「なんで、ここにいんの?」



ベットの上で安らかな寝息を立てている銀髪の青年を見て、俺は思わず目を丸くした。

オッドアイの綺麗な瞳を今は閉じている彼に近づいてみると、体はいたるところに包帯が巻かれていて小さく息を呑む。



(そうだ・・・)



なんてうっかりしていたのだろう。


コイツはニコルを助けようとして。
そのまま機体をぼろぼろにして。
そしてそのあと俺達がつれて帰れなくて。


やむを得ず軍に救助要請を出していたが、まだその結果を聞いていなかった。



(・・・よりにもよってAAに拾われてたのかよ)



ある程度予想していたことだったが、まさかこんな形で対峙するとは思っていなかった。

後ろで手をくくられているので

彼の額に手を当てて前髪をすいてやるという行為は出来ない。

それがひどく歯がゆく、眉間に皺を寄せて苦々しく視線を外した。



「はい、そこに座って。」



医者らしき人物に椅子を示されたので俺は大人しく椅子に座る。

手首を縛っていた縄を解き、消毒液をたっぷりと含ませた綿を傷口にそのまま当てられて

俺の体は痛みに少し反応し、奥歯に力が入った。



「体の方はどうだい?」



消毒が終わり、肩を上げたりされて体の不具合を調べられながら医師は言う。

肩を上げられると痛みはあるものの、骨に来るものではなく

これは打ち身などの痛みから来るものだと思う。



「骨は大丈夫なんじゃない?」


「あぁ、骨の方に異常はないだろう。」



俺の体から手を離して、カルテに色々と書いてから俺に視線を向けた。



「一週間もすれば普通に動けるようになるだろう。」


「どーも。」



動けるようになったとしても、それが意味をなすかどうか分からない。

おそらくこの艦は地球連合の本山ともいえるアラスカにむかっている。

そして俺は連合に引き渡される。それは遠い話ではない。



「じゃぁ、悪いけどベットに横になってくれるかい?」



捕虜だからつながれておかなければならない。

けが人だがそれは我慢して欲しい。とのことだ。

俺は軽く肩をすくめて見せて応じる。


病室についてきていてずっと俺を監視していた兵士二人が

再び俺の手首を後ろでくくり、その紐の端を俺が寝転んだベットにつないだ。



「おとなしくしとけよ。」


「はいはい。わかってますって。」



軽く返せば兵士は嫌そうな表情をみせ、医者に視線をむけた。



「ご苦労様です。」



医者に一言ねぎらいの言葉をかけて兵士は病室を出て行く。

彼は小さく息を吐いて、カルテにまた少し書き加えてから立ち上がった。



「悪いね。ちょっと休んでくるよ。」


「ごゆっくり〜。」



どうせ逃げることなど出来やしない。

俺は医者がでていったあと、ベットに寝転んで天板をみた。



「あ・・れ・・・?」


「・・・。」



とろんとした寝ぼけたような声に視線を向けてみると

綺麗な青と緑の瞳が俺を見ている。

王子様とも噂される端正な甘いマスクはとろりとした

いかにも寝起きの表情だった。



「ディアッカ・・・?」


「おはよー。」



へらっと笑って見せると、寝ぼけていた瞳が大きく開かれ何度か瞬きを繰り返す。

それがなんだかおかしくて俺は思わずくすくすと笑みを漏らした。



「・・・どうして?」


「んー。俺、捕虜になったの。と同じ。」


「ディアッカが捕虜・・・?あれ?そういえば俺なんでここにいるの?」



上半身だけ起こしては不思議そうに部屋を見回す。



「なんだ?ニコル助けようとしてそのままずっと気、失ってたのか?」


「うぅん。それは違う。ここはAAでしょ?それは分かってるんだけど
 俺、さっきまでドックにいた気がするのに・・・。」



よほど混乱しているのだろうか。

捕虜であるがドックにいけるはずがないのに。

ZAFTの方にいた記憶が混じっているのかもしれない。



。お前、ちょっと休めよ。」


「え?」


「混乱してんだろ?」


「・・・?」



本気で不思議そうに首を傾げるに俺は苦笑を浮かべる。



「俺も寝るからさ。も寝とけ。
 これからアラスカだろ?寝たくても寝れねェ状況になる。」



俺の言葉に不思議そうに瞬きをしながらもはコクリと頷いた。

どうやら本気で混乱しているらしい。



◆◆◆



アラスカに入ってすでに5日。

捕虜である俺達に対してもまったく音沙汰はなかった。



「そういえば、ディアッカご飯まだだよね?」



が立ち上がりながら、俺に言葉を投げかけたので

俺は目をきょとんとさせてを見た。



「まだだけど?」


「じゃぁ貰ってくるね。」


「はい?」



は柔らかい笑みを浮かべてから、あっさりとベットから離れて

病室を出て行った。



「・・・そういえば、なんでアイツつながれてねェの?」



以前から不思議に想いながらもつっこまなかった。

このAAでのの扱いもよく分からないところがあるけど。

捕虜に対するものにしては随分と親密的なものだ。


俺はごろんと寝転がって壁の方へと視線を向けた。

時計の針が進む音だけがやけに耳につく。

つい先日まで俺は戦闘の最前線にいたというのにここはやけに静かだ。

自然と瞼が落ちてくる。



「・・・す」



ドアが開く、空気が抜けるような音がした。



「・・・待っ・・・て。先せ・・・にク・・リか・・・にか・・おう。」



相手の声が小さいのと自分の思考が鈍っているのとが混じって何を言っているのか分からない。

再びドアが閉まる音がして、足音が此方に近づいてくる。

医者だろうか?



「なぁ、先生よぉー。・・・あれ?」



椅子に座った人影に視線を向けてみると

そこにいたのはAAに捕まった日に廊下ですれ違った、泣いていた女の子だった。

俺に気付いたその子は驚いたように席から立ち上がり、眼を見開いて俺をみた。



「なんだよ、その面は。
 俺が怖い?珍しい?」



声を発することなく涙を目の端に溜める彼女に、なぜだか自然とあざける口調になってくる。



「大丈夫だよ。ちゃんとつながれてっから。」



後ろでくくられている両手首を見せるように起き上がってから

もう一度枕に倒れこみ、俺は瞳を閉じてあざける口調で続ける。



「つーか、お前また泣いてんの?
 なんでそんなヤツがこんな船にのってんだか。」



嗚咽に近い声が女の子から漏れる。

こっちだってストレスがいい加減たまってきてる。

コイツには悪いけどちょっと発散させてもらう。



「そんなに怖いんなら兵隊なんかやってるんじゃねぇっつーの。
 あぁ。それとも馬鹿で役立たずのナチュラルの彼氏でも死んだか?」



人が近づく気配がして突然陰りができ不思議に思って

瞳を開けると、どこから取り出したのか分からないナイフを振りかざした彼女がいた。

あわてて体を起こすと、彼女は俺が頭をおいていた枕に想いっきりナイフを突き刺す。



「なにすんだよ、こいつ!!」



やばい・・・。どうやら図星だったらしい。

ナイフを持って此方ににじり寄ってくる目が本気だ。

恨みと憎しみと悲しみに溢れている。


再度大きく手を振りかぶられ、俺は間一髪の所で避けたが

額を軽く切って、ベットのカーテンを突き破りそのまま床へと二人してなだれ込んだ。

体を強く床に叩きつけられる。薬品のビンが倒れていくような音がした。



「ミリアリア!」


「離して・・・っ!!」



再び手を振り上げられて流石にヤバイと思ったそのとき

声とともに少年が入ってきて、その女の子の腕をはおい締めにした。



「ミリィ!落ち着け!!」


「トールがっ・・・!トールがいないのに!
 なんでこんなやつっ!こんなヤツがここにいるのよ!!」



涙を浮かべながら俺を見る瞳は感情を一つしか表していなかった。

俺は人を殺してるんだってことは分かってた。

だけどそれは敵だって認識で。誰かの大切な人を殺してるんだ。

そんな認識なかった。それを目の前で見せ付けれられている。



「ミリィ!?」



出入り口のほうからの声がした。

ミリィと呼ばれた女の子はの顔をみて、暴れるのを止め

近づいてきたと少年にしがみつくようにした。



さん・・・なんで・・・どうしてトールがっ・・・!
 トールがいないのになんで・・・っ。」


「ミリィ・・・とりあえず落ち着いて。」



はミリィの頭を優しく撫ぜた。

混乱していく頭でそれを見ていると、の視線がこちらに向けられる。



「ディアッカ・・・君もいっ・・・」



ガチャリとピストルの安全装置が外れる音がした。

その音の方向に全員が視線を向けると、燃えるように赤い髪の少女が俺に銃口を向けていた。



「フレイ!やめて!」


「フレイ・・・!」



と少年が彼女に声をかけるが、彼女の視線は揺るがない。

俺をじっとにらみつけたままだ。

その視線は先程のミリィと同じように憎しみと悲しみで溢れている。



「コーディネーターなんてっ・・・みんな死んじゃえばいいのよ!!」



その言葉に俺は目を見開く。

そしての肩が震えるのが見えた。

彼女の指が動く。もう駄目かと思った瞬間動いた影があった。



大きな発砲音。

そして人の倒れこむ音。



撃たれると固く閉じていた瞳を開くと俺を狙っていた銃口を上にそらしている

二つの手と、倒れこむ少女二人を支えるがいた。



(助かっ・・・た?)



ミリィという少女から小さく嗚咽が漏れる。



「ミリィ・・・フレイ・・・。」



が穏やかな声と表情で彼女達の名前を呼んだ。



「落ち着いて?・・・ね?」



フレイと呼ばれた少女がの方を見て

ぐしゃりと顔をゆがめる。



「なんで・・・!?なんでさんもそんな顔でいられるの!?
 キラが・・・キラが殺されたのよ!!?」


「フレイ!!」



ミリィが組み敷いている少女にきつく言葉を投げる。



「キラ・・・。」



がポツリと呟き、病室にいた俺以外全員の表情が焦ったように揺らぎ

視線がにあつまった。しかしはその空気に反してきょとんとした表情を浮かべる。



「キラって誰?」



なぜだかわからない。

だけどその言葉に。

病室内が針を落としても聞こえるぐらい静まり返った。





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2007/02/21

あとがき

ということで波乱を起こしてみました。
キュピレットの親父だから(何)
ロミオ(K氏)とジュリエット(主人公さん)をどんだけ引き離すねん。っていう
あぁ・・怒られそう(震)

さて・・・・早く続きの巻レンタルしてこななぁ。