「おい、ヤマト行くぞ。」
「あ、待ってください!」
玄関先でヤマトの名前を呼ぶと、ヤマトは片手で髪を撫で付けながら慌てて玄関先に出てきた。
結局昨日ヤマトは家に帰るつもりが毛頭なかったらしく、他のどこかに泊まるつもりだったらしい。
それならここに泊まっていけという俺の言葉に素直にヤマトは従った。
そして今に至る。今日はヤマトと一緒に登校することになった。
「すみませんっ!お待たせしました。」
「・・・ネクタイ曲がってる。」
ヤマトの襟元に手を持っていき、ネクタイの位置を正すと
彼は俺を見上げてふんわりと笑みを浮かべて見せた。
「ありがとうございます・・・ってどうかしましたか?」
「いや・・・。」
ヤマトが俺にそんなことを聞いたのは俺が一瞬遠目になったせいだろう。
昨日は俺がソファで寝るといったのだけど、ヤマトがそれは出来ないと強く反対していたため
二人一緒に俺のベットで寝ることになった。
客人をソファに寝かせるとかそんなことは俺も出来ればしたくなかったし。
幸いにも俺のベットは無駄にダブルだから少し狭いが二人寝れる。
ちなみに母さんはクイーンベット。かなりでかい。
しかし男とはいえこんなに可愛いやつと一緒のベットにいてよく襲わなかったものだと
自分に感心して、遠目になっていたところだ。
「そういえばフィリスさんは起こさなくていいんですか?」
「あぁ。飯は冷蔵庫に入っているし、
母さんは出勤時間になったら絶対起きる体になってるから。」
早番、遅番関係なしに出勤時間の2,3時間前には確実に起きてくる。
あれだけ不規則な生活をしているくせに見事な体内時計だ。
俺とヤマトは一緒に起きて着替えずに朝食をとった。
その後、着替えの時間に差があったため。
玄関先で俺がヤマトを待つ。という状況が起こったわけだ。
玄関をでて、扉をロックしエレベーターに向う。
俺の家から学校までは電車で3駅。
駅までは徒歩10分。少し遠いが朝の眠気覚ましにはピッタリだ。
住宅街のため騒がしい音もそんなにしない。朝の散歩も悪くない。
エレベーターに乗り込み、1階のボタンを押し滑らかに動き出した箱の中。
階数表示の数字が徐々に減っていくのを見上げていると
横でヤマトが考え込むように顎に指を添えて斜め下に視線を落とした。
「どうかしたか?」
「僕がもしフィリスさんと結婚したら僕ってさんのお父さんになるんですよね?」
「・・・。」
ヤマトのとんでもない発言に俺は動きを一瞬止める。
まるで俺の気持ちを代弁するかのようにリンッと鈴のような音が鳴りエレベーターの扉が開いた。
とりあえずエレベーターの外に出てからヤマトが隣に来るのを待って彼を見る。
「なにがいいたい?」
「いえ。それもなかなか美味しい状況だなと思って。」
「・・・年下の父親なんて俺はいらない。」
なんだかやる気が起きなくて俺は半眼になりながら、
天井の高い大理石のロビーを歩き出す。後ろでヤマトがですよね。と小さく呟きながら笑い俺の後を小走りについてきた。
二重になっている自動扉の外にでると、空は少し薄暗く曇っていて空気はひんやりとしていた。
快晴ではないが過ごしやすそうな気候だ。確か降水確率も10%程度。
「ヤマト。」
「はい。」
「俺は父親はいらないがヤマト自身は嫌いじゃない
・・・来たいときにうちに来ればいい。飯ぐらいは食わせてやる。」
「・・・はい。」
真っ直ぐ前を見ながら。最後にはヤマトの顔を見て言った言葉に
ヤマトはどこか泣きそうになりながらとても嬉しそうに頷いた。
この年で母さんが働いているあそこにいるってことは何らかの問題を抱えてるヤツが多い。
だから。俺の家が少しでもヤマトの負担を軽くする場所になればと思って言った。
けどここまで素直な反応を示してくれるとなんだか照れくさくなってくる。
ヤマトの頭を掴むように乱暴に撫ぜて俺は早足に歩き出した。
ヤマトはぐしゃぐしゃになった頭に手を置きながらぽかんとした表情で俺の方をみてから急いで俺の後をついてくる。
「ねぇ、さん。」
「なんだ?」
俺今ぜったい顔赤いから、ヤマトの方を向きたくない。
真正面を見たまま答えるとヤマトは隣で嬉しそうに笑って俺の腕に腕を絡ませてきた。
無言でそちらをみると、ヤマトは楽しそうな笑顔で俺を見上げる。
「僕、結構尽くしますよ?」
「冗談はやめとけ。」
軽くヤマトの額を指ではじくと、ヤマトは少し膨れて小さな声で冗談じゃないのにと呟いた。
俺がくすくすと微笑むとヤマトも切り替えたようにくすくすと微笑み返した。
通勤通学のため込み合う電車に乗りこみ、降りる人たちはほとんど同じ制服の学生である駅で降りる。
閑静な住宅街の少し奥の山を切り開いた場所にある学園。
この駅で降りる人は学園関係者かもしくは住宅街の住人か。
学園に通う生徒も送り迎え付の家庭が多いため電車を利用する生徒は少ない。
おかげで駅構内もあまり混むことはなく、押し合って改札をくぐるなんてことしなくていい。
ヤマトと一緒に少数ながら人の流れにのって学園へと足を進める。
脇に木々が植えられ涼しい木陰となっている歩道の横をいくつもの長いリムジンや高級車が通った。
これらの車のほとんど全てが学園への生徒の送り迎えの車。
なんだか時々車の中から視線を感じるのはなぜだろう。
もしかしてヤマトって結構有名人なんだろうか。
ふと、隣をみるとヤマトはにっこりと笑って首をかしげ俺に問いかける。
なんでもないという風に首を振るとヤマトはくすくすと笑って再び前を向いた。
「キラ!!」
煌びやかな背の高いアーチ状の正門をくぐってから暫くするとヤマトの名を呼ぶ声がした。
声がしたほうに目を向けてみると玄関口辺りに夜のような闇色の髪を持つ理知的な顔つきの子。
あぁ、確か。昨日ヤマトといた子。ヤマトにきいた名前はアスラン=ザラ。
父親はこの国の政界の大物。あのパトリック=ザラ。
「おはよう。アスラン。」
ヤマトは人畜無害な笑みを浮かべひらひらとザラに手を振る。
俺といることにでも驚いたのかザラは透き通る翡翠の瞳をまん丸にして
此方に駆け寄ってきた。周りの女生徒が黄色い声を上げる。
ザラはどうやらお嬢様方にかなり人気らしい。そしてこの隣にいるヤマトも。
「じゃぁ、ヤマト。俺はここで。」
「えっ!なんでですか?」
「教室が違うだろ?」
そのことを忘れでもしていたのか、零れそうなほど大きなアメジストの瞳をさらに大きく開き俺を見上げる。
柔らかく髪を撫ぜてやるとヤマトは少し眉を下げて俺を見上げる。
「朝言ったこと。本気にしていいんですよね?」
「あぁ。いつでも来い。
・・・ザラ。」
「えっ。はい。」
突然話を振ったことに驚いたのか、ザラは姿勢を正して俺の声に反応する。
それに苦笑をもらしながら俺はヤマトの背を押してザラの方へ向わせる。
ヤマトは首だけで俺のほうを向いて足を進ませた。
「頼むな。こいつ。」
「・・・はい。」
玄関に足を向けながらひらひらと手を振って俺はそこで二人と別れた。
なかなか謎が多い子だけれども結構面白い。
また会う機会はあるだろうし、次の機会を楽しみにしておこう。
革靴と上履きを履き替えてスタスタと石畳の廊下を歩いていく。
窓から差し込む朝の光がまぶしい。瞳を閉じてその光を身に浴びる。
「ーっ!!」
その声をきいた途端思わず溜息をついてしまった。
どうしてだ。なんでこうタイミングがいいんだジュール。
声のしたほうを向いてみると予想通りプラチナの髪を肩口で綺麗に切りそろえたジュールが
少し怒ったような表情で足音荒くこちらに向ってくるところだった。
そしてそのまま俺の胸元を掴み、下から俺をにらみつける。
「あの男はだれだっ!!」
「・・・お友達です。」
なんでだろう。まるで俺が浮気したみたいな口調じゃないか、コレ?
対する俺も浮気がばれたみたいな返答。
後からやってきたエルスマンが楽しそうに笑っている。
昨日は少しイレギュラー。
だけど今日はいつもどおりの俺の日常が始まるみたいだ。
2007/08/22
アトガキ
学校に戻ってきました。
いいよね。嫉妬するジュール。
大好物だよ、この可愛い子 笑
ソレを客観的にみてるエルスマンも好きだ^p^
次も学校のお話になるはず。