「坊ちゃま。お疲れ様です。」


「あぁ。ありがとう。」



授業も終わり、穏やかな気候の中、

帰るために玄関先に向うと執事が既に迎えに来ていて後部座席の扉が開かれていた。

まだ部活にも入部していないので随分と早めの帰りだ。あたりは明るい。

様々な方面から入部の誘いがあったが、まだいろいろと決めかねるため今のところすべて断っている。


車の扉をもっている逆の手で執事は俺を中に入るように促す。

こくりと頷くと丁寧に傅かれた。



「今日はどちらかにいかれるご予定がおありですか?」


「いや・・今日は」


「ザラ!!」



何もないから真っ直ぐに帰ってくれ。そういうはずだった。

突然背後からかかる声と共に強く掴まれる腕。



(また勧誘か?強引なヤツ・・・)



不機嫌を顔に滲ませないよう、ふわりと笑みを浮かべ

相手が掴んでいる手にそっと手をそえてゆっくり振り向いた。

下手な対応すると俺の評判にも傷がつく。

適当にあしらおう。だが、それは失敗する。



「なに・・・な!!」



正しくいいたかったのは”なにかご用でしょうか?”

口から出たのはよくわからない言葉。

自分でも何を言っているのかさっぱりわからない。

けれどオレがこんな反応をしてしまったことも頷いてしまえるほど、

俺の腕を掴んだ人物は予想外だったのだ。



「ちょ、ごめん!説明後でするから!かくまってくれ!!」



両肩をつかまれ、必死な剣幕で彼は俺の顔を見た。

その表情がまるで命に関わるとでもいうほど必死なもので

なにがあったのかと考えながら、俺は眉を若干寄せて彼の顔を伺い見た。



「・・・よくわかりませんが・・・とりあえず中にどうぞ。」


「ありがとうっ!」



一時乗車の許可を出すとそんなに焦っていたのか

彼は滑り込むようにさっと俺の家の車に乗り込んだ。

執事が驚いたように目を丸くしていたので、

目線で大丈夫だと伝えると執事は腰を折ってそれに頷き彼もまた運転手席に乗り込んだ。

俺も車に乗り込み、少し強めにドアを閉めるとリムジンの後部座席は対面式になっているため

真正面にいる青年ににっこりと微笑を浮かべて、足を組んだ。



「さて。どういうことですか?”先輩”?」



名前だけやけに強調して言うと、先輩はピクリと眉を寄せた。

特に関わりのない俺から若干引っかかる言い方をされたから当然といえば当然と言う反応。

だけど、俺も被害を受けているのだから少しぐらい仕返しさせてくれてもいいだろう。

少しだけ不機嫌を表しながらも彼は親指を立てて俺たちが乗り込んだドアの方を指差した。

どういう意味かと小さく首をかしげると、先輩は疲れたように微笑む。



「すぐにわかる。」


「・・・?」


ー!!!』



車の外から突然響く大音量。生徒会長イザーク=ジュールの大音声だ。

それはこの人がこの学校で有名な理由。

生徒会長お気に入りのといえばこの学校で知らない人物はいない。



「出してくれ。」


「!?ザラっ!?」



腕を組んで、首だけ振りむき執事に声をかける。

執事はコクリと頷いて車は静かに発進した。

突然の出来事にすぐには対処できなかったのか先輩は上半身を乗り出して、俺を凝視した。

しかし車が動き出したことを確認してしまうと彼は大げさに溜息を吐いて、

がっくりとシートに身を任せる。

それに苦笑しながら、俺は肘掛に腕をついてそのうえに頭を乗せて首をかしげた。



「鞄をもってるということは帰る途中だったのでしょう?なら問題ないはずです。
 会長に追われるなんて・・・なにをしたんです?」


「・・・なにもしてない。ただ生徒会に入れといわれて嫌だから逃げてきた。」


「へぇ、またあなたも好かれてるんですね。」



どこか嫌味たっぷりに言葉を返す。

会長の偏愛ぶりはこの人の名前と共に有名事項。



(まぁ・・・これだけ綺麗なら頷けるけど)



光に好けてキラキラと光る金髪に赤と茶色が入り混じったなんともいえない赤銅色の少し切れ長な瞳。

滑らかな肌は陶磁器を思い出させる白、薄い唇はきれいな桜色。

顔立ちは綺麗と形容するのがぴったりなほど甘いものだ。ずっと見ていれば溜息が出てきてしまう。



「・・・ザラ。」


「はい」


「俺、お前に何かしたか?」



彼にそういわれて俺は瞳を一瞬きょとんとさせてしまってからにっこりと微笑を浮かべた。

これだけ突っかかるような言い方をしていれば、相手が自分は嫌われているのだと思っても不思議じゃない。

俺はわざとらしく溜息をつき、首をゆっくりと横に振った。



「いえね、あなたのせいではないんです。
 親友とも呼べる幼馴染が、あなたの名前を毎日連呼していれば・・・ね。」


「えっと・・・ヤマトのことか?」



無言で微笑んで肯定の代わりとすると、先輩は少し気まずそうに視線を泳がせて

肘を膝につけて前傾姿勢をつくり息を吐いた。



「悪かった・・・だからつっかからないでくれ。」


「だからあなたが悪いわけではないといってるでしょう?」


「ん・・・?あ、まぁ・・そうか。」



執事が運転しているもののほとんど車内に二人っきりという状況。

その相手がつっかかってくるとなると困るのは当然。

困ったように目線を斜め下に落としてクシャリと前髪を掴むその仕草が異様に綺麗だ。

この姿を作り出した自分に自分自身で感謝する。

そして彼が乗り込んできた原因となった会長にも。



「ちなみに・・・これどこにいってるんだ?」



話の話題を変えようと頭の中で頑張ったのだろう。

彼はものすごく今さらな話題を持ち出す。

あぁ、そういえば俺も何もいってないから多分執事は家に向っているだろう。

窓から見える風景はいつも見慣れたものだ。多分間違いない。



「俺の家ですよ。」


「・・・降ろしてくれ。」



にっこりと微笑んで端的に伝えると先輩は脱力しながら俺に告げた。

その様子が楽しくてクスリと笑みを漏らすと少しだけ不機嫌そうな表情をした先輩が顔を上げた。



「止めてくれ。」


「かしこまりました。」



そう告げると少ししてから静かに車が停止する。

執事が運転席から降りて俺の隣の扉を開けた。



「さぁ、どうぞ。」



柔らかく微笑を浮かべ手で外に促すと先輩は何かいいたそうな表情を見せたが

彼は一度口を噤んでから俺を真っ直ぐに見つめた。



「ありがとう。」


「いいえ。」


「じゃぁ。」



なんの名残もなく先輩はシートにおいていた鞄を掴み、片足を車の外に出した。



「あぁ、先輩。」


「?」


「会長に追われたならまたご協力しますよ?」


「・・・考えとく。」



その返答に俺は満足して微笑んだ。





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2007/09/26

あとがき

そこで降りて良いんですか!?っていう突っ込みはスルー^p^
主人公さんは庶民だからいろんな道をしってるということにしておいてあげてください。
ザラともかかわり合わせてみようじゃないか!という企画。
あとに構想してるお話にそれなりに仲良くないとかけないお話があるので^^d