「嘘・・・!」


「嘘じゃない。」


「嘘だ!」


「落ち着け!」


「っ・・・!」



痛みを感じるほど肩を強く掴まれて、俺は眉をよせた。

俺の瞳を覗き込んでくる異常と思うほどに美麗な友人の深緑の瞳には真剣な光が浮かんでいた。



「嘘だ!アイシャが死んだなんて!」


「・・・事実だ。受け止めろ!」



カイは眼光を鋭くしてはき捨てるように俺にそういって椅子にどっかりと腰をかけた。

荒っぽい言葉遣い。いつも、のらりくらりと人を交わしていく言葉ではない。

彼女も余裕がない。常に余裕をもっている彼女が余裕を失っている。

なぜかソレが俺に安心感を与えた。


ふと目の前の扉の手術中の光が消えた。

そして少しした間があいた後に中から出てくる腕を血で汚したフィーラ。



「フィーラ・・・フィーラ!アンディは!?」



声が震える。視界がゆがむ。

だめだ、泣いてしまう。

もし・・・アイシャに続いてまた大切な人を失ってしまうのかと思うと。

フィーラにすがり付いて、血のように赤い瞳を見上げて懇願するようにそう叫ぶ。

彼はそんな俺の頭を優しく撫ぜて、柔らかく微笑んで見せた。



「応急措置は済んだよ。とりあえず大丈夫。命は取り留めた。
 でもここの施設じゃ、応急措置しか出来ない。
 僕の研究室に運ぶ。いいね、カイ?・・・カイ?」


「え・・・?あぁ・・・うん。」



呼びかけても返事がなく訝しげな声でフィーラに呼びかけられ、カイは何度か瞬きをして息を吐く。

そしてどこかぎこちなく笑みを浮かべてみせた。フィーラは困ったようにソレに笑い返す。



「どうしたの?君らしくもない。」


「勘で・・・。」


「?」


「いくら僕の勘で・・・黒翼の勘で大丈夫だと分かっていても、それは確信じゃないんだ。
 だけど信じなければ死んでしまうかもしれない。だから信じる。
 だけど確信じゃない。だから不安で仕方がない。
 もしアイシャとアンディ、一度に二人が消えてしまうと思うとやりきれなくなる。」


「カイ・・・。」



自らの両手を見て何かに耐えるように眉を寄せる彼女に近寄る。

不安に想い彼女のまん前に立って肩に手を置くと

そのまま強い力で引き寄せられ彼女の腕の中に抱きしめられる。



「カイ・・・?」



普通逆じゃないかと想いながらも彼女の名前を呼ぶと彼女は俺を抱く力を強くした。



(震えてる・・・?)



小刻みな振動が体全体から伝わってくる。

どうしようかとフィーラに視線を移してみると

フィーラは血のような色をしていながらも穏やかな瞳を俺に向けた。

そのままでいてあげてくれとそういわれているのだと思う。



「・・・少しだけ・・・少しだけこのままでいさせて。
 君を抱きしめてると落ち着くんだ。
 ・・・ハルキと同じにおいがする君を抱きしめてると。」


「!」



彼女の恋人だった少年の名前を出されて、俺は出す言葉を失った。

辛そうに瞳を閉じる彼女の横顔をみて、少年の面影を脳に映し出す。

真っ白な雪のような白い髪と、夜の闇のような漆黒の瞳。

ちょうど俺が助けた少年、ルークと同じような瞳。

ルークはキラともハルキとも重なる。彼は俺にとっては体に悪いかもしれない。

そしてハルキは・・・。



。君がなにを考えてるか、なんてすぐわかる。
 もう気にしないで。っていったはずだよ。」



そういいながら俺の肩をおして離れたカイはもういつもどおりのカイで。

自信に溢れていて深緑の瞳には強い光がともっていた。

その光にひるみそうになる。

先程までは逆の立場だったなんてこと信じられない。



「消える事実じゃない・・・から。」


「そうだね。消えるはずない。
 だけど僕が多くの人の大切な人をこの手で殺してきたのも消える事実じゃない。
 そしていつも言ってるようにハルキは僕の心の中に。思い出の中に生きている。
 だからもう気にしないで。」


「気にしないなんて・・・できない。」


。僕がそういってるんだ。」


「だって・・・!」



ハルキは。



カイの恋人は。



俺が殺したんだ。





◆◆◆





初めて会ったのは確かまだカイの部隊にいたとき。

その頃はユニウスセブンも農業プラントとして存在していて

本格的な武力衝突は起こっていなかった。


だからといって戦闘がないわけではなく

コーディネーターとナチュラルとの闘争は頻繁に行われていて

そんな中で久々に取れた休暇の時だったんだと思う。



『僕の彼氏を紹介しますv』



どこかの国の昔の映画のタイトルだという言葉で。

そんな本気か本気じゃないのかよく分からない調子で

背後に隠れていた少年を俺の目の前に押し出した。


第一印象は白。視覚的に雪のように真っ白な髪。

そしてあたりをとりまく空気が白だった。


カイに俺とどこか似ている。においが同じだといわれた。

そうだろうか?とじっとハルキを見つめてみるとハルキは柔らかく笑みを浮かべる。



『はじめまして、先輩。ハルキ=ディヴァイスです。』



”先輩”という響きに妙にむず痒さを感じた。

聞けばアカデミーの後輩らしくてつい最近ZAFTにも入隊したらしい。

そして俺が"銀のツバサ"なんて二つ名を貰い一小隊を任された時、初めからいた部下の一人だった。



軍服は緑だった。

かといっても弱いわけではない。戦闘技術は赤のそれとさして変わらなかった。



顔立ちは整っていた。

かといってもカイの隣にいては花束の中のカスミソウのような存在だった。



本来目立つような位置ではなかったのだと思う。

けれど目立っていたのは彼の素質がなす業か。


カイとフィーラとハルキと。

その4人でつるんで休日にどこかに出かけるのがとても楽しかった。

軍に身を置いているというのにあのころが一番楽しかったのかもしれない。


しかしソレが崩れたのは本当にすぐだった。

俺が始めてスイッチを入れた。いや、種が割れたとき

俺は前に立ちはばかったハルキをなんの躊躇もなく切り捨てた。


無我夢中でよくは覚えていないのだけれど

地球軍の艦隊とやりあったときだったのだと思う。

周りの味方の艦がつぎつぎと落とされていって、これでは負ける。




そう思った瞬間に一気に頭がクリアになった。

すべての動きがスローモーションのように見え、目に映る敵は全て排除。

ほぼ地球軍が壊滅という状態になった時でさえ、戦線から離脱する艦も討とうとした。



そんな俺を止めるために立ちはばかったのがハルキだった。



『止めてください!隊長!!』



彼の声は聞こえていたのに。

俺の体はそれを情報として受け取らなかった。

あの時は自分に邪魔なものはすべて排除。そんな思考で動いていた。


ハルキを切り捨てて、さらに前に進もうとした時、

耳に届いた声はハルキの苦痛のうめきだった。

ソレを聞いた刹那に俺は通常の精神へと立ち戻った。

いや、正しくはうめきの前の僅かに聞こえたハルキの”隊長”という呼称ではなく

オフの時に、彼が俺を呼ぶときに使う



先輩”



という呼称のせいだった。


普通の精神に戻って。

自分のした事の重大さに今更ながらに気がついて。

視線を自分の背後。ハルキのジンの方向にたまらず向けた。



『ハルキっ・・・!』



俺はあの時声を出せていたのだろうか。

ハルキは俺の声が聞こえたのだろうか。

そんなこと覚えていない。わからない。


振り向いた先では手が届きそうな場所でジンが腕から次々と連鎖的に爆発し、

その爆風に煽られて俺とハルキの間はどんどん離れて、手を伸ばしても届かなくなった。

そして目もくらむような閃光の後、先程までとは比べ物にならないほどの巨大な爆風を受けて

抗うことが出来ず一瞬瞼を閉じて、俺は背面のブースターをふかしてその場にとどまった。

次に瞼を開けた時にはそこにはジンの姿はなかった。



木っ端微塵。



字に顕してみると、あぁよく顕したものなのだと思う。

それほどまでにハルキの乗っていたジンは粉々に砕け散って

自分の周りの浮遊物が元はジンだったなんて、

ハルキだったなんてとても想像できない。



跡形もなく消え去った。



その後の記憶はない。

意識がなくなったわけではなく、後で聞いた話だが自分で母艦に帰ってきたのだという。

だけど、その時の自分の愛機だった銀色のジンに閉じこもったままプラントまで出てこなかったらしい。

そして一番会いたくなかった人物に無理矢理コクピットのハッチをこじ開けれて

ようやくそこからの記憶がある。



『・・・カ・・・イ・・・お・・れ・・・俺が・・・!』



気を抜けば目のふちから涙がこぼれそうで視線を合わせられずにずっと下を向いていた。

謝って許されるようなことではない。だけど謝らなければ。

絶対に怒っている。俺を恨んでさえいるだろう。

だけど思い切って視線を上げた先にいたカイは怒っている表情ではなく

まして俺を恨んでいるといった表情でもなかった。



『まったく君は・・・コクピットから出ないなんて何考えてるの?
 部下達が心配してるだろ?』




俺の目じりにたまった涙を人差し指で優しくぬぐいながらカイは俺に声をかけた。

だけど彼女の表情が痛さのにじみ出る笑顔で。

それをみた瞬間にまた自分のしたことの重大さを思い知る。

途端に腹のそこから熱い何かが上ってきて、視界がゆっくりとゆがんでくる。



『・・・ごめん・・・ごめん!カイ!俺を・・・!俺を恨んでいいから!』



むしろ恨んで欲しい。そうする権利がカイにはある。

恨まれたところで罪は晴れない。けれど自分は恨まれるべきだ。



『・・・軍に身を置いてるって時点でそれ相応の覚悟はしてきた。
 もその覚悟はあるはずだよね?ハルキも同じ。
 戦場にいるってことはそういうことでしょ?』


『だけど・・・!』




ソレは敵に討たれるという場合の話。

今回は味方・・・しかも親しい間柄であるはずの俺に討たれたのだ。

そんなことがあっていいはずがない。

苦しい。息が上手くすえない。

目からはとどめなく涙が零れ落ちて、パイロットスーツとカイの手をぬらした。



『・・・君が泣かないで。
 僕まで泣きたくなっちゃう。』



眉を下げながらカイは微笑む。

哀しいからなのか、困ったからなのか。

そのどちらか判別しにくい微笑。

もしくは両方だったのかもしれない。

視界がゆがみ続けることも手伝ってカイの表情が分からない。



は本当に甘えただねぇ。
 ・・・も辛いんでしょ?そんな君を責めるなんて僕は非情なことはしたくない。
 それとも君には僕がそんなに鬼のように見えるのかな?』


『ちがっ・・・!』


『そう。』




思わず顔を上げて、カイの両腕をつかんでしまうと

カイは柔らかく微笑んだ。



『じゃぁ、聞いて。ハルキはね、生きてるよ。僕のココで。』




カイは瞳を閉じて、自らの胸に手を当てて微笑む。



『そして、君のココでも生きている。』



すっと人差し指で俺の胸を指差して、顔を近づける。



『ハルキのことを覚えていればハルキは思い出の中でいき続けることができる。
 ハルキのこと思いつめなくてもいい。もう気にしないで。
 僕は君の事を恨んじゃいない。あの子も君の事を恨んじゃいない。
 むしろ君をとめることが出来たと喜んでるかもしれない。
 あの子らしい最期だったと思う。だから自分を卑下するな。
 だけどね、。これだけは・・・これだけは絶対に。』




常緑のようなどこまでも深い緑の瞳が真剣みを帯びて俺と視線をあわせて離さない。



『ハルキのことを覚えていて。出来れば楽しい部分を。
 そうすればハルキは僕とのココで楽しい時間を生き続ける。
 だから覚えていて。』




その言葉を聞いてカイには敵いそうにも無いと涙を流し続けていた俺は僅かに笑みをもらした。

それをみて安心したような笑みを浮かべて

カイは俺の頬を両手で軽く包み込むようにして叩きコクピットを出た。




◆◆◆



「ハルキ・・・生きてるんだよね。」


「そ。の心で。フィーちゃんの心で。僕の心で。
 だから・・・アイシャにも生きてもらわなきゃ。」



カイが昔したように自らの胸に手を当てて瞳を閉じる。

その表情は先程まで動揺してたなんてとても思えないほど穏やかな微笑だった。


俺はカイみたいに死をすぐには受け入れられない。

だけどカイの考え方には同調するから。

友が常に自分と一緒にいると思えるから。

だから俺は



戦場に散った友人達をいつまでも覚えていようと思う。







BACK NEXT

あとがき

苦悩していただきました。
いやぁ・・・筆が進む進む。するっと生まれてきました。
でも、書いてて痛かった。
親友の恋人を我を忘れて殺してしまった。設定
実は連載始める前から決まってたんです。
駄文なのに想像だけが広がって書きながらちょっと泣きそうになった。主人公さんに同調して。
想像力万歳。これ伝えられるだけの文才が欲しいです、本気で。

ハルキ君、睦月の絵でもいいからどんな子か見たいという方がもしいらしたら
イラストの8月5日のエチャログの3枚目。スイカ食べてる子です。
出演作品が違いますが、同一人物です。ついでにカイとフィーラも永劫関係で見れます。
主人公さんのイラは夢関連のところにいらっしゃいます。
興味ある方がいらっしゃいましたら、是非ドウゾ
今更ながらに宣伝してみた(ぉぃ)

次は難産だったラウとの会合です・・・!