薄暗い室内に一定のテンポで機械音が響く。

そのテンポは遅すぎず早すぎず人に落ち着きを与える鼓動のテンポ。

この機械音はソレを表しているのだけれども

無機質なこの音は生きている人間と結び付けるにはひどく難しいものだ。


昨日新入りが入ったらしいと今日の朝、オルガに言われた。

そのうちアズラエルから紹介があるだろうから。とも言われたけれども

どうしても先にその新入りとやらを見に行きたくて僕は”新入り”がいるらしいラボに来ていた。


”新入り”が来たからといって僕の居場所が奪われるわけではない。

だけど新入りは自分にとっては異物の存在。

自分にとって有害なものか無害なものかを早いうちに確かめたかった。

無害ならいい。ただ有害ならば・・・自己防衛のためならば手段は選ばない。

皮肉なことに僕の居場所はここしかないのだから。


オレンジ色の光が薄暗くともるラボの中には白い白衣に身を包んだ研究員が一人いる。

新入りに繋がれたケーブルの伸びる先である機械を見てから

手元のバインダーみたいなものに何かを書き込んでいっている。

おそらく体調管理の一環だろう。


研究員が数値を調べている間にも無機質な機械音は部屋の中にずっと流れている。

僕は研究員に見つからないように落ち着いた静かな呼吸をするように心がけて彼からは見えない位置の壁に背をつけていた。

検査が終わったのか空気が抜ける音がして廊下とラボを繋ぐ扉が開く。


研究員の足音が遠ざかるのを聞いた後、僕は滑り込むようにラボの中にはいった。

いっそう大きくなる無機質な機械音。

なるべく音を立てないようにラボで横たわっている人物に近づいていく。

ぴりりと僕の周りの空気が張っているのを感じる。どうやら緊張してるらしい。

新入りを見るだけなのに変な話だ。

一歩一歩とゆっくり白いベットに寝かされた白い肌の人物。

どうやら髪は月のような銀色のようだ。



「え・・・?」



髪から顔に視線を降ろして僕は息を呑んだ。

整いすぎてるといえるほどの甘いマスク。



・・?」



名を呼んでみてもその人物は瞳を開けることは無い。

病人のような白衣に身を包んで、ただ安らかな寝息を立てているだけ。



!!」



なにをあせっているのか僕はが瞳を開けないことに絶えられなくて

彼の肩をもって強く彼をゆすった。

につないであるケーブルに引っ張られて機械がガチャガチャと大きな音を鳴らす。



「何をやってる!?」



物音を聞きつけたらしくあせったような表情をした研究員が数名ラボに流れ込んできた。

僕はそいつらに後ろから肩をつかまれて、がいるベットから引き離される。



!!!!!」



いくらエクステンデットとはいえ大人3人の力にはかなわない。

だけど僕は手だけ伸ばしての名を呼び続けた。

尚をも前に進もうとすると研究員達はさらに人数を増やして僕を取り囲むようにして押さえ込んだ。



!!僕だよ!シャニだよ!!」



もう一度大きく名前を叫び、自分の名を叫ぶとの体がピクりと反応を示した。

そしての瞳がゆっくりと開き、上半身がとろんとした動作で起き上がる。



・・・!?」



名前を呼ぶ。だけどそれ以上言葉が出てこなかった。

目の前にいる人物の外見はだ。

やわらかそうな銀髪。綺麗なオッドアイの瞳。それは間違いなくだと言う証。

だけど目の前にいる人物の中身は・・・・じゃない。

瞳はこちらを向いている。だけどその中に僕は映っていない。

興味の対象になんてなりえない。とでもいうように

は機械が刻む一定のリズムの音と同じぐらい無機質な視線で僕を見ていた。



・・・?」



泣きそうに声が震える。

と一緒にいたのは確かにほんの数時間だけだ。

だけどその時間は自分にとってはとても濃密だったと記憶している。

それがこの反応。は僕のことを覚えていない。

とてもじゃないけど脳の処理が追いつかない。

目の前にいる人はの形をしているけれどではない。



「おい、対象に睡眠薬を。まだ起きるには早い。」


「!?」



研究員の一人が誰かに向かって指図をする。

そしてその対象は自分ではない。目の前の人物だ。

アレはではない。と頭が言っている。

だけど・・・。



「やめろ!」



体が先に反応していた。

その声に研究員の長だと思われる人物がさも面倒くさそうに振り向き

僕の周りにいた研究員達に目配せをする。



「そいつを部屋に連れて行け。」


「やめろぉぉ!!」



力いっぱい叫んでもそれは何の意味も持たず両脇から腕を抱えられ二人掛かりでラボから連れ出された。

抜け出そうと、もがいても思った以上にがっちりとつかまれているらしく抜け出すことはかなわない。

引きずられていく間もラボの中にいるにずっと目を向けていると

周りにいた研究員が彼に睡眠薬と思われる注射を打つのが見えた。

その途端、彼はふと息が切れたように目を閉じ、力を抜いて倒れこんだ。

研究員はそんな彼を支え、再びベットに寝かしつている。



!!!!!」



部屋につれられていく間も頭の中がもやもやしてずっとの名を叫び続けていたので

すれ違う研究員や船員達が驚いたような表情を伴って僕のほうを振り向いていく。

自分の部屋までずるずると引きずられていって、扉が開いたかと思うと

そのままベットに思いっきり突き飛ばされ背中をしたたかに打った。



「ったぁ・・・!」



部屋の中にいたオルガとクロトが目をまん丸にして、僕達の状況を見ていた。

何が起こっているのかまったくわからないといった表情。

クロトはしばらく僕のほうをみていたが、突然不機嫌そうな表情になって研究員のほうに視線を向けた。



「おとなしくしていろ。」



研究員の一人が乱れた白衣の前を整えながら僕に向かって命令する。

僕が何も言わずに視線だけ合わせると彼は眉をピクリと寄せてから隣にいた研究員に声をかけて部屋を出て行こうとする。



「ばーか。早く行けよ。目障りだっつーの。」



クロトが舌を突き出して研究員の後姿に言葉を投げかける。

研究員たちはちらりとこちらを向いたものの何事も無かったかのように扉の向こうに消えた。



「はっ。なんだよ、あの反応。なぁ!」



僕は叫び続けたことでなんだか体力を消耗してしまって視線だけクロトにむける。

オルガはちらりとクロトに視線をむけたもののすぐに僕に視線をむけこちらに近づいてきた。



「大丈夫か?」



優しい調子で声をかけてくるオルガにコクリとうなづいて見せるとオルガは困ったように視線を泳がせた。



「何かあったか?」


「・・・みたいな人がいた。」


「はぁ?みたいな人ってなんだよ?」



いつの間にかクロトも僕の近くにやってきていて、不機嫌そうな声をにじませる。

オルガが少し目を細めてクロトの頭をつかんだ。



「なんだよ。」


「ちょっと黙ってろ。シャニの話聞け。
 で。シャニ。”みたい”っていうのはどういうことなんだ?」



もっともな事を質問され、僕はまぶたを少し伏せてから二人に再び視線を合わせた。



「外見はで中身は別人。」


『はぁ?』



今度はクロトだけではなく、オルガまでも不機嫌そうな声をにじませた。

でも本当にそうなんだから仕方が無い。



「本当だよ。外はだけど中身は別人。」



僕はもう一度はっきりとそう言った。




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あとがき

わぁ、約1年ぶり^p^
のんびり進めるにもほどがあるぞ私 笑
エクステンデット組の中ではシャニが一番好きです
可愛いですよねv