病室から見える空はオレンジとピンクの中間の色だった。
たなびく雲がその色を反射して、自然はとても優しい色で溢れていた。
しかしそこかしこから聞こえてくる、MSを修理する音。
俺が今いる場所は、ZAFTの軍基地なのだと、思い知らされる。
そして脳裏に甦るのは緑色の髪の自分よりも一つ年下の友人の死。
たしかあの時もこんなオレンジ色の空だった。
次に思い浮かんだのがその友人を殺した友人。
チョコレートのような色の髪をもった優秀なのにどこか抜けている友人。
・・・どうして友達に友達を殺されなければならないのだろう。
どうして友達を殺さなければいけないんだろう。
戦争は理不尽な事実ばかりつきつけてくる。
『キラはっ・・・!危なっかしくて!わけわかんなくて!すぐ泣いて!
でも、優しい・・・良いやつだったんだぞ!』
瞳の端に涙をたっぷりと溜めたオーブの前首相の娘に
銃口を向けられながら言われたキラへの言葉。
知ってるさ。そんなことぐらい。
きっと一番仲が良かったんだ。
そんなお前をどうして。
すっと瞳を伏せると嫌な光景ばかりが脳裏によぎる。
「っく・・・。」
小さく息を呑んで俺は胸元の服を握り締めた。
あの後さんはどうなったのだろう。
ニコルが死んでしまう。そのことばかりが気になって
おそらく助けにいったのだろうさんの行動はまったく見えてなかった。
目がおかしくなるのじゃないかと思うほどの閃光の後に倒れていた銀色のジン。
それに乗っていたのは間違いなくさんだった。
つれて帰ろうと手を伸ばせば、キラに威嚇射撃を行われた。
艦に帰り着いてさんの姿を探したけどどこにもみつからなくて
結局アレがさんだったんだと確証付ける以外の何にもならなかった。
きっとキラも気付いていたんだろう。あれがさんだってこと。
思考に沈みそうになったそのときに扉の方から呼び出し音が鳴って
俺は目を見開いた。体を起こして扉の方に視線を向けると聞きなれた声が聞こえた。
「クルーゼだ。入るぞ。」
「隊長・・・。」
「そのままで良い。」
背筋を伸ばそうとするとクルーゼ隊長に手で制されたので
伺うように顔を覗き込んでから俺は視線を自分の手元に落とした。
「申し訳ありません。」
「いや、報告は聞いた。君は良くやってくれたよ。」
「・・・いいえ。」
良くやった。何を良くやったというのだろう。
ストライクを討ったとはいえ俺はさんとニコルを失った。
「私こそ対応が遅れてすまなかったな。
確かに犠牲も大きかったがそれをやむをえん。
それほどに強敵だったということだ、君の友人は。」
隊長の言葉に俺は僅かに反応してしまう。
君は友人を殺したのだ。
隊長が言いたいのはそういうことではないとは分かっているのに
まるでそういわれているかのような気分になってしまう。
そう卑屈に考えてはいけないと分かってはいても
今の俺にはそう聞こえてしまう。
「つらい戦いだったと思うが、ミゲル、ニコル、バルトフェルド隊長。オラシム隊長。
・・・他にも多くの兵が彼によって命を奪われた。
それを討った君の強さは本国でも高く評価されているよ。
君にはネビラ勲章が授与されるそうだ。」
勲章という言葉に俺は驚いて顔を上げる。
仲間を多く犠牲にしたうえでの勲章・・・?
「私としては残念だが本日付けで
国防委員会直属の特務隊へ転属との通達も来ている。」
「そんな・・・隊長!」
「トップガンだなアスラン。」
そんな勲章俺には似つかわしくない。
そう言おうとしたのにクルーゼ隊長は仮面に覆われていない口元で
どこか不思議な笑みを浮かべて見せた。
「君は最新鋭機のパイロットとなる。
その機体受領のためにも、即刻本国に戻って欲しいそうだ。」
「しかし・・・!」
「お父上が評議会議長となられたのは聞いたかね?」
「あ・・・はい。」
「ザラ議長は戦争の早期終結を切に願っておられる。」
クルーゼ隊長は困惑した表情で顔を見上げる俺の肩に手を置いて
柔らかく口元を笑みの形にして見せた。
「本当に早く終わらせたいものだな。こんな戦争は。
そのためにも君もまた力を尽くしてくれたまえ。」
何か言外の意味を言われているような気がして
俺は眉根をゆるく寄せた。
こんな戦争は早く終わらせてしまいたい。
友達を討たれて、友達を討って。
二人も友達を失ったんだ。
いや・・・もっとたくさん。
窓から差し込むオレンジ色の光がたなびく雲に少し遮られ
僅かに陰りを帯びた時に再び部屋の呼び出し音が鳴り響いた。
不思議に想い視線を上げてみると
クルーゼ隊長も不思議そうな表情をして扉の方を見ている。
誰だろう?
クルーゼ隊長以外に俺の見舞いに来てくれる人なんて
今この地球にいるだろうか?
「入りまーす。」
その聞き覚えのある中性的な声を聞いたとたんに
クルーゼ隊長の口元が引きつった。
扉が開いたそこに立っていたのは
人にあらざる美しさを持つ人。黒翼だった。
「カ・・・カイ・・・。」
どもりながら、へんな笑みを浮かべて名前をよぶクルーゼ隊長に
カイさんはにっこりと華やかに笑みを浮かべた。
「はぁい。ほっぺた出してね。ラ ・ ウ?」
浮かべる表情は限りなく素敵なのに出てくるオーラは限りなく怖い。
小さく息を吸い、逃れようとするクルーゼ隊長。
珍しいこともあるんだ。と思った次の瞬間豪快な音とクルーゼ隊長が床に膝つく姿だった。
「ひ・・・平手・・・。」
思わず目を丸くしながら呟いた言葉にカイさんが深緑の瞳を向けて俺に微笑む。
「ぐーで殴るとさぁ。たぶん1週間ぐらい腫れ引かないから、パーで。
ま、ちゃんと冷やせば明日には治るよ。」
以前初めてあったときも同じような動作が繰り返された。
しかしそのときはカイさんの拳は握られていたのだが、今回は開かれたままだ。
それで回復する日にちが同じということはかなり強く殴ったということなのだろう。
つまり、手加減不可ってことなのかもしれない。
「これで許してあげる。ラウ。
僕の愛しの君は地球軍のAAにいるみたいだしね。」
腰に手を当てて、膝をつくクルーゼ隊長を上から見下ろしながら
カイさんはそれは綺麗に微笑んだ。
(さん・・・生きてるんだ)
よかった。と決してよくない状況ではあるのだが
生きているという真実だけは知れて俺は安堵の息を吐いた。
殴られた側の頬を手で覆いながらクルーゼ隊長は立ち上がり深く息を吐く。
「すまなかった。」
「うん。僕は整備士として。って言ったはずでしょ?
機体は与えて欲しくなかったの。分かる?」
クルーゼ隊長の額に人差し指を当てながらカイさんは淡々と言葉をつむぐ。
だが、表情はどこかゆるく隊長を心から責めているような感じは見受けられなかった。
「まぁそのおかげで・・・あ、これはいいや。
ところでラウ。」
すっと表情が一変する。部屋の空気が2,3度下がったような感じを受け俺は小さく息を吸った。
クルーゼ隊長の表情さえ固まっている。
「僕はラウが何をどう利用しようと構わない。たとえそれが僕であってもね。
だけど・・・を利用するだけは許さない。
もしを利用しようとするなら・・・僕が君を殺しに行くよ、ラウ?」
クルーゼ隊長の顎の下に人差し指をもってきて
うっすらと笑みを浮かべるその姿は妖艶で、怖いと思いつつも目が離せない。
「MSで。なんてぬるいこと考えないで。
僕が暗部の長だってこと忘れるな。」
「・・・心得ておく・・・。」
何とか絞り出したような声でクルーゼ隊長が答えると
カイさんは瞬時に空気を柔らかくして微笑んだ。
そして顔の隣で両手のひらを小さく打ち合わす。
「わかったならOK。
さてと、ラウ。出て行って。」
「え!?」
ぽけっとしているクルーゼ隊長にかわってというわけではないが
俺が思わず声を漏らすとカイさんは俺のほうを向いて微笑んでから隊長に視線をもどした。
「アスランと話があるんだ。
構わないよね、アスラン?」
「あ、はい。自分は構いませんが・・・。」
混乱しながらもそう答えるとクルーゼ隊長は呆れたように息を吐く。
「私に聞かれるとなにか困るような話題なのかね?」
「うん。」
あまりにはっきりとした肯定に思わずこけそうになるが
クルーゼ隊長はなれているのか呆れたような笑みを口元に浮かべるだけだった。
「分かったよ、カイ。ではまた。」
「はいはい〜。」
軽く片手をあげて見せたクルーゼ隊長にカイさんはひらひらと手を振った。
俺も軽く会釈をして出て行くクルーゼ隊長を見送ると、扉が閉まる音が室内に響いた。
「ストライク・・・キラ=ヤマトを討ったそうだね。アスラン。」
「っ・・・!」
機体の名前ではなくわざわざ友人の名前に言い換えて言うこの人。
きっとカイさんはキラが俺の何であるかということは既に知っている。
クルーゼ隊長に聞いたか、もしくは自分で調べたか。
「そして、そのキラ=ヤマトは君の友達であるニコル=アマルフィを討った。」
俺の座っているベットに近づきながら淡々とカイさんは残酷な言葉を声に載せる。
聞きたくない。その事実を改めて突きつけられる。
ベットに腰掛けて、俺の顎の下に人差し指をもっていき顎を上げさせるようにして
カイさんはすっと目を細めた。
「そのニコルを助けようとしては負傷しAAに再び戻った。あってるよね?」
「すみませんっ!」
「・・・どうしてあやまるの?」
俺の顎から指を離してカイさんは緩やかに微笑んだ。
「だって・・・俺が!俺があの時無理にでもさんを連れ帰ってれば・・・!」
さんは今もこちらにいたはずだ。
AAという敵という場所ではなく。
「あ、別にそこはもうどうでもいい。
それはさっきラウに罪をなすりつけたでしょ?
だから僕の中でその問題は終わってるから。」
あまりにあっさりとした物言いに俺は少し泣きそうになっていた表情を
きょとんとさせてカイさんを見つめた。
カイさんは小さく首をかしげて、足を組み微笑んで見せてから目線を斜め上に上げる。
「君がねぇ、助けようとした命だよ。それを無駄には出来ないよね。」
「・・・何をいってるんです?」
さんが助けようとした命。それは暗にニコルのことを指差すのだけれど。
上げていた目線を下げ、俺に瞳を向けて可憐に微笑む。
窓からの光がその横顔をオレンジ色に染めた。
「は寸前の所で、ブリッツのコックピットを海に放り込んだ。
多分無意識だろうから本人は覚えてないだろうけどね。
そして僕はそれを回収した。これの意味は分かる?」
「っあ・・・。」
与えられる情報は自分の予想の範疇を超えていて
頭の中での処理が追いつかない。
けれども、体はそれを素直に受け取って、俺の頬に冷たいものが伝わった。
「生きてる・・・?ニコルが?」
ようやく頭が情報の意味を理解して言葉にもらすと
カイさんは穏やかに微笑み頷いた。
「あなた・・・無茶苦茶です。」
「知ってる。でも僕は黒翼だもの。」
泣きながらも笑みを浮かべて彼女に言葉を告げると
彼女は大輪の華のような笑みで返した。
207/02/21
あとがき
ややこしい役柄全て背負わせてます。つじつまを合わせるのに最適この人。(待)
主人公さんに普通にニコル助けさせたらええやん!って思う方もいらっしゃるかもですが・・・!
アスランがキラを殺す。ってちゃんと決心するには避けちゃ駄目なイベントかなぁ・・・と。
ということでニコルそのうちまた出てきます。今は療養中ー。
次はいつ書けるかなぁ。