さんの姿がシャトルの中に消えて、僕は小さく微笑んだ。

エメラルドグリーンとアイスブルーのオッドアイが泣きそうに揺れていて、優しくて綺麗な顔が少しゆがむ。

悪いことしたなと少し謝罪の気持ちが心に残る。だけど、これでいい。

サイたちがこの船に残る。僕は残るか。残らないか。

ソレを決めるときにまずさんの事が思い浮かんだ。

僕が残るといえば、きっと優しいこの人は残ってしまう。

死の確率が高いこの戦場に。さんには生きていて欲しい。

傍にいて欲しいという願望ももちろんある。だけど、生きていて欲しいという感情のほうが強かった。

そして、いままでの自分でも説明ができなかった気持ちの意味がようやく分かった。



僕はこの人が好きなんだ。

愛おしいほどに。



今まで僕はきっとさんに守ってもらっていた。甘えていた。精神面でも他の面でも。

だけど・・・今度は僕が彼を守らなければいけない。

さんには戦場という場所から遠ざかってもらわなければいけない。生きてもらわなければならない。



シャトルの入り口の窓からさんが何かを叫んでいた。

それに眉根を下げて微笑み、僕はその場を後にする。

この艦はみんなは僕が守る。だから、さんは心配しないで欲しい。



そんな決意を胸に壁をけって急いでロッカールームに向かう。

扉を開けてみると、そこにはフレイがいて僕は驚きに目を見開いた。



「キラ!」


「え・・・?」



彼女は床をけって僕に抱きつく。

僕はソレを受け止めながらも信じられなくて、動けなくて。

そのままの状態で浮遊して、背に扉があたった。

彼女はここでなにをしているのだろう?



「フ・・・フレイ?なんで・・・?」



彼女は息がかかる位置で、眉根を下げて瞳を揺らしながら僕を見上げた。

僕は目を大きく見開く。泣きそう・・・?どうして?



「あなた、行っちゃったと思ったから・・・。
 私・・・みんな戦ってるのに・・・最初に言った私だけ・・・!」



なにもできない。そんな自分を責めているのだろうか?

フレイは瞳をさらに揺らして、頬に涙を伝わし僕に強く抱きついた。



「だから私っ・・・!私がっ・・・!!」



その言葉に僕はロッカールームを見回して、

僕のパイロットスーツのロッカーが開いていることに気がついた。

ふと、一つの可能性が思い当たった。



「まさか・・・!?」



フレイはストライクに乗るつもりだった・・・?

僕は驚いて、フレイを見て彼女の肩をつかんで彼女と目を合わせた。



「フレイっ・・・!そんな馬鹿なこと!!
 MSなんて無理だよ!君みたいな女の子が・・・!」



僕の言葉にフレイは眉を下げて、再び瞳を揺らした。



「だって・・・私!」



なにもできないから。その言葉が予想できて僕は微笑を浮かべる。

フレイの気持ちはとても嬉しい。みんなの事を思って、守ろうとしてくれて。

だから・・・。僕がフレイの代わりに・・・。



「ストライクには・・・僕が乗る。フレイの分も僕が戦うから。」


「キラっ・・・!」



フレイは小さく息をのんで、瞳を揺らしたまま大きく開いた。

彼女の肩から手を離して、僕はロッカーのほうに向かう。

ロッカーのある位置にたどり着いて、もう一度フレイのほうを向いた。



「あ・・・だから、フレイの思いの分もさ。」



なんていうセリフだろうか。

自分で言って少し恥ずかしくなって、顔に熱が上がった。

フレイは小さく口を開き、視線を斜め下に落とした。



「もう・・・逃げない。」



みんなを守る。さんを心配させないように。絶対に。

さんを送り出すときに僕はそう決意した。



「決めたんだ・・・!しょうがないよ、この戦争を終わらせなきゃ・・・。」



戦うと決めた。はやく皆が平和に暮らせるように。

そして早く終わらせて、さんと普通に話したい。彼がそういってたように。

偽りの平和ではなく、本物の平和の中で。



「僕達だってさ――。」



フレイが僕の肩に触れたので僕は驚いてそちらを向いた。

彼女は柔らかく微笑んで僕の顔を覗き込む。



「なら・・・私の思いはあなたを守るわ。」


「フレ―――!」



フレイの顔が近づいてきて、彼女の唇と僕の唇が触れあう。

僕は大きく目を見開いた。さんへの罪悪感が脳裏をよぎる。

僕は両手をフレイの肩に持っていって、押し戻そうとしたが力がはいらなかった。

だって・・・優しい。さんと似て・・・なんだか包み込んでくれているような優しさ。

・・・つい甘えてしまう。

本当は甘えたいのにさんのためにさんと離れてしまって実は精神的にギリギリで・・・。

フレイには悪いけど、さんと姿を重ねてしまう。

この戦場の中で人のぬくもりが嬉しくて、唇をどうしてもはなせなかった。

彼女は・・・僕の事をきっと分かってくれている。この艦内ではきっと一番・・・。

僕は瞳を閉じて、その雰囲気に甘えて身をゆだねた。



・・・僕はひどい男だ。

フレイもさんをも裏切ってる。

だけど・・・どうか今は甘えさせてください。




◆◆◆




フレイと別れてから僕はパイロットスーツに着替えて、格納庫に向かった。

丁度、大気圏に突入することをアナウンスで告げられて、フラガ大尉が怒鳴り声を上げていた。



「俺に怒鳴ったってしゃーないでしょ!?
 まぁ、このままずるずるよりかはいいんじゃねぇですか?」


「いや・・・けどさぁ・・・。」



マードックさんがなだめるものの、大尉は尚もしぶった。

僕はこの艦での日常に思わず笑みを漏らした。



「ザフト艦とジンは振り切れても、あの4機が問題ですね。」



あの4機はストライクとスペックは一緒。つまり単体でも降下ができる。

僕は床をけってストライクに向かう。



「坊主!?」



マードックさんが驚きの声を上げる。

フラガ大尉も同じように驚いたような表情をしていて、僕は微笑んだ。



「ストライクで待機します。まだ、第一戦闘配備ですよね?」



マードックさんとフラガ大尉が気遣わしそうに僕のほうを向いて話をしていた。

・・・多分戦場に戻ってきたことを心配してくれているんだと思う。

だけど、決めたから。その思いを貫いてみせる。僕はさんの分までみんなを守る。

それと・・・フレイのためにも。

さんに告白したにもかかわらず、フレイに少し心が傾いている僕はかなり不純だと思う。

そして、そのフレイにさんを重ねている・・・フレイにもかなり失礼だ。

・・・僕は誰かに甘えなければ生きていけないのだろうか。

さんと離れた今はフレイに甘えてしまっている。



僕は一度瞳を閉じた。

そして先ほど少女にもらった折り紙の花を見つめる。

甘えてしまうけど、ひどい男だけど・・・僕はみんなを守る。

僕はコックピット内の目に見える位置に花を刺した。

アナウンスでデュエルとバスターが戦陣隊列を突破したことを告げられる。

僕は瞳を上げて、モニターを睨んだ。絶対に・・・みんなを守る。

戦場の状況からしてそろそろでなくてはAAが落ちてしまう。



「フラガ大尉!」


『あぁ、わかってる!
 ・・・おい、艦長!ぎりぎりまで俺達を出せ!何分ある!?』


『何を馬鹿なっ・・・俺達!?』



フラガ大尉にきつく言葉を放っていた艦長が目を見開いた。

そしておそらく僕のモニターが映っているだろうと思われる方向に視線が向く。

降ろしてくれようとしたのに・・・悪いことをしたかもしれない。

でも、それは後だ。



「カタログスペックではストライクは単体でも降下可能です!」


『キラ君!?』



艦長の驚きぐあいからブリッジ全体も驚いているんだろうということが感じられた。

サイたち・・・怒ってるだろうか?



『どうしてあなた・・・そこに?』


「このままじゃ、メネラオスも危ないですよ!艦長!!」



いちいち説明している暇は無い。

ラミアス艦長の言葉を無視してそう告げると艦長は言葉を失ったようにこちらを凝視した。



『わかった!但しフェイズ3までにもどれ!
 スペック上は大丈夫でも、やった人間はいないんだ!中がどうなるかはしらないぞ!?
 高度とタイムは常に注意しろ!』


「はい!」



ラミアス艦長のかわりにナタルさんから許可が下り、僕は通信を切った。

カタパルトに接続して、エールストライクを装備。

発進の準備が整った。さんの分も僕が戦う。

瞳を一度閉じてから、僕は前を見据えた。



「キラ=ヤマト、ストライク、行きます!!」



宇宙にでると、機体が引きずられるような感覚に襲われる。

こんなの初めてだ。大気圏が近いからだろうか?



「っ・・・!重力に引かれてるのか!?」



このままだとずるずるとひきづられて何もしないまま終わってしまう。

そんなの駄目だ・・・!

僕はアクセルを深く踏み込んで無理やりストライクを動かし、メネラオスの方へ向かう。

一機の機体がこちらにやってきて、僕はその姿を確認すると息を飲み込んだ。



「デュエル!?・・・装備がっ!!」



以前見たときと装備が変わっている。前はなかった鎧のような装備が追加されていた。

大きく振りかぶって、ストライクにビームサーベルを振り下ろしてくる。

それをシールドでやり過ごして、僕は少しデュエルから離れた。




・・・デュエルのパイロットは僕をきっと恨んでいる。

さんが”スイッチが入る”と比喩していた状況に陥ったとき、僕はデュエルのコックピットに実剣を突き刺した。

切っ先に怒りがにじみ出ているような、そんな気さえする。

僕もそれに応戦して、ビームライフルでデュエルを狙い打つ。

デュエルが殺気立って、僕にさらに切りかかってきた。




「もうヤメロぉ!!」



僕がビームライフルを放つとデュエルはソレを避けて、少しだけ離れた。

しばらくデュエルと応戦していると、メネラオスにローラシア級が近づいていっているところだった。



「何をするつもりだ・・・・?」



アレはあきらかに前に出すぎている。

まさか・・・?



「まさか・・・・刺し違えるつもりっ・・・!?」



そんなことっ・・・!

あそこにはさんもいる!そんなことさせないっ!!

しかし、そちらに向かおうとしてもデュエルがそれを阻む。

メネラオスは大気圏に近づきすぎたのか、摩擦によって赤い炎が立ち上がる。

避難民のポッドが射出されるのを見た。


さんは多分アレに乗っている、もしメネラオスが落ちたとしてもさんは無事だろう。

だけど、さんがいないからといってみすみす人が殺されるのを黙ってみているわけにはいかない。

しかしその瞬間にAAから帰艦命令が出た。

今、戻るわけには・・・っ!そう思いメネラオスのほうをむくとローラシア級が摩擦熱により爆発していくところで、

その後に続くようにメネラオスが爆発していって、跡形もなく燃え尽きた。



「・・・・っあ・・・。」



デュエルと応戦しながら僕は言葉を失う。

なにも・・・なにもできなかった。

しかし、僕に沈み込む間を与えないようにデュエルからの攻撃が増してきた。

重力にひかれて機体が重く、ストライクの周りは摩擦熱で赤く燃え上がっている。

僕もビームサーベルを取り出して、デュエルと刃を交じり合わせあう。

ここで負けてたまるかっ!!



「お前なんかにっ・・・!」




顔の横についているバルカンを放ちながら一度離れる。

重力にひかれながら徐々に高度が落ちていっているのが分かった。



『キラ!』


『キラ君!!』



AAからみんなの心配したような声が入る。

そうだ・・・そろそろ戻らないと!

だけど、デュエルを残しておけばAAは危なくなるのではないだろうか・・・?

やはり、放ってはおけない。



ライフルをシールドで受け止めてそのままデュエルに体当たりを仕掛け、そのまま顔にけりを入れる。

デュエルは重力にひかれ普通以上に弾き飛ばされる。

デュエルから少し距離をとるとデュエルはストライクに向かって再びライフルを構えた。

しかし、僕とデュエルの間に一つのシャトルが降りてくる。



「メネラオスのシャトル!?」



ME1というメネラオスのものだという記号がそれにはあって僕はあせった。

メネラオスのシャトル。つまりさんが乗っているもの。

まさかとは思うがデュエルがコレを撃つことがあるだろうか?

視界が遮られることとなるので狙いがつけにくく、普通は撃ってはこないはずなのだが・・・。

しかしもしもの場合がある。邪魔者はすべて排除する思考の持ち主ならそれも考えうるものだ。

僕の願いが通じたのか、デュエルはシャトルが過ぎるまで少し待ってから

ストライクにビームライフルを撃ってきた。

だが、それはストライクからは随分と的外れの位置を通過する。

デュエルは苦々しげにライフルを一度下げ、そしてシャトルの方向を見た。



「!?」



次の瞬間僕が恐れていた状況が目の前に広がった。

デュエルの銃口がシャトルのほうをむく。

僕はアクセルを踏み込んでシャトルのほうへ向かった。



「やめろぉ!!それには!!」



デュエルは兵士達だと思っているのかもしれない。

確かに本来の状況ならば避難民が乗っているなどとは考えられない。

けれど決して逃げ出した兵などではない。アレに乗ってるのは間違いなく避難民達だ。

コックピットにおいてある花をくれたあの少女が、なによりさんが乗っている。

生きて欲しいと、そう強く願ったからこそ彼を無理やりシャトルに乗せた。

アクセルを限界まで踏み込んで僕はシャトルに手を伸ばす。

デュエルの銃口が火を噴いた。

僕の目の前でライフルがシャトルを貫通し、そして大きな爆風を引き起こした。



「・・・あ・・・・うぁっ・・っ・・・・・・さぁぁん!!」



爆風にあおられて、ストライクはそのまま地球の重力に引かれていく。



「うわぁぁぁ!!」



落ちていく中、僕の頭の中にはさんのただ優しくて綺麗な笑顔が浮かんでは消えた。

僕の・・・僕のせいだ。僕はなんて事を・・・っ!

辺りがキラキラとして、意識が遠のく。

奈落のそこに落ちていくような感覚さえする。

・・・このままなにも考えられなくなったらどんなにいいだろうか。

僕は・・・守ると決めたのに、一番守りたかった人をさんを守れなかった・・・!



『キラ!』


『キラぁ!!』


『キラ君!!』


「!」



通信から声がもれて意識を現実にひきもどされた。

コックピット内のモニターを見てみると、少し遠めにAAが見える。

この重力がかかる中、あそこまでいけるか・・・?

レバーを持つ手が振動で震える。多分無理だ。僕は単体で降下しなくては・・・。

背中から落ちていっていたストライクを反転させてシールドを下に向けてそのまま大気圏に突入する。

コックピット内が随分と熱くなってきた。意識が朦朧とする中、AAがスラスターをふかせてこちらに寄ってくるのが見えた。

丁度僕の真下辺り・・・。僕はそのままAAに着艦する体勢へと入った。

艦に足をつけた瞬間、少し安心して僕はそこで意識を手放した。







ただ残るは後悔ばかり。


・・・さん、ごめんなさい。








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2006/03/05

あとがき

・・・死にません。死んだらこの夢ここで終わりです(笑)
色々とあったんですけど、ソレはまた明日UPします。
キラ様、醜いぐらい言い訳。でも、甘えたなキラ様でいいと思う。
不完全なキラ様がわりと好きです。