だったはずだ。それが一瞬にして悲劇の土地に変わった。
予想だにしていなかっただろう。誰も。・・・地球軍以外。
さんを見てみると口の端を噛み、つらそうに眉を下げ瞳を揺らしていた。
◇◇◇
「あそこの水を!?本気なんですか!?」
ナタルさんの言葉に僕は思わず声を上げた。
周りにいたカレッジの仲間達は心配そうに僕を見てからナタルさんをみた。
壁に背を預けてたっていたさんは閉じていた瞳を開き、静かにこちらを見守った。
「あそこには一億トン近い水が凍り付いているんだ。」
「でも・・・!ナタルさんも見たでしょう!?
あのプラントは何十万人もの人が亡くなった場所で・・・!
それをっ・・・!」
あそこはあそこだけは踏み入りたくない。
死者の眠りを妨げるような、そんな行為は絶対にしたくない。
「水はあそこしか見つかっていないの。」
「誰も・・・大喜びしてるわけじゃない。
水が見つかった!ってよ。」
「フラガ大尉っ・・・!」
「誰だって、できればあそこに踏み込みたくはないさ。
けど、しょうがねぇだろ!?俺達は生きてるんだ!ってことは生きなきゃなんねぇ!ってことなんだよ!」
自らを親指で指しながら強い調子で発せられた大尉の言葉に僕達は無言で返す。
誰も気は進まない。死者の眠りを妨げるなどしてはならないことだ。
「気は・・・進まないけど、しょうがないね。」
さんが壁から背を離し小さく微笑む。やはり顔色は少しよくない。
それに気づき、フラガ大尉が眉を下げた。
「おい・・・大丈夫か?」
「ん?俺、平気だよ。さ、作業は早いほうがいいから。
すぐにでも行こうか。」
一番つらいはずのさんにそういわれては、みんな頷くしかなかった。
それに笑顔で頷き、さんは一度天井を仰ぐ。
「あぁ・・・でもその前に。」
「?」
さんは穏やかな笑みを浮かべ皆を見回した。
◆◆◆
「折り紙の花・・・ですか。」
「なにか追悼できたらいいな・・・って。
思いついたのがコレぐらいしかなかったんだよ。」
さんは折り紙で作った花を両手でもって胸元に持っていき目を閉じる。
カレッジの皆はさんを悲しそうな瞳で見つめた。
きっと亡くなった人に思いをはせているんだろう。
僕も知っている人・・・アスランのお母さんがあそこで亡くなった。
アスランが軍に入った理由。
この戦争は悲しみが戦火を大きくした。
だとしたら、それは悲しすぎることじゃないだろうか。
「罪滅ぼし・・・にはならないかもしれないけど。これぐらい・・・はね。」
瞳を開いてさんは微笑む。
ミリアリアがそれに笑顔で返した。
「きっと。あそこでなくなった人たちも喜んでくれると思います。」
「・・・そうだね。」
嬉しそうに穏やかな笑みを浮かべたさんにつられ、僕らも笑みを浮かべた。
◇◇◇
花を折り終わって、再びユニウスセブンに降り立ち、さんとミリアリアがその花を宇宙へ放り投げた。
いくつもの花がとても綺麗に宙に漂う。僕達は瞳を閉じて、死者たちに黙祷をささげた。
許されることではない。だけどやらなくてはいけない。
僕達のこれからの行為を死者たちははたして許してくれるだろうか?
しばらくして水の積み出しが始まった。
さんは辺りの戦艦から弾薬を運んでくるポッドの護衛についているので
僕はユニウスセブンを巡回していた。
その時、ふと岩陰からぼろぼろになった船の先端が見えた。
「・・・民間船?撃沈されたのかコレ・・・?」
そういうと同時にコックピット内にアラームが鳴り響く。
動く黒い物体を確認し、ズームにしてその機体を照合する。
「強行偵察方・・・復座のジン!?なんでこんなところに・・・?」
その黒い機体はぼろぼろになった民間船らしきものを調べてからあたりに視線をめぐらしている。
「AAが見つかって応援を呼ばれたらアウトだっ・・・!」
ジンはザフトの機体。つまり、敵対している地球軍の船であるアークエンジェルを見つければ撃破に向かうだろう。
それは避けなければならない。ライフルの照準をジンに合わせる。
静かに。静かにジンが民間船から離れていく。
神経を集中させてつばを飲み込んだ。
どうかそのまま。そのまま行って。立ち去って。
どうか僕に罪を犯させないで。
願いが通じたのかジンはその場を離れていく。照準をしていた画面が大きくなった。
「よしっ・・・。」
罪から・・人を殺さすという罪から逃れれたことに安堵の息を吐くと突然画面にAAのポッドが現れた
どうしてこのタイミングに!気づかれただろうか?ジンのほうへ目をやる。
気づかないで欲しかった。相手のためにも、自分のためにも。
だが、思いもむなしくジンはポッドに気づき立ち去ろうとしていた方向とは逆方向。
つまりこちらに戻ってきた。
「・・・っ!馬鹿やろう!!なんで気づくんだよ!!」
ジンがポッドに向かってライフルを構える。
僕はっ・・・!僕は人なんて殺したくないのに!!
トリガーを引く手が震える。どうする?どうすればいい?
ジンがライフルを放ち、そのうちの一つがポッドを掠めた。
ポッドがバランスを崩す。
その状況を見てどこか冷静な頭が悟る。
やることなんて・・・一つしかないじゃないか。
僕のわがままなんて言ってられる状況じゃない。
そうじゃないと、あのポッドは撃破されてしまう。友達が死んでしまう!
嫌だ。撃ちたくなんてない。でも・・・しょうがないんだ。
ジンに狙いを定め、震える手でトリガーをひいた。
腕の一部が破損され、ジンがポッドからこちらに標的をかえる。
相手のライフルの銃口がこちらを向いた。
「っ・・・!」
今度はコックピットに照準をあてトリガーをひく。
最初に小さな爆発が起こり、その衝撃でジンがどんどんと押しやられ、連鎖的に爆発を起こし
最後に大きな爆発の光が辺り一面を覆い尽くした。
・・・僕は何をしてしまったのだろう。トリガーを握っていた震える手を離し両手を見る。
息がうまく吸えない。喉が震える。
『あ、ありがとう。キラ!』
『ま・・・まじ死ぬかと思ったぜ・・・。』
『坊主!?どうした!!』
トールやフラガ大尉の声が入ったが、僕は思わず通信を切った。
一番してはいけないことをした。
人が多く死んだ土地で、さらに殺人を重ねて・・・!
コックピットに両の拳を叩きつける。肩が震える。頬に涙が伝った。
こんなことしたくなかった。でも、しょうがなかった。
しょうがなかったんだ・・・!こうでもしないとトールたちが死んでいたんだ!
先ほどの爆発を見て駆けつけたのかモニターの中に真っ白なコクーンの機体が映し出された。
しばらくその位置にいたのだが、僕が通信を切っていることに気がついたのかコクーンはこちらに寄ってきてストライクの肩に手を置いた。
『キラ?』
「・・・さん・・!僕はっ・・・!」
振動でそのまま伝わってくる声に僕は涙声でこたえる。
この人なら分かってくれるかもしれない。あのAAにいる誰よりも僕に近いこの人なら。
その思いを告げようとしたその瞬間にまたアラームが鳴り響く。
アラームの響くほうへ顔を上げてみると赤い救難信号を出しているポッドが目に入った。
さんもそれに気づいたようでコクーンもそちらを向いている。
「救命・・・ポッド・・・?」
『キラ。・・・回収するよ?』
「・・・はい。」
さんが言った言葉に僕は小さく頷いた。
それがまた波乱の状況を作り出す原因になるとは知らずに。
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2006/02/06
あとがき