『だが君は裏切り者のコーディネーターだ。』
にんまりと悪意に満ちた笑みでアルテミスの士官に言われた言葉。
それが頭の中によみがえった。
裏切り者・・・?僕が?
仲間を裏切っているつもりなんてない。僕はただ友達を守りたいだけなのに。
それなのにどうしてそんなことを言うのか。
さんに話して少しはすっきりしたものの、やはりあの一言は僕の心に染み付いて抜けない。
「裏切り・・・者。」
先ほどユニウスセブンで撃った黒いジン。
僕が放ったライフルで次々と爆発して、宇宙の塵となってしまったあの機体。
アレも仲間に対する裏切り行為・・・?
でも・・・でも、あの機体は今は僕の敵で・・・。
「あ・・・。」
あのジンはもしかして・・・。
一つの可能性が浮かび上がり僕は何かにずるずると闇に引き込まれるような感覚を覚えた。
・・・なんてことをしてしまったのだろう。
カツンカツンと背後から足音が聞こえ、とっさに振り返る。
その先には月の光のような銀髪とアイスブルーとエメラルドの瞳を持った青年が不思議そうな面持ちで立っていた。
「・・・キラ?」
「・・・さんっ!!」
そちらにかけよるとさんは一瞬驚いたような顔をしたものの、
次の瞬間には僕の頭を胸に預けなだめるように抱きしめてくれた。
「・・・キラ・・・どうかした?」
その優しい声に、知らずの内に涙が頬を伝う。
僕はこの優しい人に寄りかかりすぎているかもしれない。
なんどこの人の前で涙を見せたか。
でも、一人で抱え込むには大きすぎる問題で。
かといって同じカレッジの仲間達に話すのにも大きすぎる問題で。
「僕・・・彼女に・・ひどいことを・・・!」
「・・・ひどいこと?」
「彼女を・・・助け・・に来たジンを僕が撃破し・・・て!
僕の・・・せいなんです!!僕がジンを撃破しなかったら、彼女はここにいなくてすんだんです!!
なのにっ・・・僕は・・・!」
「・・・。」
さんは何も言わずに僕の頭をなぜる。
胸から心臓の音が聞こえる。それは随分と落ち着いたもので僕の気持ちも次第に落ち着いてきた。
「・・・でも。」
さんが言葉を発し僕は顔を上げた。
やわらかく微笑むオッドアイと視線が合う。
「でも、キラが撃たなければ友達は死んでた。
それだけじゃない。応援をよばれてAA自体が危なかった。違う?」
確認のようにゆっくりと優しく穏やかな言葉でそう問いかけられる。
耳から入ってきて自分の中にしみこむようなそんな優しい調子の言葉。
「俺はね・・・何があろうとキラの味方だから。」
抱きしめられる力が強くなる。
「だから、一人で抱え込まなくていいんだよ。」
「!?」
糸が切れたように次々と目から涙が溢れ出す。
零れ落ちたビーズはとどまることを知らなかった。
しばらくして僕の涙が収まったことをさんは顔を覗き込んで確認し
僕の手を引いて食堂にやってきた。
「嫌よ!」
「フレイ!」
「嫌ったら、嫌!」
「なんでよぉ!」
フレイとミリアリアの声が僕らの耳に届く。
何事かと二人で目を合わせてから食堂の内部に入り近くにいたカズイに声をかけた。
「どうしたの?」
「・・・あの女の子の食事だよ。」
カズイがため息をつきながらそういった。
言われて視線をミリアリアとフレイのほうへ向けてみると、確かに食事を挟んで言い合っている。
ミリアリアがこっちを向いて、さんは小さく首をかしげた。
「ミリィがフレイに持っていって。っていったらフレイが嫌だ。って。
それでもめてるだけさ。」
カズイがこちらを向き、僕が驚いて声を失っているとさんが小さく息を吐いた。
それに気づきフレイはこちらに視線を向ける。
「フレイ・・・どうして?」
「どうしてって・・・。
私は嫌よ!コーディネーターのこのところに行くなんて。
・・・・怖くって。」
斜め下に視線を落としながら言ったフレイの言葉が僕の心に突き刺さる。
あぁ、そうか。僕達コーディネーターは彼女達にとっては脅威の対象にもなりうるのだ。
だからこそこの戦争が起こった。
「そう・・・。」
「フレイ!」
さんの沈んだ声と、とがめるようなミリィの言葉に気づいて、
フレイは胸の前で手をあわせ僕達に視線を向ける。
「も、もちろんさんとキラは別よ。それは分かってるわ。
でも、あの子はザフトの子でしょ?」
カズイが気遣うようにこちらに視線を向ける。
さんも僕の手を握っていた力を少し強めて僕に微笑を向けた。
わかってはいるんだ。コーディネーターとナチュラルの壁みたいなものは。
だけど頭で分かっていても心はそれについていかない。
「コーディネーターって頭いいだけじゃなくて、運動神経もすごくいいのよ!
なにかあったらどうするのよ!・・・ねぇ?」
「フレイ!」
フレイがコーディネータである僕達二人に向けて同意を求めるような行為をとりミリアリアが再びとがめる。
カズイはやれやれとでもいうように息を吐く。
「でも、あの子はいきなり君に飛び掛ったりはしないと思うけど。」
「そんなのわからないじゃない。
コーディネーターの能力なんて見かけじゃ全然分からないんだもの!
すごく強かったらどうするの!?・・・ねぇ?」
再び向けられた言葉に僕は押し黙る。
対するさんは困ったように笑みを浮かべた。
この状況でもこのような態度を取れるこの人はやはり大人で自分はなんて子どもなのだろうと思う。
自分の気持ちをまっすぐに外に出すことは悪いことではないけど、それでは世間は渡っていけない。
「でも、ラクスは――・・・。」
「あら、誰がとても強いんですの?」
『ハロー!元気?お前もな。』
さんの言葉をさえぎった声に僕らは驚いて食堂の入り口を見る。
そして驚いたように全員目を見開く。但し、さんを除いて。
「・・・ラクス。」
「あら、。こちらにいらしたんですのね。」
そのピンクの髪の少女はさんににっこりとした笑みを向けてから辺りの空気を察して、
胸の前で静かに両手をあわせた。どうやらラクスさんという名前らしい。
「まぁ、驚かせてしまったのならすみません。
私、喉が渇いて・・・。それに笑わないでくださいね。大分お腹もすいてしまいましたの。」
驚いている僕らを特に気にする風でもなくラクスさんは歩みを進める。
さんは僕の隣でただ苦笑を浮かべていた。
「こちらは食堂ですか?何かいただけるとうれしいのですが・・・。」
「って、ちょっと待って!」
辺りを見回し再び歩き始めた彼女に、僕はふと我に返って呼び止める。
彼女は驚いたように瞬きをしてから首をかしげた、そして再び歩き出してフレイ達のほうへと近づく。
「鍵とかってしてないの・・・?」
「・・・してたはずだけどね・・・。やっぱりあの程度のロックじゃ意味なかったかな。」
彼女を指差しながら言ったカズイの言葉にさんは相変わらず苦笑を浮かべながら彼女を視線で追う。
「やだ!何でZAFTの子が勝手に歩き回ってるの!?」
近づいてきたピンクの髪の少女にフレイは片手を己の頬に当てて、声を上げる。
それにきづき、ラクスさんは歩みを止めた。
「あら、勝手にではありませんわ。
私ちゃんとお部屋で聞きましたのよ?
出かけてもよいですかー?って。それも三度も。」
口の横に手を当ててジェスチャーのようにして彼女はそういう。
しかし、それって聞いている人がいないのなら意味がないのでは・・・?
さんが笑いをこらえてるように小さく震えた。
「ラクス・・・それは許可が出てなかったら意味はないよ?」
「あら、そうですの?」
頬に手を当ててラクスさんはさんのほうを見る。
それからフレイのほうに視線を合わせた。
「それに私はZAFTではありません。
ZAFTは軍の名称で正式には
Zodiac Alliance of Freedom ――・・・。」
「な、なんだって一緒よ!コーディネーターなんだから!!」
ラクスさんは驚いたように目を見開いて小さく首をかしげた。
「同じではありませんわ。
確かに私はコーディネーターですが、軍の人間ではありませんもの。」
確かにそうだ。当たり前のことを今更のように納得する。
ラクスさんはフレイの格好を見て、フレイが軍服を着ていないことに気がついたようで笑みを深めた。
「あなたも軍の方ではないのでしょう?
でしたら、私とあなたは同じですわね。」
ラクスさんはいちど胸元に手を持っていってから、その手を握手するようにフレイに差し出した。
一瞬さんの気配が揺らぐ。気になってそちらを見てみると少し眉根を寄せて、心配そうな面持ちをしていた。
「ご挨拶が遅れました。私は――・・・。」
「ちょっとやだ!やめてよ!!」
差し出された手を見てフレイが一、二歩退き声を上げた。
ラクスさんは小さく声を上げて驚いたような表情を浮かべる。
「冗談じゃないわ!なんで私があんたなんかと握手しなきゃなんないのよ!!」
瞳が揺らぐ。
フレイの言葉はラクスさんにいっているようで、
それは僕達コーディネーターすべてに向けられたもの。
つまり僕に向けられた言葉同然。
「コーディネーターのくせに馴れ馴れしくしないで!!」
後ろから鈍器で殴られたような衝撃に襲われる。
食堂の中の空気が張り詰める。
ガラス細工が床に落ちて壊れる。そんな気配に似ていた。
僕の手を握っていたさんの力が強くなる。
つらそうな表情。友人にそのように言われてつらくない人なんていない。
ただラクスさんが連れていたピンク色の丸いロボットだけが動いていた。
「・・・キラ。」
その空気を破るかのようにさんがやわらかく声を出した。
驚いて顔をあげてみると穏やかな笑みにぶつかる。
さきほど僕の手を強く握ったのだから、さんだってつらいはず。
なのにどうしてこの人はもうこんなに穏やかな笑みを浮かべているのだろう。
「ラクス・・・つれて部屋に戻って。場所は分かってるよね?
あと、食事も一緒に。・・・俺はちょっとブリッジにいってくるから。」
ゆっくりと僕の手を握っていた手を離して、さんは食堂を立ち去る。
その場から逃げ去るような行動から、やはりこの人もつらいのだと思った。
フレイが憤然とした面持ちで近くの椅子に腰をかけた。
「・・・ラクスさん。僕が運びますからついてきてください。」
僕がそういいながらトレーをもつとラクスさんは残念そうに微笑んだ。
廊下をあるいていても空気はやはり重く、お互い言葉を発しない。
空気を読めないのだからしかたがないのだけどロボットだけが場違いに騒いでいた。
ラクスさんが最初にいた部屋にたどり着き、ロックナンバーを入力して中に入ると後ろからため息が聞こえた。
「また、ここにいなくてはいけませんの?」
残念そうな声に顔を向けてみるとラクスさんは立ったままで眉を下げていた。
彼女も当然つらいはずだ。差し出した手を叩き落とされたも同然なのだから。
しかも地球軍の船の中で一人。
「えぇ、そうですよ。」
「つまりませんわ。ずっと一人で。
私も向こうでみなさんとお話しながらいただきたいのに・・・。」
『こんにちわー。』
丸いピンクのロボットがよく分からない言葉を発した。
さすが低重力に慣れているようで、ラクスさんは床をけってから椅子に座る。
それをみとどけ、僕は苦笑を浮かべる。
「これは地球軍の船ですから。
コーディネータのこと・・・そのあまり好きじゃないって人もいるし
てか・・いまは敵同士だし・・・。」
『ラクスー。』
僕はその言葉を言いながら目線を下に落とした。
本来、僕にも当てはまる立場。でも、僕は地球軍にいてMSを操っている。
これは裏切り者になるのだろうか・・・?
「残念ですわね・・・。」
『お前もなー』
とてもいいタイミングでロボットが音を出す。
お互いコーディーネーターでこの船で置かれている状況は酷似している。
何も言わない僕にラクスさんは微笑を浮かべた。
「でも、あなたはやさしいんですのね。ありがとう。」
その言葉に顔を上げると花のような笑みが瞳に映った。
ポッドからラクスさんが出てきたときもそう思ったのだが、この人は綺麗だ。
人をひきつける何かを持っている。自然と頬に熱が上がった。
「僕は・・・僕もコーディネーター・・・ですから・・・。」
目線をそらしながら言った僕の言葉にラクスさんは小さく首をかしげた。
「そうですか・・・でも、あなたが優しいのはあなただからでしょう?」
「え・・・?」
驚いて声を上げると、ラクスさんは笑みを深くして少し身を乗り出した。
僕の優しさ・・・?一度さんに言われた言葉だ。
あの時はまた違う状況だったけれども。
「お名前を教えていただけます?」
「え、あ・・・キラです。キラ=ヤマト。」
「そう。ありがとう。キラ様。」
照れくさくなり、頭に手をやって答えるとラクスさんは華やかに笑みを浮かべた。
さんと同じような言葉を言ったこの少女に少し心を癒されたような気がした。
・・・さん?
「あの・・えっと、ラクスさんはさんとどういった・・・。」
「あら。との関係ですか?・・・この場合はいってもいいのかしら。」
ラクスさんは困ったように眉を下げ、頬に手を当てた。
「さんが・・・元ZAFTだっていうことは知って・・・ます。」
「・・・。」
尻すぼみになる言葉にラクスさんは首をかしげて真正面から僕の目を捉えた。
「それだけではまだ不十分かもしれませんわね。
・・・お友達ですわ。まだがプラントにいた頃の。
これぐらいしかいえませんの。」
「・・・そう・・・ですか。」
僕の知らないさん。
彼女はそれを知っている。素直にうらやましいと思う。
僕はあの人の心の中にまだ踏み込ませてもらえていない。
「あ、僕、そろそろ失礼します。」
「えぇ、キラ様。楽しかったですわ。ありがとう。」
ひらひらと小さく手を振られて、軽く笑みを返して外に出るとサイがこちらに寄ってきた。
「キラ!ミリィから聞いた。」
それがフレイのことを示すのだとわかり、僕はまた沈んだ気持ちになって目線を下に落とす。
サイが僕の肩に手を置いた。
「あんまり気にすんな。フレイには後で言っておく。」
心遣いがありがたくサイの方に顔を向けると、扉の向こうから歌声が聞こえサイがそちらを向いた。
僕も驚きに目を見開き、扉のほうを向いた。
『静かなー・・・この夜にー・・・。』
とても澄んだ声。心に響く。優しい歌。
先ほどの会話を思い出して思わず笑みを浮かべた。
彼女のおかげで少し癒されたのだ。同じコーディネーターである彼女に。
「あの子が歌ってるのか・・・?綺麗な声だな・・・。」
「うん。」
サイがポツリともらした感想に僕はなんだかうれしい気持ちになる。
自分のことではないのだけれど、自分の事を褒められているような、そんな感じがした。
「でもやっぱ、それも遺伝子弄って、そうなったもんなのかな。
さ、行こうぜ。俺達も飯食わなきゃな。」
微笑みながらそういったサイの言葉が突き刺さる。
食堂に行くため、サイは歩き出したために僕の表情には気づかない。
サイに悪気はなかったのだと思う。
だが、それが逆に。コーディネーターとナチュラルの壁みたいなものを感じさせた。
彼らと僕とは同じようで違うのだと。
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2006/02/09
あとがき
今更ながらに裏切り者をリフレインさせてみました。
あの言葉重要なのに書き忘れてたんですよ!
あー。でもこの話の中ではガルシアさんに言われたわけじゃないんですけどね。
ほら、ガルシアさん・・・最中だから(ぇ)
そして不完全なキラ様が好きです。
うん。悟りきってない頃のキラ様。
主人公さんに頼りきってる感じのそんな子どもの。
主人公さんもいろいろ葛藤して欲しいです。