そのオレンジ色の細身の新型機を前にした途端身の毛が一気によだったのを感じた。
この相手はやばい。俺の身体はそれを本能的に感じ取ったらしい。
操縦桿を握る手の力がぐっと強くなる。


頭の隅で誰かが逃げろといっているがそんなこと出来るはずが無い。
プラント最高評議長である父から言われたのはフリーダムの奪還。もしくは破壊。
その命令に背いてまで、フリーダムの援護をしているのだから。
今までの俺ならば軍という和の中からはみだすことなく、心が良しとしなくともその命令に従っていただろう。
しかしあの壊れかけの劇場でラクスに言われた言葉が俺の心の奥で何かを締め付けている。



『ZAFTのアスラン=ザラ』



彼女の言葉は、俺が個人の意思ではなく軍の意思で動いているマリオネットだということ。
俺個人の考え方はどうなのかと彼女は遠まわしに聞いてきた。


そして選んだ道はフリーダムの援護。
キラと戦いたいかといわれれば、俺は迷うことなく首を横に振る。
友達と進んで戦いたいやつなんてこの世にはほんの一握りしか存在しないとおもう。
俺はその一握りには当たらない。



「だから・・・!」



俺は照準をすばやく合わせてトリガーを引いた。
桃色の閃光がライフルから放たれるが、オレンジ色の機体はそれを蝶のようにかわし、なおかつこちらに向けてライフルを放ってきた。
間一髪のところでよけきったかと思うと、すでに目の前にはオレンジ色が広がっていて、彼はサーベルを振り上げこちらに落とそうとしていたところだった。



(早いっ・・・!)



腕一本犠牲になるかもしれないと思いながら瞬時に身をひねるが、相手もすぐに身をひねり俺との距離を少し取る。
そしてすぐに俺とオレンジ色の機体の間にライフルの閃光が走った。
発信源をみるとそこにはフリーダムがいてキラが助けてくれたのだと瞬時に悟る。



『アスラン、大丈夫!?』


「あぁ、ありがとう。」



キラに短く礼を言ってから俺は視線を元のオレンジ色の機体に戻した。
相手は俺達から十分な間合いを取って静かにこちらを見据えている。
一応ZAFTのトップガンである俺でさえ、二人がかりでさえなかなか手が出せない相手。
地球軍はなんという人材を隠し持っていたのだろうか。


キラがオレンジの機体に向けてライフルを放ち、俺はサーベルを掲げて相手の懐にもぐりこもうとする。
だが相手は流れるように華麗に銃撃をよけ、なおかつ俺のサーベルを彼のサーベルで受け止め弾き飛ばす。
そして踊るかのようにその場でくるりと回転し、サーベルを横になぎ払った。
ぞくりとなにかが身体の中でうずく。
ぎりぎりよけていたからなんとか大丈夫だったのものあと一瞬でも遅れていれば、機体の損傷は免れなかっただろう。
ただ、この機体はコックピットは狙わなかった。
その姿がなにかに重なる。



「何だ・・・?」


『アスラン!!!』



キラに大きく名前を呼ばれ、はっと目を開くとサーベルが振り下ろされようとしているところだった。
ガンッと横から強い衝撃を与えられ、弾き飛ばされる。
つまりサーベルがおろされる先は・・・



「キラァァァ!!」



あまりにも動揺してキラの名前を大声で叫ぶと、フリーダムにサーベルが食い込む寸前でその機体の動きが止まる。



「・・・・?」



意味がわからなくて眉根を寄せてその機体を見ていると
オレンジ色の機体は後ろに飛びのき、俺達から間合いを取り、
サーベルを落としたかと思うとそのまま電源が切れたように海へと落ちていった。



「・・・・!?」



強く息を飲み込み、目でその機体を追うと、海に落ちる前に一機のMSに拾われオレンジ色の機体は母艦に戻っていった。
何があったのかはわからないが、それを皮切りに地球軍の母艦からは信号弾が放たれ、地球軍は撤退していく。
戦闘は地球軍が有利であったように見えたがひとまず休戦となるようだ。
知らずのうちに力のはいっていた操縦桿を握り締める手を緩め、俺は大きく息を吐いた。


フリーダムのほうに視線を向けるとフリーダムもこちらの方向を向いていた。
先ほどまでは共闘だったが、戦闘が終わった今、俺の立場は微妙な位置だ。
警戒するのも無理は無いか。



『援護は感謝する。だが・・・その真意を改めて確認したい。』



俺は瞳を閉じて小さく息をはきコックピットを開いた。
頭の中にニコルのことやずいぶんと冷たくなってしまった父親の言葉、そして厳しくも道を示してくれるラクスの言葉。



「俺はその機体フリーダムの奪還、あるいは破壊という命令を本国から受けている。
 だが今、俺はお前とその友軍に敵対する意思は無い。」


『アスラン・・・。』



キラから少し警戒を緩めた、だがまだ少し疑っているような声で名前を呼ばれる。
機械越しでは思いはうまく伝わらない。
だから・・・



「話が・・・したい。お前と。」


『アスラン・・・!』



驚いたような声が返ってくる。
この状態ではちゃんと話ができない。
空が黄金色に染まってきて、じきにこのあたりも真っ暗になるだろう。
とりあえずアークエンジェルをはじめとしたオーブの艦隊が集まっている岩場に視線を向けてから、キラのほうをむくとキラはソレにうなづいた。
機体を岩場に着地させて、二人とも同じようにしてワイヤーを使って地面に降り立つ。
チョコレートのような甘い色の髪にアメジストのような零れ落ちそうな瞳。
実際にこの目でキラを見るのはいつ振りだろうか。
俺達二人を取り囲むように周りに人々が集まってくる。



「あのときのZAFT兵・・・!」



以前キラと殺しあったときにお世話になったのはオーブだった。
俺のことを知っている人たちがちらほらとその人々の中にいるらしい。


俺が一歩足を踏み出すとキラも同じように俺のほうに足を進めてくる。
ガチャリとリボルバーがおりる音がしてオーブ兵が俺に無数の銃口を向けた。
だけど足を止めることはなく、そちらに視線を一度向けただけにした。



「彼は敵じゃない!」



キラが手を開いてオーブ兵をけん制すると太陽の光のような髪の少女がピクリと反応を見せる。
あの無人島のとき、俺がどうしようもなく沈んでいたとき。そばにいた少女・・・カガリだ。
一歩一歩と彼との距離が縮まっていく。
さまざまな思いをはせながらその場に止まると懐かしい泣き声がしてソイツはキラの肩に止まった。
友情の証ともいえるミドリのロボット鳥。



「やぁ、アスラン。」



キラがはかなげな微笑を浮かべながら俺の名を呼ぶ。
どうすればいいんだろう。ここはどういった行動を取るのが一番・・・。



「キ、ラ・・・。」


「お前らーっ!!」



躊躇していた俺に痺れを切らしたかのように明るい声が近づいてい来る。
そして彼女は俺達の首元に腕を回してがっしりと抱き寄せた。



「カ、カガリ・・?」


「このばっかやろう!!」



あぁ、そんなに難しく考えなくていいんだ。
目の前の少女をみているとそんな風に感じ、俺はなんだかよくわからない泣きそうな笑みを浮かべながら
キラのほうに視線を移すとキラも同じような表情で俺を見ていた。


機体の整備があるし、ここは戦場だということで俺達はひとまずオーブの格納庫へと場所を移した。
パイロットスーツから軍服に着替えキラから話をきいていると、キラは地球軍、ZAFTどちらにつくこともなく
一番困難だと思われる道、第三勢力となり戦争をとめたいとおもっているということを告げられた。



「しかし・・・!それはっ」


「うんわかってる。」



何か言い返そうとしたときにカガリがキラと俺に飲み物を持ってきてくれて、俺はキラからソレを受け取った。



「すまない・・・。」


「でも・・・仕方ない。僕もそう思うから。」



キラの言い回しに俺は小さく息を呑んだ。
仕方ない。戦争は仕方ないから続くんだ。
この言葉にはそんな怖い面も含まれている。



「カガリのお父さんの言うとおりだと思うから。
 オーブが地球軍の側につけば大西洋連邦はその力も利用してプラントを攻めるよ。
 ZAFTの側についても同じことだ。ただ敵が変わるだけで・・・。
 それじゃぁ、しょうがない。そんなのはもう嫌なんだ。僕は、だから」


「しかし・・!」



それは一番難しい道で、お前がもっとも苦しむ位置なんだ。
敵は敵なんだ。そうやって割り切ってしまう。それが戦争なんだ。
その言葉を言わせないかのようにキラは言葉を俺の声にかぶせる。



「僕は君の仲間、友達を殺した。
 でも僕は彼を知らない。殺したかったわけではない。
 君もトールを殺した。でも君もトールのこと知らない。
 殺したかったわけじゃないだろう?」



そんな悲しみをとめたい。
キラはきっとそういいたいのだろう。
けれどその悲しみをとめようとしたキラを・・・



「・・・・俺はお前を殺そうとした。」


「僕もさ・・アスラン。戦わないですむ世界だといい。
 そんな世界にずっといられたなら・・・でも戦争はどんどんと広がろうとするばかりで・・・」



戦争がどんどん広がる。
そのいい例がNジャマーキャンセラーだ。
『勝つために必要となったのだあのエネルギーが』といった父親が頭の中に思い浮かぶ。
この機体の動力源をしれば地球軍はまた核を戦争の道具として使うだろう。
勝つために力を欲して。その力を欲したがために戦争は広がっていく。



「このままじゃぁ、本当にプラントと地球軍はお互いを滅ぼしあうしか無くなるよ
 だから僕も戦うんだ。たとえ守るためだとしても銃を撃ってしまった僕だから。
 僕達も・・・また戦うのかな?」



キラはやわらかく微笑みながら小さく首をかしげて俺を見た。
俺はどこにつくのか。
まだ俺自身にも答えが出ていないだからキラの視線から逃れ、俺は下を向いてしまう。



「もう作業に戻らなきゃ。攻撃いつ再開されるかわかんないから。」



飲み物を飲み終わったらしいキラが椅子から立ち上がり、フリーダムのほうへ向かおうとする。
俺は衝動的にその後ろ姿に声をかけて、キラを飛びとめた。



「一つだけ聞きたい。フリーダムにはNジャマーキャンセラーが搭載されている。
 そのデータをお前は・・・。」


「ここでアレを何かに利用しようとする人がいるなら僕が撃つ。」



さきほどキラが言った戦争がどんどん広がるという原因の一つ。
その原因には絶対させない。というようにキラは強い光を目にともし、俺と視線を合わせた。


キラがさって、格納庫の壁に背中を預け、俺は深く息を吐いた。
彼の意思はかなり固いものだ。皮肉なことに戦争という体験を通してキラは精神的にかなりの成長を遂げたらしい
ただ・・・。



「?」



背後で言い争うような声がする。
ふと視線を向けてみると、そこには地球軍の軍服を着た少女とディアッカがいた。
よく耳をすまして聞いてみると、どうやら彼女は俺が討ったトールとかいう人間の彼女だったらしい。



「・・・。」



討ちたくて討ったわけじゃない。
彼女はそう啖呵をきって、格納庫から走り去っていった。
目の端に涙を浮かべているのが見えて、胸の奥をぐっとつかまれたかのように息が詰まる。
普段は自分が討った”敵”の関係者に直に会うことはめったに無い。
戦争だから敵を討つのは”仕方ない”・・・だが苦しいほどに罪悪感に苛まれる。
その場にいたたまれなくなって俺は格納庫の中を歩き始めた。
かつかつという俺の靴音に重なってもう一つの靴音がする。
俺が止まれば、その音もとまり背後から強い視線を感じた。



「なんでずっとくっついている?」



きつい太陽の光を思わすような金色の髪の少女にむかって声をかけると
彼女は無関心を装った態度で壁に背を預けた。



「気にするな。見張っているだけだ。」


「そうか。」



まぁ、当然か。と自嘲気味に笑いながら息をつくとカガリは少し言いにくそうに視線を泳がした後、俺に視線を定める。



「キラが生きててよかったな。」


「え!・・・あぁ。」



一瞬何を言われたのかわからなかったが、そういえば俺がキラを討ったと思っていたあの時、俺はオーブに保護されたのだった。
”仕方ない”から殺したのだ。
そういって目の前のずいぶんと立派な軍服を着ている彼女にひどく怒られたっけ。
あれがあったから俺はぐるぐるとマイナスの思考に沈まなくてよかったのかもしれない。



「あの時俺は礼も言わなかったな。」


「言ったさ。ちゃんと。・・・一応な。」


「そうか?」


「ぼけてたからな。覚えてないんだろう。」


「あぁ。」



あの時のことはあまり思い出せない。
自らの手でキラを殺してしまった。
そのことばかりが頭の中を駆け巡り、他に何もする気が起きなかった。


鈍い機械音がしてフリーダムのコックピットにエレベーターが上がっていく。
それを二人で目でおっていると、カガリが少し嬉しそうな声で笑い声を漏らし、俺のほうを向く。



「キラ変わったろ。」


「いや。」


「そうか?」


「やっぱりあいつだよ。」



しっかりとした意思を持つようになった。
だが、優しい。誰も傷つかないで欲しいというそういった考え方、根っこの部分は相変わらず昔と変わらない
少し困惑気味のカガリは俺に一度視線を合わせてから、左右に視線をさまよわせた。



「あぁ、えっと・・・お前どうするんだ?これから」


「わからない。」


「またかよ。」



深くあきれたようにため息をつかれた俺はわずかに笑みを漏らしてからキラのほうを見上げた。



「だが、もう答えは出ているのかもしれない。」



そう答えると彼女は目を丸くして見せた。


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2009/05/09

あとがき

オレンジと書くとギ●スのカレを思い出してしまうようになりました。
そういえばギア●はガンダムのようなロボットモノを追い求めて見るようになったなぁと・・・スザクが好きです。 ←