「僕は行くよ」



ラクスの家の庭にあるガラス張りのテラスで僕たちがお茶をしている途中に突然シーゲルさんに無線が入り、

アスランのお父さんであるザラ議長が評議会に無断で襲撃地を変えたという知らせが届いた。

パナマを予定していたはずのその作戦。だが、蓋を開けてみれば目標地点は地球軍本部のあるアラスカ。

AAがずっと目指していた場所。僕がアスランと闘った地点はアラスカからそう遠くない。

順調に行っていれば今頃AAはアラスカにいることだろう。

そしてそこが今襲撃を受けている。つまりみんなの命が危険にさらされている。



さん・・・)



少しだけくせのある銀髪の優しい大好きな人の顔が頭の中に思い浮かぶ。

みんなは危険にさらされているというのにどうして僕はこんな安全な場所にいるんだろう。と

まるで彼らを置き去りにしてきたような感覚におちいり頬に涙が伝う。



「どちらにいかれますの?」


「地球へ。戻らなきゃ」



ここにいれば安全。

ここにいれば心を痛めなくてすむ。

ラクスの優しさは僕を引き止める。

だけど・・・それは僕一人が戦いから目をそむけているだけで

世界は今、戦争によって回っているという事実は変わらない。



「なぜ?あなたが一人戻ったところで戦いは終わりません。」


「でも・・・ここでただ見ているだけも出来ない。」



もっともなラクスの言葉に一度頷いてから僕は小さく首を横に振った。

小さな僕一人が何かしたところで状況が大きく変わるなんて

そんな大それたことは思っていない。

けれど。



「なにもできないっていって何もしなかったら
 本当に何も出来ない。何も変わらない。何も終わらないから。」



一度戦争を経験して、人の命を奪って、大切な人の命を奪われて、親友同士で戦って。

ソレを経験してしまったのだから、もう見てみぬふりなんて出来ない。

自分は無関係なのだと目をふさぎ、耳をふさいで閉じこもることなんてできないんだ。



「また、ZAFTと戦われるのですか?」



ラクスの諭すような質問に僕は静かに首を振る。



「では地球軍と?」



僕は再び首を振る。

地球軍とZAFTと。そんな簡単な図式で戦争をしていてはいつまでたってもこの戦争は終わらない。

いつか砂漠の虎が言っていたようにつぶしあってどちらかが滅びるまでずっと続いてしまう。

彼は身をもってそのことを教えてくれた。だからそれだけは防がなきゃいけない。



「僕たちは何と戦わなきゃいけないのか少しわかった気がするから。」



アスランと討ちあって、この戦争の悲しさを知ってしまったから。

だから僕の敵はZAFTでも地球軍でもない。

真っ直ぐに視線を向けてそう告げると、

ラクスはしっかりとした視線で僕に返しにっこりと微笑を浮かべた。



「わかりました。」



彼女は僕の言葉にしっかりとうなづいてから執事のような人に一言二言声をかける。

シーゲルさんとマルキオさんはソレを見届けてから僕らのほうを見守るような視線をみせ、

足早にガラス張りのテラスから出て行った。おそらく評議会に行くのだろう。

ソレと入れ替わりに先程の執事が何かを手に持って戻ってくる。



「キラはコレに着替えてください。」



差し出されたのはZAFTの濃い赤の制服。

確かアスランが着ていたものだ。アカデミーのTOP達だけが着ることを許されたそれ。

それがなぜこんなところに。



「どうしてこんなものが・・・?」



手を触れながらラクスに問いかけると

ラクスはひどく優雅に笑みを浮かべた。

それ以上の詮索はするな。と暗に警告されている。



「もしもの時に使えとある方にいただきましたの。
 ・・・あちらに連絡を。ラクス=クラインが平和の歌を歌います。と。」



もしものときに・・・?

僕がなにか不思議な感覚にとらわれているうちに、ラクスは再び執事に声をかける。

ラクスが何をしようとしているのかはわからない。

けれど従うことが今は最善の策なのだと、頭の中で何かが言っていた。


ZAFTの制服は思った以上に自分の体にぴったりなもので

コレを用意していたラクスの知り合いとか言う人は

僕がコレを着なければいけない状況になると予知していたのではないだろうかという怖い考えが頭の中によぎる。

まさかそんなこと予想できる人なんていないはずだから

気のせいのはずなのだけれども、なんだか予期されていたことのように感じられて怖い。


僕が服を着替え終わると僕らは玄関口に止めてあった黒塗りの高級そうな車の後部席に乗り込む。

車の中でZAFTの軍人の敬礼の仕方を教えてもらってから、気になっていた行き先を聞いてみると

この制服を着るということなのだから当然かもしれないが、ZAFTの本部だった。

クライン家の車ということで、さして厳しいチェックも受けずに本部の中にもぐりこむ。

車から降りて、ラクスに手を引かれながらつれてこられた先は軍本部ではなく、開発部のような場所だった。



「こんにちわ。」



行きかう人がラクスに敬礼をしていく。

車の中で教えてもらったとおりに敬礼を返すとなんの疑いもなく緑服の人たちは僕を見送っていく。

ZAFTの赤服は少数だと聞いていたからばれないか正直不安だったのだけれども、

案外大丈夫らしい。それともラクスが既に根回しを終えているのか。



「さぁ、どうぞ。」



案内されてつれられた先はMSドッグ。薄暗くて目の前に何かがあることはわかるけどそれが何かまではわからない。

照明がつけられてその場に現れたのはMS。その光に照らされたボディははザクやグノといったZAFT固有のものではなくて

どちらかといえば地球軍が開発したMSに姿が酷似していた。



「これは・・・ガンダム?」


「ちょっと違いますわね。これはZGMX-X10A フリーダムです。」



おもわず口をついて出た言葉にラクスがクスリと笑みを漏らす。

ガンダムっていうのは僕が勝手にOSの起動画面の文字を縦に読んだだけで

地球軍のMSも本来ガンダムという名称ではない。



「 でもガンダムのほうが強そうでいいですわね。
 奪取した地球軍のMSの性能をも取り込み
 ザラ議長の元開発されたZAFT軍の最新鋭の機体だそうです。」



ラクスはこれを自慢するためにただ僕に見せに来たわけではない。

僕は地球に戻るといった。そのための手段。つまりそういうこと。



「これをなぜ僕に?」



こんなに大きな力をどうして僕に。

不安に思いながら問いかけるとラクスはふんわりと綺麗な笑みを浮かべて見せる。



「今のあなたに必要な力だと思いましたの。」



すっと、空をそのまま映したかのような綺麗な瞳がフリーダムへ向く。

何か決意を持った色がその瞳の中に溢れていて、とても綺麗なものだと思った。



「思いだけでも力だけでも駄目だと思いましたの。」



そのどちらかがかけていても理想の世界は作れない。訪れない。

それまでに大切なものをいくつもなくしてきて、思いは痛いほどにもった。

そしてラクスは僕に力を与えようとしてくれてるんだ。



「だから・・・キラの望み『生きたい』という望みにコレは不要ですか?」


「思いだけでも、力だけでも・・・。」



不要なはずない。

十分すぎるほど必要なもの。

それを僕に無償で与えてくれる、この人は一体・・・。



「君はだれ?」


「私はラクス=クラインですわ。キラ=ヤマト。」



ただそれ以外のなんでもないと。ラクスは華やかに笑みを浮かべる。

最初に出会った頃のただ世間知らずの深窓のお嬢様の雰囲気などもうどこにもない。

彼女は強い。折れない。

どちらが本性かときかれるとこっちなのだろう。と僕は答える。



「ありがとう・・・。君は大丈夫?」


「私も歌いますわ・・・平和の歌を。
 協力者もいらっしゃいますしね」


「え?」



ラクスが視線を向けると、空気が抜けるような音がして、フリーダムのハッチが開く。

そこから出てきたのは黒のパイロットスーツを着込んだ人だった。

ヘルメットを外して、まず最初に目に入ったのは太陽の光のようなきつい光を放つ金髪。

そして見覚えのある人形かのように人間味を失った恐ろしいぐらい整った顔だった。



「あな・・・たは!!」


「久しぶりー。」



へらっと笑うその綺麗な人は、砂漠のZAFT基地であった人。

僕の大切なものを預かっているといったその人だ。



「ど、どうしてここに?」


「コレと後3機新型機があるんだけどそれのテストパイロットなの、僕。
 MSの操縦技術半端なくいいから。」



くすくすと冗談でもいうように肩をすくめてその人は笑う。

そしてその人はラクスの方を向いて、さながら姫に仕える騎士のように恭しく敬礼をした。



「ラクス嬢。フリーダムの状態は良好です。
 この子が乗ればすぐに発進できる。」


「わかりました。さぁ、キラ。」


「・・・気をつけて。ラクス。カイさんも。」


「キラも。私の力と共に。」



ラクスがふんわりと微笑み、僕の腕にそっと手を添えて近づいてきたと思うと

次の瞬間に頬に柔らかい感覚が落ちる。

一瞬何が起こったのかわからずに目を瞬かせていると

ラクスが楽しそうな笑みを浮かべ、カイさんが小さく肩を震わして笑っていた。



「ではいってらっしゃいませ。」



ラクスがひらひらと手を振って、僕から離れる。



「あ、そうだ。キラ。」


「え?」


「いい目になったね。認めてあげるよ。
 君に返してあげる。大切なもの。」



コックピットに乗り込もうと地面を蹴った後に告げられた言葉。

カイさんがいう大切なもの。今ならわかるような気がする。



「もしかしてさんのこと・・・ですか?」



問いかけても返って来るのはただ綺麗な笑顔のみ。

それが肯定なのか否定なのか。きっと前者が正しい答えなのだと思う。

あの人とさんがどういう関係なのかは知らないけれど、きっと親密な仲なんだろう。

認めてもらえた。それが純粋に嬉しかった。







「Nジャマーキャンセラー?
 すごい・・・ストライクの4倍以上の力がある。)



OSを起動させると、核を無効化するNジャマーをさらに無効化するシステムが組み込まれていたことに驚いた。

従来の充電バッテリーの方式ではなく核反応によるエネルギーの供給。

つまり無限のエネルギーを手に入れたのと同等の意味。そしてそのエネルギーをフルにつかう構造。

今まで使っていたストライクとは比べようがない。



「思いだけでも・・・力だけでも。」



どちらかだけでも駄目なんだ。

両方を手に入れた今。

僕のできることをするために。

地球へ。



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2007/09/27


あとがき

テラへ ^p^
キラ様出動!
主人公さんようやくキラ様の下に帰らせていただけました。
KAHOGOなんです。