「そこの少年達!」



眼にも鮮やかなピンクが舞いおちる桜並木の中。

テノールの心地よい声が僕の耳に届いた。

辺りを見回しても僕たち以外誰もいない。

だけど僕たちが呼ばれたのは確実だろう。

今は入学式が終わって二時間後の昼過ぎ。

すぐに帰ってもよかったのだけれども、なんとなく散策してみたくなって

無理矢理幼馴を引き連れまわして、気がついたらこんな時間。

闇のような紺色の髪を持つ幼馴染も声の主を探し

あたりに視線をめぐらせるが人の影はどこにも見当たらない。



「おい。こっちだって。」



上から降ってきた声に目線を上げると、城のような校舎の2階のバルコニーで

一人の青年が笑みをたたえて手を振っていた。

太陽の光のような淡い金髪に赤銅色の瞳。

新入生だから当然だけど、知らない顔だ。

ただとても整った顔立ちをしている人だと思った。



「なにか御用ですか?」



幼馴染が不思議そうに問いかけるとその人は悠然と笑みを深めた。



「これ。」


「わっ!?」



会話をしていた幼馴染ではなく

僕の方へ”何か”が飛んできて、とっさに受け止めてその人をみた。



「おー。ナイスキャッチ。やる、ソレ。」


「・・・?」



その人はバルコニーの柵に頬杖をつき、快活に微笑むと

目線で手の中のものを見るように促した。

ソレに導かれるままに手の中を見てみると、

カサリというビニール独特の音をさせる昼食の時に食べるようなぶどうパンがあった。



「・・・パン?」



困ったように視線を上げるとその人は僅かに首を傾げて見せた。



「どうしてですか?」



幼馴染が見るに見かねて口を挟む。

不信感が募っているようでその人を見る幼馴染の瞳には警戒の光が宿っていた。

対するその人はクスクスと笑みを浮かべて、頬杖をやめて真っ直ぐに立った。



「別に理由はない。あえて言うなら俺はいらない。というか、食べれない。」


「はぁ・・・。」



予想外に単純な理由だったのか、幼馴染は呆れたような表情をし

溜息とも、頷きともとれる。むしろ両方が入り混じったような息を吐いた。



「どうして僕達に?」


「ん?あー・・・眼に入ったのが最初だった。」



僕の問いにその人は一瞬真顔になって空を仰いだ。

ほんの数分前の出来事だったのに既に忘れていたようで考えるような間が少しあった。



「あー。それと・・・。」


ー!!」



その人が何かを言おうとしたが、突然の大声に遮られる。

彼は不服そうに眉をよせ、校舎の中を見た。



「早いな・・・。少年達。」


「「?」」



二人して同じような表情をして階上の人を見た。

その人は人差し指を口元に持っていき、片目を瞑って華やかに微笑んで見せた。



「俺がここにいたこと内緒な?」



それだけいうとその人は校舎の中に駆け込んでいった。

しばらく間があってバルコニーに人影が飛び込んでくる。

一つはしっかりとそろえられたプラチナの銀髪に整った顔立ちの青年。

もう一人は蜂蜜のような金の髪と日焼けした肌の青年。


柵から乗り出す勢いで銀髪の人は階下を見て、もう一度校舎の中に入ろうとしたが

僕らに気がついたようでもう一度此方に戻ってきた。

金髪の人も僕らに気がついたようで柵の近くまでよって目を丸めて見せた。



「あれ〜。一年じゃん。」



随分と緩められているネクタイの色から二年生だと判明。

銀の髪の人は対照的にきっちりと結ばれているのだが、その色は同じだ。

そういえばさっきの人はネクタイをしていなかったような気がするのだが、何年生だろう。

とりあえず年上なのは間違いないのだろけれども。



「おい、お前ら!!を見なかったか!?」


「・・・イザーク。それじゃわからねぇって。」


「えぇい!うるさいっ!!」



必死の形相で詰め寄ってくるイザークとか呼ばれた人に横から金の髪の人がフォローする。

主人と従者のようだと思ったのは失礼だろうか。



「淡ーい金髪の赤っぽい茶色の眼で俺ぐらいの身長の綺麗なやつ来なかった?」



金髪の人の説明を聞いて、さっきの人が頭に浮かぶ。

さん”っていうのか。



「いえ、見てません。」



今、出会ったばかりの知らない人たちより、僕は”さん”との約束を優先させた。

幼馴染が僕だけに見えるように驚いたような顔をして見せた。

自分の親しい人間以外に興味のない僕が他人をかばうが不思議なのだろうが

それはこの際気にしない。

答えないとそれこそ疑われるだろうし。



「ちっ。そうか、邪魔したな!」



イザークさんは苦々しげに顔をしかめ、舌打ちをして校舎の中に入っていくが、

お付の人っていうか、金髪の人はまだ面白そうに此方を見ている。

何事かと思って首をかしげて上を見上げてみると、金髪の人は苦笑いを浮かべて見せた。



「ソレ。」


「?」


「手に持ってるヤツ。」


「これですか?」



指で指されたので手に持っていたパンを見せると、金髪の人は笑いながら頷いた。



にもらっただろ。」


「!?」



まさか当てられると思わなかったので僕たち二人は一様に驚きを顔に表してしまった。

コレでは肯定していると同じような反応だ。

金髪の人も楽しそうに笑っていることだし、もうばれてしまったと考えた方が良い。



「どうして、わかったんですか?」



諦めてそう問いかけると金髪の人は柵から離れ、僕の持っているものを指差した。



「それ、が嫌いなパンだから。」


「・・・それだけ?」


「あぁ、それだけ。」


「ディアッカァァ――!!」



先程大音量でさんの名をよんだ声が校舎の中から聞こえ

金髪の人・・・ディアッカさんは困ったように微笑んだ。



「あの・・・。」



遠慮がちに声をかけるとディアッカさんは此方を向いて少しだけ首を傾げた。



「内緒にしてもらえますか?イザークさんには。」


「キラ・・・?」



幼馴染が訝しげに声をかけるが、僕はディアッカさんの方だけをヒタと見据えた。



「あぁ、別に構わないけど?俺もアイツに適当に付き合ってるだけだし・・・。」


「ディアッカァー!聞こえんのか!?」



再び大音量が聞こえ、ディアッカさんは肩をすくめて

校舎の中にやや早足で吸い込まれるように消えた。



「ねぇ、アスラン。」


「?」



アスランは不思議そうに僕の顔を覗き込んだ。

夜の色の紺色の髪が僅かに揺れる。

さっきの行動を彼はどう思っただろうか。

約束を守らないか、うそをつくか。アスランならばどっちをとったか。

幼馴染の翡翠の瞳をみつめ僕は極上の笑みを浮かべた。



「学校に来るのが楽しくなりそうだよ。」


「そうか・・・。よかったな、キラ。」


「うん。」



潰れない程度に力を込めて僕はぶどうパンの袋を握り締めた。





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2007/02/21

あとがき

とある理由から始めた連載。
次で多分その理由はわかると思います。
だって探したけどなかったんだ・・・!
私の趣向が多分おかしいんねんけどね・・・うん。