もうどれほど時間が過ぎただろうか。

もしかすると短い時間なのかもしれない。

もしかすると長い時間が過ぎたのかもしれない。

窮屈な救命ポッドの中で私は壁に体を預けた。

エネルギーを最小限に抑えるためポッドの中は暗い。

自分は白い服を着ているのでかろうじて輪郭が見えるものの、黒い服であればおそらくなにも見えなかっただろう。



『ハロハロー。』


「本当にどうしましょう?」


『あかんでー。』



紺色の髪とエメラルドの瞳を持つ婚約者がプレゼントしてくれたピンクの丸い機械が声を出す。

声を出すという表現はおかしいかもしれないが、

この友達はなぜか自分の気持ちを察してくれているような。そんなタイミングで声をかけてくれる。

同じ船に乗っていた人たちは大丈夫だろうか?そんな思いが頭の中を駆け巡る。

私は途中で脱出させられたから状況はまったくわからない。無事だといいのだが。

無重力空間なので水の中をふわふわと浮いているような心地がしていたが、突然衝撃がポッドを襲った。



「?」



隕石でもぶつかっただろうか?もしかすると損傷があったかもしれない。

そうだとしたら、私の命もここで終りとなる。

しかし、しばらく様子を見ていると移動しているようなそんな感覚を覚えた。



「あらあら・・・。」



救難信号を発見して誰かがこのポッドを回収してくれているらしい。

とりあえず助かってよかった。救命ポッドも生命維持には限界がある。

着艦したような衝撃があってしばらくすると電子音が鳴り響く。

それと同時に扉が開いて、ハロが手の名から飛び出し先に外へと出た。



『ハロハロー。ハロ、ラクス、ハロー。』


「ありがとう。ご苦労様です。」



ポッドの壁をけって浮遊しながら外に出る。

予想以上に低重力であったために私の動きは止まらず、人がいる場所を通り過ぎようとした。



「あら?あら、あら?」



周りの人の目線が私の姿を追って、それをみていると更にバランスを崩しそのまま体は離れていこうとする。

それに気づき、チョコレート色の髪とアメジストの大きな瞳をもった少年が私の手をとってその動きを止めてくれた。



「ありがとう。」


「い、いえ。」



微笑をつけてそういうと、少年は少し顔を赤らめた。

いったいここはどこだろう。知っている人が一人もいない。心細くなる。

目線を斜め下に落として、小さく息を吐いた。

そのとき、手をとってくれた少年の肩の徽章に目が言った。



「あら・・・?
 あらあら?」



その徽章が示すものが思い当たり少年の手を慌てて離す。

当然といえば当然という結果を予想だにしていなかった。



「まぁ、これはZAFTの船ではありませんのね・・・。」



あの場所はデブリベルトだったため船はめったに近づかない。

だからてっきり私を探しに来たZAFTの艦だと思っていた。

しかし、宇宙空間に地球軍がいるのも決して不思議なことではなくこれは考えられた結果だ。

しばらくの沈黙の後士官服の一人の女性がため息をつき、もう一人の士官の女性が目を大きく見開き不思議そうな声を出す。

目の前の少年は変わらず頬を染めていた。

思わず自分の頬に手を持っていって私は小さく息を吐いた。




◆◆◆




どこかの部屋の一室に女性の士官二人に連れてこられ、近くの椅子に腰をかけた。

ずっと無重力空間にいたため、重力のあるところに腰を落ち着けたのが随分と久しぶりのように感じる。



「・・・ちょっと、待っていてくださいね。
 すぐに後二人士官が来ると思いますので・・・。」


「えぇ。お気になさらないでくださいな。」



栗色の髪の女性が控えめな微笑をつけていった言葉に私も微笑みで返した。

壁際に立っていた紺色の髪の女性が小さく息を吐く。

程なくして、部屋の扉が開いた。



「わりぃ。遅くなった。ももうちょいしたら来る。」


「そう、じゃぁ・・・どうしましょうか。」



太陽のような金髪と鮮やかなスカイブルーの瞳を持った男性が入ってきた。

栗色の髪の女性がこちらをむき、残り二人の視線もこちらにむく。

私は首をかしげて、ハロを膝の上に乗せ少し微笑を浮かべた。



「ポッドを拾って頂いてありがとうございました。私はラクス=クラインですわ。」


『ハロ、ラクス。ハロ。』



膝の上のハロが耳のようなものをパタパタとして声を発した。

あぁ、そうだ。友達であるこの子もちゃんと紹介しておかなければならない。

本人が乗り気なのだから、余計にそう思う。



「これは友達のハロです。」


『ハロハロ。』



胸元までハロを持ってきて小さく首をかしげながらハロを紹介すると

士官の三人はため息をついた。なにか変なことを言っただろうか?



「やれやれ。」



金髪の男性が手で顔半分を覆うようにして明らかに落胆の声を出した。

そのとき扉のほうから小さな声が聞こえた。

それに気づいて紺色の髪の女性が扉を開いて手を腰に当てた。



「お前達はまだ積み込み作業が残っているだろ!
 さっさと仕事にもどれ!!」



その怒号にバタバタといくつも足音が離れていくのが聞こえた。

ここからでは見えないから残念なのだが、外をのぞいてみると先ほど手をとってくれた少年と目が合う。

微笑んで小さく手を振ると、その少年は少し意外そうに目を見開いて、

こちらに視線を少しだけ残して違う方向に歩いていってしまった。

・・・少し残念に思う。彼とは話してみたいと思っていたのに。

扉が再び閉まったので、私も彼の姿を追えなくなる。



「クラインねぇ・・・。」



金髪の男性がそういいながら栗色の髪の女性に視線を投げやる。



「かのプラント最高評議会議長もシーゲル=クラインといったが・・・。」


「!」


「あら!」



女性士官二人がその言葉に顔を上げた。

父の名前が出て私は思わず喜びの声を上げる

この人はもしかして父のことを知っているのかもしれない。



「シーゲル=クラインは父ですわ。ご存知ですの?」



父と私が関係あるとは予想していなかったらしく、金髪の男性は目を見開いて再び手で顔を覆ってため息をついた。

目の前にいた女性も一度驚きの声を上げてからため息をつく。



「そんな方がどうしてこんなところに?」


「私、ユニウスセブンの追悼慰霊のための事前調査に――。」


「すみません。トノムラ伍長たちが戻ってくるのを待――・・・!?」



私の言葉にかかるようにして部屋に入ってきた月の光のような銀髪で

どこか温かみを感じさせるアイスブルーと少し濃いエメラルドグリーンの瞳を持った青年が

私をみて小さく息をのみ、目を見開いた。その端正な顔には私も見覚えがあった。

あの事件以来で随分と久しい顔。



「・・・ラクス・・・・・様!」


「まぁ、様!」



一人だと思っていたが、一人ではなかった。知っている大好きな人がここにいる。

なぜか地球軍の軍服をきているがそれは何か理由があってのことだろう。

ここで聞くべきことではないような気がする。



「まさか・・・あのポッドに?」



様は驚きに目を見開いたまま金髪の男性のほうをむく。

たいする男性のほうも驚いたような表情になっていた。



「あぁ・・・って、。知り合いか?」


「え、あ、えっと、まぁ、知り合い・・・かな。」



歯切れの悪い言葉で様は曖昧に笑みをこぼした。

そして私のほうを向き、小さく首をかしげる。



「えっと・・・ラクス様、どうしてこちらに?」


「あら、そういえば話が途中でしたわね。ちょうどよろしいですわ。」



胸の前で手を合わせてそういうと様は金髪の男性と私の間辺りに移動した。

どうやら隣にいてくれるらしい。その心遣いをとても嬉しく感じた



「私はユニウスセブンの追悼慰霊のための事前調査に来ておりましたの。
 そうしましたら地球軍の船と私達の船が出会ってしまいまして・・・。」



あの瞬間、船の中の緊迫した空気は今でも覚えている。

とてもじゃないけどいい感じはしなかった。戦闘が始まる気配さえ感じられるそんな空気で。



「臨検するとおっしゃるので、お受けしたのですが地球軍の方々には
 私どもの船の目的がどうもお気に障られたようで・・・。
 些細な諍いから船内はひどい揉め事になってしまいましたの・・・。」



目の前の女性の眉根が寄せられる。

船内の今にも切れそうにぴんと張った糸。

本当に些細なことで今にも互いが爆発しそうだった。

目を閉じればついさっきのことのように思い出される。



「そうしましたら私は周りの者たちにポッドで脱出させられたのですわ。」


「なんてことを・・・。」


「それでー・・・あなたの船は?」



金髪の男性が言いにくそうに私に声をかける。

おそらく大体の予想がつけられる事態。



「・・・わかりません。」



自分が脱出させられた。ということはそれほど船内は危ない状況であったということだ。



「あの後、地球軍の方がお気を静めてくださっていればよいのですが・・・。」



私も皆と一緒にと。そう言うと強い笑顔で首を振られた。

あとから必ず追いかけると。

手を伸ばしたポッドの扉の向こうの強い笑顔が頭を離れない。

隣でさんが瞳を伏せた。



「そう・・・ですか。わかりました。
 ラクスさん・・・申し訳ないけど、これからあなたは軟禁状態ということになります。
 ごめんなさいね。でも許してちょうだい・・・。」



栗色の髪の女性が本当に申し訳なさそうに言葉を発した。

仕事に戻るため周りの士官達が動き出す中、様だけが壁に体をつけた。



・・・?」


「フラガ大尉、ちょっとラクス様と話してもいいかな?」


「・・・わかった。護衛は俺が変わっておく。」


「ありがとう。」



様は柔らかな笑みを浮かべてフラガ様と呼ばれた大尉を見送り、

扉の向こうに姿が消えたのを確認すると私の肩をつかみ、人が変わったように必死な剣幕で詰め寄った。



「どうして・・・!どうしてあなたがここにおられるんですか!?
 あなたは・・・戦場にいてはいけない人だ・・・!
 ご自分の利用価値をお分かりになっていらっしゃるんですか!?」



押し寄せるような言葉。おそらく私をみてからずっと我慢していたのだろう。

眉根を寄せて、アイスブルーとエメラルドの瞳に苦痛の色をにじませて。

私が何も言わずにただ瞳を見返すと、様ははっと傷ついたような色を瞳に浮かばせた。



「すみません・・・ラクス様。つい、取り乱してしまい・・・。
 あなたがご自分の意思でここにおられるわけではないということは重々承知しているんです・・・。」



様は額に手をあて深くため息をついた。



「俺も・・・まだ感情をうまくコントロールできるほど大人じゃないんです。すみません。」


「あら、でもそれは様の優しさからでしょう?」



そういうと、様は驚いたような表情で私をまじまじと見つめた。



「私を戦争に巻き込みたくないというあなたの思いからでたお言葉じゃありませんの?」


「それは・・・!」



先ほどの少年と同じように様は頬を少し高潮させて一、二歩退いた。

この青年はとても優しい人で他人のことまでも自分のことのように考える。

私の利用価値のことはわかっているつもりだ。

私一人で戦争が傾く。利用価値はいくらでもある。

それに利用され、私の心が傷つくことをこの人は心配してくれているのだろう。



「ラクス様・・・俺は・・・そんなできた人間じゃありません。」


「ラクスとおよび下さい。様。
 いいえ、あなたは・・・優しい人ですわ。それは隠しても隠し通せるものじゃありませんの。」



にっこりと笑うと様は恥ずかしそうに私から目線をそらした。

優しさというものが彼からはにじみ出ている。彼の周りの空気は穏やかでとても暖かい。

それは人情味から来るものでこれだけのやさしさがなければそれは作り出せないものなのだろうと思う。



「ラクス様・・・。」


「あら、だからラクスとおよび下さいな。様。
 変えていただくまで私は言い続けますわよ?」


「・・・では俺もとお呼び下さい。ラクス。」


「はい。」


照れくさそうな笑みと共に発せられた言葉に私は笑顔で頷いた。



「これからご不便をかけると思いますが・・・どうか、我慢してください。」



眉を下げた笑みでは私の頭をなぜた

私にこのようなことをしてくれる人はほとんどと言っていいほどいない。

目を閉じて少しその心地を味わった。



は・・・お兄様のようですのね。」



私のその言葉にはとても嬉しそうに柔らかな笑みを浮かべた。



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2006/02/07


あとがき

お分かりかもしれませんが、主人公ZAFT脱走にラクス様も一枚噛んでいます。
だから驚かないんです。そして主人公LOVEなんです(意味不)
タイトルはそのまま使いました。これがぴったしかなぁと思いまして。
考えるのが面倒だったという話もありますが・・・