俺がキラに気持ちを告げてから、暫くキラは泣き続けていて

その涙がようやく止まるとキラはとても嬉しそうに微笑んだ。

つられて笑顔になった俺だが、

まだパイロットスーツを着たままだった彼に気付き、

着替えてきたほうがいいと言うとキラはその事実に今さらながらに気付いたようで



『いってきます。』



と一言残して部屋をさった。

そしてまるでそれと入れ替わりのように士官服をきた男が部屋に入ってきた。

頭に残っていた記憶とそう変わりはなく、相変わらずどこか喰えない笑みを浮かべている。

そう長い期間ではなかったはずだが、俺がここを離れてから随分と時が立っているように感じた。



「大丈夫か?」


「大尉・・・。」



俺をみて第一声がそれ。

確かに包帯を体のそこかしこにまきつけられた

今の状況なら言いたくなるような気持ちも分かるけど。



「残念。俺はもう少佐なの。」



悪戯をしているような無邪気な笑みをうかべてからフラガ少佐は肩をすくめた。



「昇格したの?」


「おぅ。もあの時いたら今は大尉だぜ・・・って悪い。
 余計なお世話だな。」



しまったとでも言うように自らの口元を押さえるフラガ少佐に

俺はクスクスと笑みを浮かべた。



「しかしまぁ・・・なんかすっきりしてるな。お前。」


「?」



俺の顔を見ながら、椅子に腰掛けたフラガ少佐に

きょとんと目を丸くして見せる。



「なんかあったのか?」


「ん・・・あったかも。」



頬に熱が上がってくるのを感じながらフラガ少佐から目線を外しそういうと

フラガ少佐は意地悪く口の端を上げて見せた。



「なになに?何があったんだよ?」



興味深々といった表情で顎の下から片手で俺の頬をはさみ、にっこりと笑顔を浮かべる。



「秘密だよ。」



たこのような口になりながらも、苦笑を浮かべつつ答えると

ちぇーっとわざとらしくフラガ少佐は声をもらして、俺から手を離し肩をすくめて見せた。

いくら少佐でもキラに想いを告げただなんていえない。


それに確かに今はすっきりしているけど、当面の問題。

キラとアスラン達。どちらかを切り捨てるだなんて俺には出来ないから

すっきりするのはまだ当分先の話だろう。



「そういえばフラガ少佐。」


「ん?なんだ?」


「俺の待遇ってどうなるの?」


「あー・・・それな。簡単にいうと捕虜。」


「そう。」



予想通り。

というかそれが当たり前。



「でもな、だって確証ない状態で士官3人で話したから
 もしかすると変わるかもしれないな。」


「変えなくていいよ。俺は今ZAFTの軍服を着て、AAにいるんだから。
 捕虜である以外の何にもなりえない。」



そんなところで特別扱いして欲しくない。

そもそも俺は退役書を受け取っているのだから

もうこちらの地球軍ではないということになるはずだ。

そしてZAFTの軍服を着ている限り、民間人であるということにもできない。



「・・・わかった。そう伝えとく。」


「ありがと。」



俺の意図を汲み取ってくれたのかフラガ少佐は

少し納得していないかのような表情を浮かべながらも承諾してくれた。



「ホントしょうがないな。お前は。」


「甘えてゴメン。」


「甘えてるわけじゃないだろ?」



眉を下げ微笑むとフラガ少佐は困ったように笑みを浮かべて

寝転んだままの俺の頭を撫ぜた。



さんー・・・?」



キラの声に俺とフラガ少佐はそろって視線を扉に向ける。

彼は一瞬その様子に不思議そうに首を傾げたが

フラガ少佐の手がある位置を認めると少し不機嫌そうな表情になった。


それをみた少佐がふぅん。と小さく声を漏らし

楽しそうに笑みを浮かべて俺をみた。



「・・・何?」


「別にぃ?じゃぁ、俺は退散しようかね。キラ、あと頼むぞ。」


「あ、はい!」



もう一度俺の頭を力強く撫ぜた後に少佐は席を立って部屋から出て行った。

キラは少佐が扉をでていくまで目で追いながらベットの横の椅子に座る。



「何話してたんですか?」



少し不機嫌そうにそういうキラに俺はくすくすと笑みを浮かべる。

これは妬いてくれているのかな?だとしたら嬉しい。



「俺のこれからの待遇の話だよ。」


「待遇・・・ですか?」


「そう。」



キラは不思議そうに首を傾げる。

聡い子なのに珍しく分かっていないらしい。

本当は言いたくないのだけれど、どうせ隠してもばれることだから。

俺は苦笑を浮かべた。



「俺はね、今ZAFTの軍服を着てるんだ。」


「・・・はい。あ、そういえばどうしてZAFTに・・・?」


「んー・・・俺の脱出ポッドがZAFTの勢力圏内に落ちて
 たまたま拾ったのが俺のZAFTの友人だったから・・・かな?
 詳しくはまた後で説明するよ。
 それで・・・俺はこんな服着てるし今はZAFTの軍人ってことになるんだ。」



退役書をもらった地球軍には当然ながらデータはない。

カイのことだからどうせZAFTのメインシステムには俺の擬似データも作ってあるのだろう。

だが情報も行動の早い彼女のことだ。

もしかするとZAFTのデータももう抹消されているかもしれないけど。



「えっと・・・それはつまり。」


「俺は地球連合の敵。だから今の身分は捕虜ってことだよ。」



さらりと告げるとキラはアメジストの大きな瞳をこぼれそうなほど見開いて

苦しそうに唇をきつくかんだ。



「そんなのおかしい!さんは僕達の味方だって・・・
 ・・・そんなのみんなわかるのに!!」



瞳の端に涙の滴を浮かべながら、無条件に俺を信じてくれる彼に

申し訳なさで胸がいっぱいになる。



「ねぇ、キラ。
 君は馬鹿じゃないから俺が今までどこにいたかわかってるよね?」


「・・・アスランたちの・・・ところですよね?」


「そう。そこで俺は整備士をやってた。
 キラと戦う機体の整備。
 もし俺が無条件に味方なら・・・どうしてたと思う?」


「機体に・・・不備が出るように・・・整備をしてた・・・?」



自信が無さそうにゆっくりと途切れ途切れに出される回答に俺は無言で頷く。

それに傷ついたようにキラは眉を下げて眉間にきつく皺をよせ

泣きそうに顔をゆがめて頭を振った。

聞きたくない。そういうサインなのだろうけれども

これは言わなくてはいけないこと。



「だから残酷なことを言うようだけど無条件で信じられる味方じゃないんだ、俺は。
 ・・・キラには俺が元ZAFTだってこと言ったよね?」



キラは何も言葉を返さない。

ただうつむいて床を見つめるだけ。



「・・・・一度アカデミーの特別講師を頼まれたときがあったんだ。
 そのときアスラン達とであった。」



瞳をとじると、浮かんでくるのはアカデミーの兵舎。

あの頃はまさか自分がこんな境遇に陥るとは思っていなかった。

瞳を開いてみるとそこにあったキラの瞳と対峙する。



「アスラン・・・と?」


「そう。俺もアスランと知り合いだって言わなくてごめん。
 だけどキラを混乱させたくなかったんだ。」



君と同じような状況なのだと告げれば

もしかすると安心したのかもしれない。痛みを分け合えたのかもしれない。

けれでもそれではタダの傷の舐めあいにすぎない。

そんなことはしたくなかった。

あの時はキラには頼れる人物が必要だった。

俺がそれを言ってしまえば俺も揺らいでることを告げることになり

キラにとって俺は頼ることが出来る人物にはなりえないだろう。


俺とアスランが知り合い。

その事実はキラを混乱させる。

今だって後ろから強く殴られたように驚愕の表情を浮かべている。

混乱させている。それは分かってるけど言わなくちゃいけない。



「キラと教え子達と。天秤になんて掛けれなかった。
 だから俺は中途半端な位置にいる。」



無条件に味方と信じていいわけじゃない。

アメジストの瞳を真剣に見つめると、その瞳がゆらゆらと揺らぐ。



「教え子・・・ブリッツも?」


「・・・そうだね。」



目の前で爆発しそうになる黒い機体。

刺さっていたソードを抜き取ったところまでは覚えている。

果たしてそのあとブリッツはどうなったのだろうか。

視界が白くなってあまり覚えていない。

ふ、と視線を天井の方からキラに移すと

キラの瞳は涙でぬれていた。



「・・・じゃぁ、僕はさんの敵・・・ですか?」


「違うよ。」


「じゃぁ・・・アスランはさんの敵ですか?」


「それも違う。」


「じゃぁどっちの味方なんです!?」



ずっと、ずっと悩んできたこと。

どっちの味方か。

答えは出る?出ない?

俺の心に問いかけた。

瞳を閉じて、黒い視界の中に沈む。



「・・・どちらも。」


「・・・答えになってません!」



もっともな返事に俺は苦笑を浮かべる。

でも出てきた答えがこれだった。

やはり俺はどちらにもつけないらしい。



「俺はキラとアスランたち。両方の味方なんだ。
 君達が戦わなくて済む様に。そうしたい。っていうのが本音。」



閉じていた瞳を開けて、笑みを浮かべながら柔らかく言葉にのせる。



さんらしい・・・。」



キラは泣きながら笑みを浮かべてポツリと呟く。



「ごめん・・・キラ。
 俺、キラを困らせてるよね?」


「・・・はい。でも、さんの正直な気持ち・・・聞けてよかったです。」


「ありがとう。」



正直な気持ち。それをキラは受け止めてくれたらしい。

無理なことかもしれないけれど、俺の全部を受け入れてもらいたい。

だから少しずつ。少しずつ彼に話していこう。俺の本当のこと。


受け入れてもらえた。

その事実に安心してか、僅かに瞼が重くなってきた。



「キラ・・・ごめん。俺ちょっと眠ってもいいかな?」


「はい。」



少し混乱した表情は残しているもののわりと穏やかな表情をしていて

もう既にキラの涙は止まっていた。



「おやすみなさい、さん。」


「おやすみ、キラ。」



瞳の上に優しく手をかざされたので

小さな暗闇の中、俺はそのまま瞳をとじた。




◆◆◆




どうやら暫く眠っていたらしい。

医務室に掛けられている時計の針は以前見たときよりも進んでいた。

どれぐらい寝ていたのだろうか。と額に手を当てて目を瞑る。

そのときふと触れた、ベットの横においてある椅子はまだ温かみを持っていた。



「キラ・・・?」



随分と長い間横についていてくれたらしい。

それが嬉しくて、思わず笑みがのぼった。

喉が渇いていたので水を飲もうと体を起こした次の瞬間艦内にアラームが鳴り響いた。



”総員第一戦闘配備!総員第一戦闘配備!”



「戦闘・・・!」



扉の方に体を向けると電流のように痛みが走る。



「っぅ・・・。」



しかし動けないほどの痛みではない。

怪我をしていて、治療した直後という理由で

俺の体は捕虜の身でありながら自由。

悪いが今はその状況を利用させてもらおう。

上着を申し訳程度にはおり、俺は医務室を飛び出した。

なにかとても悪い予感がする。


体に痛みを感じながら艦内を走っているとなんどか大きな揺れを感じた。

多分艦隊に被害を受けている。

なんどか壁に当たりながら格納庫にたどりつくと、


おそらく船の補修に向かっているのだろう、

整備士達の数は極端に少なかった。



!」



偶然その場にいたマードック軍曹に名前を呼ばれ

肩をつかまれ、体制を立て直させられる。



「なにしにきたんだ!そんな体で!」


「マードック軍曹・・・!コクーンは!?」


「あれはお前さんが降りた時に第8艦隊に引き渡した!
 だから今は宇宙の塵だ!」



きつく眉を寄せ、唇の端を噛む。

そうなるとここには俺が乗れる機体はない。



「おい、!もし乗れる機体があっても、俺はのせねぇぞ!?
 今は捕虜なんだろ!?それにそんな体だ!無茶するな!!」



必要以上に肩を強くつかまれ、顔を覗き込まれて言い聞かされる。



(だけどっ・・・!)



俺は固く目を閉じて頭をふった。



「なんだかとても嫌な予感がするんです!」


「っち・・・!!今、ここにある戦闘用機は全部出払っちまってる!」


「わかってます!」



俺が乗れる機体がないことも。

俺が乗る資格がないことも。



「とにかくお前さんは病室に戻れ。
 ここは俺達に任せろ。」



な?と強く背中を叩かれて、俺はなんだか泣きそうになる。

どうしてこうも自分は無力なんだろう。


ハッチをみてみたその瞬間。

まるで心音停止のような、そんな嫌な、途切れることのない電子音が響いた。



「・・・え?」



さっきのは何の音?

わからない。わかってるけど頭が受け付けない。

モニターに目をやる。そこにあった事実に俺は目を見開いた。



「スカイグラスパー2号機・・・?」



誰?誰が乗っているんだ?

でもきっと俺が知っている誰かだ。

そしてそれはアカデミーの学生である可能性が高い。


その機がシグナルロスト・・・?

小さく息を吸い込み、自らの体を強く抱きしめる。



(どうして・・・?どうしてキミ達が戦わなくてはならない?)



そして再び嫌な電子音が響く。



「・・・!」



はじかれたように顔を上げるとそこにはにわかに信じがたい

情報がモニターに弾き出されていた。



「ストライク・・・がシグナルロスト・・・?」


「何!?」



俺の言葉にマードックさんが身を乗り出してモニターを覗き込む。

足を何歩か引いて、俺は頭を抱え込む。



『君達の戦いを止めたいんだ』



そういった。

そういったのに俺は何も出来なかった。

俺はいったい何をした?何をしてきた?

結局なんの役にもたっていない。

その結果。



(キラを・・・失った?)



「・・・っあ・・・うわぁぁあ!!!」


「おい!?!!?
 だれか医者呼んでこい!麻酔だ!!」



遠くでマードックさんの声が聞こえる。

体を強く抱きしめながら屈みこんで、

額を冷たい床につけて俺は叫んだ。



!」



強い力で体を起こされ、同時に腕に針が刺さる感触がした。



「・・・っぁ・・・。」



体の力が失われていく。

思考を奪われていく中で肩辺りの包帯が赤く染まっていくのが見えた。

どうやら傷が開いたらしい。


気が途切れる瞬間、頭に浮かんだのは泣きながらも穏やかに笑っていた

俺が最後に見たキラの顔だった。



「キ・・・ラ・・・。」



消えていく幻に手を伸ばしながら俺はそこで意識を手放した。



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2007/02/10


あとがき

再会期間わずか2話(待)
すごいなぁ、短いなぁ・・・これ本当にキラ夢か?
ムゥさん書くのが楽しいですっ・・・!
この飄々とした感じが好き。佐助ーっ!(違)
うふふ〜。しかし何がしたいんだろう私。

なんかロミジュリみたいだねぇ。
私に引き離されるキラ様と主人公さん(笑)