信じられないほど気持ちは穏やかだった。
無機質な。生活感など微塵も感じないこの独房にいれられていても
とりあえずラクスを地球軍に引き渡す事がなくてよかったとそういう思いが一番強くて。
自分でも信じられないほど気持ちは穏やかだった。
さきほどのラミアス艦長の言葉からして民間人であるキラには刑が科せられる事はないだろう。
今のところ心配なことは思い当たらない。
「よかったー・・・。」
簡易ベットに横たわり俺は天井を見上げた。
暗い壁。そのまま闇が俺に降りかかってきて闇に溶けていきそうだ。
瞳を閉じて体を休める。もうすぐ第8艦隊とも合流する事だし俺が心配することはそうない。
そんなことを思っていると、慌しい足音が近づいてきた。
なにか俺の刑に不都合でもあっただろうか。
上半身を起こしてその来訪者をまつとその来訪者はアメジストの大きな瞳に涙をためてこちら見ていた。
・・・あぁ、そうだ。この子のことだ。心配するのは目に見えていたこと。
「さん・・っ。どうして?」
キラが鉄柵に手を当ててガシャンと言う音が独房の中に響き渡った。
「・・・心配しなくて良いよ。明日のこの時間にはもう出れるから。」
「わかってる・・・・わかってます。そんなこと!
どうして・・・遠いです、さん・・・!さんが遠い人に見える・・・!!」
鉄柵に頭を押し付けてキラはそう嘆いた。
俺は簡易ベットから立ち上がり鉄柵越しにキラの頬に触れる。
「俺、一応軍人だからね・・・。刑は受けなきゃ。
・・・キラが心配する必要ない。」
顔を上げるキラは不安そうな面持ちだった。
俺は苦笑を浮かべながらキラの頬を伝う涙を親指でぬぐう。
「泣き止んで?・・そうじゃないと俺が悲しい。」
「・・・さん。」
さらに泣きそうにキラは顔をゆがめるが、
それを押し殺そうと俺から顔を背けて軍服の袖で涙をぬぐった。
「さん・・・僕――。」
「!?」
キラが何かを言おうとした瞬間にアラームが鳴り響く。
そして第一戦闘配備が告げられた。
「・・・・・・敵襲?」
「っく・・・僕行きます!さんまた後で!」
「うん・・・。」
駆け出すキラの背を見送り、俺は鉄柵を握り締めた。
「遠い・・・か。」
確かに俺とキラの間はこの鉄柵が阻み、お互いが十分に触れることはできない。
でもそれよりもキラが言ってる事は俺がこうなる事をしっていて彼に言わなかった事だろう。
いったらきっと協力させてくれないだろうから言わなかったわけなんだけど・・・。
俺は溜息をついた。しかし、困った状況になった。
独房に入っているということは戦闘にでられない。つまりキラが危なくても助けてあげられない。
刑はちゃんと受ける。けど・・・。
「戦闘で出ている時間足してもいいから、出さしてくれないかな・・・。」
鉄柵に頭を押し付けて自嘲気味に呟いていると再び慌しい足音が近づいてきた。
顔を上げてみるとそこには少し癖のある金髪とスカイブルーの瞳を持った端正な顔立ちの人物が立っていた。
「!」
「大尉・・・どうしたの?大尉は出なくて良いの・・・?」
戦闘時だというのになにやら嬉しそうな表情なので俺は少し首をかしげた。
「いや、俺も出る!てか、ラミアス艦長から特例が出た!」
「え?」
「非常時だからも出撃許可だ!おら、いくぞ!!」
乱暴に鍵を開けて、フラガ大尉は俺を独房の中から引っ張り出して格納庫に向かう。
腕を掴んでいる手の力が強い。
「大尉、ちょっと痛い。」
「あぁっ、悪いっ!」
少し眉をしかめていった言葉に大尉は慌てて腕を掴んでいた手を離した。
当然お互いそちらのほうが動きやすいため先ほどより速度を増して並んで走り出す。
「状況は?」
「敵はナスカ級とローラシア級、ジンが12!」
「嘘っ・・・!そんなところにキラ一人で!?」
「だから急いでんだろが!」
「俺、迎えに行くの他の人に任せて大尉は格納庫行けばよかったんじゃないの!?」
「うるせー!勝手に体が動いてたんだからしょうがねぇだろ!?
ごたごた言わずに行くぞ!多分、クルーゼがこっちの場所あの隊に教えてたんだろうな。
・・・・っち。やられたぜ。」
フラガ大尉が悪態をついているうちに格納庫にたどりつき、俺はコクーンのコックピットに乗り込んだ。
OSを起動させて、異常がないかチェックをしてコックピットを閉めてからコクーンを歩かせ、カタパルトに接続した。
『さん!気をつけてください!』
「ミリィ・・・。ありがとう。」
『はい!・・・進路、オールグリーン。コクーンどうぞ!』
「=。コクーン、発進する!!」
Gを体に感じ次の瞬間には宙に放りだされていて、PSを起動させた。
ざっと戦場一体に目を走らせて見ると、ストライクに向かってむごいほどの銃撃戦が行われている。
キラを狙っていたジンのライフルに気がつき、ソレを打ち落とすとストライクは俺に気がついた。
『さん!?』
「キラ!気を抜いちゃ駄目だ!」
『は、はい!』
ストライクからの通信に言葉を返して
俺はコクーンの繭を展開させながらジンの腕や足をビームサーベルで切り落としていく。
攻撃をよけつつAAを狙っていたジンのライフルを撃つとそれを回避された。
「ちっ・・・。」
『坊主!!』
『もらったぁぁ!!』
突然大尉の焦ったような言葉が漏れて俺は視線をストライクの方へ向けた。
「キラァ!!」
ストライクは4機のジンに取り囲まれ、今にもやられそうな状況だった。
「・・・っ!」
スイッチを入れなきゃ・・・!キラが死んでしまう!!
俺は瞳を閉じた。
――駄目っていってるでしょ?
「そんなの・・・知らないっ!!このままじゃキラが!!」
頭の中に降りかかってくる友人の言葉を振り払って、俺は瞳を開いた。
何かがはじけるような感覚がして、突然視界がクリアになる。
恐ろしいほど、周りの動きがスローにみえる。
キラを取り囲むジンの中の一体にライフルの定め、コックピットを打ち抜く。
そのまま加速して、もう一体と対峙しビームサーベルで両断した。
『うわぁぁぁぁ!!』
断末魔が通信から漏れてくる。
それを頭の隅で聞いて、もう一体のジンに目を向けると一瞬その機体はたじろいだ。
しかし次の瞬間には向かってきたジンに、俺はビームサーベルを突き刺した。
『さん・・・?』
キラが声をかけてくるが遠いところで言っているように聞こえる。
それは俺に静止をかけるものだが、障害とはなりえない。
残りのジンにライフルでコックピットを狙い次々に撃破していく。
目に付くジンを全て撃破し終わると、俺はナスカ級に目を向けた。
銃撃を旋回して避けながらブリッジのまん前に取り付くと
ビームサーベルを取り出してそこに突き刺し両断する。
爆破の衝撃を避けるため俺はそこから離れ、
エンジン部に回りこみそこを切り込んで再びナスカ級から離れた。
適当に離れて、そちらを振り向くとナスカ級が連鎖的に爆発を繰り返し
最後の大きな爆発を引き起こしているところだった。
駄目だ・・・とまらない。敵をすべて滅ぼさなければ・・・。
あとはローラシア級・・・。俺は視線をそちらに向けると
同じように銃撃を回避しながらブリッジに取り付いてビームサーベルを取り出した。
『!!』
通信からフラガ大尉の言葉が漏れるが、聞くつもりはない。だって相手は俺の敵なんだから。
ナスカ級と同じような措置をローラシア級にもとり、そこを離れた。
同じように連鎖的に爆破を起こして、最後に大きな爆発を起こす。
爆風を受けたそのあとに丁度エネルギー切れとなって、PS装甲が落ちた。
目を閉じる。動悸が早い。息が切れる。たぶん久々にスイッチを入れた所為だ・・・。
体が動かない。ずっとレバーを握っていた両手を離して、震えながらそれを見る。
『さん・・・?』
ストライクがコクーンを抱き寄せ、そのままAAに向かう。
『大丈夫・・・ですか?』
映像回線もつないだようでモニターにキラの顔が映る。
俺はただ笑顔を浮かべてモニターから顔を背けた。
恐らく格納庫に収納されたような衝撃がコックピット内を襲い、
俺はシートベルトを外してシートに体を預けた。
・・・スイッチを入れるとまるで自分が自分じゃなくなったようになる。
目につく敵という敵を全て殺してしまうまで止まらない。
そして、機体に負荷をかけすぎて壊してしまう。
多分このコクーンも結構ダメージを受けてると思う。
コックピットが外からガンガンと叩かれる。
俺はなんどか瞬きをした。そういえば、コックピットを開いてなかった。
開いた瞬間にいくつもの顔が心配そうに此方を覗き込んだ。
「・・・?」
不思議に思い首をかしげてヘルメットを取ると、全員が安心したように息を吐いた。
一体どうしたというのだろうか。
「ー・・・大丈夫か?」
フラガ大尉とキラがコックピットの中に入ってくる。
そして大尉は俺の頬に手を添えた。キラは心配そうに俺の顔を覗き込む。
「うん。大丈夫。ちょっと疲れて今は体動かないけど
仮眠とったら普通に動けると思う。」
「大丈夫じゃない、じゃないですか!
まるで・・・さんがさんじゃないみたいで・・・。」
つまるキラの言葉に俺は苦笑を浮かべた。
さっきの俺の行動は惨殺に近かった。怖くなってもしょうがないかもしれない。
シートから離れると、キラは俺に手を貸してくれた。
「ありがとう。」
「それにしても、お前凄いなー・・・。さすがだよ。」
「どうも。」
フラガ大尉が苦笑いを浮かべながら俺の顔を覗き込む。
あー・・・やっぱり全身がだるいかもしれない。
低重力である格納庫を出たとたん体が重くなった。
「さん!?」
「ごめん、キラ、大尉・・・。このままでいていいかな?」
キラと大尉に肩を貸してもらったままロッカールームに向かい、
着替えてから、シャワールームに向かった。
シャワーを浴びたら少し回復して、まだふらつくもののなんとか自分で歩けるぐらいになっていた。
「さて・・・戻ろうかな・・・。」
心配したのかキラがこっちに駆け寄ってきて俺に肩を貸す。
「おー。坊主やるな。じゃぁ頼むわ。」
「・・・はい。」
フラガ大尉が茶化すようにキラに声をかける。
俺はそれに苦笑を返した。ここは甘えさせてもらおう。
途中で倒れたらそれこそ洒落にならない。
「あ、キラ、こっち。」
「?」
自室に向かおうとしていたキラに俺は反対の方向を指差した。
不思議そうな顔をするキラに俺はにっこりと微笑んでみせる。
「俺、今は独房でしょ。」
「そんな・・・さん疲れてるのに・・・。」
「これは仮眠したら直るから別に場所はどこでも同じだよ。
だから独房に行って。」
「でも・・・。」
「行って。キラ、お願い。」
「・・・わかりました。」
キラは納得していないような表情を浮かべつつも足を独房に向けてくれた。
暫く無言で歩いていたが、キラは眉根を寄せて何度か口を開いて何かを言おうとしては飲み込んで
一度視線を俺から逸らしてから、もう一度此方に向けた。
「・・・さっきどうしたんですか?」
「ん?」
「いきなり動きが早くなって・・・僕、目で追うの必死でした。
助けてくれたのは・・・とても感謝してます。
でも・・・さんがさんじゃないみたいで・・・。
僕は・・・なんか嫌でした・・・・。」
「・・・。」
本当に素直な感想だ。
俺は瞳を伏せて唇を小さく開いた。
「・・・なんか頭の中ではじけるような感覚があって・・・
頭の中が急にすっきりしてやたらと自分の能力が上がるんだ・・・。
そして戦闘以外のことは何も考えない。
そうなると俺はただの殺戮人形になる・・いつもの自分がどこかにいってしまう。」
独房にたどりつき。その中に入りながらそういうとキラは瞳を伏せ、体の横にある拳を握り締めた。
「じゃぁ・・・じゃぁもうそんなことしないでください・・・
僕、嫌です・・・そんなさんを見るのなんて・・・。」
「・・・。」
簡易ベットに腰をかけて俺はキラを見上げた。
そして手招きをしてキラを抱き寄せた。
「約束は出来ないな・・・。俺はキラが大切だから。
君が死にそうになったらスイッチ入れてしまうと思う。」
「そんなっ・・・!」
「許して・・・こんな俺だけど。」
抱きしめた体からキラの鼓動が伝わってくる。
それはどんどん速度を上げていって、彼を困らせているのが分かった。
でも、本当に約束できない。
俺はキラのためならためらわずに俺はスイッチを入れてしまうだろう。
それを阻む友人の声も既に振り払う事が出来てしまった。止めるものはない。
「俺はみんなを・・・キラを守りたいんだ。」
抱きしめていた手を解きキラの顔を見上げるとキラは瞳を涙でぬらしていた。
守りたくて戦っているのはキラも同じ。だからきっと分かってくれると思う。
「・・・さん。」
「お願いだから。」
「・・・・わかりました。」
キラは痛そうな表情をして頷いた。
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2006/02/27
あとがき
種割れいたしました。こんな種割れ。
まぁ、ぶっちゃけ
シン君モード
です。こんな主人公でごめんなさい(汗)