あんなの着るなんて何時振りだろう?

下着とドレスを身に着けて、そのまま扉を出ようとしたら

アイシャに腕を引っ張られる。

何事かと目を丸くして彼女を見ると彼女はにっこりと笑って、

隣の部屋へと私を連れて行き鏡の前に座らせた。

そして櫛を取って私の髪を結い始める。



「いいよ!そんなのは!」


「いいからじっとしテ。」


「そうだよー。折角アイシャがやってくれるっていうんだからー。」


「!?」



突然聞こえた声に私は反射的に振り向く。

その動作に扉の辺りにいた人物がくすりとほほえんだ。



「こんにちは。お姫様。」



桜色の唇がゆっくりと動く。

信じられないほど綺麗な、人形のような人がそこにいる。

男か女か。顔立ちが中性的過ぎてよくわからない。

ただ分かるのはとんでもない美人だということと、

ZAFTの隊長格だということ。



「あら、カイ。どうかしタ?」


「うん?お客様が見えてるっていうからちょっと見物。
 でも、それが予想外の人物だったから声掛けちゃった。
 おーい?起きてるー?」



思わず固まっていたらしい私の目の前でその人はひらひらと手を振る。

私はハッと我に返ってそのカイと呼ばれた人を見た。



「・・・お姫様?私がか?」


「うん。その格好とてもよく似合ってるよ。」


「に、似合ってなどいない!」



私は真っ赤になって否定しながら、その意味かと安堵する。

私の正体はばれてない。

しかし安堵したのもつかの間でカイはクスリと笑みを漏らし

腰を折って座っている私と目をあわせた。



「まぁ、僕は別の意味でもいったんだけどね・・・姫君?」


「!」


「あら、うごいちゃ駄目ヨ。」



私は目を丸くしてカイを見つめる。

カイはただ楽しそうに微笑み、まっすぐとたった。



「大丈夫。言わないから心配しないで。」


「約束・・・してくれるのか?」


「あぁ、もちろん。アイシャもいわないよねー?」


「えぇ。何のことかいまいちわからないけど、いいワ。あ、出来たわヨ。」



私が話しているうちにアイシャは私の髪のセットを完了していた。

鏡に映る自分自身をみて恥ずかしくなり目線をそらす。

それにアイシャとカイがくすくすと笑みを浮かべた。



「よし!アンディとこ、いこっか。」



すっと自然に差し出された手を思わずとって、立ち上がる。

そしてハッと気がついて手を引っ込めた。



「そんなに警戒しなくてもいいよ?ま、構わないけどねー。」



カイがただ楽しそうに笑うとアイシャもそれにつられるようにして笑う。

居心地が悪くなって戸惑っていると、アイシャに手を引かれ私は歩き出した。

暫く進むと先程キラと分かれた場所にきてアイシャが扉の前でノックする。



「アンディ。」


「おやおや。」



扉がガチャリと開くとバルトフェルドが立ち上がり、キラも驚いたような瞳でこちらを見た。

やはり居心地の悪さを感じアイシャの後ろに隠れるようにすると

アイシャが私の背を押してキラの目の前につれてきた。

キラの視線を感じ、私は目線を下に落とす。



「女・・・の子・・・。」



その言葉に私はピクリと反応し、拳を握り締め足を一歩踏み出す。

前回それは聞いたはずだ。どうしてまたそんなことを・・・!



「てめぇ!」


「あ、いや、だったんだよね!って言おうとしただけだよ!」


「同じだろうが、それじゃ!」



キラが困ったような笑みを浮かべ、バルトフェルドが楽しそうに声をあげて笑った。

そしてアイシャも声をあげて笑い出す。

私達は恥ずかしくなって一様に床に視線を落とした。



「アンディー。」



コンコンとドアが再びノックされ周囲の注目が扉付近へ移る。

そこにはにっこりと微笑んでいるカイの姿。

キラの瞳が先程以上に驚きに見開かれる。

それと同時にバルトフェルドも困ったような笑みを浮かべた。



「どうかしたのか?カイ?」


「お客さんに会いたかっただけだよ。アンディ。
 それにしても・・・どうしてみんな同じような反応するかなぁ?
 おーい?起きてる?」


「へ!?あ、はい!」



キラがピクリと反応し背筋をのばした。

カイはくすくすと微笑み、顔を覗き込むようにしてキラの唇に人差し指を当てる。

キラが困惑しながらも赤く染まっていくのが分かった。



「ふぅん。キミがお客さん?」


「え・・・。」


「あぁ、もちろん彼女もだけど。
 ・・・・なるほどー。面白いねぇ?アンディ?」


「だろう?」



どこか含みのある声でカイとバルトフェルドが微笑みあう。

面白いとはどういうことだろうか?

もしかすると・・・私のことだけじゃなくキラのこともばれている?



「アンディ。私はする事がアルから抜けるワ。」


「あぁ、ありがとう、アイシャ。」



アイシャがにっこりと微笑み部屋を後にする。

それを見送ってからカイがソファに座ってにっこりと微笑み、

バルトフェルドがそれに苦笑をもらしてこちらに視線を向けた。



「キミ達も座りたまえ。ゆっくり話でもしようじゃないか。」



促されるままにソファに腰を下ろすとバルトフェルドが満足そうに笑い

こぽこぽとコーヒーを入れて私達の目の前においた。



「カイ、君の好みは・・・。」


「あ、いいよ。同じので。僕の好みの作ってたら日が暮れるでしょ?」


「そうだな。」



バルトフェルドが苦笑をもらして同じコーヒーをコップに注ぎ、カイの前に置いた。

その動作を目で追っているとバルトフェルドは視線に気がついたのか

笑みを漏らして目の前のソファ。カイの横に腰掛けた。



「ドレスもよく似合うねー。というかそういう姿も実に板についている感じだ。」



キラがそっと此方に目線をやる。

私は憮然とした態度でコーヒーカップを取り口をつけた。



「勝手にいってろ。」


「喋らなきゃ完璧。」


「アンディー。レディにそんなこといわないの。」


「はいはい。」



カイにそういわれてバルトフェルドはお茶らけた様子で肩をすくめて見せた。

キラが隣で呆れたような顔をして息を吐く。



「そういうお前こそ、本当に砂漠の虎か?
 なんで人にこんなドレスを着せたりする。これも毎度のお遊びの一つか?」


「ドレスを選んだのはアイシャだし毎度のお遊びとは?」


「変装してへらへら町で遊んでみたり、住人だけ逃がして町だけ焼いてみたりってことさ。」



にらむようにしてそういうとバルトフェルドは緩やかに微笑んだ。

隣でカイがへぇ。と楽しそうに微笑む。



「良い眼だねぇ。真っ直ぐで・・・実に良い眼だ。」



そのものいいに頭にくるものが来て私は思わず立ち上がり、机に両手をたたきつけた。



「ふざけるな!」


「カガリ!」



キラが焦った様子で私に制止の声を掛ける。

先程までふざけたような感じの表情だったバルトフェルドの顔が引き締まる。

ただその空気の中でカイだけが全く平常と変わらずとでもいうようにコーヒーに口をつけていた。



「キミも死んだ方がましな口かね?」



死んでいった明けの砂漠の仲間達のことをいっている?

彼らも必死で・・・!仇を討つために戦いにいったんだ!

死ににいったわけじゃない!

バルトフェルドは私から視線をキラに移した。



「そっちの彼、キミはどうおもっている?」


「え?」


「どうなったらこの戦争は終わると思う?MSのパイロットとしては。」


「!」


「お前っ!どうしてそれを!」



キラが痛々しい表情で視線を床に落とした。

カイが此方にちらりと視線を向けた後でバルトフェルドに視線をやる。

バルトフェルドはそれをみると再度楽しそうに声を上げて笑い、立ち上がった。



「あまり真っ直ぐすぎるのも問題だぞー?」



バルトフェルドが歩き出したので私とキラはそれを避けるようにして移動する。

壁を背にしてバルトフェルドの様子を伺う。

彼は私達に背中を向けて机から何かを取り出していた。

キラは私をかばうように私の前に立って腕を広げた。


カイの視線が此方を向く。否、キラの瞳を覗き込む。

何か品定めをするかのような視線でじっと。

キラはバルトフェルドに神経を集中させているためにそれに気付かない。



何・・・?




「戦争には制限時間も得点も無い。スポーツの試合のようなね。
 なら、どうやって勝ち負けを決める?どこで終わりにすれば良い?」



キラの気配が揺らいだ。

戦線で戦っているものとしてそれは不安なこと。

いつまで戦えば良いのか。何人殺せば終わるのか。

それは大きな不安の種だ。



「どこで・・・?」


「敵であるものを・・・全て滅ぼしてかね?」



バルトフェルドが此方をむき、真剣な面持ちで銃口を向ける。

もしかして・・・最初からこれが狙いか!?

キラがいなければAAの戦力はかなり落ちる。

それはZAFTにとっては嬉しいことだろう。


動けない。きっと少しでも動けばあいつの指が引き金を引く。

キラがあたりに視線を動かすとバルトフェルドが楽しそうに口の端を上げた。



「止めたほうが懸命だなー。
 いくらキミがバーサーカーでも暴れてここが脱出できるもんか。」



バルトフェルドの言葉に私とキラは一様に眉を顰める。



「・・・バーサーカー?」


「ここにいるのはみんな君と同じコーディネーターなんだからねぇ。」



私はその言葉にはじかれたようにキラをみる。

キラがコーディネーター?

キラが痛そうに視線をそらしたことを考えるとそれは本当のことなのだろう。



「お前・・・!」


「キミの戦闘を二回見た。砂漠の接地圧。熱対流のパラメーター。」


「へぇ、すごいじゃないか。」



カイの口の端が楽しそうに上がる。

そして視線は相変わらずキラの瞳だ。



「キミは同胞の中でも優秀な方らしい。
 あのパイロットをナチュラルだといわれて素直に信じるほど私は呑気ではない。
 そして、見慣れぬキミのさっきの立ち回りだ。」



あまりの緊迫した空気に頬を汗が伝う。



「キミがなぜ同胞と敵対する道を選んだのかは知らんが
 あのMSのパイロットである以上。私とキミは敵同士だということだな。」



今現在敵である。つまり抹消すべき対象。

銃口に視線を向ける。なす術が無い。

今、私達は捕食者を前にするウサギに過ぎない。



「アンディ。」



カイが突然立ち上がり私達とバルトフェルドの間に立った。



「お遊びが過ぎてる。
 彼女達怖がってるよ。今のキミの目的はこんなことじゃないでしょ?」


「・・・え?」



私達は何度か瞬きをしてバルトフェルドをみた。

バルトフェルドは苦笑をもらし銃口を私達から離す。



「やっぱりどちらかが滅びなくてはならんのかねぇ?
 ま、今日のキミは命の恩人だし、ここは戦場ではない。」



そういいながらバルトフェルドは銃を棚の中に戻した。

それをみて私達はとりあえず安堵の息を吐く。

カイはバルトフェルドの銃に視線をやってから私達に眼を向けた。



「ごめんね驚かせて。」


「おいおい、カイ。私だけが悪いのか?
 助けなかったキミは?」


「僕は今は中立なの。仕事中じゃないし。」



やれやれとバルトフェルドは息を吐き、無線らしきもののボタンを押した。

するとすぐに扉が開きアイシャが中に入ってくる。



「帰りたまえ。話せて楽しかったよ。よかったかどうかは分からんがねぇ。」



キラが私の肩を抱いて扉に向かう。

アイシャと視線が合ったがアイシャはただ穏やかに微笑んでいるだけだった。



「また、戦場でな。」



バルトフェルドの言葉に私達は一瞥を向けたが

彼は窓の外を見ていて此方に視線を向ける様子は無い。

私達は再び足を進めた。玄関付近まで来たときに不意に背後から声がかかった。



「キラ、カガリ。」


「!?」


「なんで名前を!?」



振り向いた先には人形のような完璧な美を持つ人。

その人は此方に近づいてきて、私達と視線を合わせるように顔を覗き込んだ。



「カガリはさっきいったでしょ?僕はキミを知っている。
 キラの方は秘密ね。」



カイは唇に人差し指を持っていって片目をつぶってみせる。

そしてキラに瞳を向けた。



「キラ。僕はいまキミの大切なものを預かっている。」


「大切な・・・?」



キラは意味が分からないとでもいうように首をかしげる。

実際私も意味が分からない。この人は何を言っているのだろう。



「でも、今の君はそれを返すに値しない。
 僕にとっても本当に大切なものだ。」


「何を・・・言ってるんですか?」


「わからない?そう・・・ならしょうがないかな。
 よーく考えて?キミが返すに値するようになったら返してあげる。」



キラが何度か瞬きをしてカイの顔を見る。

カイはただ楽しそうに笑い私の方をみた。



「カガリ。おてんばが過ぎないようにね?」



くすくすという微笑を残して、カイは踵を返しその場を立ち去った。

私達はただ困惑の中に残された。



「一体・・・なんだったんだ?」









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2006/05/13


あとがき

すみません。また出てきましたこの人。
お前のオリキャラなんてどうでもいいよ。って声が聞こえてきそう(笑)

キラ様品定めをされるの回。
カイさん、実はカガリさんの品定めもしてたり。
それはまた今度書く事に。

カイは主人公さん離したくないんだろうと思います
ひたすら愛される主人公さんでいきます!