ふわふわ。

ふわふわ。



遠いところから声が聞こえる。
体がふわふわと漂っていてとても気持ちいい。
音が聞こえる向こうとは何かが一枚、隔たっている感じがする。
自分がまるで何かの膜に包まれているみたいだ。
そうまるで羊水の中に入ってるみたい。
この守られているような感覚がひどく落ち着く。



(そういえばここはどこだろう。)



記憶をたどってみようとするけれど、頭の中はもやがかかったみたいにぼんやりと白い。
たぐれど、たぐれど。
頭の中には何もない。



(どこだっけ。)




俺は何をしてたんだっけ。



(・・・・俺?)


(そういえば俺の名前はなんだっけ。)


(あれ、思い出せない。)


(誰・・・?俺って何?)


(・・・?)





―――っ!!





「!?」



なにか電気のようなものが走り、突然頭がさえた。
先ほどまでの浮遊感が嘘のように消えて頭がはっきりしている。


「え、ここ何処・・・!?」


状況確認を。と思い視線だけであたりを見回してみるとどうやらここは何かのMSの中らしい。
そして目の前に二機の新型の機体。白を基調とした機体と、赤を基調にした機体。
その二機は初めてみるはずなのに、どこか懐かしい気がして、この感覚は何だろうと考え始めたと同時にコックピットの中にアラームが鳴り響いた。


「何・・・って、うわぁっ!?」



きゅーんと機械の電源が落ちる音がしたと思うと、コックピット内が真っ暗になり、落下していく感覚に襲われる。
そしてきつい衝撃と何かにつかまれて移動する感覚。
雰囲気から察して、誰かのMSかMAに助けられてどこかに運ばれているんだろう。


(・・・いったい俺の周りで何が起こっているんだ?)


混乱する頭の中で記憶の糸を手繰っていく。
確か捕虜として入ったアラスカで、地球軍の兵士にAAから連れ出されて暗い部屋に通されて・・・。



「アズラエル・・・」




金髪碧眼の男を思い出す。
確かあの時無理やり押さえ込まれて何かの薬物を打たれた。
今まで記憶がないというか意識がはっきりしていなかったのはあの薬のせいか。

ガクンとした衝撃の後に一定の間隔で刻まれる細かい振動が止まると空気が抜ける音がしてコックピットの扉が開いた。
その先にいたのは先ほど思い出した金髪碧眼の持ち主だった。
正直今一番会いたくない相手だ。
腹の底から燃え上がるような感情が湧き上がってくる。
自然と口の端を強く噛み、眉根を寄せた。



「アズラエル・・・・!!」



いったい何を。と襟元につかみかかろうと身を乗り出したが、衛兵二人掛かりで体をコックピットの椅子に押さえつけられる。
アズラエルは口元に指を添えて、これ以上ないというほどのあざけりの笑みを口元に浮かべて見せた。



「おやおや、残念。意識が戻ってしまいましたか。」



どこか芝居染みた口調で、彼は俺のあごに手を添えて上を向かせる。
きつく眉根をよせて、恨みをこめた目線を彼に送ってやると、『おお、怖い』とさしてそう思っていないような口調で手を離された。
触られていた感覚がどこか気持ち悪くて、ぞくりと背中に悪寒が走る。
頭を振ってその感覚を拭い去るとアズラエルにもう一度強い視線を送った。



「いったい俺になにをしたんですか。」



感情をなんとか抑えて、静かな声で問いかける。
彼はくすりと馬鹿にしたような笑みを浮かべて、小さく肩をすくめて見せた。



「お薬ですよ。お・く・す・り。
 ・・・僕のマリオネットになってもらおうと思って、自我・・・をね、失くすお薬を投与させていただいたんです。
 まだ実験段階ですからねぇ・・・残念ながら持続時間がそこまで長くないみたいです。
 でも・・・素敵でしょう?」


彼は両手を広げて、極上の笑みを俺に向けてみせる。
その笑みが意味するものは挑発だ。
乗せられてはいけないとわかっていても、俺はZAFTで俺を守ってくれていたあいつらと違ってそこまで大人じゃない。


「人を言いなりにさせておく、それのどこが素敵だ!
 そんなこと命をもてあそんでいることと同じようなことだ!!?
 ふざけるのも大概にしろっ!!」


噛み付くように言い返すとアズラエルは己自身に酔うかのように恍惚と微笑んだ。



「素直で穢れなく・・・この上なく美しい
 ・・・だからこそ壊したくなるんですけど。」


楽しそうに視線を送られ再び背筋に悪寒が走る。
その目は俺をおもちゃとしてみていないようにも感じさせる。



「さてと、銀のツバサ。
 そろそろお休みの時間です。」


「なっ・・・!?」



アズラエルの隣に白衣の男が立つ。
その手には注射器が握られていて、当然ながら針の向かう先は俺の腕だ。
抵抗しようと体に力を入れると、俺の体を抑える衛兵が2人から4人に増え、押さえつける力がさらに強まった。
いくらコーディネーターとはいえ、大人の男4人がかりで押さえつけられては抵抗する術は無い。



「・・・アズ・・ラエル・・・!!」


「はい?」



なんでしょう?とでもいうように彼はゆっくりと首を傾げて見せた。



「覚えていろ!俺は絶対お前に屈しない!!
 必ず抵抗してやる!!」


「楽しみにしていましょう。」



彼は至極楽しそうに微笑を深めた。
腕を押さえつけられ、注射器の針がさされる。
中に入っている液体がなくなっていくにつれて、体がとろとろと溶けていくように力が抜けていく。


(眠い・・・・)


また。体がふわふわと浮かびだした。




BACK NEXT



2009/06/13


あとがき
久々に書いたから感覚忘れています^^;
んー・・・しかももしかして名前一度も出てきてなかったりしますか 笑
・・・・もうちょっと精進できるように頑張るっ゜▽゜* これ読んで楽しんでいただけてるのかがちょっと不安だ orz