展望室みたいになっている所でひとしきり泣いた後、

僕は部屋に戻ってベットの上で一人膝を抱えていた。

周りのみんなはもう夢の世界に旅立ってしまっているようで驚くほど静かだ。


思いっきり泣いた気がする。

涙を流す事は頻繁にあるけど、声を出してなくという事はめったにない。

それほどにフレイの言葉は僕の心を切り裂いた。

僕はいつも本気で・・・一生懸命戦っている。

・・・でもアスランとは・・・?


再び気が沈んで膝に頭をつけた。

さんの顔が浮かんできて僕は複雑な気分になる。

寄りかかる胸があったから。思わず気を許して泣いてしまった。

あの人は本当に優しくて暖かい。あの人の空気は包み込んでくれるものがある。



さん・・・。」



僕の痛みを共有してくれる人。

以前フレイがラクスにひどいことをいったときも謝る必要なんてないのに僕に謝ってくれた。

さんも傷ついてるはずなのに責任感の強い人なのかな・・・。



温かい胸の中を思い出して、頬が少し火照った。

今更ながらに恥ずかしい・・・でも心地よかった。

僕は寄りかかりすぎているだろうか・・・?

僕とラクスさんの話を言葉少なく聞いていたさん。

会話に入れない、といった風じゃない。ただ包み込むように。

見守るように。温かく。



「あ、そうだ・・。」



問題が一つあった。ラクスさんだ。

今一番の問題なのに今更ながらに気がついて僕は自嘲気味の笑みを浮かべた。

僕の肩に止まっていたトリィが僕を心配するかの様に何度もなく。

指を差し出すと、それに飛び移って、トリィは首を傾げて見せた。



『アスラン=ザラは私がいずれ結婚する方ですわ』




ラクスさんの笑顔が頭の中に甦る。そっかアスランの婚約者なんだ。

返して・・・あげたいよね。瞳を少し伏せるとトリィが再び首を傾げた。

決めた。僕は瞳を開く。



「やっぱり・・・だめだよ。こんなの!」



ベットから抜け出して、僕は足をラクスさんの部屋のほうへと勧めた。

トリィが羽ばたいたが、僕についてくる気配は無さそうだ。

誰にも会わずにラクスさんの部屋のにたどりつき、

扉を開けるとおとなしくしていたハロが動き出した。

ここで人に気付かれては困る。



「しっ。ハロ。静かに!」


「・・・キラ?」


「え・・・?」



室内にいるはずのない声が聞こえて、僕は思わず目を見開いた。



・・・さ・・ん。」


「やっぱり来ちゃったんだ。」



ラクスさんが眠っているベットに腰をかけて、

眠っているラクスさんの手を握ったさんの姿がそこにあった。

あれ・・・なんだろう。なんか心がもやもやとした気分になる。



「ん・・・どうしましたの・・・・?あら、キラ様。」



ラクスさんが少し身じろぎして、上半身を起こした。

そして寝ぼけ眼で僕のほうをみて小さく首を傾げる。



「どうなさいましたの?」



僕は口元に人差し指を持ってくる。



「黙って、僕についてきてください。
 静かに・・・。」


「あ・・・。」


「キラ。」


さん。あなたを巻き込みたくありません。見逃してください。」



眉根を下げてさんの方をみて懇願すると。

さんは穏やかに笑みを浮かべて見せた。



「・・・見逃すわけにはいかない。」


「なんで・・・っ!?」


「俺もラクスを逃がすつもりだったから。
 ・・・・協力させて?キラ。」



少し意地悪をされたのだと気がついて僕は目を丸くした。

さんでもこんなことするんだ・・・。



「でも・・・。」


「いいの、いいの。ほら行くよ?」



絶対迷惑をかけることになる。断ろうと口を開くが

強い笑みを浮かべられ、僕は背を押された。



「えっ?」


「ラクス着替えるから。外で待っておこう?」



ね?と小さく僕に首を傾げてからさんはラクスさんの方を見た。

するとラクスさんは頷き、笑みを浮かべた。



扉の前で暫く待っているとラクスさんが着替え終わって出てきたので

僕達は連れ立ってロッカールームに向かった。


その途中でサイとミリアリアの姿が目に映り、背筋に汗が伝う。

絶対にばれちゃ駄目だ。

柱の後ろにラクスさんを隠して僕はそこに立ち、さんも足を止めラクスさんを隠すような位置にたった。



「ん?・・・あ、キラとさん?」


「え?」



サイが此方に気付きミリアリアも視線をこちらに向けた。

中途半端な笑みを浮かべてそれに返す。


頼むから気付かないで欲しい。

しかし、そんな思いも虚しくハロが音を出して、挙句に

ラクスさんはさんの肩を持って横から覗くようにサイたちの方を見た。



「え!?」



二人は同じような声を出し、驚きに目を見開いた。

僕は眉根を寄せて苦い表情を浮かべ、ラクスさんはただ微笑み、さんは苦笑を浮かべた。



「なにやってんだ・・・お前?・・・さんも。」


「彼女どうするつもり?・・・まさか!?」



サイとミリアリアが此方に近づいてきて、恐る恐る声をかけた。

多分、なにやるかはわかっているんだと思う。

だけどそれを否定して欲しいという気持ちが現れているような言葉。

けど・・・っ。ここで止めるわけにはいかない。



「サイ、ミリアリア。見なかったことにしてくれないかな?」


さん!」



穏やかなさんの言葉にサイが噛み付くように言う。



「黙って行かせてくれっ!サイたちを巻き込みたくない!」



驚いたようにサイが僕を見遣った。

ミリアリアは僕とさんを交互にみて、瞳を揺らしている。



「僕は嫌なんだ!こんなのっ・・・!」


「・・・ねぇ。お願い。わかってくれないかな?
 俺もラクスをこのままにして置けないんだ。」



さんの言葉に一度サイはそちらに視線を向けたものの

僕と両方譲らず、ずっと目線を合わせていて、

ミリアリアが不安そうに僕達とサイを交互に見ていた。



「サイ。」



再びさんの穏やかな声がかかってサイは諦めたように息を吐いて、頭をかいた。



「女の子を人質に取るなんて、本来悪役のやることだしな・・・。」



サイの言葉に驚いて目を見開き、息を呑む。

さんの方を見遣るとさんは穏やかな笑みを返した。

・・・ということは大丈夫・・・?



「手伝うよ。」


「サイ・・・・。」


「有り難う、サイ。」



サイの一言で空気が柔らかくなった。

不安そうな表情を浮かべていたミリアリアにも笑みが戻る。

僕はこの二人とさんを巻き込む。だけど、ラクスさんはこのままにしておけない。

僕は決意を固めて気をひきしめた。



「まずはロッカールームに。」



僕の言葉に全員頷いた。

その後も人に気付かれないように気をつけながら、

ロッカールームにすすみ僕とラクスさん、さんがその中に入った。

サイとミリアリアは外で人が来ないか見張ってくれている。



「・・・この場合はパイロットスーツじゃないほうがいいかな・・・キラ、どう思う?」



さんがロッカーを探りながら声をかける。

パイロットスーツは体にフィットするように作ってあって、少し窮屈だ。

それを考えると、なれないパイロットスーツは彼女は着るべきでは無いと思う。



「・・・ユニウスセブンに行った時ミリアリアたちが着てた防護服はどうですか?」


「あ、それいいかも。ラクス。それでいいですか?」


「えぇ、かまいませんわ。」



さんが防護服を取り出し僕に手渡した。

それを受け取って、ラクスさんに視線を向ける。



「これ着て。その上からで・・・・。」



大丈夫じゃ無さそうだ。

ラクスさんの服は長めの大きなスカート。

とてもこの防護服の中に入るとは思えない。

不躾にもラクスさんの格好をじーっと見ていると、

ラクスさんは目を丸くした後、さんの方を見遣り

さんが苦笑しながらスカートに視線を映すとあぁ。と納得したような声を出した。

そして、肩の部分からスカートを脱いでいく。



「え・・うわぁ・・・えぇ!?」



僕が驚きに目を見開いてその様子を見ていると

さんは少し頬を染めて、視線を逸らした。



「・・・キラ。そんなに見ちゃ駄目だよ。
 ラクスも非常時とはいえ、一応断らなくてはいけませんよ?
 キラもあなたもお年頃なんですから。」


「あら、。でもこうするしかありませんでしょう?」



視線をそらしたまま溜息をついて言うさんに

ラクスさんはくすくすと微笑みながら僕から防護服を受け取ってそれを身に着けた。

とりあえず、着てみたもののスカートのやり場に困る。



「えっと・・・さんこれどうしましょう?」


「そうだね・・・ラクス。その中、はいりそうですか?
 あ、そうだ。キラもパイロットスーツ着て。」


「あ、はい。」



さんに言われて僕もパイロットスーツに着替えだす。

ラクスさんは自分の体を触ったり防護服を引っ張ったりしてからさんを見上げた。



「えぇ、お腹辺りが随分と余裕がありますわ。」


「じゃぁ、そこに。」



中年のおじさんが着ても入るように防護服って作られているから

細いラクスさんにはお腹周りは大きすぎたらしい。

さんがスカートを手渡すとラクスさんはそれをお腹辺りにつめた。



「さ、行こうか?ラクス、キラ。」



僕がパイロットスーツに着替え終わり、ラクスさんが防護服を着終わるのを見届けると

さんは先立ってロッカールームを出た。

僕達がロッカールームから出るとサイが一瞬ぎょっとした顔つきになった。

何度か瞬きをしてからサイの視線を追ってみるとその先はラクスさんのお腹。



「?」


「や・・・いきなり何ヶ月って・・・。」



僕とミリアリアは呆れたような溜息をつき、さんはただ小さく苦笑を浮かべた。

そのままの流れで僕達は格納庫に向かう。

なんどか危ない場面に出くわしたけど誰にも気付かれずになんとか格納庫にたどりついた。

格納庫の中に誰もいないことを確認するとさんだけが違う方向に進み、僕達はストライクの方へ向かった。

コックピットの中に入りサイに連れられてきたラクスさんの手をとり

ラクスさんをコックピットの中に招く。



「ありがとう。」


「いえ。」


「また、お会いしましょうね。」


「・・・それはどうかな。」



呑気なことを言うラクスさんにサイ達は苦笑で返した。

ラクスさんは少し驚いたように目を丸くした。

僕はコックピット内に目を走らせて、細かい調整をしていく。



「キラ・・・お前は帰ってくるよな。」



その言葉に僕は機械に走らせていた視線を上げた。

サイは何を・・・いってるんだろう?



「おい!お前ら!!何してるっ!・・・って!!止めろ!!」


「キラ!!ハッチとかの管理権ストライクに移したから、後は何とかして!」


「はい!!」



さんはマードック軍曹の腕をつかんで、動きを止めながら眉をさげてそう叫んだ。

そちらに視線をやってからサイは再び僕に視線を向けた。



「お前は帰ってくるよな?俺達のところに・・・!」


「・・・必ずね。」



僕は僅かに微笑んでサイに言葉を返した。

この友達をおいて何かいけるはずないじゃないか。

それにここにはさんもいるんだ。



「約束する!」



その言葉を言い残して僕はコックピットを閉めた。



「きっとだぞ!!約束だぞ!!」



サイの言葉が聞こえた。

なんだ、なんだと格納庫の中が騒がしくなってきた。



「キラの邪魔しないでください!」



さん声が聞こえた。

僕はOSを起動させてストライクを歩かせる。

キーボードに手を走らせると、装備、ハッチの解放など発進に関する全てを

ここからできるように管理権が移っていた。あの短時間にこんなことを・・・・。



さん・・・。」



呟いた言葉にラクスさんは小さく首を傾げた。



「・・・・ハッチ解放します!退避してください!!」


「きっとだぞ!キラ!!俺はお前を信じてる!!」



サイの言葉が耳に残り、ハッチを開くようにキーボードに手を走らせる。

それと同時にアラームが鳴り響いた。ゆっくりとハッチが開く。



『キラ=ヤマト!!何をしている!!』



CICからナタルさんの声が響いた。

だけどそれを気にしている暇はない。

僕はエールストライカーを装備して、カタパルトに接続した。



「行きます。つかまっててください!」



僕の言葉にラクスさんはただ笑みを浮かべた。

宇宙に放り出され、僕はPS装甲を展開して、後方にいるナスカ級に向かう。

そして、全信話放送を流した。



「こちらストライク!AA所属のMS!!ラクス=クラインを同行、引き渡す!!
 但しナスカ級は艦を停止!イージスのパイロットが単独で来る事が条件だ!!
 この条件が破られた場合、彼女の命は補償しない!!」



それだけ言って僕は息を吐いた。

ラクスさんは驚いたように目を丸くする。

お願いだから条件を飲んで欲しい。

ラクスさんを殺すために僕はここに彼女を連れてきたわけじゃない。



暫く待っているとナスカ級が動きを止めて、イージスが此方に飛んできて

僕の前で動きを止めた。ビームライフルを僕は構えイージスに向ける。

一瞬静かな時が流れた。僕はイージスに通信を繋げた。



「アスラン=ザラか・・・・?」



『そうだ。』



イージスからアスランの声が返ってくる。

僕は少し緊張してつばを飲み込んだ。そして同時に哀しくなる。

友達同士なのに銃を向けて警戒態勢に入らなければいけないなんて。



「コックピットを開け!」



イージスのコックピットが開いたことを確認して僕もストライクのコックピットを開いた。


「話して。」


「え?」


「顔がみえないでしょ?本当にあなただってことを分からせないと・・・。」



ラクスさんにそう声をかけるとラクスさんはあぁ、と納得したような声を出して

アスランに向かって手を振った。



「こんにちわ。アスラン。お久しぶりですわ。」


『てやんでぃ』



それに続くようにハロが声を出し、少し戸惑ったような間があってから

アスランの声が返ってきた。



『確認した。』


「なら、彼女を連れて行け!」



命令口調でそういう。アスラン・・というか友達に命令とかはしたくないのに。

僕の言葉をきいてアスランはシートベルトを外してコックピットの外に出てきた。



「さぁ。」



それを見てラクスさんと視線を合わせて、ラクスさんの肩を持ってアスランのほうへ押しやる。

無重力空間の中をラクスさんが漂って、アスランの方へ飛んでいった。

彼女とはここでお別れなのだということを改めて認識させられ、どこか哀しくなった。

同じコーディネーターで僕の心を癒してくれた彼女とはここで別れなければいけないのだ。

イージスにたどりついたラクスさんはアスランに手をとってもらってから此方を向いた。

アスランがラクスのお腹をみて一瞬ぎょっとしたのが見て取れた。



「いろいろと有り難う。キラ。
 ・・・アスラン。あなたも。」



アスランは騎士のような態度でラクスさんの手をとったままに小さく頭を下げた。

少し穏やかな気分になる。これできっとよかったのだ。



「キラっ・・・!お前も一緒に来い!」



アスランが僕に向かって必死の形相で言葉を発した。

一緒に行く・・・?・・・僕の心を惑わさないで欲しい。



「お前が地球軍にいる理由がどこにある!!」



理由なんて、そんなのは決まっている。

・・・大切な人たちを守りたいから。



「僕だって、キミとなんか戦いたくない!」



頭の中にAAにいる友人達の顔が思い浮かび、最後にさんの顔が浮かんだ。

友達を残していけるはずがない。あの人のもとを離れたくない。



「でも、あの船には守りたい人たちが・・・友達がいるんだ!!」



知らずのうちに目の端に涙が浮かぶ。

そして感情に任せてアスランに言葉を投げた。

アスランが辛そうに顔をゆがめた。一度下を向いてからアスランは顔を上げる。



「ならば仕方ないっ!!次に会う時は俺がお前を撃つ!!」


「僕もだっ・・・!」



お互いそんなことはしたくない。

だけど道が分かれてしまうというならば、それしか方法がない。

コックピットをしめて、イージスから離れながら僕はビームライフルを下げた。














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2006/02/25


あとがき

ラクス様、お帰りになられました。
あ、主人公さん別に疚しいことしてないですよ!
単にお話していて、少しさびしそうだったから寝るまでついていて
そのままぼーっとしてただけです。
・・・あ、でも寝顔見てたのはどうなんだろう(ぇ)
どこまでもマイペースなお嬢が好きです。