「大丈夫・・・ですか?」
「・・・大丈夫・・・です。」
膝を折った俺の隣でメネラオスの軍人が気遣わしげに声を掛けた。
俺は流れそうになる涙を押しとどめて、その場をたちなんとか座席にたどり着いてシートに背を預けた。
「キラ・・・。」
優しい子だから・・・。
俺を死と背中合わせの場所から遠ざけてくれた。
その気持ちは痛いほど分かる。
でも・・・でも・・・。
(自分だけ安全な場所にいくなんて・・・俺、全然嬉しくない。)
自分より幼い学生達を残して、自分だけ戦場から逃げ出すようなまね・・・そんなこと、自分自身が許せない。
彼らは・・・キラは自分が支えてあげないと。そう思っていたのに。
キラにはもう支えが必要ない・・・?
「・・・。」
自分自身でそう考えて、俺は自嘲気味な笑みを浮かべた。
それがまるで俺の存在否定をしているようだった。
俺はキラに寄りかかられることで自分自身の価値を見出していたのかもしれない。
(結局自己満か・・・。)
寄りかかられていたようで自分が逆に寄りかかっていたらしい。
そんな自分に嫌気が差す。俺は瞳を閉じた。
生きていて欲しいから。
そういって俺をこのシャトルに放り込んだキラ。
そして・・・。
(好き・・・か。)
状況的に判断してアレは恋愛感情から来る言葉だろう。
しかし、自分は男だ。彼は一時の感情に流されているだけかもしれない。
自分のせいでキラがいけない道に落ちるのもいやだ。
(どうすればいいんだろう・・・。)
そして、俺はキラの事どう思っている?
弟・・・そんな気持ち?それならばキラの気持ちにこたえてあげることはできない。
でもそれだけだろうか・・・?
(ぐちゃぐちゃだ・・・。)
俺は自分自身で頭をぐしゃぐしゃとかき回した。
生きて欲しいのは俺も同じ。
本来ならば、俺が軍に残ってキラをふくめ、アカデミーの生徒らはシャトルに乗るべきだった。
なのに今は逆の状態。世の中何があるか分からない。
(軍には・・・戻れないか。)
ハルバートン准将に言って軍に入れてもらうにしろ、
ZAFTの脱走兵など怪しい身分ではスパイと思われて入れてもらえない可能性が高い。
(待つしかない・・・?)
戦争が終わって、キラたちが帰ってくるのを。
それしか方法がない・・・?
そんな思考に沈んでいると、シャトルが着艦したような衝撃が体を襲い動きが停止した。
天井を見上げる。俺は・・・待ってるだけなんてできない。
フレイの事も気にかかる。彼女は何かを決めてしまっていた。
きっと、それはキラに悪影響を及ぼすものだ。
だめでもともと・・・できるだけ行動してみよう。
「すみません。」
「はい?」
近くにいた軍人に声を掛けるとその軍人は不思議そうな声を出した。
「ハルバートン提督にお会いしたいのですが・・・。
あ、自分は=といいます。」
「・・・確認してみます。ただ戦闘中なので閣下が出られるかはどうか・・・。」
渋るような声を出しながらもその軍人はブリッジと連絡を取ってくれる。
しばらくした後その軍人はを通信をきってから俺を目線を合わせた。
「許可が出ましたので、どうぞブリッジに。
ただ見張りと共に行って頂きます。」
「わかりました。わざわざありがとうございます。」
「いえ。」
柔らかく笑顔を浮かべると
その軍人は短く言葉を返しシャトルの外までついてきて近くにいた軍人を俺につける。
軍人と二人無言でブリッジまで来ると、モニターには悲惨な戦場の姿が映し出されていた。
「君か?」
「はい。」
ハルバートン准将が俺に気づいて声を掛けた。
俺はハルバートン准将に近寄り、顔を引き締める。
笑顔など浮かべていられる状況ではない。こちらが不利なことは明確だ。
「君にはどっちにしろこちらに来てもらわなければいけなかったので、丁度よかった。」
「・・・?」
何を言いたいのかが分からなくて少し小首をかしげるとその瞬間に艦に衝撃が走った。
「っ・・・!イージスにバスター、ブリッツにデュエルか・・・!」
「確かにみごとなMSですなぁ。だが、敵では厄介なだけだ。」
嫌みったらしく副官らしい男がそういうので、俺は少し眉をひそめてみせる。
「あの4機!なんとしてでも落とせよ!!」
「・・・。」
俺は前を見据える。
多くのMS,MAの中でもひときわ目に付く4機。
あれにはZAFTのトップガン・・・アスランたちが乗っている。
そう簡単には落ちない。
「君。」
「はい・・・?」
突然名前を呼ばれて俺は驚いてハルバートン准将のほうへ顔を向けた。
ハルバートン准将は表情を引き締めて、立ったままの俺を見上げた。
「戦闘が終わったら、と思ったのだがどうも戦局が怪しい。
だから、先に言っておこう。・・・君を避難民と同じように扱うことはできない。」
「・・・はい。」
ある程度予想できたことだ。だって俺はZAFTの脱走兵なんだから。
「・・・すまないな。
ただ軍のデータに残っていないといっても私の記憶には君が残っている。
だから、避難民達と一緒に地球に降りさせてはやれない。私達と月本部へ行ってもらう。」
「はい、わかりました。」
「君を悪用するような目には絶対あわせないと約束する。・・・すまないな。」
「いえ。」
軍の保護下でしばらく身を置くことになるだろう。
しかしソレもこの戦闘で勝てばの話。俺は・・・ここで死ぬわけには行かない。
キラが折角生きて欲しいからと戦場から遠ざけてくれた身だ。その思いを無駄にしたくない。
俺は瞳を細めてモニターを見つめた。次々と第8艦隊の艦が沈んでいく。
俺も・・・戦いたい。ただ沈んでいく艦をみていることしかできないなんてつらい・・・!
「セレウコス被弾!戦闘不能!!」
「カサンドロス沈黙!」
「アンティゴノス、プトレマイオス撃沈!」
「なんだと!?戦闘開始たった6分で4艦をか!?」
隣でハルバートン准将が唇をかんで、悔しさをにじみ立たせている。
多くの命が奪われている。それに心を痛めているのが伝わってきた。
・・・確かラミアス大尉の上官だったか。部下は上司に似るというのは本当らしい。
「ジン、ナスカ級及びローラシア級接近!」
「セレウコス、カサンドロスに足跡照準!」
「何をっ!?」
俺は思わず声を上げた。
セレウコス、カサンドロスは共に戦線離脱中でそれに照準するなんて・・・
ラウ・・・なんてことを!
モニターの中でナスカ級から放たれたビームがセレウコスとカサンドロスを貫き
その二つの艦が連鎖的に爆発を起こし、破壊されていく。
ハルバートン准将がとなりで大きく息をのんだ。
「離脱中の艦を・・・!おのれクルーゼ!!」
「セレクセス、バイス、前に出ます!」
「Xナンバー接近!」
「ビームを使うんだ!落とせぇ!!」
いよいよ戦局が明確になってきた。
副官が叫び声をあげる。ハルバートン准将はうなり声を上げた。
「AAからリアル回線!」
「ラミアス大尉!」
「なんだ?」
モニターに移ったラミアス大尉が俺の姿に気がついて一瞬驚いたような表情をみせたが
ハルバートン准将に先を促されて、再び顔を引き締める。
『本艦は艦隊を離脱し、直ちに降下シークエンスに入りたいと思います。許可を。』
「なんだと!?」
「降りる・・・?」
俺は信じられなくて目を見開いてラミアス大尉の言葉を繰り返した。
つまり、キラたちは地球に?俺とはさらに離れた場所に?
「自分達だけ逃げ出そうというのか!?」
副官の怒り交じりの声にラミアス大尉はさらに厳しい表情をしてみせた。
『敵の狙いは本艦です!
本艦が離れなければこのまま艦隊は全滅です!』
副官がハルバートン准将の顔を覗き込むものの、准将は考え込むように視線を落としたままだ。
『アラスカは無理ですが、この位置なら地球軍勢力圏内には降りられます!
突入限界地点まで乗り切れれば、ジンとザフト艦は振り切れます!!閣下!!』
ラミアス大尉の言葉に准将は渋るようにうなった。
俺は瞳を細めて、モニターを見つめる。
そしてハルバートン准将のほうを向いた。
「閣下。アレの開発のために今まで尽力を費やされてきたのでしょう?
では、なんとしてでもアレは地球に降ろすべきだと自分は思います。」
「お前っ・・・!何勝手なことを!」
「よい。」
また沈みゆく艦をモニターで見つめ、准将は自嘲気味に笑った。
そして、副官に目を向ける。
「君の言うとおりだ。
あいかわらず無茶なやつだな。マリュー=ラミアス。」
『部下は・・・上官にならうものですから。』
「いいだろう。AAは直ちに降下準備に入れ。
限界点まではきっちりおくってやる。送り狼は一機も通さんぞ。」
『はい!』
歯切れのいいラミアス艦長の声と同時にAAとの通信が切れる。
「・・・。」
AAとのつながりが消えてしまった。
どこかさびしく思う。・・・・やはりだめもとでも言ってみるべきだろう。
自分の気持ちには正直でありたい。
「ハルバートン准将。」
「なんだ?」
「俺・・・軍に入れますか?」
ハルバートン准将は少し言いにくそうに俺から視線をそらす。
やはりだめか。俺は眉を下げて視線を落とした。
「・・・少し難しいな。」
「そう・・・ですか。」
「ただ、この戦闘が終わったあかつきには私がなんとかしよう。」
「!・・・ありがとうございます!」
キラ達のところにもどれるかもしれない。
キラには悪いけれども、俺はみんな戦っているのに自分だけ平穏な場所にいることなんてできない。
そんな話の最中にも戦闘は激しさを増していく、先ほどから数えただけでも2つの艦がXナンバーのMSに落とされていっていた。
『閣下!』
「うむ。AA、降下開始。」
再びAAと回線がつながり、降下の開始が告げられる。
しばらく別れるけれども・・・きっと俺は追っていく。
俺はモニターに映る、地球へと降りていくAAの姿を見た。
「メネラオスより各艦コントロール、ハルバートンだ。
本艦隊はこれより大気圏突入限界点までのAA援護防衛線に移行する。
厳しい戦闘であるとは思うが、かの艦は明日の戦局のために決して失ってはならない艦である。
陣形を立て直せ!第8艦隊の意地に懸けて、一機たりとも我らの後ろに敵を通すな!
地球軍の底力をみせてやれ!!」
力強いハルバートン准将の言葉が艦隊全体に放送される。
AAならきっと無事に降りる。ハルバートン准将の言葉にも押されて、そんな予感がする。
その中で尚も落ちていく艦を見る。歯痒い・・・俺も何かをしたい。
「閣下!MAは!?俺も出ます!!」
「駄目だ!!・・・主砲撃てぇ!!」
「どうしてですか!?」
「君は今は避難民なんだ!立場をわきまえろ!!」
「!?」
一般人の戦闘行為は犯罪を意味する。
だけど・・・そんなことを言っている場合ではない。
そうこうしているうちに、デュエルとバスターが先陣隊列を突破した。
「っ・・・!」
「くっ・・・!落とせ!!なんとしてもここから先に通すなぁ!!」
メネラオスがデュエルとバスターに応戦する。
・・・こちらに来て欲しくなかった。今は、敵だから仕方がないといっても
落とされるのも落とされるのもいやだ。
「ベレグラード撃沈!」
戦場ではそんな甘ったれた言葉なんて通用しない。
わかってる。割り切らなければいけないことぐらい。
でも、心は捨てられない。
「限界点まであと5分!」
「閣下!これ以上は・・・!コレでは本艦ももちません!」
「まだだ!」
俺は何も言えずに唇を噛む。
なんて非力なんだろう。この状況で何もできないなんて。
そんな折にAAからストライクとゼロの発進が告げられた。
「なんだとっ!?」
「どうして・・・?」
どうしてこんな危ない状況の中・・・!
危険極まりないこの状況で出てくるなんて自殺行為に近い。
キラにもフラガ大尉にも俺は生きていて欲しい。
ストライクが重力にひかれてぶれて見える。
一度地球の重力につかまるとおしまいだ。
スペック上はXナンバーは単体で降下可能だが、おそらく中はものすごく高温になる。
ストライクとデュエルが交戦を始める。今更ながらに気がついたが、デュエルの装備が変わっていた。
戦いはやはり憎しみしか生まないらしい。あれは多分キラを落とすためにつけたものだ。
そんな中、ローラシア級がこちらに砲撃しながら突入してくる。
「・・・・!」
まさか・・・!
「刺し違えるつもりか!?」
副官の言葉に俺は目を見開いてそちらを見る。
思っていたことを言葉に乗せてしまえばソレは突然現実味を帯びてくる。
・・・・俺ここで死ぬ?
「すぐに避難民のシャトルを脱出させろ!
誰か君を連れて行け!!」
「閣下!?」
「君は・・・生きろ。君は少し特殊だが今は避難民であることには変わりない。」
「そんなっ・・・!」
また俺だけ生かされる・・・?
「こちらへ!」
軍人の一人に腕をつかまれ、格納庫に連れて行かれる。
なんだか何も考えられない。
どうして・・・?キラの思いのためにも生きなければならない。
だけどどうして俺だけ逃げ出す・・・?
「やっぱり俺も・・・!」
「駄目です!!」
抵抗するが、その軍人は手を離さない。まだ15,6歳ぐらいだろうか?キラとそんな大差ない年齢だ。
俺がコーディネーターで彼がナチュラルであることを考えると振り払うことも可能なのだろうが
まっすぐ俺を見上げる彼の瞳が・・・ソレを許さない。漆黒の瞳が揺れる。
「お願いです・・・閣下の気持ちをわかってください!」
「っ!」
息をのむ。唇をかんでその少年から視線をそらした。
「すみません・・・。自分勝手でした。
行きましょう。」
こくりと彼は引き締めた表情で頷く。
俺は彼に手を引かれて格納庫へ向かった。
だが、シャトルの影はそこにはなかった。
「・・・っち・・・!こっちです!!」
少年兵は小さく舌打ちすると俺の手を引いて格納庫の隅のほうへ向かった。
そこには一つの救命ポッドのようなものが用意されていた。
「・・・降下用の専用小型ポッドです。
ただ理論上は降下可能ですが、まだ実験段階で・・・」
「・・・乗るよ。」
「はい!では中に!自分が責任を持ってお送りします!!」
「君もだよ。」
「!?」
俺は無理やり彼の手を引いて、ポッドのなかに引きずり込むと扉を閉めてポッドを射出した。
大気圏に突入する際の摩擦熱でポッドの中が熱くなってくる。
腕の中で少年は不安そうに俺を見上げた。震えている。彼もあの状況下ではやはり怖かったらしい。
「・・・大丈夫。」
安心させるように微笑んでそういうと少年は笑顔を浮かべて目を閉じそのまま気を失った。
腕に少年の体重がかかる。ポッドの中の温度がさらに上昇した。
「くっ・・・!」
背中に汗が流れたのを感じたその瞬間に俺は意識を手放した。
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2006/03/06
あとがき
こっちサイドから書いてる人ってあんまりいないだろうな。と書きながら思ってみたり(汗)
はい、生きてました。少年兵出せたらいいなぁ。
一応設定は頭の中で出来上がってるけど動かすとなるとどうだろう。
キラとかぶりそうで怖い気もします(笑)