銀色の天使の瞼が静かに落ち、妙に満足した気分になって僕はゆっくりと息をはいた。
「研究室に連れて行っていてください。」
僕の言葉に研究員に静かに頷き、オレンジ色のMSから彼を運び出す。
何にも抵抗することなく、目を閉じて、微動だにしない姿でさえ美しい。
これがオーラがにじみ出ているというの状態なのだろうか。
一般人では持ち得ない、独特の近寄りがたい空気がにじみでている。
(これが最高峰のコーディネーターの資質ということですか・・・)
僕は研究室に運び込まれようとする彼を横目に見ながら、船のコックピットへと足を運んだ。
カツン、カツン。と革靴の音が廊下に反響する。
ZAFTの英雄『銀のツバサ』こと=。
その存在を知ったときは歓喜とも憤怒ともつかないゾクゾクとした感覚に襲われた。
初めて彼の姿を見たのは要注意人物としてブルーコスモスの会議で取り上げられた時だ。
内部スパイが送ってきた映像に映っていた、月のような柔らかい銀色の髪と、透き通る青と緑のオッドアイの持ち主。
そして誰もが認めるどこかの王侯貴族の様な気品にあふれる美貌。
わけのわからない憤りが腹の中から湧き上がってきて、モニターをきつくにらみつけた。
けれど同時に手に入れたいと思った。壊したいと思った。
今、思えばあの憤りは嫉妬だ。
コーディネーターを憎むようになったのは幼いころに彼らに敵わなくて
それでも向かっていって、簡単にあしらわれてしまって、馬鹿にされたせい。
なぜ自分はあいつらに敵わないのか。
なぜ自分はコーディネーターじゃないのか。
どうして生まれたときからコーディネーターとナチュラルに分けられねばならないのか。
自分はコーディネーターにはなり得ない。
だけどあいつらがいなければ自分は一番になれる自信がある。
その才能もあるし、努力もしてきた。
生まれたときに遺伝子をいじったから。
そんなことで自分より上にいるなんて許されることじゃない。
そんな不当な方法で僕の上にいる存在なんて、この世から抹消すべきだ。
そうすれば僕が一番になる。
馬鹿になんてされるはずの存在になれる。
自然の摂理をゆがめて誕生したコーディネーター。
お前たちは生きているべき存在ではない。
だから、僕自身がこの世から消し去ってやる。
もしくは・・・”正しい”方法で存在する僕たちの道具として使ってやろう。
そう。彼のように。
あのZAFTの英雄が僕の手の内にいる。
あれはコーディネーターの中でも特別な存在だ。証拠があるわけではない。
でも見ていればわかる。あれを使わない手はない。
そして以前から欲しいと思っていた存在。僕の大切な大切な玩具になるべき存在。
「めいいっぱい働いてもらいましょうか。」
くすりと口元に笑みを浮かべて、コックピットの扉を開いた。
コックピットの広い窓からは朝焼けのピンクとも紫ともいえない綺麗な色合いの空が一望できた。
「あとどのくらいですか。もろもろの準備が整うのは。」
コックピットに入るなり艦長に問いかけると、彼は一度こちらに視線を向け
あからさまに表情に出しはしないものの不機嫌そうに目線をオーブ本土に向けた。
「オーブからは再三に亘って、会談要請が来ているが。」
「あ〜。もう駄目駄目です。そんなの。」
僕は手のひらを上に向け、肩をすくめて、大げさに首を振る。
そして艦長の椅子のそばまで進み、秘密の話でもするように彼の顔の近くでささやいた。
「この戦力で制圧できなかった国なんて、消えてもらったほうが後のためでしょう?」
「・・・こちらの準備はまもなく終わる。
問題なのはそちらなのではないのかね?」
「おやおや、これは失礼。」
僕は芝居じみた口調で彼から顔を離した。
そして今、もだえ苦しんでいるであろう3人の姿を思い浮かべ、楽しくなって微笑を深めた。
「では、早々に再開と行きましょうかね。
お仕置きももう十分でしょうし、今度こそ十分に働いてもらわないと。
デモンストレーションにもなりゃしない。」
僕は胸ポケットから携帯をとりだして、研究員へとつながる番号を押す。
「あぁ、私です。お仕置きはそろそろいいでしょう。
薬を与えてやってください。」
短く了承の答えが返ってき、プツリと通話終了のボタンを押した。
あの3人にはどれだけの金をかけているかわからない。
存分に働いてもらわないと、僕の玩具にもなり得ない。
あの=とはまた違う存在だ。
僕の中にはあいつらへの愛着なんて存在しない。
僕はコックピット内で自身に与えられている椅子に身を沈めて、手を組み、外を眺めた。
艦内の空気がぴりぴりと張り詰めてきて、戦の前の雰囲気を感じる。
しばらくして朝の光が強く鳴り出したころ、カタパルトが開く音がし、エクステンデット3人の機体が発進した。
「ミサイル照準、用意!」
僕がいる艦の中も慌しくなってくる。
オーブ本土からも迎撃が始まり、彼方此方で火炎器による炎が上がり、爆発による煙が立ち上った。
(馬鹿なことを・・・)
オーブの獅子、ウズミ=ナラ=アスハとて馬鹿ではない。
勝ち目がないことぐらいわかっているだろう。
それでも抗うのは、無抵抗に従うことを良しとしないためか。
オーブの美学とでもいうのだろうか。
まぁ・・・・捉えようによっては意思を貫く姿は美しいのだろう。
ただ僕から見れば莫大な犠牲を払ってまで、何を馬鹿なことをと思う。
(おや・・・。)
一部の空が極端に赤く染まる。あれは無数の爆発の光だ。
どうやら昨日の新型の一つが出てきたらしい。
イレギュラー・・・あれのせいで、あと少しでつかめそうになっていた勝利を得ることができなかった。
(潰してしまいなさい)
指示を出すまでもない。
エクステンデットのあいつらの中身は純粋な子供だ。
簡単に落とせてしまうそこらの一般兵よりも、自らを高ぶらせてくれるアレを落としに行く。
予想通り彼らは新型機に向かっていった。
それでいい。一般兵は一般兵に任せても問題ない。
彼らの仕事はイレギュラーを排除すること。
状況を見ていると、相手に攻撃の暇を与えておらず、それなりに優勢のようだ。
三対一なのだから当然といえば当然だが、先ほどまであの機体は何十対一で優勢だったのだから、喜ぶべきところだろう。
そのまま落とせるかと思ったのもつかの間で、一つの機影がその戦場に割り込んでくる。
メタリックな赤色のもう一つの新型機だ。
唇の端を知らずのうちにきつく噛む。
これでは昨日の二の舞になるかもしれない。
(を出したほうがいいでしょうか・・・)
しかし、頭の中でその考えを振り払う。
まだだ。まだ薬の投与がすんでいない。
彼は必ず僕に逆らってみせると言い放った。
あの視線は強い意志を示すもので、生半可な薬の投与ではその意思を押さえ込むことはできない。
(・・・焦るな)
昨日のあれはこちらの燃料切れだ。
今日は逆のことが起こる可能性もないことはないのだ。
しかもこちらの技量不足で負けたわけではない。
(それにしても)
昨日はなぜは意識を取り戻したのだろうか。
医師の話によれば一度投与すれば半日は持つという話だったが・・・。
(あれのせいでしょうか)
新型と戦闘をしていたときに、突然彼のシグナルに異常が現れた。
=は僕が連れ去るまでAAで行動していたらしい
だとすれば、何らかの強い関わりがあるものがあの新型にのっていてもおかしくはない。
(厄介ですね・・・本当に早く落としてくれないものでしょうか)
僕の玩具は僕にだけ関心を持てばいいのに。
「今日の夜までにはすべて終わらせたいところですね。」
戦場は混戦を極めてきた。
そこかしこであがる煙。赤い光。
物量的にはこちらの優位には変わりなく、オーブが落ちるのも時間の問題だ。
しかし、あの2機がやはり厄介な存在。
(・・・もう燃料切れですか)
クロトが負傷しオルガも動きが鈍い、そしてシャニのシールドも作動せず三機ともMSのエネルギー切れで補充に戻ってきたようだ。
(あいつら・・・これだけ強化してやっても成果が出せないとは)
「やれやれ、まだまだですね。」
彼らはエネルギーに配慮して戦うことをあまり得意としない。
ただ、こんなことを起こさないようにと教育することは可能だ。
また苦しい思いをしてもらうしかなさそうだ。
「どうぞ」
「おや、ありがとうございます。」
乗組員の一人が僕の元に珈琲を持ってくる。
エクステンデットの三人が戦場から消えたことを受け、このままでは不利と判断した艦長は全軍にひとまず撤退命令を出したようだ。
一度体制を立て直すほうが賢い考えだろう。
あの三人がいなければ、あの二機を足止めすることは難しい。
珈琲の苦味により、戦によって高まっていた精神が落ち着き、ゆっくりと息を吐いた。
あと一戦交えればオーブは確実に落ちるだろう。
そうすれば、マスドライバーとモルゲンレーテはこちらの手に落ちる。
ZAFTに対抗する手段がまた増える。
あいつらを・・・コーディネーターを駆逐する日がまた近づくことになる。
「アズラエル殿。」
艦長が僕の席の隣にたったので、僕は小さく首をかしげて先を促した。
「オーブはカグヤに集結してるようですぞ。」
「カグヤに集結している・・・?」
「うむ。あちらも背水の陣といったところか。」
「ちっ。アスハめ。この期に及んで悪あがきを。
ま、いいですけどね。見苦しくて。存分に叩きのめしてあげましょう。」
なんて愚かなやつらだ。ならば力の差を見せ付けて徹底的につぶすまで。
携帯を取り出して、研究室につなげる。
数回のコールの後に聞きなれた声が返ってきた。
「どうですか。そちらの様子は?」
『副作用で苦しんでるようですよ。
そろそろお仕置きはよろしいですか?』
「えぇ、まぁそちらはいいでしょう。さっさと役立ってもらわないと困りますから。
銀のツバサの様子は?」
『薬の投与は終わっていますが、まだ睡眠薬が抜けきっていないので使えませんね。』
「わかりました。」
無しということだが、オーブも背水の陣を引くような状況だ。
次で確実に落とせるだろう。
「さぁ、今度こそけりにしましょう!
私もそろそろ・・・丘で食事がしたいですしね。」
三機が母艦から発進する。
カグヤに近づいて、さぁ、ここからだという時に、上空で強い熱源を感知する。
「何をっ・・・!?」
空にうかぶAAから、宇宙に向かって主砲が放たれる。
「まさか・・・・!」
AAは予想に違わず、ブースターをふかし、
さらに先ほどまでは装着していなかった新たなブースターを噴射させ宇宙へと上っていく。
「くそっ・・・!!」
そして、もう一つの熱源を感知する。
それはマスドライバーに沿って、速度を上げていく。
確か、あれはオーブのクサナギだ。
ウズミ=ナラ=アスハはこの戦線から離脱することを選んだらしい。
「止めてみせなさいよ・・・!
あなたたちはなんのために生きていると思ってるんですか。」
小さな声で悪態をつきながら、右手の親指の爪を噛む。
なんとも腹立たしく、小賢しいマネを。
三機がクサナギに向けて、攻撃をしようとするとあの新型二機がそれを阻む。
そして新型達はクサナギにつかまり、水面に向かってビームを放った。
エクステンデット達の前に水のカーテンが立ち上り、クサナギとの間を阻む。
そしてそのままクサナギはスピードをさらに加速させ、宇宙へと舞い上がった。
その数秒後。
いくつもの爆発音が聞こえ、オーブ本土に近いところから順にマスドライバーが崩れ落ちていく。
そしてさらに大きな爆発音が聞こえ、モルゲンレーテもしくはオーブの司令室あたりに赤い光と黒い煙が立ち上った。
大きく目を見開いてその光景を信じられない思いで見つめる。
いったいなんのために、これだけの犠牲をはらってこの国を落とそうとしたのか。
今までの苦労はなんのためだったのか。
すべてはマスドライバーとモルゲンレーテを入手するためだ。
「くっ・・・!!」
大きな水しぶきを上げて、カグヤの頂点が海へと落ち、その大きな波が私のいる母艦を揺さぶった。
20090620
あとがき
宇宙は『ソラ』と読んでくださいね^^
変態になりきれたか不安です・・・。
そしてまだまだ文が書けませんねぇ・・・精進します><