言うべきではなかったのは分かってる。

それがあの人を困らせる言葉になるということも。


だけどキラとあの人がとても仲良くなって

俺はそれをただ微笑を浮かべてみているだけという様子を思い浮かべたら

それがひどく口惜しくて

キラにあの人を・・・さんを渡したくないって思ってた。



「足つきはオーブにいる。間違いない。」



赤服4人全員がそろったブリーフィングルームで

俺は表情を固くして事実を言葉にのせた。

言うか、言わないか。散々迷った。

だけど今は戦争なんだ。



(敵なんだ。あいつは。)



此方が討たれたらさんをキラに獲られるとか

そういうわけではない。

むしろ此方が討たれればさんも討たれることになり

結果的にはさんをキラに渡すことにはならない。

だけどそんな私情は挟んだわけじゃない。



討たなければ討たれる。



俺が今いるこの世界はそういう世界。

海図に落としていた目線を上げて、俺はイザークたちの顔を見渡した。



「出てくれば北上するはずだ!ここで網を張る。」


「あぁ?おいちょっと待てよ!
 何を根拠に言ってる話だ、それは?」



イザークたちはキラが。ストライクのパイロットが。

俺の友達で顔見知りだなんてこと知らない。

当然ながら俺も言ってない。言えばややこしいことになってしまう。

思ったとおり俺の理由のない確証にイザークは不服そうな声を上げて見せた。

ニコルが心配そうに眉尻をさげる。

いや、これは不思議がっているといった方がいいかもしれない。



「一度カーペンタリアに戻って情報を洗いなおしたほうがいいのではありませんか?
 確証がないのでしたら・・・。」


「いや。」



一呼吸置いて俺は視線を海図に落とす。



「いるんだ。」


「ふんっ。」



理由のない確証。

やはりそれが気に障ったらしく、

イザークは不機嫌を顕にして目を細め小さく鼻をならした。



「じゃぁ、どうするわけぇ?足つきが出てくるまでここで待機ってこと?」


「あぁ。そうなるな。」



目線を向けてみるとディアッカがつまらなさそうに肩をすくめて見せる。



「わかりましたよ、ザラ隊長。
 ほらいくよ、イザーク?」



軽くおどけて見せてディアッカはイザークの肩に手を置いた。

イザークはその手に一度視線を投げてから、

眉根をきつく寄せて俺をにらみつけた。



「間違っていたら覚悟しておけ!」



そんな捨て台詞と取れるようなものをイザークははき捨て

部屋をでていき、その後にディアッカも続いた。


扉が閉まってから俺は深く息を吐く。

その様子をニコルが心配そうに見つめていた。



「あぁ・・・大丈夫だよ。ニコル。」


「アスラン・・・僕はなんだかアナタらしくないと思います。
 確証もなく網をはるなんて・・・もし間違ってたらどうするんですか?」


「・・・間違ってなどいないさ。」


「でもっ・・!」


「ニコル。もうやめにしよう。」



自分でも気味悪くなるほど薄く穏やかな笑みを浮かべながらニコルに言葉をかけた。



「無駄足になんかしない。」


「・・・わかりました。
 あなたがそこまで言うなら僕はザラ隊長を信じます。」


「ありがとう、ニコル。
 じゃぁ、俺はもういくよ。」



ニコルに背を向けて俺はブリーフィングルームを後にした。

向かう先は俺たちのMSが収容されているドックで

あの人がいる場所だった。


ドックについてみるとさんは予想通り

資料を片手に俺達のMSを見て回っているところだった。

少しだけ濃いエメラルドグリーンとどこか温かみを感じさせるアイスブルーのオッドアイ。

何かに迷うように少しだけその色が揺れて見える。

そしてその迷いを与えているのに自分も関わっているのだということが少しだけ嬉しく思った。

さんの心の片隅を少しだけ占領している。

そんな考え方ゆがんでいるとわかっても

おもちゃを欲しがる子どものように、俺はさんの心を欲しがっているのだと思う。



さん。」


「アスラン・・・。」



女性隊員に王子様と形容されるほど甘い顔立ちが俺の名を呼びながらこちらを向いた。

ふわりと月の光を思わせる少し癖のある銀色の髪が揺れる。

俺が近づいていくと、さんは手元の電子資料の画面の電源を落とし

やはり不安が残る表情で俺の瞳に視線を合わした。



「俺、アスランに言われたこと色々考えたんだ。」


「はい。」


「長い間頭の中で考えがぐるぐる回ってた。
 考えてると,、こう・・・胸の中を強く握り締められたみたいに苦しくなったりもした。」



さんは自分の胸の辺りに右手を持ってきて

整備服に皺が深くつくほどそのあたりの布を強く掴んだ。



「考えて、自分の心に問いかけた。
 それでも・・・俺は答えを見つけられない。
 でも俺はアスランの気持ちには答えられない・・・と思うんだ。
 俺の気持ちは多分・・・。」



一瞬泣いてしまうのではないのだろうかと思うほど

困惑した色を浮かべた瞳でそういわれ

こんなにも自分はこの人を動揺させているのだと鼓動が早まった。



「・・・・ゆっくりでいいです。」


「え?」



柔らかく笑みを浮かべながら小さく呟いた言葉にさんが不思議そうに声を漏らす。

俺は落としていた視線を上げたさんの視線を受け止めて、真っ直ぐに綺麗なオッドアイを見つめた。



「俺は諦めません。さん。
 今のさんの気持ちはキラに向いてるのかもしれない。
 だけど・・・俺はキラからきっとさんを奪って見せます。」



知らずのうちに笑みを浮かべて宣戦布告とも取れる言葉をさんに放った。



「アスラン・・・。
 わかった。心しておく。」



さんは少し考えるような間をおいた後に

困ったように柔らかい笑みを浮かべて頷き自分の仕事に戻っていく。


一度ふられたともいうような言葉を向けられたのに心は驚くほど爽やかだ。

だけど・・・諦めない。諦められない。

だからきっと奪ってみせる。




◆◆◆




オーブ近海で網をはって待機してから丸々2日が過ぎた。

AAはかなりのダメージを負っていたから修理に時間がかかっているのだろう。


甲板に出るとプラントでは感じることの出来ない

少しねっとりとした塩の匂いを含む風が頬を撫でる。

それとともに思い浮かぶのは同じような風が吹いていた場所。



『昔・・・友達に・・・!
 大事な友達に貰った・・・大事なものなんだ・・・』



俺が小さな頃に作った緑色のロボット鳥を両手で大事そうに包み込み

視線を降ろしながらそういう幼馴染。



「だがお前はフェンスの向こう側だ。」



もはや相容れないところまできてしまったのだろう。

敵同士。昔の幼馴染ではもういられないだろう。

そしてフェンス越しにもう一人。

いつぞやに無人島であった少女。

驚くほど真っ直ぐな目をしてた。

MS自体を作ったオーブが悪いというのはわかっていると。

だけどそれは地球の多くの人を殺すのだろうと。


わかっていたけど、改めてその事実を突きつけられて

その真っ直ぐな言葉に俺は一瞬どうしようもなく自分が汚れているのだと感じた。



「カガリ・ユラ・アスハ・・・・か。
 確かに地球軍ではなかったな。」


「アスランー!」



楽しそうな声が俺の耳に届く。

振り向いてみるとふわふわと癖のある緑色の髪を持つ友人が

こちらに手を振りながら走ってくるところだった。

その後ろからは緑の整備士の服を着た

月の光のような銀髪をもった綺麗な人が歩いてきていた。



「補給終わったんですね!」


「あぁ。」



少し乱れた息を整えながらもニコルが楽しそうに微笑む。

それにつられて俺も少し笑みを浮かべた。



「向こうのデッキからトビウオの群れが見えますよ!」



ニコルは向こう側のデッキを指差しとても嬉しそうに言う。

プラントではみることが出来ないものがみれて嬉しかったのだろう。

感情が体全体からあふれ出ている。



(なにもなければ。こんなにも15の少年らしいのに。)



「さっきまでさんと一緒にみてたんですけど、アスランもいきませんか?」


「いや・・・。」


「どうして?」



眉を下げながら笑みを浮かべ、デッキに視線を移し答えると

さんが柔らかく笑みを浮かべながら俺に問いかけた。



「どうして。といわれましても・・・。」



この2日間ですこしギクシャクしていた関係も今ではいたって普通に戻っている。

ギクシャクした関係はやはり気まずかったので俺としては嬉しい。

さんに一度視線を投げかけ俺は苦笑を浮かべた。

その様子をみてかニコルが心配そうに眉間に皺を寄せ眉を下げる。



「不安・・・なんですか?」


「へ?」



あまりに予想していなかった言葉に思わず変な表情と声が出た。

目を見開く俺にニコルはとても柔らかく微笑みを浮かべてみせる。



「大丈夫ですよ。僕はアスラン・・・じゃない
 隊長を信じてます。」



軽く肩をすくめてから言い直された言葉に

俺はなんだか申し訳なくなり笑みを浮かべた。

トビウオの群れを見に行くことを俺が断ったためにニコルは俺の隣に腰を下ろす。

さんもそれに続くようにニコルの隣に腰を下ろしたので

ニコルは無邪気な笑みを浮かべながらさんの方を向いた。



「ねぇ、さんもそう思うでしょう?」



ニコルはさんがAAにいたことを知らないから

それゆえに無邪気で残酷なことを聞く。

けれど俺はそれをとめることは出来ない。



「そうだね。AAはオーブにいると俺も思うよ。」



申し訳なく想いながらさんの顔を見てみると

意外にもさんはいたって普通の柔らかい笑みを浮かべていた。


・・・いや意外ではないか。

本来自分の不安な気持ちは俺たちには気付かせないように装うことを得意としていた人だ。



不安な気持ちを表に出していたこと。

つい最近のその状況がさんにとってはイレギュラーなことであり

今のこの状況はいたってレギュラーな状態なのだろう。

しかし、それはつらいことではないのだろうか?

さんにとって辛いであろう話題を変えようと俺はニコルに視線を向ける。



「ニコルはどうして軍に志願したんだ?」


「え?」



ニコルが目をきょとんとさせて俺をみた。

何気ない。ふと思いついた質問だったが、

言葉にしてから間違った話題転換の仕方だと気がついた。

俺がそう聞かれれば困ってしまう。

だとしたらニコルにとっても楽しい質問ではないはずだ。



「あぁ・・・いや、すまない。
 余計なことだな。」


「いえ・・・。」



苦笑を浮かべながらそういうとニコルは俺から視線を外して穏やかな笑みを浮かべ

かもめの飛んでいる青々と晴れ渡る空を見上げた。

その様子をさんが包み込むような穏やかなまなざしで見ている。



「戦わなきゃいけないなぁ、僕も。って思ったんです。
 ユニウスセブンのニュースをみて。」



そこまで言ってニコルは口を少しきつく結んだ。



「アスランは?」



問いかけられた言葉に一度視線を向けてから、俺は視線を海のかなたへと向けた。



「ニコルと同じだよ。」


「・・・二人とも偉いね。」



さんが遠くを見ながらポツリと呟いた言葉に

俺たち二人は目を瞬かせて彼を見た。



「そういえばさんはユニウスセブンより以前でしたよね・・・軍に入ったのは。」



ニコルが少し首をかしげての言葉にさんは苦笑を浮かべながら視線を戻した。



「ニコルやアスランみたいに立派な理由じゃないから。
 俺が軍に入った理由って。」


「え・・・?」


「それは・・・。」


「敷かれたレールの上を走っただけなんだ。俺は。」



暗に誰かに言われて入ったのだと言うことだろう。

にっこりと晴れやかにさんは俺達に笑みを向ける。



「でも・・・そうだね。
 今、軍に入る理由があるならば守りたいから。って答えれると思う。
 君達と同じ。みんなそう思って戦ってる。」


「みんな・・・そう思って。」



さんの言葉を口の中で小さく呟いてみる。

キラ。お前もきっとそうなんだよな。


甲板でもう少しだけ潮風に当たっていると

ブリッジからオーブ艦隊に奇妙な動きがあると知らされた。

軍服のボタンを留めながらブリッジに入ると

内通者から知らされている予定にはないオーブ艦隊の演習がとり行われるとの事。

おそらくそこにAAが紛れ込んでいるのだろう。

戦闘配備につくことを艦長に告げて俺はロッカーへと脚を進めた。

パイロットスーツを身につけてドックに走りこむと、イージスの前にさんの影があった。

さんはZAFT式の敬礼をして俺に向き合う。



「武運を。」


「はい。」



俺はそれに敬礼で返して、イージスに乗り込んだ。


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2007/02/05

あとがき

案外あっさり解決したのかな?アスランとは。
うん。気持ちはキラに向いてるんだってことは自覚してると思うんだ・・・多分(待)
ここで解決させなきゃ後々響くって分かってるから、こんなことになりました。

軍に入った理由はかけるかな。というか過去話はどこにもってこよう。本気で。
無理矢理いれようか検討中です。はい。

突然だけどニコル可愛いよね。今回は真っ白ニコタン。
15歳な真っ白。
そんなニコルもたまにはいいと思う。そして黒いニコルも大好きです。