「・・・貴様・・・。」
「・・・なんだ?」
先程、購買で買ってきた紙パックのイチゴオーレを吸いつつ
俺の名前を呼んだ影に目をやると、肩口で綺麗に切りそろえた月の光を縫い合わせたようなプラチナ髪に
少し鋭いアイスブルーの瞳の持ち主、イザーク=ジュールが俺の目の前にいた。
なにに怒っているのかは知らないが、口元が僅かにひくついている。
なにかしたか。と頭の隅っこで思いながらもイチゴオーレを吸い続けていると
ズズズ・・・とパックが音を立てた。その瞬間にダンっとジュールが俺の机を拳で叩く。
「入学式が終わったら用事のないやつはすぐさま帰れといったはずだろうがっ!?」
「ジュールは?」
「――っ!俺は貴様のようなヤツがいないか、見回っている途中だ!」
「ふーん。エルスマンも大変だな。」
なにやら叫び続けているジュールの後ろにいた
はちみつのような金髪にひょいと視線をうつすとエルスマンは苦笑を浮かべて見せた。
「別に。俺はもう慣れたんでね。」
「へ−。凄いな、お前。」
「なんだと貴様ら!」
俺達の会話が気にくわなかったのか、ジュールは噛みつかんばかりの勢いで再び叫んだ。
日常風景。決して仲が悪いわけじゃない。
何かにつけて規格外な俺に対し、真っ直ぐなジュールが怒鳴り・・・いや、たしなめ
エルスマンがジュールをなだめる。いつものパターン。
一種のスキンシップなのだと俺は感じている。
「貴様は早く帰れ!おい、ディアッカ!貴様も何とか言え!」
「そのパンどうした?」
「あーこれ?」
「違う!!」
少しずれた俺達の会話にジュールが即座に突っ込みを入れる。
俺達は暫く無言でとまり、ジュールを見た後、再び目線をあわせた。
「ジュース買いにいった時に購買のおばちゃんがくれた。」
「全部?」
「そう。」
「俺を無視するなぁっ!!!」
「無視してない。これからジュールの相手するから。エルスマンが先。」
「―っ!そういう問題じゃないっ!!」
これだけ叫んでつかれないだろうか?と思ってみたりもするが、ジュールにとってはこれが普通なのだろうと思う。
エルスマンが全部?と聞いた数個のパンのうち一つを手にとって封を開ける。
ビニール独特の衝撃の後に香ばしいパンの香りが鼻腔をくすぐった。
一口含んで、口をもごもごと動かして、俺はジュールをみた。
「んー、俺はバイトあるから昼食はここで食べたい。
というか・・・なんで帰らないと駄目なんだ?」
小さく喉を鳴らして、クリームパンらしい甘みを飲み込む。
ジュールは下を向いて拳を振るわせた。
即座に反論がこないことを珍しく思う。
「ー。こいつも先公にいわれたダケだからいじめてやんなよ。」
「ふーん。」
つまり理由は知らないから言い返せないらしい。
指についたクリームをなめ、再びクリームパンを口に含む事を繰り返し
食べ終わったのでもう一つ食べようかと紙袋の中を物色していると、ジュールがその手を掴んだ。
「・・・?」
「・・・貴様が帰りたくないというなら、いい方法がある。」
「なんだ・・・?」
「それはだな・・・。」
ジュールが何かを言い出す前に俺は変な気配を察知して
机の上にあった紙袋と自分の鞄をひっつかみその場を駆け出した。
「なっ!?貴様ぁ!!なぜ逃げる!!」
ジュールの声が背後から聞こえるが、気にしている暇はない。
何度か階段を降りたり曲がったりしてから背後を振り返った。
人の気配はない。
どっかの城を作り変えたらしい、この校舎。
普通の学校ではありえない少し複雑な構造になっている。
今回は俺の味方をしてくれたようだ。ジュールたちを上手くまけたよう。
「どうせ・・・。」
”生徒会に入れ”
とかジュールは言い出すのだろう。
2年でありながら生徒会長を務めているジュールは、なぜだか俺を生徒会に入れたがる。
俺はそれから頑張っていつも逃げているのだけど・・・。
ちなみにエルスマンは副会長兼ジュールのなだめ役。
「俺なんか入れても得がない。」
なのにどうしてあそこまで俺を引き込みたがるのか。
逃げているうちに2階に来ていたらしい。
バルコニーに続く開け放たれた窓から外に出る。
気持ちいいほどの晴天。目下に広がるのは淡いピンク。
時折、風が吹き桜の花びらがここまで舞って来た。
風に遊ばれる髪を片手で押さえて、目を細める。
「さて。」
カサカサとパンの入っている紙袋を探る。
一つ手につかんでソレを紙袋の外に出し、何かを確認すると思わず眉をしかめてしまった。
「・・・エルスマンにやりに行くか?」
しかし今戻るとジュールに捕まる。
かといって捨てるのももったいない。
誰か近くにいないだろうか。と考えてみるが入学式の本日。
用事のない生徒は帰れといわれていたらしいので、誰かがいる望みは薄いだろう。
まず誰にいないだろうけどと一応あたりを見回すと偶然にも2つの人影が目に映った。
チョコレートのような色の髪と少し眺めの夜の闇色の髪。
背は高くもなく低くもなく。きている制服の感じからして新入生だと判断した。
なぜこの時間帯に。と首をかしげてみたくなるが、
とりあえずこの”ブドウパン”の貰い手を獲得するのが先だ。
「そこの少年達!」
チョコレートの髪の子が先に振り返った。アメジストの吸い込まれそうな瞳に
随分と中性的な可愛らしい顔つきだ。雰囲気がやわらかい。
けれでもしっかりと芯が通っているように見えた。
夜の闇の髪の子もチョコレートの髪の子から一拍おくれて振り返る。
理知的な顔つきに鋭い光を宿す、若葉色の瞳が綺麗だった。
少し固い。ともすれば人との間に壁を作ってしまいそうな雰囲気を彼はもっていた。
二人ともとても綺麗な顔つきをしている。
今年の新入生はレベルが高いと判明。
二人は俺のことを発見できないらしく、あたりをキョロキョロと見回している。
気付くまで待とうか?けれども、もしかすると気のせいだと思って帰ってしまうかもしれない。
それは俺にとって非常に困る。
「おい。こっちだって。」
にっこりと笑みを浮かべて、手をふってみるとチョコレートの髪の子が俺に気がついた。
それに続き夜の髪の子も俺に気がつく。
二人の視線が好奇の色を含み俺に注がれた。
「なにか御用ですか?」
予想通りしっかりとした真面目そうな声が夜の髪の子から発せられる。
声には俺がなぜ呼び止めたのかがわからない。といった疑問の調子がとてもよく現れていた。
ソレがおもしろくて俺は思わず笑みを深める。
「これ。」
「わっ!?」
なんとなくこっちの子とも関わってみたくて、話しかけてきた夜の髪の子じゃなくて、
あえてチョコレートの髪の子にパンを投げ渡した。
何かを投げられたことに驚いたのか、その子はブドウパンを見はせず、
驚きの表情を伴ったアメジストの瞳で俺を見上げた。
突然”何か”を投げられ、よく受け止められたものだと思う。
「おー。ナイスキャッチ。やる、ソレ。」
なぜか分からないが、相変わらず俺ばかり見ている少年に
バルコニーの柵に肘をのせ頬杖をついた体制でブドウパンを見るように視線で促した。
「・・・パン?」
受け止めたものを何か認めるとその子は不思議そうに俺に問いかける。
それに返すように俺も首を傾げて見せた。
「どうしてですか?」
固い調子の声が響く。
先程から気付いていたが夜の髪の子は俺を不信感をもった目でじっとにらみつけていた。
警戒の色がありありと見て取れる。当然といえば当然だろう。
出会っていきなり食べ物を押し付けられたのだから。
変なものが入っているかもしれないと思われても仕方が無い。
そこまで考えて、思わず笑みがのぼった。
「別に理由はない。あえていうなら俺はいらないから。というか食べれない。」
柵から離れ、体制を整えながらそういうと
夜の髪の子は溜息とも、納得ともつかないような返事をよこした。
呆れたような表情になっているので前者のほうが可能性が高いだろうか。
ただ警戒心は少しといてくれたように思う。
「どうして僕達に?」
「ん?あー・・・眼に入ったのが最初だった。」
チョコレートの髪の子の問いかけに半ば本気でどうしてだったかと自分に問いかけ空に仰ぎ見る。
あぁ、本日晴天。そんな呑気なことも頭によぎる。
目に入ったのが最初だった。コレは紛れもない事実だ。
でも、なんとなくだけどもそれだけではないような気がする。
なんだろうと考えていると一つの可能性を思いついた。
「あー。それと・・・。」
「ー!!」
突然のジュールの声に俺の声は遮られた。
折角言おうとしていたのに。と、知らずのうちに不機嫌な顔になり、校舎の中をみた。
まだ探していたのにも驚いたが、俺のいる場所まで既に近づいてきていることに更に驚きを感じた。
「早いな・・・。少年達。」
『?』
俺の呼びかけに、二人して同じような表情で俺を見上げた。
人差し指を口元に持っていき、少年達に片目をつぶってみせる。
「俺がここにいたこと内緒な?」
戸惑いの表情をうかべる少年達を目の端で捕えつつ、
俺はそれだけ言うと校舎の中に駆け込み階段を降りた。
何時までもあそこにいると確実にジュールに捕まる。
今日はそのままバイト先にいった方が賢明のようだ。
時間も調度いい時間だし。
行儀は悪いが昼食は歩きながら食べよう。
頭の中で計画を立てながら歩いていると下駄箱にたどりついた。
自分用の箱をあけ、カタンと音をさせて革靴を地面におとし、上靴と履き替える。
上靴と革靴を入れ替え、箱の中に入れるとジュールたちと少年達に見つからないように裏門へと足を向けた。
一陣の風が吹いて桜の花びらが肩に舞い降りる。
「・・・話しかけとかなきゃいけない。って思ったんだろうな。」
桜の中の二つの後姿に。
2007/03/08
あとがき
さぁ、睦月さんはなにの自給自足をしたのでしょうか?
うん、そうだね!プロテインだね!(パッシ●ン矢良風)
苗字呼びをする主人公を書いてみたかったんです。
というか本来は読みたかったというか。ないから自給自足。
だけどディアッカのことエルスマンだって(笑)
さぁー・・・黒いキャラいっぱいだすぞv(大好物)