知っているような、知らないようなそんな声。
カトウ教授に言われて、カレッジに残ってプログラミングを手伝っていたら
このモルゲンレーテは昼の時間を既に終わりを告げていて
あたりはすっかり暗くなっていた。
随分と遅くなってしまったと僕は小走りぐらいの速度で家路へと足を進めていた。
歩く人はまばらですれ違う人は僕よりか年齢が上の人ばかりだった。
「あー。キラだぁ。」
人通りの少ない路地で間延びした声を突然背後から掛けられて
不思議に想いながら振り向いた先には信じられない光景があった。
「さん!?」
「んー?どうかしたー?」
そこにいたのは確かによく知っている人物だったのだけれども
いつもとどこか雰囲気が違う。
彼の周りの空気は穏やかで凛としているのだが、
今日はなんというか回りに花が飛んでいそうなぐらい陽気。
そんな空気を彼は漂わせていた。
不思議に想い、へらりと笑う彼に近づいてみると僕は思わず眉を顰めた。
「お酒・・・?さんもしかして酔ってますか?」
「えー?俺がぁ?まさかー。酔ってないよ?」
酔っ払ってる人にそう聞くと必ず酔ってないと否定する。
それはさんにも当てはまるようで手をパタパタとしながら
さんはへらへらと微笑んだ。
じっと顔を覗き込んでみるとさんはきょとんと首をかしげてみせた。
その頬は僅かに桜色に染まっていて明らかによっている証拠だと思う。
飲みすぎるとかしなさそうな人だと思っていたからこんな姿をみるなんて夢にも思わなかった。
「さん・・・一人で帰れます?」
「へ?何言ってんのー。キラ?あたりまえだろぉ?
俺、大人だよー?」
絶対帰れない。
こんな間延びした声を出す人信用できない。
確実に家に帰る途中で寝そうだ。
いくら温度の調節がされているモルゲンレーテといえども夜は冷える。
外で寝るなんてことをしたら体調を壊すのは目に見えて明らかだ。
少し乱暴にさんの腕を掴んで誘導するように先を歩き出すと
なぜかさんは楽しそうに声を上げて笑った。
こんなさんはレアだとは思うんだけれども
なんだか心で受け入れがたいのはなんでだろ。
「・・・さんの家って店といっしょでしたっけ?」
「うん、そうー。」
相変わらず花が飛んでいるような調子で。
・・・完璧に酔っ払い。
僕は心のうちで溜息をつき、月明かりの下、さんの腕を引いて足を進めた。
学校がある日は毎日といっても過言ではないほど通っている
落ち着いたカフェの前まで来て僕は扉に手をかけた。
だが、がくんという重い手ごたえに当然ながら今は閉店中で鍵がかかっていることに気がついた。
「さん、鍵だしてもらえますか?」
「そこー・・・。」
先程と比べて随分と陽気さが収まってきた。
今はどちらかというと眠そうで瞼が今にも落ちそうだ。
さんが指差す方向には植木鉢が置いてあって、
それを持ち上げてみると鍵が下に引いてあった。
よく見る光景なのだけれども無用心だと思うのは僕だけだろうか?
鍵を開けるとさんはふらふらとした足取りで店の中に入っていったが
一応まだ心配だったので僕はその後に続いた。
カウンターの後ろを通って、生活空間へと入るわけだが
僕は何時も客の立場だから見れないカウンターの中を見れて
妙に得したような気分になる。
コーヒー豆をすりつぶす機器などに目をうつしていた隙に
さんは自室の方へいっていたようで生活空間の方からドスンとなにか嫌な音がした。
「さん!?」
慌ててさんの自室へ走っていくとさんはベットに突っ伏していた。
白を基調としてベット、机、タンスなどといった必要最低限の物しかないあまり生活観のない部屋。
それが表のカフェとはあまりに雰囲気が違って、
ここは同じ人が作り出している空間なのかと疑問に感じた。
「気持ち悪い・・・。」
「えっ!?」
「水・・・飲みたい。」
絞り出すような声で言われたその言葉に僕は一瞬混乱して
その場であたふたと視線をめぐらせた。
この部屋には洗面所、風呂が隣にあるもののキッチンは見当たらない。
洗面所から水を汲んできてもいいが、それは飲むものとしては少し抵抗がある。
いくらさんといえども食事を取っていないはずはなく
ありあわせのものを買ってきて済ますということも考えられないこともないが
カフェを経営していることも考えるとどうにかして料理はしていると思う。
この環境で一体どうやって料理をしているのだろうか?
そう僕が考えているうちにもさんは少し苦しそうな声を出していて
僕はますます焦りを覚えた。
「あ、店!」
店のほうにもどって店のものとは違うコップ、多分さん用だと思われるコップに水をついで
僕は急いで自室のほうへ戻ってきた。
「さん、お水です。」
仰向けにさせてから上半身を起こし水を差し出すと、
さんはとろんとした目つきでそれを受け取りコップに口をつけた。
こくこくと喉が動き、コップの中身がなくなったのを確認すると
僕はコップを受け取ってソレをサイドテーブルに置いた。
「大丈夫ですか?」
「うんー。だいぶ楽ー。」
「そうですか、じゃぁ僕はそろそろ・・・」
帰ります。そう続けるつもりだった。
しかし強い力で腕を引かれ僕は重力に引かれてそのままベットに倒れこんだ。
「ちょっ!?さん何してるんですか!?」
「えへへー。キラ、一緒に寝よー?」
「はい!?」
家にも連絡していないのだからソレは困ると、
断ろうにもさんは僕を腕の中に閉じ込めてしまって
瞼を下ろしてしまっていた。
「・・・・。」
酔っ払いは性質が悪い。
だけど呆れを感じると同時に何故だか嬉しさを感じた。
ここから抜け出すことは多分不可能。
見かけは細いのにさんは結構力が強い。
僕は余計な動きをしないと決めてそのまま瞳を閉じた。
◇◇◇
暗いところから意識が浮上してくるとぼやけているものの何時もの見慣れた天井が目に入った。
何故だか温かみを感じながら上半身を起こすと頭が割れるようにいたい。
「あ・・・そっか。飲みすぎたんだ・・・。」
自分でも驚くほど飲んだと思う。
記憶がなくなるまで酒を飲んだのなんて友人達に無理矢理強制されたとき以来だ。
それほど昨日は酒を飲んでいないと自責の念にとらわれそうだったというわけなんだけれども。
それにしてもよく自分はちゃんとここに帰ってこれたと思う。
店を出た後の記憶がない。
まぁ、帰ってこれたのならばそれで良い。
時計を見てみると針はすでに9時をさしていた。
今日は店は定休日のため下ごしらえをしないでいいので助かった。
少し遅くなったが朝食をとろうかとベットを抜け出そうとすると
ベットの中に自分以外にふくらみがあるのが目に入った。
「・・・え?」
酔った勢いで女の子にでも声をかけてしまったのだろうか?
一応服は昨日のままだからやってはいないと思うのだけれども・・・。
信じられないような気持ちで布団をめくってそのふくらみを確かめてみると
俺は一瞬動きを止めてから、今の状況を理解した。
「キ、キラ!?」
「・・・?」
眠たそうに開くアメジストの大きな瞳。
白いシーツに散らばる髪はチョコレートのような甘い茶色で
彼は間違いなくよくうちの店に来る、キラ=ヤマトその人だ。
「え・・・っと、もしかしなくても迷惑・・・かけたかな?」
キラは上半身を起こしながら眠たそうに目をこすり柔らかく微笑んだ。
「大丈夫ですよ。・・・さん酔ってたんでしょ?」
「・・・うん。ごめん。」
俺がいまこうやってちゃんと寝れているのは多分この少年おかげなのだと思う。
申し訳なくなって、あたふたと周りに視線をまわしているとキラはくすくすと微笑んだ。
これからは意識がなくなるまで酒を飲まないように気をつけようと思う。
そして俺はあることにはたと気がついた。今日は木曜日。
「キラ、今日学校は?」
「あ。」
(リクエスト:匿名希望)
2006/07/13
アトガキ
甘く・・・ないですね。すみません。精一杯です。
私どうも甘いの無理っぽいです(待)
後、二択でしたのでこっちを選ばせていただきました。
匿名希望様リクありがとうございました!
自責の念にとらわれてていた理由はまた書けたら書きます。
本編で多分書くかも?