降下なんて始めての体験でずっと宇宙育ちの僕にしてみたら

とても新鮮なことだった。それと同時に少し怖いと思うのも事実だった。



「では。」


「今度も無事で」



見送りにきた両親達に敬礼をすると、お父さんが少し不安そうな表情で頷いた。

母親が眉を下げた笑みで僕にそう優しく言葉をかける。

父がそこでどこか辛そうに視線をそらす。



「はい。行ってまいります。」



不安にさせてはいけない。

心のどこかでそう思って僕は穏やかな笑みを浮かべて両親に背を向けた。

一度振り替えった先の両親は不安そうな表情を隠しきれていなくて

ソレを元気付けるように僕はもういちど笑みを浮かべ、その後は振り返らなかった。



「ニコル!」



ヴェサリウスの中を進んでいるとどこからか声が聞こえた。

浮遊していた体を少し止まらせて後ろを振り向いてみると

深い海のような紺色の髪と明るい翡翠の瞳を持つ端正な顔立ちの友人がいた。



「あぁ、アスラン。」



拳を差し出してくる彼と会うのは久々で

なんだか気恥ずかしさも覚えながら僕はソレに答える。



「この間はありがとうございました。」



この前、会ったには会ったのだけれども、僕は舞台上から彼は客席から。

そこにはどうしても板一枚はさまれているような気がするので会ったという実感はない。



「いや、いいコンサートだったね。」



その言葉をきいて僕は少し笑みを深める。



「寝てませんでした?」


「そ、そんなことはないよ。」



不意を衝かれたようにアスランは目を丸くする。

少し意地の悪い質問だっただろうか。

舞台上から客席ははっきり行って見えないも同然。

だけどさっきの反応で寝ていたことは明らかだと思う。



「本当はもっとちゃんとしたのをやりたいんですけどね。」



あの人に・・・聞かせて欲しいといわれた。


もうかなうことのないその願いを。


僕のピアノをちゃんとした場所で。



「今はな・・・。」



そう感慨深く呟く彼の目線はどこか遠いところ。

どこまで続くか分からない。

いつまで戦えばいいのか分からない。

その不安が僕の心にはいつもある。



「このオペレーション・スピット・ブレイクがおわれば情勢も変わるだろうから」


「ですね。でも今回は結構ゆっくりできましたね。」


「あぁ。」



微笑を浮かべて彼のほうに視線を向けると彼もこちらに視線を向けて柔らかく微笑んだ。

僕は視線を前に向けて微笑みを深くする。



「僕、降下作戦初めてなんです。」



だから少し楽しみで少し不安。



「俺だってそうだよ。」


「あぁ、そうですね。」



そういえばそうだと今更になって思い出し、僕はクスリと笑みを漏らした。





◆◆◆





ヴェサリウスから降下のために船を乗り変えて

僕たちはMSに乗り、MS降下用のポッドでジブラルタル基地におりたった。

初めて地球でみた初めての海。

青くキラキラと水面が反射して空には鳥が飛んでいて。

自然はとても雄大で綺麗だった。今ならきっといい曲がかけそうな気がする。



「ニコルー!」


「あ、はい!今行きます!」



アスランに呼ばれて僕はその後に続いた。

第2ブリーフィングルーム。そこがクルーゼ隊の集合場所。

内地図を見て、特に迷うことなくブリーフィングルームにたどりついた。

中からなにやらもめているような声が聞こえる。

これはきっとイザークのものだと思う。

アスランと僕は顔を見合わせてから、部屋の扉の横にあるブザーを押した。



「失礼します。」



アスランがそういって中に入って、僕もその後に続く。

そして目に入ったのはクルーゼ隊長を尊敬しているイザークにしては珍しく

隊長に意見をしている場面だった。

そして包帯の取れた顔をみて目を見開く。

アスランも同じようなことを思ったのか眉間に皺を寄せてイザークをみた。



「イザーク、その傷・・・!」



苦々しげにイザークは僕たちから視線をそらす。



「よう。お久しぶり。」



ディアッカが軽い調子で僕達に声をかける。

それをみてクルーゼ隊長がどこか満足そうに笑みを浮かべた。



「傷はもう良いそうだ。
 彼はストライクを討つまで痕を消すつもりはないということでね。」



クルーゼ隊長の説明を聞いて僕は再びイザークに視線を向ける。

ソレほどまでにあのストライクのパイロットが憎いんだろうか。

少し・・・心配だ。アスランも心配なのか

イザークから視線を外してなんだかつらそうな表情を浮かべて見せた。



「足つきがデータをもってアラスカに入るのはなんとしても阻止せねばならない。
 だが、それは既にカーペンタリアの任となった。」



クルーゼ隊長がイザークに視線を向ける。

イザークが口惜しそうに唇の端を噛んでから、瞳の光を強くしてクルーゼ隊長に視線を向ける。



「我々の仕事です!隊長!!あいつは最後まで我々の手で!」


「私も同じ気持ちです!隊長!」


「ディアッカ・・・。」



ぐっと、右の拳を強く握り締めたイザーク。

そしてそれに同調するディアッカは両手を机に叩きつけ立ち上がる。



「ふんっ。俺もね。散々屈辱を味わされたんだよ。」



苦々しげにディアッカがはき捨てるように言う。

アスランが険しい顔つきでイザークとディアッカを見ていた。

すこし心配になってアスランの方を向いてみるとクルーゼ隊長から思案気な声が上がる。



「無論、私とて想いは同じ。スピット・ブレイクの準備もあるため私は動けんが
 そうまで言うなら、君たちだけでやってみるかね?」



仮面を押し上げながらクルーゼ隊長は小さく微笑んでイザークに視線を向ける。

イザークの顔が華やかに輝いた。

水を得た魚。その表現がピッタリ来ると思う。



「はいっ!」



嬉々とした響きをもつイザークの返事に満足そうにクルーゼ隊長は微笑んで一度僕たちを見回す。



「イザーク、ディアッカ、アスラン、ニコルで隊を結成し
 指揮は・・・そうだな。」



クルーゼ隊長は少し考えるような間をおいてから

僕たちのほう。つまりアスランに視線を向けた。



「アスラン。君にお願いしよう。」


「え?」



ぴくんっとイザークが反応し、アスランとディアッカが同じように驚きの表情を見せる。

僕としてはアスランに回ってきたのも不思議ではないと思うけど

言い出したイザークがなってもおかしくなかったとも思う。



「カーペンタリアで母艦を受領できるように手配する。
 直ちに移動準備にかかれ。」



イザークが怒りを爆発させそうな勢いでアスランをにらみつける。

それに構わずといった風貌でクルーゼ隊長が

部屋を出て行こうとするのをアスランが呼び止めた。



「隊長!私は・・・。」


「いろいろ因縁のある船だ。難しいとは思うが、君に期待する。アスラン。」



肩に手を置きながらクルーゼ隊長はなにか甘い誘惑でも囁くかのようにアスランに言葉をかける。

そしてふと思いついたように僕とアスランをみて口元に笑みを浮かべた。



「あぁ、そうだ。最近はいった整備士も連れて行ってもらおうか。
 さっき呼んでおいたからじきに来るだろう。
 イザークとディアッカはもうあっているから、アスランとニコルもあっておいてくれ。
 では、私はこれで失礼。」



クルーゼ隊長が部屋を出て行ってから

イザークとディアッカがアスランに挑発的な笑みと視線を向ける。



「ザラ隊ね・・・。」


「ふんっ。お手並み拝見と行こうじゃないか。」


「アスラン・・・?」



心配になってアスランの顔を覗き込んでみると

アスランは眉間に皺を寄せて唇の端を噛んでいた。

隊長に選ばれたことは光栄なことなのに・・・この人はそれを苦しんでいる?



「アスラン?」


「・・・!
 ニコル・・・大丈夫だ。」



アスランが目を見開いて僕の顔を見てから、その表情を柔らかな笑顔に変えた。



「それにしても・・・どうして整備士をいっしょに連れて行くんでしょうね?
 そんなに腕の良い人なんでしょうか?」


「そうだな・・・クルーゼ隊長にしては珍しい・・・。」



カーペンタリアにも整備士はいる。

なのにわざわざ連れて行く意味が分からない。

なにを意図してやっているのか・・・。



「あ、そうか。お前ら知らないんだっけ。」


「ん?あぁ、そうか。新しい整備士は――・・・」



イザークが整備士の名前でも言おうとしたのだろうというその瞬間に扉が開かれた。

名前をいっても知らない人なのだから分かるはずもない。

そう思ったのに扉の向こうにいたその人物の姿を認め僕は目を見開いた。



「ごめんっ!ラウ!イージスとブリッツの資料貰ってたらじか――」


・・・さん?」



恐る恐る指差して言った先の人は月の様な少し癖のある綺麗な銀髪に

少しだけ濃いエメラルドグリーンとどこか温かみを感じさせるアイスブルーの瞳。

王子様と形容されるような甘い端正な顔立ち・・・そして柔らかな穏やかな笑顔。



「久しぶり。ニコル。アスラン。」



ふわりと微笑を浮かべられ僕とアスランは声を出したくても出せない状態で

イザークとディアッカが後ろで溜息を吐いた。



「みろ。貴様が連絡をよこさないからだ。」


「だから、理由があるっていっただろ?」



くすくすと苦笑のような笑みを漏らしてさんはイザークたちに視線を向ける。

さんが着ているのはZAFTの軍服ではない。

いや、ある意味軍服であるのだが、緑の整備士の格好だ。

かつてZAFTの英雄とまであがめられた”銀のツバサ”こと

その人が整備士の姿をしているところを見るとは夢にも思わなかった。



「本当に・・・生きてた。」


「本当に?アスラン、貴様誰かからのこと誰かから聞いていたのか!?」



イザークが肩眉を跳ね上げてアスランに噛み付くように言う。

さんはMIA。未確認の死といえどもほぼソレは確定で、戦死したことになっていた。

だけど今ここにいる。もしかしてソレを知られるとまずいのだろうか?



「黒翼に・・・勘で生きていると・・・!」



ぐるぐる回る思考のなかでアスランの震えた声が聞こえた。

はたとそちらの方を向いてみるとアスランが一筋の涙を流している。



「勘だと!?そんな不確定な要素にとらわれるとはアスラン、お前もフヌケタな。」


「イザーク。」



咎めるようにさんに名前を呼ばれてイザークは押し黙る。

そしてさんはアスランの頭に手を置いてとても柔らかく微笑んだ。



「大丈夫。俺はここにいる。アスランの目の前にいる。本物だ。」


さ・・・ん!」



涙目になりながらさんを見上げるアスランを。

いや、それを優しく微笑んで見つめるさんを。

僕はただ信じられずに見つめていた。

死んだと。聞かされた。MIAは暗にソレを示している。

僕のピアノをコンサート会場で聞いてみたいと誉めてくれた人はもう存在しないのだと。

ぽっかりと黒い丸い穴が心に開いて。ソレを感じたくなくて暫くピアノから離れてみたりして。

だけどそんなことしてもこの人は喜ばない。

そう思ってピアノをもう一度始めた。

だけど・・・またさんが目の前にいる。



「ニコル・・・。」



アスランから離れてさんが僕の目の前にやってきた。

僕はただ呆然と彼を見つめる。

さんが不意にとても優しく包み込むように微笑んだ。



「ただいま。」


「おかえりなさいっ!」



思わず抱きついた僕をさんはただ笑って抱き返してくれた。






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あとがき

ほらイザーク黒翼の正体知らないから。
知ったら勘でも納得すると思う、多分。

ZAFTレッド達とようやく全員再会しました。
暫くこの子らと行動です。
キラ様との再会をまっていらっしゃる方もうちょっとお待ちを・・・!
再会どこでするかはもう決まってるんです!
更新のろいのでそこにたどりつくのに時間がかかるのですが(汗)
絶対再会はさせるので!

ニコル意外と難しい。
白にするか黒にするかまよって結局のところ灰色になってしまいました。
ということでうちのニコルは灰色ということにしてください。